第12話‐④ アイル視点
アイルはチラリと葵を見た。
最初、怪我をしているから殲滅の魔法が上手く発動しないのかと思っていたがそうでもないらしい。
もしそうなら、怪我をする前にその魔法を遠くの方から発動すれば済む話だ。
あの時、師匠を抱えながら放った魔法を見るに、あの魔法は近くにいなくても、多少離れていても広範囲に魔法の力が及ぶのか、少し離れていた湖の上の黒い球体までをも全て消え去っていた。
なら、今回も同じように遠くの方から放てば怪我をすることなく殲滅できているはず。
だが、葵は怪我をしている。
そして、アンデッドと一緒にこの穴に落ちたと言うことは、それなりに近くにいたと言うこと。
遠くから魔法を放てるのにわざわざ近くまで行ったとなると、それなりに理由があるのだとアイルは考えた。
そして、先程の気まずそうな顔を思い出す。
まるで、自分に見られでもしたらまずいと言うような顔である。
その顔をアイルは前にも見た事があった。
あの時、師匠の部屋の前で壁に背を預けて、血の着いた掌を見られた時の顔だ。
とてもバツの悪い、見られて不機嫌丸出しという、今とは少し違うが同じような表情をしていた。
普段、あまり感情を行動に示さない葵がそっぽを向いたことにとても可愛らしいと思ってその行動の意味をよく考えていなかったが、こう冷静になって改めて考え直すと、今までの葵の行動を見て引っかかる部分は沢山あった。
ただそれをあまり深く考えなかっただけで。
葵が干渉して欲しくないのならアイルもそれを尊重しようと深く聞きはしなかったけれど、今のこの状況ではそうは言っていられない。
そしてそれを踏まえるときっと……
(……きっと葵さんは…………)
アイルだって頭を働かせようとすればここまで考えられるのだ。
ただ、普段は考えるのが苦手で考えるのを直ぐにやめるがそれは時と場合による。
最近は葵の事となれば苦手な頭の運動もするのである。
「葵さんは後ろへ」
「え、でも……」
「魔法が発動できそうなら言ってください」
「え……ど、どうして、それを……」
アイルは葵を後ろにかばいながらそういった。
もし、自分の考えていることが確かなら、葵にはなるべくその殲滅の魔法を発動してほしくはない。だが、今のところアンデッドを殲滅できるのは葵だけだ。
心苦しいがこのまま野放しにもできない。ここは、ただのアイルではなく、宮廷魔導師団団長としてやらなければならないのだ。
「先程も言ったでしょう?わたしは葵さんのことしか考えていないと」
「っ……」
「葵さんは分かりやすいのですよ。そしてずっと見ていたら自ずと考えていることも分かります」
「なっ……」
「ここから出た暁には改めてちゃんと理由を話して下さいね」
「…………」
ニコッと微笑んだアイルはアンデッドに視線を戻す。
少しでも伝わって欲しい。貴方は独りではないのだと。
葵はアイルの言葉に驚きで言葉を失っていたが、何かを覚悟するように掌を握りしめた。
そんな事はつゆ知らず、アイルはとりあえず氷の魔法を口にした。
「アイスボール!」
すると、熊のアンデッドの足元は氷によってみるみるうちにピキピキと音を立てながら凍っていく。
しかしー
『ガァアオオオオオオ!!!!!』
力が強すぎるのか足元を凍らせたと思った時には、すぐに氷を蹴散らされた。
熊アンデッドの口からは濃い瘴気がムンムンと出ていて、拘束されているアンデッドより強いのは明らかだった。
「……どうしましょうねぇ…………」
その様子を見ていたアイルはうーんと唸りながら呟く。
とりあえず、葵の準備ができるまではどうにかして足止めをしたいのだが、魔法を放ってもすぐに振り出しに戻ってしまうところをみると、これはもはや自分の魔力次第になっていくように思う。
立て続けに魔法を使えば足止めは出来なくもないが、それだとアイルの魔力が尽きてしまう。
もしもの時用にそれだけは避けたいと思うのだが、どうしてもいい案が浮かばない。
そして何より、葵を急かしたくはないのだ。
ただでさえ、完全には魔力の回復はしてない上に、これから無理をさせるというのに、せめて葵自身が落ち着いた状態で魔法を放って欲しい。
少しでも、葵の身体に負担にならないようにアイルができることはそれだけだが、少しでも葵の為になるのならとアイルは考えていた。
「アイスボール!」
ーピキピキピキっ
もう一度放ってみるが、先程と同じようにすぐに氷を砕かれてしまう。
(うーん……どうしようか……)
顎に手をあててうーんと唸るアイルは、先程とは打って変わって頭が働いていない。
とりあえず、唸ってはいるが解決策など解決のかの字も浮かんでいなかった。
と、アイルが次は炎を放とうかと考えたその時ー
熊のアンデッドが急にアイルの後ろにいる葵に向かって走り出したのだ。




