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異世界ファレスティア  作者: 鳥杉クイナ
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第一章 異世界転生者ジル 五話

「マークット様、ジル様がお着きになられました」


場所は王子の部屋のすぐ側、ではなく、一度王族の住まう領域を出た別の棟だった。理由はよくわからないが、どうやら別の護衛騎士長たちも逆側だったりするらしい。主の側は護衛騎士が、そして遠くからの襲撃に備えるのは護衛騎士長が、と言うように考えられるな、と俺は思った。効率が良いように思えてそうではない感じのモヤモヤした気持ちが胸の内に残ってしまった。


そう言えば、ずっとマークットとしか呼んでいなかったのだが、彼の家名は一体その位のものだろうか。


「お待ちしておりましたよ、ジル様」


声をかけられて思わず申し訳なさを感じた。


「わたくしのような者に様付け等おやめください。恐れ多くございます」


丁寧に様付けを否定する。正直分かりやすく身分さがある方に様付けされるのは居心地が悪いのだ。いくら第二王子直属の精霊であろうとも。

そう考えて言ったのだが、どうやらマークットには別の意味で取られたらしい。彼は穏やかに微笑んだ。


「謙虚なところも素晴らしい。おとぎ話によく聞く初代妖精王族を思い出します」


ん?妖精()()


「その話、後で詳しくお聞かせ願います」


何となく気がかりなフレーズに思わずそう言うと、マークットはちょっと瞬きをして笑顔になる。


「もちろんですよ、ジル殿」


そう言って中へ入るように促した。





通された部屋は、部屋と言うより小ホールと言った方が正しいと思うほど広かった。見た目はかなり狭そうな塔だったのだが、何故か。


「この部屋以外にもある天才所謂塔の類いに入る監視塔は基本的に巨大な魔術具になっているのですよ」


マークットが側仕えに紅茶とそれに合わせた菓子の準備を指示しながらそう言って近くのテーブルの上に妖精の身体に合わせた大きさの小さなテーブルと椅子を用意した。もちろん魔法で、だ。


「お心遣い感謝いたします。…とても細かい装飾がなされているのですね」


俺が思わず驚き半分尊敬半分に感嘆の声を漏らすと、彼は言う。


「土魔法を取得していれば想像するだけで簡単に作ることができますよ。ジル殿も貴族学院に通ってみてはいかがですか?」


そんな他愛もない会話をしているうちに支度が整ったようだ。着席を進められた。


「この茶菓子は今流行中のものなのですよ」


私は好んでよく食べるのです、といいながら一つを手に取って口に運ぶ。何となく毒見だろうか、と考えながら、わざわざ俺のサイズに合わせて細かくしてくれた茶菓子を口に運ぶ。


「!これ…」


それは前世で言うところの、チョコレートとクッキーを組み合わせたものだった。すごく好きでよく好んで食べていたり、精神安定剤代わりに食べまくっていたものに酷似している。こちら側にきてからまさか口にすることになるとは思わず、俺はゆっくりと味わう。

マークットが首を傾げて俺の顔を覗き込み、慌てたように立ち上がった。


「じ、ジル殿!?お口に会いませんでしたか?大丈夫ですか?」


急にそう言われてハッと顔を上げたところで、茶菓子を持っていた手に生暖かい水が数滴落ちた。


「…え?あれ?」


俺もしかして泣いてる?なんで…。と自問自答しかけてハッと我に返った。


「も!申し訳ありません!泣くつもりではなかったのですが…可笑しいですね。茶菓子がおいし過ぎるせいでしょうか」


俺は苦笑しながら手のひらで丁寧に涙を拭う。次第に落ち着きを取り戻してきたのだろう。マークットは椅子に座り直した。


「茶菓子がまずかったせいではなくて安心しました…が、本当に大丈夫なのですか?」


マークットは少し心配性なのかもしれない。俺は苦笑しながら乾いてきた涙を拭う手を止め、少々冷めてしまった紅茶のカップに指を絡ませる。何故だろうか、香りが懐かしさを思わせるのだ。そのせいでようやく止まってきた涙が再び滲んできてしまう。

それを隠すように俺はほんの少し紅茶を口に含むと目を閉じて味わう。

そしてカップを静かに置くと、彼に向かって苦笑交じりに言う。


「自分自身でもよくわかりませんが…何故だか、懐かしい気持ちになってしまったのです。突然お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」


「お見苦しい何てそんなことありませんよ。ジル殿はお気づきでないのでしょうが、妖精の涙を流す姿は非常に美しいものなのですよ?」


そう言って悪戯っぽくマークットは笑った。俺はちょっと目を瞬いて笑い、何となく聞いてみた。


「そう言えばマークット様は家名を何とおっしゃるのですか?」


マークットは口元に持っていきかけたカップをそのままに少し間を開けて言う。


「…今は、マークット・マリファルド、と申します」


今は?


「今は、という事は昔はそうではなかったのですか?」


あまり深入りをしないようにするべきなのだろうが、生憎俺にはそこまで善人な精神は宿っていない。ただまあ誤魔化されたらそれ以上追及するつもりはなかったのだが。

マークットはそっとカップを元に戻すと、少し考えるように顎のあたりに手を当ててから言う。


「あまり良い話ではありませんが…私は元々孤児だったのです。しかし魔力が豊富で頭も良く、理解力もある、と現在の家に引き取られたのです」


「そう、でしたか」


何だか申し訳なくなってしまい、俯きがちになると彼は慌てて言った。


「そんなに気にすることではありませんよ?私以外にも孤児出身の者はいますから。それに努力を認めるのがこの国の方針ですから、悪く言うものは少ないのです」


そうはいっても、と否定したくなったが思いとどまった。俺のような元下賤の妖精が言えた事じゃないと考えたからだ。もう少し周りに認められるものになってからでないと、無責任なことは言えない。

俺が黙り込んだことをきっかけにこの話は自然と終わりを告げた。マークットがにこっと笑う。


「そろそろ本題に入りましょうか」


俺はええ、と返事をしながらチラリとカップに写る自分を睨み付けて、彼の方へと向く。

マークットは何も言わないのをいいことに、俺は勝手に話を始めた。


「マークット様は確か、ジルバリオス王子の周囲を高度な結界を何重にも重ねて張っておりましたよね?」


質問した瞬間、マークットの取り巻く空気がピシッと張り詰めたように感じた。こういう時は妖精の体は敏感で扱いやすいと思いながら俺は一つ注意しておくことにする。


「常に、離れた位置からもずっと結界を展開していては術の危うさは愚か、術者自身に対する負荷が大きすぎます。彼に幾重にも重ねた守護の魔術具を用意することをお勧めいたします、貴方様の体の為にも」


もしもこのまま維持し続けていたら恐らくマークットは数か月か、最悪数日間で命を落としかねない。自分自身ならともかく他人にずっと集中していなければならない結界魔法は、まだ経験したことはないが、かなりまずいと思う。

…まあ、魔力の流れと彼の見た目と前世のゲームやアニメや漫画の記憶を照らし合わせて何となくそうじゃないか、という推論から出た言葉なのだが…しかし、マークットは驚いたように目を見開いた。…目を見開くと目の下の隈が目立つ。恐らくちゃんと睡眠を取る事すらできていないのだろう。ちょっと呆れた。

マークットはしかし、と否定から入る。


「しかし…簡単に魔術具を用意することは不可能です。何より私は魔術具作成の勉強を貴族学院で基礎しか習っていないのですよ?誰かに頼むにしてもそこまで金銭に余裕があるわけでもないのです」


ごもっともな返答だ。実際なら自分で作るか金でどうにかするかの二つに一つなわけだけど…俺は細かく分けているので選択肢は増える。


「考え方としては一般的ですが…もう一つお忘れですよマークット様」


俺は不意を突かれたような表情をするマークットに向かってにっこりと微笑んだ。


「貸し借り、という形で私が魔術具を提供いたしましょう」






しばらく沈黙が続いた後。


「…はは、御冗談を。私が用意できないものを貴族学院に通っていないジル殿には用意するのは不可能でしょう?」


純粋に且つ単純に考えれば普通はそうだ、が、マークットは自分でそう言っときながら、まさかなと言いたげな表情をしている。俺は余裕の笑みを絶やさない。


「基礎を教えてくだされば、私独自の魔術具を準備いたしますよ。もちろん魔術具に必要な素材も全て私自身が準備いたします」


そう言い切った俺はちょっとやり過ぎかな、と思った。だってまだ会って一日も経ってない上得体のしれない妖精族にこんな提案をされるのだ。疑われて消されてもおかしくはない。しかしマークットは思いのほかあっさりと了承してくれた。心底ほっとした様子で。


「ジル殿がそこまで自信を持って言えるのでしたら、お願いしたいです」


もちろん対価はできる限り渡しますよ、と言ってもくれたが俺は遠慮した。俺自身は別に金に困っているわけでもなく何か欲しいものがあるわけでもない。一つ言うならこの世界の常識や情報くらいだからな。

俺はやんわりと断った。


「私が欲しているのは貴族学院で学んだことくらいですよ。それも公開できる範囲で構いませんし」


しかしマークットがあからさまに不満気な表情を浮かべた。


「それでは私が納得できません」


しかしなあ…と、俺はちょっと悩んだ。そもそもこの世界の常識すら皆無の状態で俺は何を望めばいいんだ?…と悩んでいると、マークットがそう言えば、と呟く。


「私の師の知り合いに妖精族について調べ、研究するドクターが居るのですが…彼は望めば体を普通の人間と変わらぬ大きさになる方法を教えて下さるとか。…対価はこの方についての情報提供、これでいかがでしょう?」


そう言いつつ満面の笑みを浮かべているマークットを見れば、お断りは出来なさそうだ。この体も使い勝手は良いが、それは非常に興味深く思う。特に欲しているものなどもないし…俺はにっこりと笑い返した。


「わかりました、そうしましょう」


マークットは本当に嬉しそうに目を細めた。







さて、一つの問題は解決したが、もう一つ大事なことが残っている。


「…マークット様、これは先程の話よりも重要な話ですが」


俺はそう切り出した。


まずジルバリオス王子の様子だが、今までの彼を拝見したことはないがあからさまに様子がおかしいことが分かったこと。そして彼が子供返りしているように感じた事。他者の意見を受け付けないのは恐らく…すでに真の名に呪いをかけられているのではないか、ということ。


「…まさか、あれでもちゃんと人を見極めて真の名を公表しているのですよ?」


マークットはそう言っているが、俺は客観的な意見を述べたまでだ。


「仮にそうだとして…所謂“敵”と思われるものがそこまでバカだとは考えない方がよろしいかと」


「つまり…どう言う事ですか?」


「敵が味方の振りをして懐に入り込むことは、容易くはなくともできなくはない、という事ですよ」


俺の言葉にマークットは一瞬言葉に詰まったかのように口をきゅっと結ぶと、言った。


「まさか…側近の中に敵が紛れ込んでいるという事ですか?」


俺は静かに頷くに留める。証拠がないため確信はしていないが、大体予想はできる。マークットは黙り込む。彼もまた、確信はしていないだろうが、心当たりがあるのだろう。どうすべきかを悩んでいる様子だ。


「…どうすべきか、はマークット様次第です。しかし、私は早めに禍の芽を摘んで置くべきかと思います。今はあのような程度の低い呪いですが、これから先を考えても、今のうちに片付けなければ、取り返しのつかない事態を招くことになりかねません」


そう、今はまだいい。子供返りくらいなら言い聞かせれば問題は少ないから。しかし今後はそうだとは限らない。仮に現段階が試験のような者だったとしたら、今度は毒や、命に関わる呪いをかけてくるかもしれないのだ。まあ今のところはマークットの高度な重結界のおかげで手出しができていないようだが、彼が疲労で結界を維持できなくなったところを狙っているかもしれない。絶対ないとは言い切れない状態には変わりないのだ。

俺の言葉を聞いていたかどうかはわからないが、マークットは真剣にただ一点をじっと見つめている。その目は油膜がかかったように揺らめいているので、恐らく考えつつ結界をさらに頑丈なものにしているのだろう。

そしてすっとこちらを見据えるように見つめてきた。その表情は深刻そうだが、俺を信頼していることが分かった。


「正直あまりお願いし過ぎるのは良くないと思っているのですが…申し訳ございません。ジル殿、どうか我が主の為にその御力を貸してください」


そして目をぎゅっと瞑って頭を下げる。綺麗な人が真剣にものを頼むときはこんなにも絵になるのか、と思いつつも俺はその真剣さに答えられるように、しっかりと返す。


「全力で取り掛からせていただきます」


善人ではないが、次期ロワツィオを失ってヒルグランド王子に多大な負担をかけさせないためにも、俺はこの体と頭をフル活用することを決めた。







それから小一時間程、午後の三の鐘が鳴る頃には私的な茶会はお開きとなった。


「では素材が集まり魔術具の用意が出来次第連絡いたします」


俺はそう言って立ち上がる。するとマークットは焦ったように待ったをかけた。


「普段であれば、夜は自室にて執筆をしております。その時間であれば急な訪問も問題ありませんので、よろしければその時は直接お越しください」


「えっ護衛騎士は居ないのですか!?」


俺が思わず聞くとマークットは苦笑する。


「自分の身は自分で守れて初めて護衛騎士ですよ」


なるほど、護衛騎士は夜もゆっくりと休むことができないのか…と納得していると、マークットは続ける。


「夜ももちろんゆっくりはできませんが、普段の警護であれば交代時間にぐっすりと眠れるので問題ないのですよ」


ん~…やっぱわからないな、と俺は眉間に皺を寄せたまま生返事をする。マークットはクスクスと笑った。


「いずれわかりますよ…さて、此度は私的な茶会に来ていただきありがとうございました」


マークットはすっと切り替えると、俺に向かって軽く敬意を払う時と同じような会釈をした。そして入り口まで俺を見送りに来る。


「また是非いらしてください」


「喜んで」


俺はにこっと笑って部屋を出る。扉の前にはここに来た時に案内してくれたアルバスこと、アルバス・ド・リシュが静かに待機していた。


「茶会はお楽しみいただけましたか?」


歩き出したアルバスに無言でついて行くと、唐突に彼は聞いてきた。俺はもちろん笑みを浮かべて返事する。


「はい、とても有意義な時間でした。次の機会があればまたお招きいただきたいです」


それを聞いて安心したのか、アルバスの取り巻く雰囲気というかオーラが少し和らいだように感じた。恐らくかなり無口で余計なことは話さないようにしているが、本音としては主が一番大切なのだろう。何だか親近感がわいたように思う。


「…マークット様は護衛騎士長に就くまで、それはそれは酷い環境で過ごされておりました。私はマークット様が幼き頃からお仕えしておりましたが、彼があんなにも素でお話されている姿を本当に久方ぶりに拝見することができ、ジル様には感謝してもしきれない程です」


気が付けば彼の足は歩みを止め、俺をしっかりと見つめて話していた。マークット自身の過去について詳細は尋ねるつもりはないが、少しでも癒しとなったのであれば幸いだ。

なので俺は微笑んだ。


「本当に、今日はありがとうございました」


最後までアルバスは俺に深々と頭を下げていた。俺は王子直属の精霊とは言え元は下賤だとされる妖精族の出と言う訳だから、申し訳なくなったけど…問題はこれから先の事なのだ。

アルバスに出口まで送られて彼の姿が見えなくなるところまで行くと、俺は周りを気にして誰もいないことを確認し、フッとため息を吐いた。


「さて、魔術具の素材集めから始めないとな」


そして忙しない日々が始まった。




「ふむ、高度な重結界を作り出すための魔術具の素材、ですか?」


ヒルグランドの領域に入り、セシルと偶然にも鉢合わせたので、俺は現段階で一番信頼できるこの人に頼ることにした。何てったって汚れ仕事すらさらりとやってのけてしまう程の人間だからな、そういう面に関しては恐らく強いだろうと考えたのだ。

まあ…他の側近たちは若い人が多くてあてにできないと感じたのも一つなのだが。

セシルはほんの少し思考を巡らすように目を瞑っていたが、ほんの数秒で答えを見つけ出したらしく、迷いのない瞳を俺に向けてきた。


「準備するのは少々骨が折れるかと思いますが、ここタイトアイトの城がある周辺でも素材を集めることは可能かと。…しかし何に使うのか等、詳しい話をお願いします。万が一我らが主の身に危険が迫る様な事があれば、ジルだけの責任にはなりえないのです」


セシルの言っていることはもっともだ、と俺はしっかりと頷いた。元々隠すつもりもなかったのだ。セシルは俺がちゃんと話すと信じてくれたようだ。先程までの険しい顔色は一変し、普段通りの優しい微笑みを浮かべる。


「では…今から報告も兼ねて話し合いを行いましょうか」


そう言ってセシルはヒルグラント王子の自室がある場所を出て、隣の側近専用の扉を潜る。俺も続いて中に入って行った。





正直なところここにはあまり縁がなく、俺自身は入るのが初となる。今夜、クレオド基クレオド・ダリファルドの部屋を訪れる予定ではあったが、まさかその前にここを見て回る事が出来そうだとは思わなかった。


「そう言えば…ここに入ること自体は初ですよね?」


セシルがふと思い出したかのようにそう聞いてきたので俺は苦笑しながらハイ、と返事をした。


「今夜クレオドの部屋を訪れる予定でしたが、まさかそれよりも先にここへ来られるとは思ってもみませんでしたよ」


「そうでしたか…確かに用がなければあまり立ち入っても面白い場所ではございませんからね」


セシルも苦笑しつつ適当に近くの客室のような比較的小さめな多目的室のような場所に入って行く。しかしやはりどこもかしこも魔術具で拡張されているらしく、外からの印象と中に入ってからの印象は変わった。

内装は王子の部屋などに比べるとかなり落ち着いた、それこそ本当に必要な者しか置かれておらず、よく掃除も行き届いていて清潔な部屋だった。


「さて、ジルはどこに座っていただきましょうか…」


セシルは少し困ったように片手を頬にあてて首を傾げる。俺は何となく言った。


「あの、セシル…」


「なにか?」


「シンプルなものでよければ自分で家具など用意いたしますが」


その言葉に一瞬固まったセシルは一拍遅れてバッと振り返った。


「それは本当ですか?」


確認の中には信じられないと言った感情が込められている気がしたが、俺は正直に言う。


「マークット様の魔力の動かし方を一度拝見した時に何となく理解したので、シンプルなものになってしまいますが、出来なくはありませんよ」


事実、本当に一度、先程の茶会で見ただけだが、何となく魔力の流れを覚えていた。俺の創造が間違っていなければ恐らくできると思う。もちろん細かい装飾はできないだろうが。

しかしセシルは本当に感心したように微笑んだ。


「流石はジル。本来人間には魔力の流れを見ることはできず、妖精族でも初代妖精王族に深い関わりのある妖精くらいしか感知できないのですよ。もしかすればジルはその初代妖精王族の子孫かもしれませんね」


冗談で言ったのかもしれない、が俺にはその妖精王族という単語が何だか引っかかった。何となく思い出せそうな、しかし思い出してはいけないような気がする単語なのだ。この世界に来て初めて聞いたはずなのに、何故か。

…あ、そういえばマークットに妖精王族の話聞くの忘れた。


「…あら、妖精王族を知らない、と言いたげな顔ですね?」


セシルが不思議そうに顔を覗き込んできて、俺はちょっとたじろぐ。


「え…ええ、まあ」


何となく正直に答えてしまったが、怪しまれたか?


「今時の妖精族は子に歴史すら教えないとは…現妖精族の長は一体何をしているのかしら…」


…どうやら俺以外にも自分の種族の歴史を知らないやつがいるらしい。おかげで俺は疑われずにすんだが、ちょっとは自分の種族の歴史知っとけよ!と思った。

セシルはふぅ、と呆れ混じりのため息を吐くと言った。


「まぁ…その話はまた後日致しましょう。それよりも報告が先です。今日一日の出来事を話なさい。…もちろんこちらに利のある話を、と言う意味ですからね」


少々口調にトゲがある気が…と思ったが、俺は何も言わずに「はい」と返事して報告を始めた。


「まず、謁見の間を出たあとのことですが…」





俺はそれから…恐らく午後の五の鐘がなるまで律儀に包み隠さず、ずっと報告していた。

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