異界への扉
案内された部屋は、冷気と機械油の匂いが混ざり合う奇妙な空間だった。そこには現代の技術では説明のつかない、奇怪な形状の機械が整然と並んでいる。鈍い銀色の光を放つレンズや、生き物の血管のようにのたうつ配線。それらはまるで、意志を持って呼吸しているかのようにも見える。
「この奥は、映像制作の心臓部となる聖域。並んでいる機材には、決して触れぬようお気をつけください。これらは魂を削り、形にするための繊細な道具ですから」
完結の声が、冷たい壁に反響する。彼は部屋の中央にある、一枚の古びた木製のドアを指差した。
「では、上映の際にお渡しした『監視遺物』の半券はお持ちですか? その半券を握りしめたまま、こちらのドアノブを回して中へお入りください。そうすれば、あなた方は銀幕の内側へと足を踏み入れることができる」
達臣はポケットから、折れ曲がった半券を取り出した。それはただの紙切れのはずだが、今は命を繋ぐ鎖のように重く感じられる。
「お戻りの際は、その半券を破り捨ててから、このドアをくぐってください。そうすれば現世へと繋がります」
完結は二人の背中を闇へと促す。だが、彼らが扉に手をかけた瞬間、支配人は至極楽しげに、残酷な追伸を付け加えた。
「それともう一つ。もし戻りたくないと思われたなら、その半券を肌身離さず身につけてお過ごしください。あちらの世界で貴方方の精神を繋ぎ止める、唯一の楔となりますゆえ。失くせば最後、二度と自分を保つことは叶いません。……せいぜい、映画の登場人物にならないようお気をつけて」
完結は歪な笑みを浮かべて深く頭を下げた。
「じゃあ、行こう。あの子に……私たちの娘に、会いに行こう」
達臣は葉子の肩を抱き、言い聞かせるように語りかける。葉子もそれに応え、夫に寄り添いながらドアノブを回した。
扉の向こうに広がっていたのは、深い闇の靄が渦巻く異様な空間。そこからは、冷たい風と共に、少女のすすり泣くような声が微かに漏れ聞こえてくる。二人は迷うことなく、その黒い泥のような靄の中へと足を踏み入れた。
黄泉野完結は、二人の背中が完全に闇に呑み込まれるまで見届け、満足そうに鼻を鳴らした。
「良い映画になりそうだ。真実を知った時の、彼らの顔が楽しみですよ」
パタン、と静かな音を立てて、完結は扉を閉ざした。




