表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異館シネマシアター  作者: 弌黑流人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/66

異界への扉

 案内された部屋は、冷気と機械油の匂いが混ざり合う奇妙な空間だった。そこには現代の技術では説明のつかない、奇怪な形状の機械が整然と並んでいる。鈍い銀色の光を放つレンズや、生き物の血管のようにのたうつ配線。それらはまるで、意志を持って呼吸しているかのようにも見える。


「この奥は、映像制作の心臓部となる聖域。並んでいる機材には、決して触れぬようお気をつけください。これらは魂を削り、形にするための繊細な道具ですから」


 完結の声が、冷たい壁に反響する。彼は部屋の中央にある、一枚の古びた木製のドアを指差した。


「では、上映の際にお渡しした『監視遺物』の半券はお持ちですか? その半券を握りしめたまま、こちらのドアノブを回して中へお入りください。そうすれば、あなた方は銀幕の内側へと足を踏み入れることができる」


 達臣はポケットから、折れ曲がった半券を取り出した。それはただの紙切れのはずだが、今は命を繋ぐ鎖のように重く感じられる。


「お戻りの際は、その半券を破り捨ててから、このドアをくぐってください。そうすれば現世へと繋がります」


 完結は二人の背中を闇へと促す。だが、彼らが扉に手をかけた瞬間、支配人は至極楽しげに、残酷な追伸を付け加えた。


「それともう一つ。もし戻りたくないと思われたなら、その半券を肌身離さず身につけてお過ごしください。あちらの世界で貴方方の精神を繋ぎ止める、唯一の楔となりますゆえ。失くせば最後、二度と自分を保つことは叶いません。……せいぜい、映画の登場人物にならないようお気をつけて」


 完結は歪な笑みを浮かべて深く頭を下げた。


「じゃあ、行こう。あの子に……私たちの娘に、会いに行こう」


 達臣は葉子の肩を抱き、言い聞かせるように語りかける。葉子もそれに応え、夫に寄り添いながらドアノブを回した。


 扉の向こうに広がっていたのは、深い闇の靄が渦巻く異様な空間。そこからは、冷たい風と共に、少女のすすり泣くような声が微かに漏れ聞こえてくる。二人は迷うことなく、その黒い泥のような靄の中へと足を踏み入れた。


 黄泉野完結は、二人の背中が完全に闇に呑み込まれるまで見届け、満足そうに鼻を鳴らした。


「良い映画になりそうだ。真実を知った時の、彼らの顔が楽しみですよ」


 パタン、と静かな音を立てて、完結は扉を閉ざした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ