支配人の業(わざ)
「……その切迫感、そして切実さ。なるほど、確かに子を喪った親のそれに見えます」
完結は記憶の書庫を指先でなぞるように、慎重に言葉を選び、宣告した。
「ですが……彼女、結衣役を演じた女性は、10年前に亡くなっております」
夫婦の時が止まった。60代に差し掛かったばかりであろう二人の顔から、一気に生気が吸い出されていく。完結の言葉を浴びたその瞬間、二人は数十年分もの歳月を、瞬きの間に老いさらばえたかのように見えた。
「この『監視遺物』という映画は、亡くなった彼女の遺した記憶を元に製作したものなのです」
「……記憶、を?」
聞き間違いであってほしいと願うように、二人は顔を見合わせ、再び完結へと縋るような視線を戻す。
「ええ。正気を疑われるのは承知の上です。これからお話しする内容は、当館の最優先機密。決して口外せぬと誓っていただけますか」
スタッフルームの室温が、急激に低下した。足下から這い上がるような、湿った冷気が二人の肌をなぞる。
「そのように身構えずとも結構です。楽に、お寛ぎください」
柔らかな勧めの言葉とは裏腹に、完結の表情は鉄の仮面のように硬い。だが次の瞬間、その均衡が崩れた。
「……ふふ、まさか……まさか、まさか、まさか! 魂の繋がりから、一切の記憶を排除したというのに、このような偶然が起きるものか! ははははっ、はははははははっ!」
突如、完結は興奮に身体を震わせ、口角を吊り上げて高笑いを始めた。静寂を愛する支配人とは思えぬ、狂気を孕んだ哄笑が狭い部屋に木霊する。
「いや、失礼。……確信しました。あなた方は間違いなく、あの『結衣』の両親だ。彼女の記憶の断片、その底に沈んでいた若かりし頃の御二方の姿が……今、はっきりと見えましたから」
「死者の……記憶を観ることが、館長には可能なのですか……?」
夫が、震える声で問う。その瞳には、救いへの期待よりも、底知れぬ恐怖が勝っていた。
「左様でございます。抽出、保存、編集、そして再現。魂の残滓をフィルムに焼き付けることこそ、私の業。……なぜならここは『怪異館』、怪異の蠢く異界の狭間。そして私めは、それらを統べる支配人『黄泉野完結』でございますから」
完結の瞳が、獲物を定めた猛禽類のように、暗く、鋭く光り輝いた。




