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氷の麗人は営業スマイルを崩さない〜死亡フラグ回避のために愛想笑いしてたら、自分を処刑する公爵様の激重求婚ルートに入りました〜  作者: 雪繁雪那


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#29 隣に立つために

「ジュリアン、アリス。ごめんね。私、公国へ戻るよ」


 王都の星降りの崖。

 私は、追いついてきたジュリアンとアリスに振り返って告げた。

 二人は息を呑み、悲痛な顔で私を見つめている。


「エリザ様……! そんな、自らあの鳥籠に戻るなんて!」

「お待ちください、義姉上! 俺が血路を──」

「手出し無用です」


 レイドラーが冷たく制した。


「閣下は、エリザベート様がご自身の意志で大人しくお戻りになるのであれば、お二人のこれまでの行動は不問にすると仰っております……ですが、抵抗されるのであれば話は別です」

「大丈夫よ、ジュリアン。アリス」


 私は二人に歩み寄り、その手をそっと握った。


「私はもう逃げないし諦めない。日陰の女で終わるつもりもないから」

「義姉上……?」

「絶対に、堂々と王都へ帰ってくるから。それまで待っていて」


 私の迷いのない目を見て、ジュリアンは奥歯を強く噛み締め、深く頭を下げた。

 アリスも目に涙を浮かべながらも頷いてくれた。

 私はレイドラーの用意した馬車へと乗り込んだ。


 ────

 ──


 数日後。

 フヴィート公国の奥深く、私を閉じ込めていたあの美しい離宮。

 重厚な扉が開かれ、私は再びこの部屋へと戻ってきた。


「──おかえり、私の愛しい小鳥」


 部屋の奥、豪奢なソファに深く腰掛けていたディアエル様が、手元のワイングラスを置いて優雅に微笑んだ。

 怒っている様子は微塵もない。

 むしろ、家出をした猫を迎えるような顔だった。


「少し目を離した隙に随分と遠くまで飛んでいったね。まさか自作のロープで窓から降りるとは……お転婆が過ぎるよ」


 ディアエル様はゆっくりと立ち上がり私の前まで歩み寄ると、その長い指で私の頬を撫でた。


「あの手紙を読んだのだろう? だが、何も変わらない。君が私の腕の中にいるという事実はね。さあ、悪い子には、もう二度と外へ出られないように少し強めの『お仕置き』が必要かな」


 その甘く危険な囁きに、以前の私なら震え上がって後ずさっていただろう。

 でも、今の私は違う。


「ディアエル様」


 私は彼の冷たい手の上に自分の手を重ね、その蒼い瞳を真っ直ぐに見据えた。


「私を死んだことにして、安全な鳥籠に隠すなんて冗談じゃないです。私は、日陰の女になるつもりはありません」

「……ほう」


 私の明確な反抗の言葉に、ディアエル様は微かに目を細めた。


「君は、私が君を愛していないとでも言うのかい? 私が与えるこの完璧な世界に、不満があると?」

「違います。あなたが私を愛してくれているのは分かっています……だからこそ、私はあなたと誰に恥じることもなく堂々と結ばれたいんです」


 私の言葉に、ディアエル様は一瞬だけ虚を突かれたような顔をした。

 しかしすぐに困ったようなため息をつく。


「君の気持ちは嬉しいが……君はすでに『処刑された死人』だ。公爵である私が一度下した裁きを覆すには、国家を揺るがすほどの大義名分が必要になる。それに、スノーローズ家の三女という身分では王国が黙っていない。だからこそ、ここに隠しているのだよ」

「分かっています。だからスノーローズの三女である必要はないんです」

「……何?」

「新しい身分を作ります」


 私はディアエル様から一歩離れ、胸を張って宣言した。


「エリザベートとしてではなく全くの別人として。名もなき平民からフヴィート公国で功績を上げ、私が自力で、公爵夫人にふさわしい地位と爵位をもぎ取ってみせます!」


 その言葉にディアエル様は完全に目を丸くした。


「……気は確かか? 死人が身一つでこの実力主義の公国で成り上がると言うのか? あのワインの知識を使うにしても、限界があるだろう」

「ワインの知識にだけ頼るつもりはありません! 私の根性と知恵で、絶対に公国に不可欠な人間になってみせます」


 前世で培った対応力と小市民のド根性を舐めないでほしい。


「私が誰もが納得する地位を手に入れたら、その時は……堂々と私を妻に迎えてください。私にそのチャンスをください!」


 部屋に、静寂が降りた。

 ディアエル様は私の顔をじっと見つめ……やがて、フッと肩を揺らして笑い出した。

 それは冷笑ではなく、心の底から湧き上がるような愉悦と感嘆が入り混じった笑いだった。


「……面白い」


 ディアエル様は口元に手を当て、最高に魅力的な──けれど底知れないプレッシャーを放つ笑みを浮かべた。


「私の用意した完璧な鳥籠を蹴り破り、自らの足で私の隣まで這い上がってくると……本当に、君という小鳥は私の想像を遥かに超えていく」

「やってみせます」

「いいだろう。死人がどうやってこのフヴィート公国で成り上がるのか……やってみてくれたまえ」


 ディアエル様は私の手を取り、その甲に恭しくキスを落とした。


「だが、約束してもらうよ。期間は一年。そして、少しでも君の命に危険が及んだり、君が諦めの言葉を口にしたりした時は……その瞬間に遊びは終了だ。君は即座にこの鳥籠に戻ってもらう」

「望むところです」


 私は強く頷き、離宮を後にする。

 使えるものはなんでも使う……よし、やるよエリザ!

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