蚊帳の外ルート
「ほらほら、朝倉さんもおいで!」
美鈴の部屋に通された未来と朝陽。朝陽は部屋の中を一望する。
ベージュ色のカーテンからは南からの日光が差し込み、床に広がるブラウンのカーペットが温かみのある光に照らされている。勉強机と思しき木製のデスクの上には教科書が几帳面に整えられていて、背表紙が一列に並んでいる。壁際に座しているベットのシーツにはシミ一つ見えず、美鈴が腰掛けることで滑らかな表面に波が生まれる。
壁にかけられたカラフルな色彩のポスター。ポスターの中央より下寄りの部分には、現在放送中のとあるアニメのタイトルがデカデカと存在感を主張している。
「あれは……」
ポスターを見つめる朝陽を見てシーツの上でゴロゴロと転がる美鈴が動きを止める。
「朝倉さんどしたん?」
その問い掛けに朝陽はハッとして美鈴の方に巻き直る。
「あ、その、これって今やってる……」
「うん! 私そのアニメ大好きでさぁ。今3期がやってるけどちゃんと1期も2期も観てるんだよね」
ピョコンとベッドから立ち上がった美鈴は朝陽の隣に立つ。
「もしかして朝倉さんもこのアニメ観てたりする?」
美鈴の目には期待が満ちたかのような眩い光が輝いている。
「あ、はい……その、私も楽しませてもらってます……」
少し気恥ずかしそうに朝陽は視線を迷わせる。指先をモジモジと遊ばせ、忙しなく肩を揺らす。
「えー! 朝倉さんもそうなんだ! 実はさ、和樹もこのアニメ好きでさぁ!」
「あ、そうなんですね……」
「でさ、私と和樹で今度イベント行くんだけでね……」
美鈴の言葉に朝陽が相槌を返す中、先程突き飛ばされた和樹は未来の肩を叩く。
「珍しいお連れ様だな」
「たまたまな」
未来はぶら下げていたレジ袋を和樹に渡す。
「ほら、ご注文のお品」
和樹は差し出された袋を受け取る。カサカサと音が立ち、確かな重さが彼の腕に伝わる。
「おっ、ありがとな! どれどれ、あ、いつも通りスポドリ買ってきてくれたんだな。それと……オレンジジュースとアイス買ってくるあたりホント律儀だよな、しかも2つ」
未来はポケットの中にある、多少軽くなった財布に触れる。
「アイスは美鈴が風邪治してからな」
擦れ合う小銭が金属音を奏でる傍ら、和樹は袋の中をガサゴソと漁り続けている。
「あれ、何だこれ? これってヨーグルト?」
彼が袋から取り出したのは4つに小分けされた、ヨーグルトの容器。青い蓋には苺のイラストが描かれている。
「あ、それは私が買いました。お腹に優しいものが良いかと」
朝陽が和樹と未来の方へ振り返る。一方美鈴は驚いたかのように目を見開く。
「え、朝倉さん、ヨーグルト買ってくれたの!? え、やばい、めちゃ嬉しいんですけど。ありがとありがとう! ちょ、え、一緒に写真撮ろ?」
「なんでそうなる」
未来が呆れるのとは対照的に美鈴が朝陽の肩を掴んで激しく揺らしている。未来と並んで苦笑いを浮かべながらその光景を眺める和樹は、ふと頭に思い浮かんだことを口にする。
「ん? てことは朝倉さんと未来は一緒に買い物してたって訳か」
和樹の言葉に美鈴もピタッと動きを止める。
「あー、言われてみればそうなるよね。で、実際どうなの!?」
和樹と美鈴の疑問に、当の2人は顔を合わせて困ったように眉を下げる。
「いやまあ間違ってはないけど……」
「ええ、確かにそうですが……」
買い物を一緒にしたこと自体は決して間違ってない。けれど目の前の2人、というより美鈴の熱量から察するに、求めてられているのはただの事実確認だけではないだろう。
「じゃあさ、2人でどんな話してたの? 例えばさ、『気になってる人いるー?』とか」
「修学旅行の夜か」
2人とも会話こそ交わしたものの、別にそれで盛り上がったわけでもないので彼らが望むような返答は出来ない。だというのに、主に美鈴の熱量には終わりが見えない。
「何その反応! 2人揃ってここまできてくれた訳でしょ、ならなんか無いの?」
「分かった分かった、とりあえず寝ろ。おい和樹、早くこいつ寝かしつけろ」
「はいはい、ほら美鈴。土産話はとりあえず美鈴がベッドに入ってからだとよ」
「土産話も何も無いんだけど」
未来が和樹の腕を引いて、取り敢えず美鈴の寝かしつけに尽力する。そんな3人のどこか手慣れた光景に、朝陽はクスッと微笑む。
「あれ、朝倉さんどうかしたん?」
そんな朝陽の微笑を美鈴が見逃さなかった。
「いえ、その……改めて、仲良いんだなって」
朝陽のその言葉に3人は顔を見合わせ、お互いに笑みが零れる。
「ま、俺のハニーは美鈴だけど」
「うん、愛してるよマイダーリン!」
「この流れでまさかのハブられ……」
3人の、否、カップルとそれに振り回される1人の少年の個々の反応。けれどそこには、目の前の友人達を慈しむ確かな温もりがある。肩を叩き合い、軽口を飛ばすやり取り。少年少女の飾らない、そしてかけがえのない時間。
1人の少女の為の見舞いを、窓から差し込むカーテン越しの光が包み込む。
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