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【悲報】ボッキマン、不安になる その④

「なるほど、ただ、その結果、

 登場するあなたは本来のあなたではないかもしれませんよ

 ……それでもよろしいのでしょうか?」


「と、いうと?」


「あなたが今まで見ていたものは、

 あくまで今のあなたが想像する過去の自分でしかないのです。

 もし今の自分を乗り越えるなら、

 今の自分からは想像もできないようなあなたになるしかありませんが

 そうなった時、あなたが見ていた過去のあなたである保証はないということです」


「……」


俺は少し考える。

確かに潮木さんの言うとおり、俺が理想の自分だどうのこうのと言ったところでそれはあくまで今現在の俺が考えた理想の自分であり、今現在の俺の延長線上に存在する自分であるに過ぎない。


「今の自分からは想像もできないような自分ですか……」

俺は考え込む。正直言って自信はなかった。


「ええ、そうですね。

 例えば……そう、超能力者になりたいとか思ったことはありませんか?」

潮木さんの急な質問に少し戸惑う。


「はぁ……まあ、子供の頃は思っていましたが」


「やはり、そうなんですね。実は私もなんですよ。

 昔は夢見る少年でしたからね。

 アニメやゲームの主人公たちを思い返してください、

 彼らはある日突然に力を授かります。

 そして今までとは異なる人生を歩むことを余儀なくされます。

 力を受け入れたことが運命を大きく変えることになる。

 つまり、力ではなく受け入れることが人生の転換点となったわけです」


「……はぁ、ですか」

俺は戸惑いながら潮木さんの話を聞く。


「ああ!すみません、話が脱線してしまいましたね。

 要は私が言いたかったのは、人は受け入れることで変わっていくという事です。

 自分の常識を覆すほどの体験をした人は、

 それを受け入れることによって人は大きく変わっていくわけです。

 それはもう、劇的に変わると言ってもいい」


潮木さんはそう言いながら身を乗り出すが、先ほど見た物を振り返っても俺の人生に『劇的な体験』はそれなりに起きていたように思う。

でも……それもあくまでボッキマンの身の上に起きたことにすぎないのであり、

本来の俺、没木一歩ぼつきいっぽに起きたものではなかったのかもしれない。


「だからといってすべての人に大事件が起きるわけではありませんよね?

 でも諦めないでください。習慣にするんです。

 些細なことでいいですから毎日少しずつ変化を受け入れていくんです。

 日常の1秒の積み重ねで劇的な1日を作り上げていく。

 一緒にそういう方法を考えてみませんか?

 大丈夫ですよ、きっとうまくいきます。

 なぜなら、あなたは今、変わろうとしているのですから」

潮木さんは熱っぽく語る。


「えっと……はい、頑張ります」

俺は気圧されながらもそう答えた。


「ありがとうございます。

 ではまずとにかく普段とは違うことをやってみて下さい。

 いつもと違う行動を取ってみたり、ちょっとしたきっかけでもいいのです。

 さあ、何か試してみましょう」


潮木さんはそう言ったが俺にはどうすればいいのかよくわからなかった。


「ううーん……そう言われても、ちょっとまだ何をすればいいかわからないです」

俺は少し考えてそう答える。


「そうですね、例えば今まで『俺は変わる!』なんてことを

 口に出して言った経験はありませんか?」

潮木さんはそう言ってニヤリと笑う。


「……ないです、心の中で言うくらいでならありますが……」


「そうですか、ではとりあえず口に出してみるといいかもしれませんよ。

 些細なことかもしれませんが言葉にして発することで

 より強い意志が宿りますから」


「なるほど……わかりました」

俺は少し考え込んだ後、意を決して口を開いた。


「俺は、変わる!」

「声が小さいですよ!」


「俺は変わる!」

「もっと大きく!!

 腹の底から思いっきり叫ぶようにしてください!!」


「俺は変わる!!」

「まだまだ、もっともっと!

 限界を超えるつもりで、全力でお願いします!!」


「俺は変わる!!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


潮木さんのカウンセリングを受けた俺はどこか晴れやかな気分になっていた。


潮木さんとの会話の中で 俺は自分を変えたいという気持ちを強く持つことができたのだ。そうして、俺は雑居ビルを出ると、 自宅に向かって歩き出した。


ふと空を見上げると夕日が落ちかけていて、辺り一面が赤く染まっていた。


「(今日も一日が終わるんだな……)」

俺はそんなことを考えながら歩く。

そしてこれまでの俺も今日で終わるんだ。明日からは新しい俺が始まるんだ。

俺はそう考えると、少しだけ胸が高鳴った。


これからは今までのように無敵の力に頼って生きるのではなく、

没木一歩として出来る限り自分自身の力で歩いて行こう。


「よし、俺は変わるぞ」

俺はそう呟き、俺は帰路についたのだった。


「と、いうわけだよ。俺は変わるぞ、絶対に、何があってもだ。

 わかるか、この気持ち?」

俺がそう言うと、お掃除ロボットのブラウニーは不快そうに身震いする。


「わかりませんけど、もっと手に負えない人になったということだけわかります」

「フフッ……俺は変わったからな、怒らせようったって無駄だぜ」


「そうですか。私はお掃除ロボットだから怒らせるとかはしないですよ。

 それにしてもどうして急に変わるとか言ってるんですか?」

「そりゃあ、すばらしいアドバイスを頂いてしまったからな。

 潮木先生の言葉が俺の心の汚れを洗い流してくれたんだよ」


「へー、そうなんですね。それで具体的にはどうするんですか?

 その、変わるっていうのは」

「そうだな、とりあえず疎遠になっている連中に連絡してみようと思う」


「ええ……迷惑じゃないんですか」

「そこだ!そういうとこなんだ!

 そうやって一方的に壁を作り閉じこもってしまうからダメなんだ!

 俺は変わる、見てろよ!」


俺はそう言いながらスマホを取り出すと、連絡帳を開いて大きくのけぞる。

そこには、登録件数1件の文字が表示されていた。


「ど、どうしたんですか?

 ま、まさか、友人がいないとか……

 いやいや、いますよね、普通、そっ、そんな人間が実在するわけ……」


「うっ、うるせー!

 この1件にすべてを賭けるから見てろよ!」

俺はそう言って画面をスクロールすると、その番号にかける。


「もしもし、俺だよ、俺。

 没木一歩だけど、話していいか?」


『ええっ、ぼ、没木さんですか?』

電話口から聞こえてきたのは、慌てたような女性の声だった。


「ああ、神代しんたい、久しぶりだな。

 元気か? なんか気になっちゃってさ、ついかけちゃったんだけど」


俺はそう言いながら電話越しの神代清香しんたいきよか相手に見えもしない愛想笑いを浮かべる。


『はい、それは、ありがとうございます。

 私も、没木さんのことずっと気にしてましたから……』


「ん?俺のことを気にかけてくれてたのか、いやーありがとう、

 どう?夢に向かって頑張ってる?メールも来ないから心配しちゃったよ」


『い、いえ、あの、私も、何度も没木さんのところに行こうと思ったんですよ。

 でも場所がわからなくて……連絡しようにもちょっとその、最近忙しくて……』


「えーそうだったんだ~、でもいきなり家に来られたらちょっと困るかも、

 あっはっは!しかし、忙しいってのもわかるよ~

 夢に向かって頑張るってのは大変なことだもんねえ、あっはっは!」


『え?あ、はぁ……あの、没木さん、ずいぶん、その、何かご機嫌ですけど、

 どうかされましたか?』


「ああ、俺な、これからは人と人との出会いを大切にしようと思うんだ。

 最近、こう、色々と考えさせられちゃってさ。

 とにかく、これからの俺は一味違うぜ」


『そうだったんですね、それは素晴らしいことだと思います。

 実は私からもお話したいことがあって……本当はちゃんと会って

 お伝えしたいんですけれど、けい……いえ、あの』


「んん?どうしたんだ?俺は会うのも電話でも大丈夫だけど」


『すみません、ちょっと今は無理でして……あの、次の土曜日の18時に……

 A地区駅前の放送を見てください!そ、それじゃ失礼します!』


「え、ちょ、あ……切れちゃった」

俺は通話終了の文字を見ながら首を傾げる。


「どうしたんですか?」

「なんか、次の土曜の夜に放送があるらしいんだけど、見てくれだってよ」


「そうですか、とりあえず見てみたらいいんじゃないですか?」

「うん、まあ見てみるけどさ。

 なあ、ハカセコってブラウニーから連絡取れないのか?

 あいつとも話してみたいんだけど」


「えーやめましょうよ……絶対怒られますよ、俺が」

「まじかよ、お前が怒られるんならやめとくか」


「えっ、いいんですか?」

「当たり前だろ?」

俺はそう言って親指を立てながら爽やかな笑顔を見せる。

「(もうだめだな、こいつ……)」


「なんだよその反応は。じゃあ、俺は生まれ変わったからな。

 ちょっくら夜のランニングしてくるわ。俺は変わるぞ!」

こうして俺は、俺を変えてくれるかもしれない人たちと心と心で繋がったのだった。


「(うぜぇ……いつまで続けるつもりだよ、あのテンション)」

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