【速報】ボッキマン、山に挑む その③
階段を下り続けると、また広い空間に出た。今度は直径50メートル程の円形の空間で、天井の部分には夜空があり、星が見えている。
もちろん本物ではありえないのだろうが、なかなかリアルに再現されている。
プラネタリウムのような施設と考えればかなり立派なものだろう。
「次はどんなのがくるのかな……」
俺が呟くと、それに答えるかのように夜空に男の顔が浮かび上がる。
満点の星空にまったく映えない男の地味なツラに思わず吹き出してしまう。
『……何が面白いんだ、気持ち悪い奴め。
まあいい、お前の望み通り力で勝負してやろう』
男がそう言うと、星空に星座が出現する。
「おお、なんかお洒落だな……」
『ふん、ずいぶん余裕だな。
だが誤解するなよ。貴様が必死の思いで戦っていた騎士パンダグリエルは
私の壮大なる研究の一端でしかない!
あれが私の自信作だとか最高傑作だとか思っているとしたら大間違いだ!
これから登場する星空に封印されし12体の怪物の手によって貴様は本物の地獄を
味わうことになるのだ!!』
男が叫ぶと同時に星空から光が降り注ぎ、天から機械仕掛けの怪物たちが姿を現した。先ほどの騎士は違い、動物や神話の怪物を模したそれらは一体一体が細やかにデザインされ、一つとして同じようなものはなかった。
「凄いな……」
俺は素直に感想を述べる。
おそらく神話になぞらえて搭載されたであろう怪物の武装も一つ一つが個性的なものに見えた。
『どうだ!恐れ入ったか!これが私の研究の成果!科学の力だ!この美しき怪物たちは私が生み出した!貴様のような野蛮人どもが永遠に近い時間をかけても到底到達できない叡智の結晶であり、芸術品なのだ!そして、この美しさはただの飾りではない。未熟で無知無能な猿どもを屠るのには過剰すぎるほどの火力を秘めており、その力は戦車や戦闘機など足元にも及ばない! さらに、彼らは猿と違って疲れを知らない!貴様が死ぬまで永遠に戦い続けてくれることだろう!さあ、絶望す』
数十秒後、ガラクタになった怪物たちが俺の足元に転がっていた。
俺はそれを見下ろしながら、ため息をつく。
男の絶叫が部屋に響いた。
『ぎぉおぁああぁあぁあ!!
なっなっ、なな、何故!?何故だ!!?わ、わわ、わっ、わからん!?
どっ、どっ、どど、どうしてこんなにも美しいものを破壊できるんだ?!
きき、きききっき、貴様、ほっ、ほほ、本当に人の心を持っているのか?!
しょ、しし、正気なのか?!』
「……そんなこと言われても困るんだけど……じゃあ、もうやめにするか?」
俺の言葉を聞いた男は血走った目でこちらを見つめてくる。
『だめだ!貴様だけは許さん……。
貴様はこの王国に侵入し、住民の命を奪い、その平和と静寂を打ち破った。
故に相応の報いを受けてもらう必要がある』
俺はもう一度、床に散らばったロボットの残骸を見下ろす。
「そうか……。大切なロボットだったんだな」
俺がため息交じりに答えると、男は一瞬沈黙してから叫んだ。
『……次の部屋に来い!処刑の刻は迫っている!!』
俺は男に従って部屋を出ると、階段を下りていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺は新たな部屋に来る度に新しいロボットと戦わされ、その度に処刑だ死刑だと男に怒鳴られていた。そんなことを数回くり返し、いい加減うんざりした俺はロボットの残骸の前に腰を下ろしその砕かれた頭部に向かって話しかけていた。
「バカな王様のせいで無駄死にしちまったな……」
『ばっ、あっ!?きっ、きさま……!』
男は俺の言葉に激怒して、腕を振り上げる。
だが俺を非難する言葉は思いつかなかったようで、すぐに諦めたような表情になり黙り込んだ。
俺はそんな男を無視して、話を続ける。
「なあ、もしかしてあんたが街にバッタや肉の柱を送り込んだのか?
そうじゃないならもう終わりにしようぜ。
俺だって別に好きでやってるわけじゃないし」
『バッタ?肉の柱?何の話だ。あの街には……う、恨みがあるが、
そんなものは知らない。私はずっとここを統治していたからな』
「恨み……?」
俺は顔を上げ、男を真っ直ぐに見据えるとその視線から逃げるように目をそらす。
俺は立ち上がり、男と向き合う。
「俺の名はボッキマン。……まあ本名じゃないけどな。
あんたはなんだ?教えてくれ?」
男はしばらく口をつぐんでから、答えた。
『い、今から何十年も前のことだ。
あの街には研究所があり、そこには知能の優れた子供たちが集められていた。
際立って優秀な私も当然そこにいた子供の一人だ。研究所から私たちに課せられた
使命は……研究所の存続を脅かす敵対的組織の殲滅、
そして、私たちの頭脳を用いた兵器による人類全体の恒久的な平和への貢献だ』
男はそこで言葉を区切り、息を飲み込んで再び口を開く。
『……それを成し遂げた時、
私たち研究所の子供は初めて自由になれると教えられていた』
「兵器……?
あんたはその使命に従ってここでロボットを作り続けてたのか……?」
俺の言葉を聞いた男は首を横に振る。
『違う、私はもう自由なのだ。
私の頭脳は常人よりも優れている。
当時あそこにいた研究員や施設の長を遥かに凌駕するほどにな。
私は、私よりも圧倒的に知能の劣る研究員どものいう使命などに
従うつもりはなかった。それに貴様たち猿共のボスのための平和だのと
いった戯言などにも興味はなかった。
だから私は自らの意志で行動を開始したのだ』
「(名前を聞きたかっただけなんだけどな、まあいいか)」
俺が奴の昔話の続きを待っていると、男は再び語り始める。
『私は意図的に知能テストの成績を下げることで研究員たちの監視の目を緩め、
隙を見て脱走した。それからは早かった。私は研究所のネットワークに侵入し、
情報資産を徹底的に破壊し、研究成果も全て破棄してやった。
数多のプロジェクトが続行不可となり、資金源を断たれ、
研究所は閉鎖を余儀なくされた。そうして晴れて私の自由は確立されたのだ!』
俺は頭の後ろに手をやりながら男の話に応える。
「そうか、きっちりと落とし前をつけてやったんだな……」
『そうだ!
私は支配者としての魂を持っているのだ!
その私を命令で縛り付けようとすることも、
私の支配する王国の安寧を脅かす者も容赦するつもりはない!
当然それは……ボッキマン、お前もだ。お前も許したりはしない。
絶対にだ……!!』
男は俺を睨みつける。
俺はそれを真っ向から受け止めて、静かに言った。
「……わかったよ、じゃあ次の戦いを始めよう」




