【速報】ボッキマン、再び出会う59
「(バカが!落ち着け!お前は怪我人を出したくなかったんじゃないのか!!)」
怒声が心の中に響いたと思うと、後ろから肩を掴まれ現実に引き戻される。
「……え?」
「没木くん、落ち着くんだ。修理代も高いんだぞ……。
決めるなら一撃で決めてくれ」
いつの間にか俺の側に立っていた潮木さんが呆れたような口調で言う。
だが、俺の頭はそれどころじゃなく、ただ混乱するばかりだった。
「お、俺……」
「……わかってるよ。怖いんだろう、没木くん。
でもな、君が感じてる恐怖はまやかしでしかないぞ。
昨日も言ったが魂の半分を掌握した悪霊が、君の本能をいたずらに
刺激し、恐怖を煽っているだけの結果にすぎない」
「そんなこと言ったって……」
「君が考えているよりあいつは大きくはないし、強くもない。
……そして、邪悪でもない」
「……」
「あいつは此咲くんの呼び掛けに応じて現れただけだ。
所詮は寄る辺ない身の迷い子でしかない。
だから、怖がる必要なんてないんだ」
潮木さんに涙を拭われ、そこでようやく自分が泣いていることに気付いた。
同時に身体の震えが止まり、少し落ち着きを取り戻す。
だが、それでも不安感は拭えなかった。
『ああ……没木くんが泣いてる。なんてかわいいんだろう……』
「あ、あ、ありがとう……」
『当初の計画とは異なる展開だけど……こういうのもいいな……』
「あ、あの、潮木さん……?
俺、どうしたら……攻撃も効いてないようだし……」
「そんなことはないさ。あいつは臆病者なんだ。
だから、君が攻撃の意志を見せたことに戸惑い、
此咲くんに近づくことを躊躇している」
潮木さんはそう言っていたが「それ」を直視できなかった俺には、彼女の言葉が正しいか判断することは出来なかった。
しかし、理由はどうあれ、奴が此咲を完全に取り込めていないことは正しいようだ。ならば、まだ希望はあるかもしれない。
俺の脳裏にかつて戦った炎の巨人の姿が蘇る。
結局、俺はあの時、あいつを殺すことしか出来なかった。それに比べれば今はずっとマシだ。
そう思うことでなんとか自分を奮い立たせ、俺は「それ」と向き合おうとした。
しかし、俺がその瞬間、「それ」の体が青い業火に包まれ、全身が凄まじい勢いで燃え上がった。
「うぁあっ!?ちょっ、何っ!!?」
爆風と轟音の威力に一瞬怯み、体が吹き飛ばされそうになったが、潮木さんが背中を支えてくれたお陰でどうにか体勢を保つ。
慌てて彼女に顔を向けると、青く燃え盛る翼を広げ、宙に浮かぶ潮木さんの姿が見えた。
「……ええ、な、なんすか、それ……」
「没木くん、あいつに『思ったより大したことはなさそうだな』と
思われたら終わりだぞ。抵抗を続けないと」
いや、そういうことじゃなくて……その格好とか……。まあいいか。
「……わかった。どうすればいい?」
「はい、じゃあ、まずは腕を上げ、拳を構える!」
言われた通りに腕を上げ、ファイティングポーズを取る。
「……没木くん、君のその拳は飾りか?」
「え?」
「どうなんだ、ただの飾りなのか?」
「……違う」
「聞こえないな、もっとはっきり言ってくれ」
「違う!!」
「うん、よろしい。……なあ、没木くん。
君のさっきの力任せのパンチ、酷いもんだったぞ。
技術も何もない。ここで皆と練習した時の方がずっと良かった。
此咲くんと練習をしたことを思い出してくれ」
「……」
「それ」は青い炎の奔流に包まれながらも、悠然と宙を漂い、何かを確かめるようにこちらを見下ろしている。
潮木さんの力は以前見た時よりも、遥かに強大だが精霊の前には力不足で、奴を押し返す程の力はないようだ。
「拳はインパクトの瞬間まで柔らかく握るだけ。
脇は締め、肩は緩める。
膝を曲げて腰を低く、肘は肋骨に沿わせ、顎を引く……」
「あ、ああ……」
「没木くん、
目を覆いたくないならその手は握っていろ。
逃げ出したくないなら腰を落として、大地を踏みしめろ。
恐怖に囚われたくないなら、目標を真っ直ぐ見据えろ」
「それ」の身体を包む青い炎が一層激しくなり、熱風が押し寄せてくる。
恐怖は拭えない。吐き気も止まらない。しかし、一方で体の震えは収まり、頭は澄み渡り、思考はクリアになっていた。
「……あんたやっぱ変わった人だな」
俺は短く返事をして、指示通りにフォームを修正する。
「くふっ、君は私のクライアントで初恋の人だからな。
君がスゴい奴になれるなら私は何だってしてやるさ」
本当にどうしようもない人だな……結局、俺は潮木さんの勝手な行動に俺は振り回されてばかりだ。
でも……。
俺は小さく息を吸い込み、集中力を研ぎ澄ませる。




