【速報】ボッキマン、再び出会う53
「なるほどな……わかったよ。
でもムカデは気持ち悪いだろ。どう考えてもマトモなやり方とは思えないがな」
「ぷ、ふふっ……まあ、見た目はね。でも慣れれば可愛いもんだ。
特にこの子たちは人懐っこい性格だし、それに……ほら」
潮木さんが手招きすると、どこからか一匹のムカデが俺の足元に這い寄ってきた。
ムカデは俺の靴の先をちょんちょんと触った後、するすると潮木さんの首筋へと登っていく。
「わ、こいつ……」
「きゃっ、くすぐったい……!」
「潮木さん!?大丈夫ですか!!」
此咲は大声を上げて潮木さんに飛びついたムカデを握り潰そうと手を伸ばす。だが潮木さんに制止され、此咲は戸惑いながらも大人しく引き下がった。
「ふぅ、びっくりしたぁ……。
此咲くん、いきなり大きな声出さないでよ。
あと私のことは心配しなくていいから」
「す、すみません……。つい取り乱してしまって……」
「ううん、此咲くん、私のことが大好きだもんね。
ふふ、仕方ないよね。私も此咲くんのこと大好きだよ」
「え、あ、はい……ありがとうございます……」
「……」
「……おっとっと、没木くんごめんよ。
でもまあこんな感じの優しい子なんだよ。
大体、見た目がよくないからって、
悪いものだと決めつけるなんてよくないよ。
ムカデの精霊がいたっておかしくないだろう?
むしろ、ムカデほど精霊らしい存在はいないんじゃないか?」
「ああ……そうかもな。俺が間違っていた」
潮木さんの言う通りかもしれない。
だが、知りたいのはそんなことではない。
「没木くん、ここにいる人々はもはや普通の人間ではない。
だが普通ではなくなった分、力と強さを得たんだ」
「何のために?」
「この世界に抗うためだ。
彼らは自分を取り戻すために戦うのだ。
己が何者かを悟るために戦うのだ」
「戦う?誰と?」
「自由を脅かすものとだ」
「どうしてたかが自分を知るためにそんなものと戦う必要がある?」
「本当の自分を見出すためには、
自由になることが必要だからだ。
自由になりたければ、まずは自分を縛り付ける
手枷から解放されなければいけない。
誰かが作った手枷から解放されたければ、
まずは強くあらねばならない。
それが出来なければ、人はいつまで経っても
誰かの指図に従って動く奴隷のままだからだ」
「強くなるって言っても色々あるだろ。
お金を稼いだり、法律を学んだり、学問を修めたりとか……」
「そうだ、人間が作った手枷とはそういう物だ。
真に自由な選択肢があれば、
金の代わりに紙を掴もうなどということはしないはずだ。
ただの紙切れや静電気の集まりに、暴力を用い
力尽くで通貨として価値を持たせる。
我々が真っ先に解放されなければいけないのは、
そういった歪んだシステムだ」
「……」
「弱者がルールを変えられずして、何が自由だ?
一般人が怪物になれずして、何が無限の可能性だ?
貧乏人が世界を征服できない世界のどこに夢がある?ははははは!」
「……わかった。勝手にしろ」
「え、わかっちゃったんだ?
ふーん……ねえ、此咲くんはどう思う?
没木くんは納得してくれたみたいだけど」
潮木さんは椅子の背もたれに寄りかかりながら、隣に立つ此咲に意見を求める。
「はい、俺は、俺は、いや、その……
潮木さんと頑張りたいと思います」
「ぷはっ、そっ、そうか!!頑張ってくれちゃうってか!!
うぷっ、ふわっはは、そうかそうかそうか!!」
潮木さんは上機嫌で笑い出す。
そして俺の方を見ると、ニヤリと笑って言った。
「没木くん、これは此咲くんのためでもあるんだ。
彼は生まれつきの能力者でその特性を理解されず、苦しんできた。
だから私はこうして多くに人たちに力と強さを与えることで、
彼の理解者を増やそうとしているんだよ。
両親を失い天涯孤独の身となった彼には仲間が必要なんだ、
理解してあげてくれないか?」
「……此咲さん、あんたはどうなんだ?
こんな気持ち悪い虫みたいな奴らに人間の魂を明け渡してまで
仲間が欲しいのか?」
「あ、ああ、そうです!俺には仲間が必要です!」
「そうか。わかった。もう父親に会う気はないんだな?」
「父親?父親ってどういうことだい?」
「……潮木さん、言っておくが此咲さんは天涯孤独ってわけじゃないぞ。
本当の父親がまだ生きている。俺はその人の依頼でここまで来ただけだ」
潮木さんは顎に手を当て、少し考えるような仕草を見せる。
「えっ?そうなの?
じゃあ此咲くんの家族はまだ生きてるんだね。
ふふっ、ドラマチックだね。
でもさ、此咲くん。生みの親より育ての親だ。
結局君を探しているっていうその人は、血の繋がった赤の他人だよ」
「おい、それは此咲さんが決めることだろ。あんたは黙ってろよ」
そう言うと潮木さんは両手を口元に当て、大袈裟に驚いて見せた。
「……すみません。
一木さん、やっぱり俺にとって家族は逸体塾の人たちだけです」
「そっか、なら仕方ない。
無理強いする気もないからな。でもあんたに伝えたって証拠は要るから、
後で記念撮影させてもらってもいいか?」
「えっ!?は、はい、構いませんよ。
……えっと、あの潮木さん、
なぜ一木さんのことを没木さんと呼ぶんですか?」
此咲が不安そうな様子で口を開くと、潮木さんは肩をすくめ悪戯っぽく微笑む。
「ああ、彼の本名が没木だからだよ。一木は偽名、それだけのことさ」
「……没木さんと言うのは、潮木さんにとってどういう方なんですか?
顔見知りなんですよね?」
「……えーっと、そうだね。
ちょっとおっちょこちょいで、かわいげのある男の子かな。
以前ちょっとした意見の行き違いで殺し合っちゃったんだけど、
それで今回、再び出会ってしまったという感じかな……」
「ええ!?殺し合ったって……ええ?」
此咲は俺の顔と潮木さんの顔を交互に見る。
「ああ、まあ、そんな感じだよ。つっても俺は別に
恨んでなんかいないけどな。
ちょっかいばっか出されて困ってはいるが……」
門戸の上半身を抱え、少し揺さぶってみる。相変わらず意識は戻らない。頭越しに二人の会話が聞こえる。
「後、彼はすっごく優しくて誠実な子だよ。
本人はそう思っていないみたいだけどね」
「……そうですか」
「うん。だから私は彼が大好きで、ずっと一緒にいたいと思ってるんだ」
「……それは……その……恋愛感情としてということでしょうか」
「うくっ、いやいや、そんなんじゃないよ。ぷふふっ。
此咲くんてものがありながら、私がそんなこと思うわけないじゃないか」
「……すみません」
「潮木さん、そんなことはいいから、さっさと門戸を起こしてやってくれ。
あんたらが強くなりたいってんなら、俺は別に邪魔なんかしない。
ムカデでも羽根の生えた女の子でも好きに憑依させたらいい。
でもこいつは無関係だろ。早く起こしてやれ」
「門戸くんを置いていけと言ったら?」
「……もちろんあんたらと喧嘩するしかないな」
「……没木さん」
此咲が呟く。
「けど、あんたらにとって門戸なんて別に重要じゃないだろ?
計画の遂行にはなんの障害にもならないはずだ。
黙って見逃してくれるよな?」
「そう?でも門戸くんって大金持ちの御曹司じゃないか。
重要じゃないどころかきっと色々と役に立ってくれるんじゃないかな」
「……ふざけないでくれよ。俺はもう潮木さんとは喧嘩したくない」
「私だって苦しいよ、大好きな君とは戦いたくはない。
だけどね、どんな治療法にも副作用はあるものだ。
今回使った方法だって例外じゃない」
「……何の話だ?」
「彼らの魂はもはや精霊の住処だ。
君や私の一存でどうにかできるものではないよ」
「それの何処が自由なんだ!!?」
思わず大声で叫んでしまう。
黙って大人しく聞いていたつもりだったが、気がつけば怒鳴っていた。
自分の意思とは無関係に口が開き、声帯が震えていた。




