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【悲報】ボッキマン、浮気する その④

「ダメだ、一時間だ。それ以上は譲らない。

 あと、俺が何をしても口外するな、絶対だぞ。

 それが守れるならあんたと一緒に行ってやってもいい」


俺がそう言うと彼女は不満そうな表情を浮かべる。


「はぁ……これで次の犠牲者が出たらあなたのせいですよ……?」

そう言うと神代はバッグから飲み物を取り出した。ペットボトルを持つ手がぶるぶると震えている。


「なんだよ?」

「貴方のために買ったに決まってるでしょ?怒らないでくださいよ。

 はい、どうぞ……」

「ああ、ありがとう……」

俺はペットボトルを受け取り、蓋を開けて口につけるととてつもない酸味が口内に広がった。何だこれは……。思わず吐き出しそうになったが、彼女は俺を睨みつけながら黙っているので、仕方なくそのまま飲み続ける。


「私、没木さんのこと、誤解してました。

 もっとまじめで優しい人だと思ってたのに……そうやって嫌味で、不貞腐れてて、

 がっかりしました」

どんだけ好き勝手言うんだよこいつは。


「……あんたはまじめで優しい人間が好きなんだな」

「……当たり前でしょ。こんなにおかしいことが起こってるのにどうして興味を

 持てないのかがわからないです。

 あなたみたいな人は自分だけがよければいいと思ってるんでしょう。最低……」

ボトルに口を付け、酸味を我慢しながら神代の嫌味を聞く。なぜここまで言われないといけないのだろうか。


「見回りに協力するって言ってるだろ、何が不満なんだよ」

「そうやって怒ってるし、私が何か間違ったことを言いましたか?

 子供みたいに感情的になって、貴方は恥ずかしくはないんですか?」

俺は神代が買ってきたまずい飲料から口を離すと首の後ろに手を当てる。


「あのな。子供みたいな、ってのはあんたがやろうとしている正義の味方ごっこの

 ことなんだよ。わかるか?」

「……どういうことでしょうか?」

神代は訝し気に目を細める。

「……つまり、自分が正しいと思ってることを他人に押し付けるなってことだ。

 俺がこうして話を聞いてるのは、ただの気まぐれで、

 たまたま暇だったからで……」


「そんな話聞きたくありません!!

 だって人が死んでるんですよ!!人が殺されてるんですよ?!

 それを放っておくなんてできるわけがないじゃないですか!!」

「それだよそれ。それがおかしいんだ。

 そんなことは普通考えない。

 そもそもどうしてあんた一人が焦って見回りだのをする必要があるんだ?」


「私に力があるからに決まってるでしょ!!」

「その力で自分の身を守ることだけを考えてたらいいだろ」


「この力は、私だけのものじゃなくて、みんなのためのものなんです!!

 だから、私は……」

「じゃあ俺みたいな奴を頼らずに、警察とかに協力して一緒に犯人を捕まえて

 もらうとかあるはずだろ?それが一番平和で楽だろうが」

俺がそういうと、彼女は肩を震わせながらこちらを見つめてきた。


彼女の目には涙が滲んでいる。俺も言い過ぎたかもしれない。それに、そもそも俺の方が間違っているのかもしれない。

自分の周囲で自分と同じような人々が、理由もわからないまま次々と消えて行く、確かに恐ろしいことには違いないだろう。

ただ……本当に怖いのかも知れないがこいつのこの反応はどうなんだ?


「わかってるよ、怖いんだろ。だから一緒に見回ってやるって言ってるんだよ。

 それでいいだろ?助かる人がいるなら俺の態度なんてどうでもいいことだろ?

 違うか?」


俺の言葉を聞いてる間、神代は肩で激しく息をしながら目を大きく見開き俺の顔を凝視していた。彼女は泣いてはいない、笑っているわけでもないし、怒っているようにも見えない。


神代のその顔からはただ「興奮」しか読み取れなかった。


あの動画に出ていた明るく優しそうな表情の彼女はどこへ行ったのだろう。

そもそも彼女の言う通り、あれも「インチキ」だったのかもしれない。


神代は小さくため息をつくと、ぼそぼそと話し出す。


「……没木さんは私のこと嫌いですか?

 私のことを気持ち悪いと思ってます?

 私は没木さんのことを尊敬してます。

 それに一緒にいて楽しいと思ってます。

 でも没木さんは不機嫌そうにして何も楽しくなさそうです。

 没木さんにとって私は邪魔ですか?

 もしそうなら、そう言ってください。私、帰りますから……」


俺は彼女を刺激しないようにあくまで静かに話しかける。


「なあ、落ち着いてくれ。少し腹は立ったけどあんたのことを嫌いだなんて

 思ってないし、気持ち悪いとも嫌いとも思ってない。

 むしろあんたの言う通り、俺は不貞腐れてて、それで、

 ちょっと言い過ぎたかもしれない……。

 でもな、俺たちは今日会ったばかりだぞ、どうして俺なんかに

 そこまで言えるんだ?」


俺がそういうと神代は俺の言葉を反芻するように何度も深呼吸をしていた。

彼女の興奮も少しずつ落ち着いてきたようだ。


「……はぁーはぁー……はぁーはぁー……、はぁー、はぁー、はぁ……

 こんなにも、こんなにも長く私と話してくれる人に久しぶりに出会ったからです。 

 こんな、こんなに……」


ああ、そうなんだ……。たしかにこいつと関わると面倒くさそうだしな……。

俺は頭の後ろを掻く。


「そうだったのか……それは、光栄だな……じゃあそろそろ見回りに行かないか?」

「はい、よろしくお願いします……」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺は彼女と一緒に夜の町を見回った。

といっても別に変わったことをするわけでもはなく、ただ事件現場周辺の住宅街などを見て回るだけだった。

途中公園を見たり、トイレを調べたり、ゴミ箱の中を確認したりしたが、特に変わったことはなかった。


「何もないですね……」

「そりゃまあ、事件現場なんてとっくにマークされてるだろうしな」

「……そうですね」

「じゃあ次行くか」


俺は彼女の返事を待たずに歩き出す。

「……待ってください。ちょっといいですか?」

神代は俺の腕を掴む。


「え?」

「どうしてそんな喋り方をするんですか?」

「……別に普通だろ?」

「嘘ですよね?まるで『早く終わらせたい』みたいな感じがします。

 本当はあなたはこんなことに関わりたくないんでしょ?

 だからさっきからそんな不貞腐れた態度を取ってるんですよね?

 もっと私と他のことしたかったんですよね。例えば二人で遊びに行ったりとか?

 期待させてごめんなさい」

「そんなことないって……」

「どういう意味ですか?私とは遊びたくもないってことですか?」

「そうじゃない、考えすぎだ。見回りをするんだろ?」


俺は彼女の手から逃れるように歩き出す。しかし神代の方はまだ何か言いたいことがあるようだ。

「あと、本気で見回りするつもりならもっと早く歩いてくれませんか?

 時間を無駄にしたくないんで」

「ああ」

俺は少し早足になると、俺を追い抜こうとする神代と並んで歩く。


「没木さんって身長は何センチですか?」

「178」

「私は175センチです」

「ああ」

「身長の高い女ってどう思いますか?」

「いいんじゃないの」


「本当ですか?」

「嘘ついて何になるんだよ」

「そうですよね。だって、没木さんは私を避けてるし、

 私がどれだけ一生懸命話しても全然取り合ってくれないし、

 私の意見は全部否定するから、きっと本心なんでしょうね」


「避けてないだろ」

「避けてます。今だって距離を置こうとし始めるし。どうして避けるんですか?

 それに、いきなり怒ったり、勝手にイラついたり……

 さっきは私のこと気持ち悪くない、嫌いじゃないって言ってましたよね。

 なのにどうして距離を置くんですか?私には理解できません」

「ふっ、はっ、ははは、わはははは」


もう笑うしかなかった。こいつは今までどういう人生を歩んで来たんだろう。

なんだか急に俺がまともな人間に思えてきた。


「神代さん、あんた最高だな。ちょっとマジで尊敬できるわ」

「……なぜですか?」

「いやぁ、あんた自由だし、根性あるなあって、わは、はははは」

「それ、褒めてるつもりですか?」

「褒めてるよ。俺がどういう態度を取ってもあんたはマイペースだしな。

 こんなに笑ったのは久しぶりだ。いや、初めてかもな。

 あんたがどんな人生を送って来たのか知らないけど、俺もあんたのことを

 ちょっとは見習うべきなのかもしれないな」

「……そうですか。それは良かったです。私でよければいつでも協力しますので、

 一緒に頑張っていきましょう」


神代は少し嬉しそうだった。さっきまであんなに怒ってたくせにな。

……まあいいか。俺と神代はその後も夜遅くまで、見回りを続けた。

結局犯人らしき存在は影も形もなかったが、それでも神代といると退屈しなかった。


気が付くと俺は1時間どころから夜中の1時まで神代に付き合わされていた。

俺はもう笑うしかなかった。

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