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【悲報】ボッキマン、童貞だった その⑥

「えっ……いや、俺、段ボール運んだだけなんだけど?」

「だから?」


「いや、それだけで泊めてもらうのは流石に……」


俺が困惑して聞き返すと、なぜかマドワセルの顔が少しほころんだ。

何を考えているのかわからない。段ボール運んだだけの俺を部屋に泊めるというのは明らかにおかしい。


「あなたは住む所がないんでしょう?」

「いや、それはそうなんだけど……

 別にネットカフェにでも泊まればいいし……」


「それなら明日はこの部屋の掃除もして。それで釣り合いが取れると思うけど」


マドワセルは淡々と話を続ける。俺は一瞬考える。確かに俺にとってそこまで悪い話ではないかもしれない。

だがやはり、何か裏があるような気がする。


「……嫌なの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「……お願い。私一人だと手が回らないから」


彼女は俺の肩にもたれかかり、耳元で囁くように言う。俺は心臓が熱くなるのを感じた。そしてそのまましばらく沈黙が続く。


(ええ……どうなってるんだこれ。俺はサボテンなんだよな?)


「おいおい……ちょっと待ってくれよ。俺はその……男だから」

「だから?」


俺の言葉を聞いて、彼女は急につまらなさそうな顔をした。


「あのさ、普通はこんな得体の知れない男を部屋に泊めたりしないだろ?

 いくらなんでも警戒心が無さすぎるというか……」

「あなたは得体が知れないんじゃなくて、ただの冴えない男でしょう?」


ムカッ、なんでそこまで言われなきゃいけないんだ。俺はマドワセルの挑発的な態度に苛立ちを覚えた。


「とにかく、俺を信用しすぎだって」

「そうかしら?今日ずっと見てたけど、私に何かする度胸なんて

 あなたにはないでしょ?」


「ばっ……あのな、俺は……」


どうやら完全に舐められているようだ。しかし冷静になれ、没木一歩よ。

ここで熱くなってはいけない。ここは度量を見せつけるのだ。俺は自分に言い聞かせると、大きく深呼吸をする。


「その、この部屋は狭いからな……ほら、横になるスペースとかないし……」

「他には?」


俺はなるべく平静を保ちながら答えるが、彼女が聞きたい言葉ではなかったようだ。マドワセルがさらに追い打ちをかける。口調こそ穏やかではあるが、有無を言わせない雰囲気だ。


もう正直に言った方がいいだろう。少し考え込んでから俺は口を開く。


「わかったよ。はっきり言う。この部屋すげぇー汚ねぇだろ。

 泊めてくれるたって、これじゃゴミ箱で寝てるのと変わんねーじゃねーか」


マドワセルは少し目を細める。


「そこの床とか壁紙とかもう腐ってないか?

 あんた引っ越しの時どうするつもりなんだよ」


マドワセルは無言で指を振る。するとゴミ袋が吹き飛び、その下からは真っ黒に変色した壁紙が顔を覗かせた。


「大丈夫、お金はあるから」

「それからさあ、一緒に飯を食べてた時に読書してるって言ってたけど

 どこに本があんだよ」


マドワセルは黙ったまま、得体の知れない汚れ方をしている段ボールを指差す。おそらくあの中に本があるのだろうが、中は恐ろしいことになっているのだろう。俺はとても覗く気にはならなかった。


「で……あなたが不満なのはこの部屋のことだけ?」

「えっ、うん、まあ……。そうだな」

「……そう」


マドワセルはそれだけ言うと、部屋の奥へと歩き出した。


彼女は部屋のことを貶められても怒るどころかものすごく楽しそうだった。少し頬が上気して赤く染まっていたからだ。

もしかしたら内心では怒っているかもしれないが、彼女の口角が上がっているせいで、俺にはそう見えていた。


「……私のことは?私のことは何かないの?」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「あんたのこと?」


「ええ、不満じゃなくてもいいけど、

 私について何か思うことがあるなら言ってみて」

「……別に、そんな今日会ったばかりだろ?何も……」


とは言ったものの、もう俺の頭の中では出会ってから何日も経っているような感覚になっていた。

もしかしたら彼女も俺と同じなのだろうか。ふとそんなことを考えてしまう。


「まあ、強いて言えば……物を大切にするタイプ……って感じかな」

「そういうことじゃなくて本当に思っていることを教えて」


ゴミの山を見回しながら軽口を叩く俺に、マドワセルは不服な様子を見せる。そういうのは求めていないらしい。

俺はマドワセルの顔を見る。やはり美人だと思う。しかし聞きたいことはそれではないだろう。だが実際にはこいつは会って数時間しか経ってない奴なので、内面なんて俺にわかるわけがないのだが。


「仕事だと思って答えてみて、周囲の人が私のことを

 どう思ってるか聞いてみたいだけなの」


仕事か……まあ、確かにこれはカウンセリングみたいなものかもしれない。俺は彼女に向き直ると、マツエイビルの件を思い出しながら、当たり障りのないことを言うことにした。


「えっと……その、あんたの仕事に対する姿勢は尊敬できると思うよ。

 真面目だし責任感も、ただ部屋の掃除はもっと……」

「ダメ。そういうのじゃなくてもっと素直な感想が聞きたいの」


マドワセルは俺の話を遮るように言う。


「ええ?じゃあさ……なんか、すごい……大人っぽい?」

「どうして疑問形なの?」

「いや、だって、よくわかんないんだよ。今日初めて話したんだから」


「だからそのあなたがどういう感想を持ったのかが知りたいの」

「うーん……」


「私に気に入られようだとか、好かれようとかそういうことを思わないで、

 思ったままを素直に話してくれればいいから」


マドワセルが俺をじっと見つめる。俺は思わず目を逸らす。俺は彼女の顔を見て話すことにまだ少し抵抗があった。

その顔がどうとかというわけではなく、それ以上にマツエイビルで催眠術をかけられた時のことが脳裏をよぎるからだった。


「なに?やっぱり私に気に入られようとしてる?」

「違ぇよ!……つーか素直な感想とか言われてもなあ~、

 そんなもん聞いてどうすんだよ」


彼女は俺の困り顔を見て満足気に笑うと、そのままソファの上で膝を抱えながら横になる。


「私は……周りからどう思われているのか知りたいの」

「いや、だからなんでだよ」


「みんな、私に気を使ってくれてるのか何も言わないんだけど、

 気がついた時には私から離れて行っちゃって……」

「うーん……」


俺は少し考える。でもそれって要はあれだろ、真面目なお堅いタイプだとか思われてて、誰も近づいてこないってことだろ?


なんかそれはそれでかわいそうな気がするな。しかし、それならまずは堅苦しいと思われるような言動を改めればいいだけのことだろう……とは思ったが、そんなことを言える雰囲気ではなかった。

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