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異世界最強の農家様 〜俺は『農家』であって魔王じゃねえ!〜  作者: 農民ヤズー


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対策されている

 だがそんな俺の心の内なんて知るはずもなく、男はさらに言葉を重ねていく。


「お前は生きるために泥水を啜ったことはあるかよ。昨日まで仲間だった奴を殺して食いもんを奪ったことはあるかよ。教会の奴らから逃げた先で、また逃げなくちゃならねえなんて生活をしたことはあるかよ。せっかく逃げた先で慎ましく暮らそうとして、生まれたガキが飢え死んだことはあるか? 自分のガキだってのに、何も食わせてやることができずに見てることしかできなかったことはあるか? ねえだろ?」

「そ、それは……いや、そもそもお前たちが罪を犯しさえしなければ……」


 男の剣幕に勇者は気圧されたように体を引き、勢いを失った声で反論を口にする。

 だが、そんなものに意味はないように思える。むしろ、その言葉は……


「全部何もしてねえ時の話だ! 俺は天職だけで判断されて、虐げられてきた! 神に相応しくない職の持ち主は存在してはならないってなあ! だから教会を批判して、そんで、たったそれだけのことで逃げる羽目になったんだよ!」

「そ、そんなっ……!」


 勇者は男の言葉を聞いて狼狽えたように一歩後退り、何を見ているのか周囲へと視線を彷徨わせた。大方、今も続いている攻撃を見て、そんな目にあった者がこんなにもいるのか。とか、どうでもいいことを考えているんだと思う。


「お前にはわからねえさ、俺たちみたいな奴の気持ちなんてなあ! お前みたいに恵まれた奴が何言ったところで、響くわけねえだろ!」


 男が言うように、『持ってる奴』が何を言ったところで、どれだけ素晴らしいことをし、どれだけたくさんの人に愛されたところで、『持っていない奴』を理解することなんてできやしない。それが真理だ。


 飢えたことのないやつに、飢えてる子供を見殺しにするしかない親の気持ちなんて分からない。


 心から誰かを殺したいと思ったことがないやつに、自分の命ごと誰かを殺したやつの考えなんて理解できない。


 誰かから虐げられたことがないやつに、虐げられて自殺した奴の願いなんて汲み取ることはできない。


 どれほど「わかっている」「寄り添っている」と言ったところで、そんなものは上っ面だけの言葉でしかない。


「それに何より……こうして誰かから奪ってたほうが性に合ってる」


 だから勇者も、こいつらのことを理解することなんてできやしない。

 こうして犯罪に身をやつした奴の思いも、犯罪を行うようになった奴の心境の変化も、何も理解できないで終わるだろう。


「食い物をよこせ。金も女も、全部よこせ。誰も救ってくれねえなら、俺達は俺達自身で救われてやる」


 男がそう言うと、それまで隊列全体に向けられていた攻撃を勇者一人へと集中させ始めた。


「どうしたよ勇者様あ! 人を殺すのは初めてか? 俺如きを倒せねえわけねえよなあ! どうして攻撃してこねえんだあ!?」

「くっ……!」


 苛烈になった攻勢に、勇者は魔法を交えて応戦し始めた。

 だが、魔法による攻撃は行われているものの、大した威力は込められていないようで敵を倒すことができないでいる。

 崖の上だから仕方ない。隠れられてしまえば攻撃できない。なんて、そんな泣き言はきかない。

 だって、こいつは勇者だ。俺たちも知っているあの『魔王』の守りを破れるような攻撃力を持っている存在なんだから、隠れた崖ごと吹き飛ばせばいい。そうすれば全部解決だ。

 敵は死ぬし、運よく崖が攻撃を防いでくれたとしても、その衝撃で崖は崩れるだろうからこっちに落ちてくる。そうなったら近寄って切ればおしまいだ。


 だが、勇者はちまちまと威力の弱い魔法を放っているだけ。


「ユウキッ! しっかりしてください! 襲ってきた以上はその者はすでに魔物と同じです!」

「魔物と同じとは、酷えこと言うじゃねえか聖女様。聖女らしく、慈悲をかけたり心優しく許したりはしてくれねえのかあ?」


 男はそう言いながらカノンへと向かって吐き捨てるように言いながら、何かを放り投げた。


「外道どもが。貴様らなどにかける慈悲などない。黙って死ね」


 盾を上に掲げるように構え、俺たちを守るための半透明の盾を出し続けているダラドは、男の言葉を不快に思っているようで忌々しげに呟いた。

 今の状態で自分が動いてはならないことは理解しているようで、盾を構えたまま耐え続けている。


 だが、盾だから、と言うべきか。半透明ではあっても〝そこに存在している〟という事実は変わらない。


 先ほど男が投げた何かはダラドの半透明な盾にぶつかるとあっけなく割れ、中身がこぼれ落ちた。


「うっ……この臭いはっ……!」


 盾へとぶちまけられた液体は俺たちの視界を遮り、さらには異臭まで発生させ始めた。

 正直、あまり嗅いでいたい臭いではないので、できることならさっさと終わらせたいものだ。


 でもこれ……明らかにダラド用の対策をしてるよな。


「リナ! お前も戦え!」

「えー、でも後ろを守らないといけないし、全員戦うわけにはいかないでしょ?」

「……チィッ」


 リナが「後ろ」と言ったように、今では上からだけではなく隊列の後方からも襲撃が来ている。

 それだけではなく、前からもだ。つまり、今俺たちは全方位を囲まれている状態になっているわけだ。


 この状況で分かったことは、ダラドの対策もそうだけど、敵はこっちの様子を知っていて、本気で殺しに来てるってこと。

 まあそれ自体は分かりきってたことだからいいんだけど、問題は誰が黒幕かって話だよな。

 候補としては国王か教皇か。あるいはそれらの下にいてトップの座を狙えそうな奴ら。


 ……まあ、その辺は終わったらゆっくり考えればいいだろう。


「で、どうする? 守ってるだけで良いのか?」

「さてどうするかな。なんか話を聞いた感じだと恨みつらみは向こうの勇者様御一行に対してみたいだが……」


 見てる感じだと、勇者を重点的に狙っている感じだ。前後を挟み撃ちしている奴らだって、攻めるというよりは、道を塞いでいることを重視している感じがする。

 もちろん向こうとしては倒せるんだったら俺たちを倒すつもりなんだろうけど、あいにくと今戦っているのはただの兵士ではなく聖国の騎士達なので、勇者に敵対しているとはいえただの賊——一般人相手にそう簡単には負けない。

 ……まあ、俺たち的にはあいつらが負けたとしてもどうでもいいんだけどな? その後に控えているカラカスの兵達だけでどうにかできる程度の規模だし。


「でも、こっちにも向いていますよね?」

「だなー。まあ、あいつら自身の思惑じゃなくて、それ以外のテコ入れがあったんだろうけど」


 基本的に襲撃者達の恨みは聖女や勇者なんかの教会勢力に向かっているが、ベルが言ったように俺達にも向いていないわけじゃない。

 ただ勇者よりは優先順位が低いってだけで、恨みの対象であることに変わりはないのだ。

 俺たちがあいつらに何かしたってわけじゃないけど、まあ裕福そうな奴ら全員が恨みをぶつける対象なんだろうな。


「お前ら、後ろの奴らを先に殺せ!」


 おっと。『勇者』が片付かないから先に俺たちを狙うことにしたようだ。

 崖上ではなく前後から挟み撃ちにするように突っ込んできていた者達の動きが、制圧するものから突破するものへと変わった。簡単に言うと、撤退を視野に入れた安全策ではなく、多少の傷は許容する前のめりな強行策。


 それに加えて、十数人程度の特攻部隊が隘路に詰まっている人の頭上を超えてこっちに向かってきた。

 騎士達の群れを飛び越えても、カラカスの兵に妨害されているためにその足は遅いが、それでも誰も倒れることなく着実にこっちに向かって進んできている。


 ……なんか。ぴょんぴょん飛び跳ねて攻撃を避けるとか、虫みたいだなぁ。叩き落としたくなる。


「こんな奴らと一緒にいるような奴らだ。どこの誰かは知らねえが、どうせ碌でもねえクソどもに決まってる! 殺せ! そんで奪え!」


 男はそう言いながら崖上からさらに薬を投げつけ、もう上を覆っている盾は全て塗りつぶされて視界が利かなくなっている。

 両脇を崖に挟まれ、上も視界を遮られてしまったせいで、一時的にだが辺りには闇が訪れることとなってしまった。


「碌でもないのも、クソどもってのも間違いじゃないが、大人しくやられるつもりはないなあ」


 普通ならこれだけ暗くなったら慌てたり、ろくな対応ができなくなるんだろうが、それは普通の兵士達の話だ。


 暗闇の中で動くのは、お前達の専売特許ではない。むしろ、俺たちにとっても慣れ親しんだ環境になったと言えるだろう。

 だって、俺達は犯罪者の集団なんだから。昼よりも夜の方が動きやすいに決まってるだろ?


「ベル、伝令だ。全員潰せ」

「はいっ、魔王様」


 俺が『命令』をしたからか、ベルは真剣な声音で返事をすると、スッと音を立てることなく姿を消した。

 今の俺では感知できないが、もうすでに部隊長とかその辺の奴らには敵をどうするのか伝えに行っているはずだ。


 だが……


「……それ、やめろよな」

「良いじゃねえか。かっこいいぞ」


 ベルが俺のことを『魔王様』と呼んだことで、俺はなんとも言えず微妙な表情を浮かべることになったが、カイルは楽しげに笑っている。


「なっ、どうして……さっきまではっ……!」


 それから数十秒もすれば、こっちに向かってきていた〝虫〟はカラカスの兵士達によって叩き落とされることとなった。


 先ほどまでとは明確に動きの変わった敵に対して、特攻してきた〝虫〟達は驚きの声を上げているが、何もそうおかしなことではない。


 さっきまで倒せなかったのは、全員の思惑が一致しなかったからだ。

 倒すのか逃すのか。捕まえるのか殺すのか。その辺の判断がまとまっていなかったためにろくに動けなかっただけだ。なんだったら手を出すのを控えていた者達もいただろう。


 軍隊としてみれば不出来なことこの上ないが、こいつらは元は犯罪者だ。好き勝手動いていたような奴らが兵士になったわけだが、兵士になってすぐにまとまることができるわけじゃない。

 一応集団行動はできるようになっているし、兵士をやれそうな奴だけこっちに連れてきたけど、流石に一年程度の訓練ではこういう緊急事態に完璧にまとまれるものでもない。


 あと、地味にエルフ達が邪魔だったってのもあるだろうな。

 あいつら、準備を整えての拠点防衛だったらすごく強くて厄介なんだけど、こういう突発的な戦闘だと微妙なんだよ。

 もちろん強いし活躍するんだけど、その戦場に慣れるまで時間がかかる。

 簡単に言えば、状況の変化に弱いのだ。


 しかも、今回は戦士ばかりではなく学者タイプのやつも多く連れてきている。聖樹の調査のためなんだから当然ではあるんだが、そいつらがいるために動きが乱れた、と言うのも理由の一つだ。


 あとついでに、今戦っている騎士達が、むしろ邪魔だったってのもあるな。あれだけ守りを固めてるのに、敵に抜かれるなんて思ってなかったんだと思う。俺だって、ああも簡単に抜かれて大丈夫かと思ったし。ぶっちゃけ、教会の奴らは数が多いだけで雑魚なんだよな。戦う気があんのかよ、とすら思う。手え抜いてんじゃないのか?

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[一言] 「お前それカラカスでも同じ事言えんの?」
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