なんだか違う
「うえ〜……気分わっるぅ……」
「リリア。お前もう大丈夫なのか?」
「まだ嫌な感じはあるけど、動けないってほどでもない感じね。まあでも、今んとこはだいじょぶかな?」
本人が言ったようにまだ本調子ではないんだろう。普段のような元気さはないが、それでも普通に話している分には問題ないようで、少し安心した。
というか、病人(?)を前にして失礼だけど、こいつ少し体調悪いくらいの方が大人しくって理知的に見えるな。元の作りは美人だし、体調悪そうな様子が合わさると薄幸の美少女って感じがしないでもない。
いや、今はそんなどうでもいいことを考えてるんじゃなくて、フローラのことだ。
「そうか。ならフローラのことだけど、どうすれば良いかわかるか?」
「んー、そうねー……ヴェスナー。あんたフローラに力を分けてあげなさいよ」
「力をって……どうやってだ?」
「いつもので良いのよ。ほら、なんか植物をおっきくするやつ」
「それで良いのか?」
「いいからやってみなさいよ。ほら、さんはい」
「——《生長》」
ろくな説明もないままリリアにせかされる形でスキルを使ったのだが、スキルの光はフローラの体に吸い込まれていった。
本当に効果があったのか、と思っていると、徐々にだがフローラの顔色が良くなってきた気がする。
「フローラ、どうだ?」
「んうー……まだおかしな感じだけど、苦しくはない、かもー」
俺のことを抱きしめていた腕の力が弱まったことで、一瞬何か変な作用は起こって明かしてしまったんじゃ、なんて思ったが、そんなことはなかったようだ。フローラはさきほとまでよりもはっきりした声で答え、それを聞いた俺はホッと胸を撫で下ろした。
「そうか。なら一応、ひとまずの対処としては間違ってないわけか」
「なによぉ。私の言ったことが信じられなかったわけ?」
ああそうだよ。と言ってやりたいが、普段の言動はともかくとしても今はこいつの助言のおかげでなんとかなったのは確かだ。変なことを言ってごねられても困るし、なにも言わずに黙っておくのが正解だろう。
「それよりも、これはもう大丈夫なのか?」
フローラもリリアも、何ともない、ということはないが、それでも時間が経過したからか最初よりも顔色が良くなってきている気がする。
であれば、このまま無視してすすんでも大丈夫なんだろうか?
「わかんない」
「わかんないって……」
「本当にわかんないんだもん。多分これ、こっちにある聖樹からの力の流れがおかしな感じになってるんだと思うけど……」
聖樹……やっぱりそこか。今回の異変の大元だと思われている聖樹。それがリリアやフローラ達に影響を及ぼしたわけだ。
まあ、こいつらの何割かは植物成分だし、フローラに至っては全身が植物でできている。影響が出てもおかしくはないだろう。
「やっぱりダメねー。直接見ないとわかんないわ」
リリアは自分達に起きた異変の流れを探ってみたみたいだが、それでも詳しいことはわからなかったようで少し考えた様子を見せてから首を横に振った。
「今のところ何かわかってることはないのか? 小さなことでも良いんだが。力の流れがおかしいって、どういうことだ?」
聖樹からの力の流れとやらは俺には分からなかったが、リリアは多少なりともわかったようだし、今は少しでも情報が欲しい。どんな些細なことでも話を聞いておくべきだろう。
「んー……いちごのショートケーキだと思って食べたら実は中身がチョコケーキだった感じ?」
まあ、そうして聞いた情報が参考になるかどうかはわからないんだけど。
「……いや、わけわからないんだが」
魔力とか聖樹とか異変の話なのに、いきなりショートケーキとか出されても頭がついていかない。
「一応食べられるけれど、思ってたのと違って驚いた、というようなものでしょうか?」
「フローラの様子からしてその程度の話じゃ済まない気がするけど……」
「毒じゃないのか?」
俺がリリアの言葉をどう解釈したものかと悩んでいると、ソフィア達がそれぞれの考えを口にした。
「毒ってほどおかしくもない気がするのよねー。うーん」
それを聞いていると、確かにそれなら理解できるな、と思えるが、そんな言葉を聞いてリリアは悩んだ様子を見せた。
「本来わたしたちには聖樹から力が流れてくるんだけど、その流れてくるはずの力が別のものに染まって別物になっちゃってる?」
それからまた数秒ほど考え込んだ後、今度は言葉を選んだのか俺たちにもわかりやすい説明になったが、本人も完璧には説明しきれないようで疑問系になっている。
だが、別のものに染まっている、か……。
「それは、もう別物なんじゃないか?」
「別物なんだけど別じゃないっていうか……おかしくなってるけど、でも『力』であることに変わりはないし、その力の本質も聖樹からのものっていう部分は変わってない……気がするの」
力の本質は変わっていないが、混じり物がある。喩えるなら今まで吸っていた空気とは成分の割合が変わったようなものだろうか?
「でも俺は何にも感じないぞ? 一応俺も聖樹から力をもらってるし、条件としては俺も該当するんじゃないか?」
俺は人間だが、聖樹であるフローラから力を受け取っていることでエルフに近い存在であるとも言える。
今回の異変で聖樹から力が流れてきて何かしらの異常が起きた、というのなら、聖樹であるフローラの力を受け取っている俺だって何かしらの異変があって然るべきなんじゃないだろうか?
「そーだけど、あんたは生まれながらってわけじゃないでしょ? わたしたちとはそもそも条件が違うじゃない。それに、その聖樹はフローラでしょ? そこで止まってるんじゃないの?」
そうなのか、と思ってフローラのことを見てみると、えへへ、とどこか誤魔化すように笑っている。
その様子を見ると、本当にフローラが俺に流れてくるはずの異常を止めてくれているのだとわかる。
というか、そうしているからこそ、フローラはリリアよりも症状が重くなっていたんじゃないだろうか?
「これ、このまま進んで平気なのか? 今のところはフローラとお前、それから多分他のエルフ達にしか感じられないが、この後進んでいったらヴェスナーにまで何か起こったりするんじゃねえのか?」
一瞬引き返すべきか、と思ったが、そんな俺の心を代弁するかのようにカイルが口を開いた。
「大丈夫じゃない? わかんないけど、フローラが止めてるみたいだし、多分定期的にフローラに力を分けてあげればしばらくの間は大丈夫。だと思うわよ。きっと……」
「そうか。ちなみにお前達はどうなんだ?」
「わたし? わたしはもう平気よ。まだちょこーっと気持ち悪さは残ってるけど、まそのうち慣れるでしょ」
その話を聞いて一応の対処方法はわかったが、それでも絶対に大丈夫という保証があるわけでもない。もしかしたらこれ以上進めばもっと症状がひどくなるかもしれないし、俺のスキルでは対処しきれない可能性だったあるのだ。
だから、引き返すんだとしたら今だろう。
「フローラ。どうする? これ以上進みたくないってんなら、無理して進むこともないぞ」
「いくー」
だが、フローラはこのまま進むのだという。
それはもしかしたら、自分が聖国に行きたいといったからこんな大所帯で進むことになったのに、今更自分のせいで帰るとは言えないから進むと言っているだけ、ということも考えられる。
「良いのか? もしかしたら何か起こるかもしれないし、俺のことを気にしてそう言ってるんだったら……」
「いくのー!」
だから再びフローラに問いかけたのだが、フローラは拳を振り上げて駄々をこねるように振り回す。
その姿を見て、これ以上言ったところでフローラは頷かないだろうと理解し、俺はため息を吐きつつもこのまま進むことを決めた。
「……そうか。なら、何かおかしいと思ったらすぐに言えよ。お前に何かあったら俺の方も困ることになるんだからな」
「わかったー!」
このフローラは本体ではなく、そこから切り離された存在だ。だから死んだところで問題がないと言えば問題ない。この旅の間の記憶は同期できていないから無くなることになるが、それでも聖樹そのものが枯れるわけではないのだ。
だがそれでも『俺の子供であるフローラ』だってことに変わりはない。
だから、できる限り守ってやろう。
「悪かったな。出してくれ」
外で待機していた護衛の一人にそう声をかけると、ほどなくして再び馬車は進み始めた。
「リリア、お前は本当に大丈夫なのか?」
治ってきたと言っていたが、それでもまだ体調悪そうに顔を顰めているリリアに向かって声をかける。
「んー? まー、平気よ。わたしの場合はフローラほどじゃないしね。あれ、結局は本来はないはずの余分な汚れが混じってるようなもんだもん。何かあったら自分に浄化をかけてればなんとかなると思うのよね」
「そうか。……あまり無理はするなよ」
スキルでどうにかできるかもしれないとは言っても、それは痛くなったら鎮痛剤を使うのと同じようなもので、体調が良くなっているわけでも、悪くなっている原因を取り除いているわけでもないんだ。
だからあまり無理はさせないほうがいいだろうと思って俺がそう言うと、リリアは少し驚いたような表情をしてからニシシと笑った。
「なあに? そんな優しくするなんて、なんかおかしなものでも拾って食べたの?」
「お前と一緒にするなよ。……まあ、また何かおかしいことに気がついたら教えてくれ」
「うにゅっ。う〜……りょーかーい」
かなり手加減をしてデコピンをしてやると、リリアはわざとらしくふらつきながら自分の寝床に横になり、軽く手を振りながら了承の意を示した。
「あっ!」
かと思ったら、大声を出しながらガバッと上半身を起こした。




