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異世界最強の農家様 〜俺は『農家』であって魔王じゃねえ!〜  作者: 農民ヤズー


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姉王女:勝つための策

 

 とはいえ、あの場所を潰そうと思ったら、容易なことではない。


 けれど、今回は事情が違う。


 あの愚妹が忌々しいのは変わらないけれど、あの時に私は、少しだけ油断しすぎていたのだと反省している。

 油断したからこそ、あんな妹に負け、惨めな思いをしなくてはならなくなった。


 だからこそ、今回は油断しない。

 私自身が力をつけたこともあるけれど、今回は完璧に潰すためにいくつもの手を打った。


 その〝手〟の一つとして、私たちが『魔王討伐』の名目で軍を連れていくこともあるけれど、それ以外にもカラカスを潰すために動いている勢力がある。


 まずは聖国。

 カラカスの存在を最も嫌悪しているにもかかわらず、自国のすぐそばに存在しているため、常に潰したいと考えている。

 そして、そんなカラカスは悪であるという考えは、公式的なものとして広まっている。

 けれど、それはあくまでも表面的なもの。本質としては、カラカスを支配して、その力や財が欲しいのでしょうね。あそこの神官達は、神に仕えていると口から垂れ流しつつも、神に人生を捧げているわけでもない。ただちょうどいいから利用しているだけにすぎないというのを知っている。


 次に聖国の北、王国から見れば北東にあるバストーク。

 ここは特に何がある、というわけでもないけれど、昔からの仮想敵国である。

 一応はお互いに協力して交易をしたりしているけれど、笑顔の裏に刃を隠しているなどということは当たり前のこと。有事の際には必ず動くと王国の上層部は誰もが確信している。

 今回、王都での反乱で弱っていることで、動くべきだと考えていたようだけれど、そこに協力を申し込めば簡単に頷いた。

 そして、王国に侵攻する際には邪魔になる位置に存在しているカラカスを潰すために動く約束を取り付けた。


 そして最後に、西のザフト。

 まだ前回の襲撃で追い返された損害が残っているために本格的な侵攻はできないようだけれど、ザフトが動きを見せれば嫌でもアルドノフが対処に動かなければならない。

 そのため、王都での反乱の際にはアルドノフが出張ったようだけれど、今回はそれもできない。

 そもそもアルドノフとカラカスでは距離が離れすぎているために援軍を出せる距離でもない上、大々的に犯罪者の国を助けるわけにもいかないから王国は見ていることしかできないのだけれど。

 しかし、それでもあの愚妹が動けばその実家であるアルドノフが動く可能性は考えられる。そのため、可能性をつぶしておくと言う意味では役に立つ。

 それに、もし私たちがカラカスを落としてその後に王国に攻め込む場合、アルドノフの戦力が落ちていることは有り難い。


 これで王国の周囲にある国は全てが敵になった。


 もっとも、それはカラカスを落とすまでの話で、カラカスを私達が奪った後はそのまま協力が続くのかというと……あり得ないと断言できるわね。

 よくてそのまま解散。以後は協力しなくなる。

 悪ければ……聖国とバストークと私達で、カラカスとその周辺の利権を求めての争奪戦が始まるでしょうね。


 そんな理由から、国境さえ超えてしまえば勇者などという存在に用などない。どこへなりとも好きに行けばいいし、死んだところで構わないわ。もっとも、私の邪魔をしない限りは、だけれど。邪魔をするというのなら殺すわ。


 そうね……その時は、信じていた仲間に裏切られて死ぬというのがいいでしょうね。そうすればそれなりにいい感情を出しながら死んでくれるでしょうし、勇者なんて存在の力を吸収できたのなら、今以上に——第十位階の先に辿り着くことができる可能性だってあり得る。

 もし何も起こらず位階は上がらなくなっても、スキルの使用回数上限は伸びるのだから無意味ということはない。

 もっとも、それは勇者が私の邪魔をしてきたらの話よ。アレでも勇者なのだから、殺したとあったら面倒なことになるでしょう。未だ目的を果たしていない状態では、無闇に敵を増やすのは避けたいわ。だから殺さないであげましょう。


「ついでにこちらの手勢もつけてある程度行動の誘導もするよう手配なさい。勇者の護衛、あるいは支援部隊とでも言っておけば納得するでしょうし、納得させなさい」

「はっ!」


 ロナははっきりと返事をすると再び部屋を出ていき、部屋の中には私と私のスキルの支配下にいる侍女達だけになった。




 それから数日。そろそろ動き出したいところね。

 今のところ魔王は見かけた漁村や港を一つ一つ襲っているためゆっくりと東に進んでいっているようだけれど、これ以上離されると少し困るわ。

 そうされると、私たちの『魔王退治』の正当性が怪しいものになってしまうもの。正当性を疑われれば、せっかく集めた軍がまともに機能しなくなる可能性もある。


 操っているのだから正当性なんていらないと思うかもしれないけれど、そうはいかないのが『扇動者』の辛いところ。扇動者によって操られると、私のいうことを聞くようになるけれど、それにもいくつか制限や段階がある。


 まず、私は人を支配し操ることができるけれど、それは本人も納得できる理由がないと支配下に置くことはできない。


 例えば、そこら辺を歩いていた平民に対して『特に意味はないけれど自殺しなさい』と命じたところで、いうことは聞かない。

 けれど、『街を守るために戦いなさい』と命じてなんの装備もなしに魔物の群れの中に進ませることはできる。要は私の言葉が正しい。それに従うのは正しいと思わせることができれば支配下に置くことができる。今の例で言えば、『街のために戦うことは正しい』と思わせることができれば、それ以外の装備や作戦云々に関しては無視できるの。

 もっと簡単にいえば、『夢を見せる』ことができれば操れる。

 夢といっても寝ている時に見る夢ではなく、届かない幻想を求めるという意味での夢。

 私の言葉——『扇動者』の言葉に夢を見て、それに少しでも同意したのなら、その瞬間から私のスキルの支配下に入る。それから何度もスキルの効果を受け、徐々に効果が浸透していき、最終的には私の言葉は全て正しいと思い込ませ、その通りに行動させることができるようになる。


 だから、その手順を踏まえて完全に支配下に置けるまでには時間がかかり、今はまだ完全に支配下においていない者達も多くいるために『正当性』というものはそれなりに考慮しなければならない。


 けれどその分、声を聴かせるだけでスキルの効果対象になる上、これだけの数を同時に動かす事ができるのだから些細な問題だと言えるわね。


「王妃様。これから俺たちは魔王を追うために出発しようと思います」


 魔王が逃げ勇者の足止めをしてから数日、ユウキと名乗った『勇者』は仲間達を引き連れながら私の前に現れ、そう宣言してきた。


 勇者の側には三人の仲間がいる。

 一人は聖国から派遣された『聖女』とは名ばかりの、勇者に年が近くそれなりに位階の高いだけの神官の女、カノン。


 二人目は、またも聖国出身の『盾師』の男、ダラド。『神盾』というそれなりに名が知られている第十位階のようだけれど、そんな男をつけるのは魔王を倒すためではなく勇者に死なれないためでしょう。


 三人目は、聖国の北にあるザヴィートと友好的ではない国——バストークの『魔法師』リナ。勇者よりも少し年上の、露出が多めの服装をした女。

 こちらもまあ『双魔』と呼ばれる程度にはそれなりに実力があるようだけれど、実際には聖女と同じで〝そういった理由〟から勇者といるのでしょうね。そういった理由——つまりは色仕掛け。

 勇者からの情報では偶然出会ったとのことだったが、そんなわけがない。事実、私の調べではバストークの意向を汲んで行動していたようだったし、事実、彼の国もこの女のために陰ながら支援をしている痕跡があった。


 そんな三人組に『勇者』を合わせた四人が今代の『勇者様御一行』ということになる。


 そんな勇者様御一行は、私たちの準備が整ったところでようやく逃げた魔王を追いかけるための準備が整ったようね。整ったよう、というよりも、私がそうなるように仕組んだのだけれど。だって予定外の行動を起こされては困るもの。

 そういったわけで、今日この『勇者』が出立の旨を伝えにくるのは想定通りのものでしかなかったわ。


 でも、勇者が動いたのならば、そろそろ私たちも行動を起こしましょうか。


「ええ、存じております。我々もそのために現在軍を再編したところですので、共に参りましょう」

「え……」


 私の言葉が予想外だったのか、『勇者』は間の抜けた顔をして声を漏らしました。


「で、ですが、そうすると魔王の元にたどり着くまでに時間がかかってしまいます。軍の移動には時間がかかるものですから。無駄とは言いませんが、今は時間を優先するべきではないでしょうか?」

「ですが、では失礼ながら尋ねますが、今まで軍の力を借りつつも決定打に至らなかったあなた方が、軍の力もなく魔王を倒せるとおっしゃるのですか? 倒せるかもしれない、ではダメなのですよ? あなた方勇者一行が負けてしまえば、それは人類にとって絶望を抱かせる原因になります。戦う以上は、確実に勝つ。そうでなくても最低でも今回のように追い返すことができなければなりません。あなた方は、周りにいるであろう魔王の軍勢を押しのけてあの魔王を確実に倒すことができると、そう断言できるのですか?」


 『魔王』とは魔物が突然変異し通常のものよりもはるかに強力な力をもったもののことを指すのだけれど、『王』と呼ばれるだけあって周囲にいる魔物を、同族他種族問わずに従えることができるようになるわ。

 それは他種族よりも同族の方が効果が大きく、スキルではなく生物としての本能のようなものだと言われている。けれど、そんなことは私に取ってはどうでもいいことね。


 大事なのは、魔王が魔物を従え、率いて行動するということ。今回だって魔王は逃げる際に多数の魔物を従えて逃亡した。

 勇者が魔王と戦えていたのは、『勇者』という存在が強いからというのもあるけれど、周囲の敵を連合の軍が押さえていたから、というのもあるのよ。

 つまり、この『勇者』が魔王を追いかけたところで、周りの敵に邪魔されて碌に戦うこともできないでしょうね。そうして再び逃げられておしまい。あるいは戦っている間に不意を突かれて人生そのものがおしまい。

 どっちにしても、この『勇者』にとっては喜ばしい結果とはならないでしょうね。

 だからこそ私は提案をしてあげるの。私の願いを叶えつつ、この『勇者』の魔王を倒すという願いを叶えてあげるためにね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ようやく名前と天職が明らかになった、勇者と愉快な仲間たちですが、なんだか少し……いや、かなり火力不足のイメージが笑 多分、魔物の集団が相手となるのに、聖国が魔法師を一人も付けずに派遣し…
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