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093.ロングホームルーム


「それでは、ホームルームを始めます!」


 お昼休みが終わり全員が眠気に誘われてしまう中、教卓で1人の女生徒が声を上げた。

 金曜の午後はロングホームルーム。各クラスの担任がそれぞれ好きな授業だったり話し合いだったりをする時間だ。


 今回の授業は後者の話し合い。それも先生はオブザーバーとなり生徒が主体となって与えられた題材に対してそれぞれ意見を考えることとなった。そんなわけもあってかクラスの生徒たちは眠そうになりながらもなんとか堪らえて話を聞いている。


「今回の議題……は来月開催される文化祭についてです。今まで何度か話し合ってきましたが、未だに決まっていません。今日が締め切りなので提出するまで全員帰ることは許されないとのことです」


 教卓の女生徒……クラス委員長が手慣れた様子で話を続ける。それを聞いたクラスの面々は口々に不満を漏らし始めた。


「私だって早く終わらせて帰りたいわよ!今まで誰も候補すら出さないから仕方ないじゃない!!」


 悪態に反応して自らも泣き言を発する委員長。その後ろにある黒板は『文化祭の出し物』とだけ書いて後はまっさらだ。


「ねぇ慎也くん?」

「ん?」


 俺の隣の席にいる優愛さんが肩を叩く。


「慎也くんはどんな出し物をしたいの?」

「どんな……ねぇ………。他の出店も見てみたいし当日あんまり忙しくないのがいいかな」

「忙しくないかぁ……それだと劇とかは難しそうだね。食べ物売るお店とかどうなんだろ?」

「飲食店は売る物によるでしょうね。あとは料理出来る人がどれだけいるか……少なかったらその人は動けないもの」


 優愛さんの疑問に優衣佳さんが答える。

 たしかに飲食店だとアイス等事前に作るタイプは売り子だけで済むが、焼きそば等その場で作るタイプだと当日もそこそこの人数が必要になってくるだろう。


「ん、忙しいと慎也くんと回れない。それだけは絶対に嫌」


 俺の後ろに座っている翔子さんが固い決意を口にする。それを2人は困った様子で笑っていた。


「いいなぁ翔子ちゃん。 1日独り占めできて……」

「いいでしょ……年に一回の特権」

「む~!」


 優愛さんを煽る翔子さん。文化祭1日目――――10月20日は翔子さんの誕生日だ。

 そこで翔子さんが願った俺からのプレゼントは2人きりで文化祭を回りたいというもの。その是非を巡って5人で話し合いが行われたが最終的に翔子さんの希望が叶い、二日目は俺から他の3人に何か奢ることで決着した。


「しょうがないわよ優愛。 でも二日目は慎也くんにお腹いっぱい奢ってもらいましょ?」

「いいねお姉ちゃん! 慎也くん、二日目はよろしくね!」


 優衣佳さん、俺を破産させるつもりなの?

 俺は未だに優愛さんの腹の底を見られずにいる。なのにお腹いっぱい奢るとなったらどれだけの金額になるか想像も出来ない。


「ほら!そこのグループ!!」

「あだっ!」

「喋ってないで何かアイディア考えなさい!! まったく、4人はいつもそうなんだから……」

「はぁい…」


 委員長は俺に出席簿を投げつけ頭にクリーンヒットする。完全にこちらに否があるので言い訳のしようもないけど、出席簿の角はさすがにダメージが。



 2学期の最初期、席替えがあった。方法はくじ引きで行われた結果、俺は教卓目の前の席で3人はその最後尾に固まってしまうということに。

 そこで3人は策を講じた。視力の問題を取り上げて前方に移動する策に。それに加えて智也が面白そうだからとの理由で言葉巧みにフォローし、気がついたら俺の回りに3人が固まることになってしまった。



「あ~もう!本当に授業終わっちゃうわよ!早く帰りたいのに!」


 俺たちが話をしていたせいだろうか。いつの間にかクラス中で会話の数が多くなり委員長が頭を抱えている。これはなにか案を出さなければ……



「はい」

「あ、やぁっと意見が出たわね。なに?」


 ざわめき始めたクラスを挙手で鎮めたのは智也だった。智也は眠たげにしながらも席を立つ。


「この一帯の郷土史を作ってクラス内に展示する」

「………………わかったわ」


 委員長はとても不満そうにしながらもなんとか堪らえて黒板に文字を書き込んでいく。智也、当日自由でいたいからそのネタにしたでしょ……



「それをするくらいならタコス作りたい!」

「いや、焼きそばで!!」

「私映画作りたい!!」

「ミニゲームコーナー!」

「わかった!わかったから順番に言って!!」


 智也の意見を皮切りにクラスメイトが一斉にそれぞれのやりたいことを口に出す。委員長はキャパを超えかけながらも必死にチョークを走らせていた。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「へ~。慎さんのクラスではそんなことがあったんですね~。いいですねぇ1日目」

「むふ~」


 雫がオレンジジュースを飲みながら感想を口にする。そして雫のもの言いたげな目は翔子さんへと向かっていた。当の翔子さんは俺の膝を枕にして横になっている。


 俺たちは放課後、優愛さんの発案で以前来たことのある街中のカフェへ足を運んだ。あれからも何度か来ていたが優愛さんが発作……ここのホットサンドをどうしても食べたくなったそうだ。もはや中毒に………


「おまたせ致しました。ご注文のホットサンドとカフェラテでございます」

「ありがとうございます」

「それではごゆっくり」


 初めて訪れて以来いつも接客をしてくれる短髪の店員さんが俺の側に料理を置いてくれる。

 それを代表して受け取りお礼を言うとなにやら視線が……


「………どうしたの?」

「いえ、なにもないわよ。なにも、ね」


 お礼の言葉に反応したのか優衣佳さんが俺に視線を向けてくる。もはや毎回のことだけど一番近いここに料理が置かれるんだから仕方ないじゃないか。


「それで、雫さんのクラスはどんな出し物にしたのかしら?」

「へ?私のクラスですか? ありませんよ?」

「無い? それって……」

「あ~……優衣佳さん、ウチの文化祭は出店するのは高校からで中学はそういうの無いんだ」


 優衣佳さんの疑問に補足した。ウチの学校では何故か中学での出店は無く、代わりに絵や書道を教室に展示することとなっている。回ることに専念してほしいという学校側の配慮なのだろうか。


「そう…そういうものなのね。前の学校では文化祭自体なかったものだからわからなかったわ」

「え!?」

「お姉ちゃんの言う通り文化祭はなかったんだけど、代わりに文芸部の出し物を楽しむ日はあったよ~。 出店なしの単純な発表会だね」


 文芸部の出し物というと吹奏楽部の演奏会とかだろうか。それはそれで面白そう。



「それで! 肝心なところを聞いてないんですけど結局どんな出し物になったんです!?」


「あぁ、それはね――――」



 ―――――――――――

 ―――――――



「と、いうわけで多数決の結果、ウチのクラスの出し物はプリンを作ることとなりました~!!」


 教室内が拍手で包まれる。

 あれから候補が大量に噴出しお化け屋敷から焼き鳥屋まで、様々な案が出揃った。

 そこで多数決で決めることとなったが候補数が多いため一票が大切になってくる。そこで俺たち4人は結託しプリンへ投票した結果、僅差だったが見事賛成数最多で俺たち希望ので店を勝ち取ることができた。


「でもただプリン売るだけじゃ物足りなくない?」


 と、言うのはクラスメイトの弁だ。たしかにただそれを売るだけじゃどうにも見栄えに欠ける。そこでクラスで話し合った結果採用されたのは、追加でドリンクサーバーをレンタルし教室内をカフェに見立てることに。これならばスペースも有効活用できて見栄えもなんとかなるだろう。


「それじゃあ、あとは振り分けをするだけね! プリンを作れる人!?」


 時間内に終わる目処がついたことで若干テンションの上がっている委員長が声を張り上げる。

 来た。ここからが計画の本命。 俺たち4人は揃って挙手をする。


「………4人だけ?ほかに作れる人は居ないの?」


 「プリンなんて作ったこと無いしなぁ」と口々に言葉を漏らすクラスメイト。若干賭けだったが誰も居ないようだ。 よかった。


「……わかったわ。それじゃあ4人とも事前の製作はおねがいできる?」

「もちろん、任せて。 その代わりと言ってはなんだけど――――」

「言わなくてもわかってるわ。 当日は外れたいってことよね?」

「うっ…うん……」


 さすがにあからさま過ぎたか。委員長にさえお見通しだったとは。


「他の人がいいって言うのならだけど……どう?」


「まぁ販売分全部準備するにも相当な時間かかるだろうからなぁ! 仕方ないんじゃないか!?」


 委員長がクラスに意見を募り全員に聞こえるよう智也がフォローを入れてくれる。 助かるよ。


「………反対はいないようね。それじゃあ準備はお願いするわ」

「まかせて」


 即興の計画だっただけにお見通し感はあったもののなんとか計画通り事が運ぶのであった。



 ―――――――――――

 ―――――――



「投票前に突然慎也君がプリンに手上げて後は黙っててって言うものだから焦ったわ」

「ごめんごめん。でもちゃんと挙手してくれてありがとう」


 優衣佳さんは呆れた様子でコーヒーに口を付ける。突然閃いたものだからちゃんと出来るか不安だった。


「それは当然、慎也君の言うことだからよ。 それに交渉の時気づいたわ。私達と回るために頑張ってくれたんでしょ?ありがとう」

「俺も……楽しみだからね……」


 計画の意図をストレートに言われて恥ずかしくなってしまう。


「なるほど……慎さんも頑張ってくれたんですね。ありがとうございます。  ―――――ところで、時間大丈夫ですか?」

「あら………そろそろ帰る時間ね。優愛、もう時間よ」

「もふ!?」


 優衣佳さんの声に合わせて優愛さんへ顔を向けるとそこには空になったお皿が5枚とカツサンドを口に頬張る優愛さんの姿が………これ全部食べたの!?夕飯大丈夫………?


「ムグムグ………………うん。大丈夫だよ!」

「優愛、さすがに今日は食べすぎ。 夕飯抜きね」

「え~~!!」


 むしろ夕飯も食べる気だったのか。さすが優愛さん、底が見えない。


「それじゃあ会長さんも……って、あぁ」

「これは……俺が頑張るしかないかな」


 今までずっと静かだった翔子さんは俺の膝の上で静かに寝息を立てていた。


「どうする? 私たちも手伝う?」

「ううん、大丈夫。 駅まで運んだら起こすから」

「背負ったまま電車に乗るわけにもいかないしね~。それじゃあ背負うの手伝うから慎也くんはしゃがんて!」


 俺は優愛さんの助けも借りながら翔子さんを背負い、全員で店を出る。


「優衣佳さんと優愛さんは反対だからここまでだね。雫はどう?」

「私もこの近くにバス停があるのでここまでです! 慎さん、気をつけてくださいね!」

「なにに?」

「会長さんにです」


 真顔で忠告する雫。

 あれ?俺が気をつけるの?逆じゃないんだ。


「う…うん、ありがとう。 それじゃあおやすみ」

「はい!お休みです!!」







 俺は翔子さんを背負ったまま駅までの道を歩いていく。


「翔子さん、起きて。そろそろ駅だよ」

「ん………まだ……家まで……」

「起きてるよねそれ………」

「むぅ、仕方ない」


 あと5分どころじゃなかった。翔子さんは渋々と言った様子で自ら地に足を付ける。


「お店から起きてた。ここまでありがと」

「気づかなかったよ……もう起きた?寝ぼけて乗り違えたりしないでよ?」

「平気。エネルギーも満タン」


 俺と向かい合ってピースサインを送ってくる。


「……それじゃ。慎也くん」

「うん、また」

「今晩も頑張ってね」


 翔子さんはそう言い残して改札へと駆けていく。今晩もとは一体………






「慎さん、会長さんのお見送りお疲れさまでした」

「………そういうことね」


 人々の行き交う雑踏の中、俺を呼ぶ声に振り返ると先程別れたハズの後輩の姿が。翔子さんはいつからか知っていたのだろう。


「それじゃ、2人きりになったところで行きましょうか」

「ちょっとまって! 俺何するか全く知らないんだけど」


 挨拶もそこそこに改札から離れようとする雫。何も聞いてないんだけど……


「あっ、すみません。 慎さん、今晩私の家に来てもらえませんか?」

「…拒否権は無いんでしょ?」

「もちろんです!」


 そう言って明るい笑顔を見せてくる雫。


「仕方ない、ついていくよ」

「やったぁ!ありがとうございます!」


 もう今さらだ、下手に抵抗せず流れに乗ってやろうではないか。


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