077.家事スキル判定!~後編~
「それでは!けっかぱっぴょ~ぅ!!」
時刻はお昼時。
朝食・洗濯・掃除を審査員の目の下頑張っているとお昼もいい時間になっていた。そんな時優衣佳さんからお呼びがかかり、試験を受けている間に作ってくれていたお昼ごはんをみんなでつついていると雫がそんなことを言いだした。
今この場には6人、紗也もお昼ごはんの香りにつられて起き出した。その全員がメモ帳を手にした雫に注目する。
「え~……まず料理!これは合格とのことです!!」
あ、分野ごとに発表なんだ。とりあえず幸先の良いスタートで俺は胸をなでおろす。
「優衣佳先輩、解説お願いします」
「ええ。慎也君の料理は私が教えてるだけあって十分やっていけるわ。面倒になってるのか計量カップを使いたがらない傾向にあったけどよっぽど変なことにもなってなかったし、一応は合格と言って良いでしょう。料理はともかくお菓子作りだとそうは言ってられないけどね」
さすが優衣佳さん。料理に関しては手心を加えない。まだまだその領域までは遠そうだ。
「優衣佳先輩はなかなか辛口ですね~!私も見てましたが非の打ち所の無いと思ってましたが……」
「朝ごはんの簡単な料理ならね。けれど応用となっていくと細かいところが問題になってくるのよ。ちょっとのことで味が濃いとか薄いとか言うんだから……優愛が」
俺たちが一斉に優愛さんの方を向くと彼女は顔を赤く染めたまま伏せ、フォークを口に運んでいた。
「え~っと……それでは、気を取り直して次へ行きます!洗濯とのことでしたが会長さん、どうでしたか?」
「ん……ちゃんと紗也の洗濯物はネット使ってたしアイロンもちゃんと使えてた。合格」
よかった……雫に指摘されてから必死に勉強したかいがあった。けれど翔子さん、俺の頭を撫でるのは恥ずかしいんだけど。
俺が大人しく撫でられたままで居ると不意に頭が何者かに抱き寄せられる。
「……翔子お姉ちゃん、お兄ちゃんを撫でるのは私の特権だから!」
「紗也……」
俺を抱き寄せた正体は紗也だった。紗也は片手で俺の頭をホールドしもう片方で乱雑に撫でてくる。髪が…髪がグシャグシャに……
「む……今回ばかりは仕方ない」
案外素直に引いてくれる翔子さん。それでも紗也は俺の頭を撫でることを辞める気配はなかった。
「紗也……もうこのへんでいいから、ありがと」
「ううん!もっとこのままで! お兄ちゃんいい匂いする……」
そのまま俺の頭に髪をうずめる紗也。やめて!今日は朝から動き回って汗臭いから!!
「いやぁ……紗也ちゃんかわいいですねぇ……ところで慎さん、私妹が欲しかったんですよ。ちょっとくれませんかね?」
「…紗也がいいって言ったらね」
「嫌! 私はお兄ちゃんの妹だもん!!」
そのまま俺の頭を両手で抱きしめる紗也。痛い痛い。
「紗也ちゃん、そろそろお兄ちゃんを開放して上げたらどうかな?お兄ちゃんも痛そうだよ?」
「あっ……ごめんなさい!お兄ちゃん……」
優愛さんの言葉でようやく開放してくれた……紗也はちょくちょく暴走するけどそんなところも可愛い。
「ふぅ……優愛さんありがと。 紗也も、こっちおいで」
俺は紗也を呼び寄せて自分の膝の上にポスンと乗せる。紗也が落ち込んだ時はこれが一番いい方法だ。俺は紗也の肩から頭を出して雫と目を合わせる。
「あっ………最後の発表ですね」
俺のアイコンタクトが通じた雫はそのままペラペラとメモ帳をめくっていく。
「…………」
「? ……雫?」
メモ帳をめくる音がふと終わり、何も言葉を発しない姿を不審に思った翔子さんが声をかける。
「え~~…………最後、掃除ですがぁ……合格……です」
「ほっ………それじゃあ全部合格ってこと――――」
「待ちなさい」
最後の判定に待ったをかけたのは優衣佳さんだった。彼女は食事をしていた手を止めて雫と向かい合う。
「雫さん、それは本当に合格だったのかしら?」
「それはぁ………」
「大丈夫よ。慎也君は甘いからきっとお願いすれば大抵のことは聞いてくれるわ」
甘いて。せめて優しいと言ってほしかった。
「~~~~~~。 慎さん、ごめんなさい!不合格です!!」
まさかの合格から不合格という逆転劇に地に落ちた気がした――――わけもなく、優衣佳さんが待ったをかけた時点である程度察しはついて覚悟は決まっていた。
「……そっか。 ちなみに何がマイナスだったのかな?」
一応、掃除はできることは全部やったはずだ。やり残しも無いと思う。
「はい……結論から言うと慎さんは行き当りばったり過ぎて計画性が皆無でした」
「そうかな?上から下にってやってたと思うんだけど……」
「それは確かにできてました。けれど洗面所やって部屋の掃除してその後お風呂場と……全体的に掃除をする部屋の順番も考えてください」
なかなかに手厳しい。けれど言われてみればそのとおりだ。水辺の掃除後服が汚れたのを我慢して掃除していたのを思い出す。
「ん……あともう一つ」
今度は翔子さんから声が掛かる。まだあるのか……
「重曹とクレンザーを、過信しすぎ。もっと使う洗剤を勉強して」
「うっ!」
痛いところを突かれた。いざ大掃除となると洗剤が多すぎて適当に選んだからなぁ……クエン酸はともかく漂白剤って以外にも使い道あるの…?
「確かに掃除についてはいざやりだして困ったことが多かったよ……」
「それじゃあご飯午後の予定は勉強会かしらね……お皿、持っていくわね」
優衣佳さんが空になった食器を手に持ちキッチンへ向かう。なんだか妙にウキウキしているような…
「それで雫、なんで最初合格に?」
「そっ それは……」
翔子さんの言葉に身体を引く雫。こんなにダメダメだったのになんであの時逆転したんだろう。
「慎さん…言ったじゃないですか……合格なら頭撫でてくれるって……」
「あぁ……」
そういえば言った気がする。少し寝ぼけててすっかり忘れてた。
「雫」
「はい……」
俺は雫を招き寄せる。彼女も素直に従ってくれた。そんな彼女の頭に手を乗せる。
「今日は俺のために試験を計画進行してくれてありがとう。おかげで俺の足りないところも見えてきたよ」
「そんな……わたしはしんさんのためなら………ぜんぜん……」
そのまま優しくその頭を撫でていくと彼女の声が段々と小さくなっていく。今日は人一倍頑張ってくれた雫に感謝だ。
「よかったです……喜んでもらえて」
大人しく俺の手に身体を委ねてくれる雫。ふと、こっちのしおらしいほうが彼女の素なんじゃないかと思う時がたまにある。
「しゅうりょー!」
「おわっ!」
そのまま撫で続けていると俺の懐から手が伸びてきて雫との間を塞がれる。そう、ずっと俺の膝にいた紗也だ。
「紗也……」
「お兄ちゃんはそんなこと誰にでもやってると女の子の敵になっちゃうよ!!」
「女の子の敵って………」
「でも!妹のあたしにならいくらやってもいいからね!!」
紗也は俺の手を自身の頭にやり、俺がその手を動かすと満足したかのように身体を俺に預けてきた。
「あはは……しばらく我慢してくれていた紗也ちゃんには感謝ですね」
雫は自分のに加え俺のお皿も手に持って立ち上がる。
「あっ、俺も運ぶよ」
「いえいえ、慎さんは紗也ちゃんのお相手をしていてください。片付けは私達でやりますんで」
「任せて」
翔子さんと優愛さんも立ち上がって答えてくれる。ありがたい。
「ありがとう。それじゃあお願いします」
「はい!任されました」
「落ち着いたらお掃除の補修ですからね!!」
3人はテーブルのお皿を手に持ちキッチンへ消えていく。残されたのは俺と紗也だけになった。
「紗也、ありがとな。俺のために」
「ううん、お兄ちゃんのためだもん。それに、支えてくれる人もあんなに……全員女の子なのが納得いかないけど」
そう言って頬を膨らます紗也。い…一応、智也も支えてくれてると思うし?
「そこはまぁ……みんな家事もできて頼りになるから…」
「うん……みんな、凄いと思った」
1人不安なところもあるけれど。
「お兄ちゃん、やっぱり一緒に向こう行かない?」
「ん? 寂しくなった?」
「うん……」
紗也は俺の膝の上で丸くなる。いくら親がいるとはいえ他に知り合いが誰もいないのは心細いだろう。
「俺は、行けないよ。大切な人たちもできたし」
「……あのお姉ちゃんたち?」
「うん」
俺まで向こうに行くわけには行かない。約束もある。
「……だから、紗也が戻るまでいっぱい遊ぼうか。毎日でも付き合うよ」
「うん、わかってた……向こうで頑張るから、それまでいっぱい遊んでね」
そのまま膝の上で抱きついてくる紗也を俺はギュッと抱きしめる。
せめて、せめて今日本にいるときだけは紗也が寂しく感じないよう強く抱きしめた――――




