055.体育祭~その3~
『これより、午後の部を 開始します。まずはじめに、各応援団より 応援合戦から』
俺たち4人で昼食を摂った後ほど、午後の部の開始を告げるアナウンスが鳴り響いた。ちなみに雫は友人の菜月さんとお昼を一緒すると連絡があった。
「ようやく午後のが始まりましたね~。午前は私の出番なかった上に打ち合わせでこっちに来れなくって凄く長く感じましたよ~」
「打ち合わせ?」
「はい。ほら、私仮装大会に出るって言ったじゃないですか。アレってけっこう得点大きいらしくって午前はおろかお昼休みまで調整に付き合ってたんですよ!」
「それは大変だったね…ところで……」
「なんですか?慎さん」
「その仮装大会を直前に控えた雫さんはこんなところに居て大丈夫なの?」
俺の隣で応援合戦を見ているのはチームは違うどころか種目が直前の雫であった。
ちなみに智也は自分の椅子に座れないのを見て、「ここに俺の席はないんだな…」と嘆きながら兼島さんに連れられていった。
「もちろん大丈夫じゃありませんっ!きっと最後の打ち合わせしてるでしょうし菜月ちゃんなんか血なまこになって探してるでしょうね~」
「早く戻ってあげなよ!?」
「もちろん戻りますよ~。ですが、それも慎さん成分を補給してからのお話ですっ!」
何やらよくわからない成分を引っ張り出して俺の肩に雫の肩を触れさせてくる。なんの成分だって?
「なんの成分だって?」
「慎さん成分です!一定期間摂取しないと欠乏症になるんですよ~」
「摂取しないと……どんな症状が?」
「えっと……息切れ・動機・幻覚・冷え性と、様々ですね~」
「それはもはや危ない薬なんじゃないかな……冷え性も欠乏症で出るんだね」
「わかる。摂取は大事」
「!?」
どうやら翔子さんにはその気持ちがわかるようだ。
「ですよねっ!会長さんもわかってくれますか!」
「ん。だからこうして匂いを嗅ぐと、摂取ができる」
「翔子さん!今の俺は臭うからだめ! ってこら雫!服が伸びるから!!」
今は絶対汗臭いから!それに雫も乗るんじゃない!
「なるほど……これは確かに急速に摂取できますね~。……慎さん、やっぱり運動部入って汗かきません?」
「なんか邪な気配を感じるから遠慮しておくよ……」
どうも目の焦点が合ってない。過剰摂取か。
「雫ちゃん!やっぱりこんなところにいた!みんな探してたよ~!」
「あっ、菜月ちゃん……もう見つかっちゃったかぁ~」
テントの外から菜月さんの声が。助かった…
「ほら、待ってるみたいだし行かないと」
「はぁ~い。……よしっ、慎さん成分も満タンです!それでは行ってきます!!」
「うん、いってらっしゃい。頑張ってね」
雫は元気よく返事をしてクラスの元へと走っていく。呼んできてくれた菜月ちゃんがその場には残された。
「………前坂先輩、お疲れさまです 失礼します」
「うっ、うん……お疲れさま……」
「…慎也くん、なにかした?」
「いや、何もしてないはずだけど…」
菜月さんは冷たい目でこちらを睨み、一礼して雫のあとを追っていった。
部活でも関わる前に彼女が辞めたし、何もしてないはずなんだけどな……
『続きまして、仮装大会を始めます それぞれの担任が変身していくさまを 予想しながら楽しんでください』
司会のアナウンスと共に出場者が門から歩いてくる。
その中からひときわ背の低い雫が現れ真っ先にこちらに手を振ってくる。俺は思わず手を振り返したが直後に菜月さんからお叱りを貰っていた。
「慎也くん、どっちを応援するの?」
「どっちってどういうこと?」
優愛さんが俺の隣に腰掛けながら聞いてくる。
「ほら、白のクラスか雫ちゃんか…」
「あぁ、特に優勝してもなにもないし、今回は雫を応援することにするよ。さすがに大声で応援するわけにはいかないけどね」
「だよねっ!それじゃあ私も……頑張れ~~!しずっ…む~~~!!」
俺が声を出すわけにはいかないと言った直後に大声で応援しようとする優愛さん。思わず口を押さえてこちらに引き寄せる。
彼女はしばらくもがいていたが少しの間引き寄せたままでいると段々と大人しくなっていった。
「あっ、ごめん。苦しかったよね?」
「ぷはぁっ! ……慎也くん、この体勢のまま見てもいい?」
「……何言ってるの。ちゃんと椅子にすわって見ること」
「ちぇ~……仕方ないなぁ」
優愛さんが変なことを言いだしたのでその肩を掴んできちんと座るよう誘導する。
そうしている間に競技は開始したようでピストルの音が鳴り響いた。
各クラス一部の女子がそれぞれ化粧道具を持ったままグラウンド中央に座っている担任の元へと走っていく。その中には雫もいた。
雫は先生の元へたどり着き慣れた様子で化粧を施していく。その目は誰も寄せ付けない真剣な様子で他のクラスがそれぞれ化粧しあってる中雫は1人で対応しており、他の女子たちは彼女に渡す道具を選定している様子だった。
しばらくその様子を見ていたがどうやら終わったようだ。化粧道具を片付けだしスタート地点へと戻っていく。その後彼女たちと入れ替わるように仮装のための服を持った生徒たちが先生のもとへ駆けていく。
先生に仮装を施す、戻って別グループが更に施すため新たな道具を片手に駆けていく。そんなグループが何往復化したあとピストルの音が2発連続で鳴る。どうやら制限時間が来てしまったようだ。
『これにて衣装替え終了です。先生が回っていくので 審査員は審査をお願いします』
どうやら審査もあるようだ。化粧を施されていた先生方は小道具片手にノリノリでグラウンド外周を回っていく。
「凄かったね、雫ちゃんのメイク」
「そうなの?」
俺の隣で見入っていた優愛さんが息を漏らす。
「うん。人に化粧するのは簡単かと思われがちだけど思ったとおりに動いてくれないから安定しないし砂煙の舞う中あんなに集中するなんて私にはできないなぁ…」
たしかに今日は風も強く砂煙が舞っている。きっと雫は綿密な打ち合わせと練習をしてきたのだろう。
「慎さ~ん!どうですか~!?」
グラウンドを歩いている雫が近くまで来たようで俺を呼んでいた。彼女の担任の先生は最近話題になったアニメ映画のお姫様へと扮しているようだ、衣装は仕方ないにしろウィッグや化粧なんかはバッチリ綺麗に決まっていて、俺は彼女に笑顔で返す。
――――結果は雫たちが一位となった。俺たちの白は残念ながら最下位となってしまったが彼女のあの笑顔を見たらそんなことはどうでもいい。
『続きまして 借り物競走となります まだ集合してないひとは――――』
「あ、お姉ちゃんの種目だ」
いつの間にか優衣佳さんが居なくなっていることに俺は気付く。そういえばこの種目には雫も出てたっけ。
退場門を見ると彼女が招集場所に走っていってるのが見えた。連続なんて大変だな…
「ねぇねぇ、お姉ちゃんは何を借りると思う?」
「そうだねぇ……あくまで学校なんだし水筒とかそんな感じじゃない?」
「え~?なんだか簡単すぎない~? 私だったら一瞬でお茶碗いっぱいのご飯を食べられる人とかかな?」
「それって優愛さん以外出来ないから……って、もしかしてもうお腹すいてきたの!?」
「えへへ……」
まだ昼休み終わってから1時間も経ってないというのに……お昼足りなかった?
「ほっ、ほら!もうお姉ちゃんの番だよ!!」
「あ、ホントだ………あれ?あの小さいのは……」
よく見ると優衣佳さんと一緒に雫も同じグループとなっていた。
「雫ちゃんも一緒だね~。偶然かな?」
「多分…雫の先輩は居なさそうだし思いっきりできそうだね」
「ふたりの一騎打ちだね!もうお題のところまで着いたみたいだし」
同時にスタートした2人はほぼ同タイミングでお題の置いてある机にたどり着き封筒を開けていた。
2人は中身を確認した瞬間逡巡することもなく一直線へこちらへ向かってくる。
「二人ともこっち来るね、何だったのかなぁ?」
「やっぱり俺の言った通り水筒とかじゃない?」
「かもしれないねっ!それじゃあ用意した水筒とかを持ってくるよ!」
優愛さんは俺の隣から自分の席へ戻っていくため席を立った。しばらくすると出場者の2人がたどり着き、息を切らしながらこちらを見てくる。
「2人のお題は何かな?今さっき優愛さんが水筒とか取りに行ったところ―――」
「「………慎也君(慎さん)!私と一緒に!!」」
「………へ?」
俺は変な声を上げ、2人は顔を見合わせた。
しばらくそのまま時が止まったかのように思われたが2人は俺の腕を片方ずつ掴んでグラウンドを駆けていく。
「ちょっ……!2人のお題って……!?」
「「………」」
俺の問いかけには一切答えようとしない。そのままゴールまでたどり着き判定員の先生の前に立つ。
「お疲れさま。…二人とも同じ人かしら?」
「「はいっ!!」」
「そっそう……じゃあ、お題を見せてくれる? あっ、二人とも同着になるから見せる順番はどちらでもいいわ」
先生の指示に雫が前に出て封筒を差し出す。
「えっと……まぁいいでしょう、合格!」
「やったっ!慎さんもありがとうございます!!」
どうやら雫のお題は俺で問題ないようだ。喜びながらお礼を言ってくる。いや、俺は中身を知らないんだけど…
「次はあなたね。封筒を出してもらえる?」
「………はい………」
優衣佳さんは少し迷いながらも封筒を先生に渡す。
「なるほど…あなたたちのことは聞いてるわ……合格よ。二人とも同着!!」
「ほぅ………」
先生の判定に優衣佳さんはホッとした様子を見せた。俺のことを聞いてるって……?
「ねぇ、俺は2人のお題を聞いてないんだけど」
ゴールからテントに帰る途中、2人に問いかけてみることにした。
「慎さん、私の見たいですか?」
「まぁ、当然気になるかな?」
「んもうっ!仕方ないですねぇ~……はい、どうぞ!」
雫は返された封筒を俺に差し出してきた。俺は少し訝しげにしながらも中を見る。
「雫。これ、俺でいいの?」
「慎さんも変なことをいいますね?慎さん以外ありえないといいますのに」
「そか…嬉しいよ」
そこに書かれたお題は『イケメン・美人(異性)だと思う人』だった。素直にそう思ってくれると俺としても嬉しい気持ちになる。
「……慎也君、はい」
「いいの?」
すると優衣佳さんも封筒を俺に渡してきた。その顔は赤くなっているが気づかないふりをして封筒の中身をゆっくり確認する。
「あっ……えっと………ありがとう……」
「いいえ………」
その中身は『気になる人』 とだけ書かれていた。俺たちはその場でお互いに赤くなりながらうつむいてしまう。
「ほらっ!先輩方も炎天下のなか暑いでしょう!早く戻って水分補給しますよ!!」
「あっ!雫!」
煮えを切らしたのか雫が俺たちの背中を押しながらテントに向かうよう促してきた。
「わかったから!自分で歩けるから!」
「わかったならいいんですっ!おや…?あれは優愛先輩?」
俺たちがテントに戻ると何やら空気が違うように感じた。優愛さんが何かをしているようにも見える。
「優愛さん、どうしたの?」
「あっ、慎也くん……翔子ちゃんが調子悪いみたいで……」
椅子に座っている翔子さんは確かに様子が変だった。目はうつろで頭もフラフラしているように見える。
「翔子さん、大丈夫?」
「あっ……慎也………ごめ……ほけんし……」
「……翔子さん!!!」
彼女は俺がたどり着くと同時に彼女は意識を闇に沈めてしまった―――――。
評価本当にありがたいです…泣いて喜んでます




