↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/163

054.体育祭~その2~

競技内容はさっぱり風味


「お疲れ。見てたぞ、圧勝だったな」

「ありがと。翔子さんのおかげで勝てたよ」

「ぶいっ」


 クラスのテントに戻ると智也が椅子に座りながら迎えてくれる。

 翔子さん、俺の背中でブイサインしても相手には見えないよ。


「優衣佳さんと優愛さんは?」

「おう、聞かれると思ってたぞ。あの姉妹は玉入れだ、次の種目だからな」


 そう言われて辺りを見渡すとたしかにウチの女子の半数がいない。みんな玉入れに向かったようだ。


「そっか……俺の出番は午前中にはないしノンビリしようかな…翔子さんは次の種目なんだっけ?」

「たしか…んっしょっ……あった、障害物競走。午前最後の方」


 彼女はそう言って俺が広げている種目表に指で示そうと身体を乗り出してくる。その際に汗か何かか甘い香りがほのかに香ってきた。どうして女の子はこう、いい匂いがするのだろう。


「………どうかした?」

「い、いや、なんでもない!」


 少し香りに気を取られていた。翔子さんは特に気にすることもなく戻っていってホッとするも少し残念な気持ちになる。


「ほら、2人でお楽しみのところ悪いがウチの玉入れの番が来たぞ」

「何がお楽しみって……!ごめんなさい言わないでいいです!」


 否定しようとしたがニヤケ顔で気づいた。きっと智也には気づかれていただろう。翔子さんの匂いを嗅いでたなんて言われたら絶対ドン引きされるに決まっている………









「いや~!惜しかったよ~!」

「お疲れさま。二人とも頑張ったね」


 玉入れが終わった2人がデントに戻ってくる。結果はウチのクラスの惜敗だった。

 二人とも何個か玉を入れることが出来て頑張っていたが、相手のクラスの女子たちに一歩及ばなかった。

 その様子を見ていた智也は「相手の顔面にストレートもないのか」と残念がっていたが一体どんな血みどろの戦いを期待していたのだろう…


「2人の二人三脚が圧勝だっただけあってこの敗退はなかなか悔しいわね」

「俺たちの時は運が良かっただけで、玉入れも次があったらきっと勝ってたと思うよ」

「それに、ポイントは入った」


 翔子さんが指し示す先…校舎に掲げられた得点を見ると俺たちは2位、雫のいる黄色は1位となっていた。まだ始まったばかりだから逆転の芽は十分にある。


「2人の次の競技は………優衣佳さんの借り物競走だから午後かな?」

「いえ、その前に優愛のパン食い競走が午前中にあるはずよ」

「あれっ、見逃したかな…」

「ほら、ここにあるじゃない」


 優衣佳さんが俺の隣に腰を下ろして示してくる。たしかに翔子さんの出る障害物競走の直前にパン食い競走の文字が。


「あれ? 隣に智也が座ってたはずだけどどこか行った?」

「慎也くん、あれあれ」


 優愛さんがテント後方を指差す。その先には女性と一緒にいる智也の姿が見えた。


「………ん?あれは…兼島さん?」

「そうみたい。私たちも挨拶に行こうと思ったんだけどあの空気の中入るのは気が引けちゃって……」


 確かに優愛さんの言う通り楽しく談笑している兼島さんの顔は2度会った中では見たことない笑顔だった。

 くっ…嫉妬で智也の頭にタライでも落とせれたら…………!!!


「……慎也くん」

「ん?」


 恨めしく2人を見ていると翔子さんから服を引っ張られる。彼女は必死に自信の口角をあげようとしていた。


「……えっと……翔子さん?」

「翔子ちゃん!もっとこうだよ!こう! に~~!!」

「に、に~?」


 今度は翔子さんを後ろから抱きしめるような形で優愛さんが現れ俺に満面の笑みを見せてくる。俺もつられて苦笑いで返してしまう。


「むぅ……難しい……に~…」

「もっと目も意識しないと!」

「えぇ~っと…?」


 俺の困惑も気にせず2人は向かい合ってなにやら練習を始めてしまった。すると優衣佳さんが俺の肩に手を乗せてくる。


「慎也君はあの2人…いえ、兼島さんの笑顔を見て嫉妬したでしょ?」

「へ?気づいてたの?」

「もちろん。乙女の観察力を舐めないほうがいいわ。それで翔子さんが慎也君に笑顔を見せようと頑張ってたのよ」

「それでさっき……」

「心配せずとも私たちの笑顔は貴方のものよ。嫉妬する間もなくしてあげるわ」


 優衣佳さんは満面の笑顔を俺に向けてくれる。その飾り気もない言葉に俺は耳まで赤くなるのが自分でも感じ取れた。




「お~お~、見せつけてくれちゃって……憎しみでお前にタライでも落とせたらなぁ…!」


 ふと背後から怨嗟の声が。その言葉で我に返ると智也と兼島さんが2人揃ってテントまで来ていた。


「ごきげんよう、皆様。私も遊びに来ちゃいました」

「ごっ……ごきげんよう兼島さん。今日もいい天気ね」


 不意を突かれた優衣佳さんは返しがいつもと違うものになってしまっている。


「お姉ちゃ~ん…返事が中学時代のに戻ってるよー……」

「はっ……!……コホンッ! こんにちは、亜子さん。数日ぶりね……大外くんの競技を見に?」

「えぇ、せっかくの晴れ舞台ですもの。ビデオはもちろんこの目で見たいと思いまして」


 にこやかにビデオカメラと双眼鏡を取り出す兼島さん。準備はバッチリというわけか。


「俺の出番は午後からだって言ったのにコイツは午前から来ちゃってな……無駄な時間を過ごすハメになるのに…」

「そんな!」


 智也が腕組しながらそう漏らして。兼島さんの驚愕の声が聞こえる。その目には涙を浮かんでいた。


「おっ……おい……亜子……?」

「こちらの学校には皆様も居られますのに……。 それに……あなたとお昼を共に食したかったのですが……差し支えございましたか…?」


「うっ……いや、別にまずくはないけどよ……」

「まぁ!ではお昼ご一緒しましょうね!それでは皆様、ごきげんよう」


 兼島さんは智也が怯んだ途端、一瞬で笑顔に戻り智也の腕を掴みながら早々に走り去っていった。


 しかし俺は見ていた。涙を浮かべている彼女の手の中には目薬が握られていたことを……


「これは……末恐ろしいな……」

「えぇ、恐ろしいわね……私も今度あの手を使ってみようかしら」

「!?」


 隣で優衣佳さんも恐ろしいことを言い出す。どうか俺相手は勘弁してほしい…絶対気が付かないから。




『続きまして パン食い競走・障害物競走に出場する人は 入場門に集まってください』



 あの2人が消えたあと優愛さんと翔子さんを呼ぶように鳴り響くアナウンスの声。そうか、もうそんな時間か。


「優愛さんと翔子さんが出るんだよね?頑張って!」

「うんっ!今度こそ一番取ってくるよ!」

「…頑張る」


 2人はそれぞれ自信たっぷりに入場門へと向かっていった。




「それで………優衣佳さんはそこで安定したんだね」

「あら、まずいかしら?」


 2人が行った後も変わらず俺の隣…智也の椅子には優衣佳さんが。

 彼女は俺の言葉に反応するようにそっと肩に両手を触れて寄りかかってくる。


「いや、智也もどこか行ったしまずくはないんだけど……恥ずかしさとか、ね?」


 俺は恥ずかしくて明後日の方向へ顔を向けてしますが彼女はあっけらかんとしている。


「私はもう気にしないわよ。ほら、周りのみんなも気にしてないじゃない」


 その言葉に俺は辺りを見渡す。クラスメイトは一瞬俺と目が合うがそれも一瞬のこと。彼ら彼女らは俺たちのことが見えてないかのようにそれぞれの友人たちとの談笑に戻っていった。


「これ…気にしないというより居ないもの認定されてる気がするんだけど…」

「どっちでもいいじゃない?ほら、優愛の出番よ」


 時が経つのは早いものでスタートラインにはもう優愛さんの姿が。

 パン食い競走は基本は徒競走で、途中に口でしか取れないパンを咥えてゴールしないといけないのが特徴だ。種目決めの際は満場一致で優愛さんに決まった。


『位置について、よーい……』



 ピストルの音と同時に優愛さんが走り出す。走り出しはまずまずだ。彼女のグループは何人か運動部として見た顔が居り、僅差で3位といったところ。その順位を保ったままパンの吊られている台の下までたどり着く。


「いち……に~の……さ~~ん!!」


 パンにたどり着く直前、優愛さんの掛け声が聞こえる。彼女はパンの手前から腕を大きく振り、その遠心力を持って高く高く飛び上がっていた……その甲斐もあってか優愛さんの口は余裕で獲物に届き首を勢いよく振ってハサミから外してしまう。

 他の走者を見るとどうやらパンの奪取に四苦八苦しているようだ。優愛さんは1人独占状態で堂々の一位、その顔は晴れ渡っていた。





「どうっ!?慎也くん!汚名返上だよっ!!」


 一位を取った優愛さんは戦利品であるあんぱんを食べながら戻ってきた。


「さすが優愛さん、運動部の人もいたのにさすがだね」

「そんなに褒めても何も……そうだっ!ねぇ慎也くん!!」

「?」


 そう切り出した優愛さんはパンを、今まで口にしていた面をこちらに向けて……


「はい、あ~んっ!」

「えぇっと……その……」

「あ~ん!」


 助けを求めて隣の優衣佳さんを見るも微笑んで見ているだけだった。ふとクラスメイトのいる後ろのどこかから舌打ちが聞こえた気がした。


「…………あ~ん………」

「うんっ!……ありがとっ!」


 ………散々迷った末パンをほんの少しだけ口にすることにした。後方から舌打ちが強く、多くなった気もしたが気にしない。


「もう終わったかしら?そろそろ翔子さんが出るのだけれど」

「え!?ほんと!? 翔子ちゃ~ん!がんばれ~!!」


 優衣佳さんの声にいち早く反応した優愛さんが大声で応援する。それに気づいた翔子さんもこちらを向いてうなずいていた。

 ウチの障害物競走はネットに平均台、最後にぐるぐるバットといたって平均的なものだ。翔子さんの周りに運動部らしき人は見えないし1位も十分狙えるだろう。



 

 パァン!とピストルの音と同時に全員駆けだす。まずはネットだ。翔子さんは中腰になってスイスイと進んでいく。少し後方では背の高い女子がだいぶ苦戦するのが見えた。


 その次は平均台。これも落ちる要素も無く問題なくクリア。しかし全員苦としていないためトップを走るもののそんなに離れていない。


 最後のバッド。翔子さんはいち早くたどり着き、係員の監視のもと少しもたつきながらクルクルと回っていく………回り終わった時にはネットで苦戦していた背の高い女子も終わるところだった。その彼女と同時にバッドを置きゴールまでの直線距離を走っていく。だが名も知らぬ女子は急いで回りすぎたのだろう、直線であるにも関わらずその足取りは少しづつ外周へ。一方少しゆっくり目に回った翔子さんは目をまわすこともなくしっかりとした足取りで無事一位を獲得することができた。




「ぶい」

「翔子ちゃんもさすがだよ~!私もお姉ちゃんとして誇らしいっ!!」

「もふっ…誰が……お姉ちゃん?」


 テントにて。今度はみんなに見えるようにブイサインをだす翔子さん。

 直後に優愛さんに抱きしめられるまでがセットだ。いつの間に優愛さんは姉へと変貌したのだろう。


「おめでとう翔子さん。頑張ったね」

「ん、慎也くんが見てくれたから…もっと褒めて」

「うん。よしよし」

「はふぅ……」


 優愛さんに抱きしめられながら俺に頭を撫でられる翔子さん。その顔は満足そうだ。



『これより お昼休みになります。 各自 しっかり水分と栄養を 摂りましょう』



 アナウンスが鳴り響いてお昼休みとなった。点数は白は変わらず2位。午後の部こそ勝負だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。