052.訪問!お嬢様学校!~後編~
「ホントに俺たち全員分出してもらっちゃってよかったの?」
「ええ、せっかく学校まで遊びに来てくださったんですもの。遠慮せず召し上がってください」
「俺たちは遊びにきたわけじゃ……ともかく、ありがとう兼島さん。ここまで付き合ってくれたのも」
女子校に来てしばらく経った八つ時。俺たちは兼島さんも加えた6人で卓を囲んでいた。
担任から預けられた荷物を届けに行く最中、混沌となった場に現れた兼島さんはピシャリと場の空気を引き締まった。
その後中学生の女の子たちを教室まで行くよう指し示し、彼女の案内で無事荷物配達の任務を完了することができた。
俺たちは兼島さんにお礼も兼ねて食堂でお茶でも一緒にどうかと誘ったが、なぜか俺たちが奢られることとなっていた…
おかしい。借りを返すつもりが更に借りを増やしてしまっている……
「会長さん会長さん!このショートケーキおいしいですよ!一口どうです!?」
「ん、このイチゴのタルトも…いい。雫も一口」
ふと向かいを見ると雫と翔子さんがお互いのケーキを食べさせ合いしていた。雫、元を付けるのはやめたんだね…
「慎也君、兼島さんに借りを返すなんてことは考えるだけ無駄よ。たとえ返しても何倍にもなって戻ってくるわ」
「私は借りなんて考えたことは御座いませんが……もしそう思うのであればこれからもあの方と仲良くしてくださると嬉しいですわ」
優衣佳さんの助言に兼島さんが付け加える。智也と彼女の間には一体何があったのだろう。
「お姉ちゃん、そのモンブラン頂戴っ!」
「あっ!ちょっと!……もうっ」
「ごめんごめん。お詫びに私のチーズケーキも上げるからさ~」
「仕方ないわね…」
優愛さんと優衣佳さんもケーキの食べさせ合いをしている。こうやって見ると2人はずっと昔から一緒に居た姉妹のようだ。
「ふふっ……いい光景ですわね」
ふと横をみると兼島さんが同じように2人を見てそう漏らしていた。
「兼島さんは2人の中学時代のことを知ってるんだっけ?」
「ええ。以前のお二人は最後まで学校で仲良くするところをお見かけしなかったので、本当に家族なのか何度も疑いました」
「そうなの?」
兼島さんは紅茶を一口啜り俺に向き合う。
「はい…前坂様はお二人の家庭の事情をご存知ですか?」
「うん。ここに居る人達は皆知ってるよ」
「それは……皆様を信頼されておられるのですね」
優衣佳さんと優愛さんをチラリと見た兼島さんは俺と向き合ったまま視線を床に落とす。
「お二人が姉妹になった当初はお互いぎこちなかったですが学校でも歩み寄ったと聞き及んでおります。ですが例のことがあって以降、神鳥様は人が変わったかのように暗くなりクラスの皆様、神鳥様を心配しておられました…。 川瀬様も気丈に振る舞ってましたがとても辛そうにしている時を何度もお見かけし……私も川瀬様から事情を聞いた身として何度も励ましておりましたが、ついぞ卒業までその闇が晴れることはありませんでした……」
「………」
「でもっ!」
彼女は力強く答え、俺と目線を合わせてくる。
「あの日私と再開した川瀬様はまるで別人のように、以前と打って変わって明るくなられました…。ご存知でしたか?彼女、前坂様の横にいる時何度も横顔をご覧になられてたのですよ?」
そんなことが……全く気が付かなかった。
「それで確信しました。前坂様が私にできなかったことを成し遂げられたと……だから、私には前坂様に返しきれない『借り』ができているのですよ?」
彼女は更に続ける。
「さきほど神鳥様と再開して、以前以上に明るくなっておられたのは驚きませんでした。川瀬様を変えさせたのです……なので神鳥様の心の闇をも打ち払っておられると確信してましたから」
「別に、俺は何も―――」
「そこですっ!」
俺の言葉を遮って力強く見つめられ、俺は思わず目をそらす。
「人を意識して助けることは少数で、大抵は無意識的なのです……貸し借りも同じです。 なので借りを返すとかはお互い、考えないようにしませんか?」
俺はその言葉に面食らった。俺もいろんな人を助けられていたのかな………
「……そうだね。ありがとう」
「ふふっ、なんのことでしょうか?」
兼島さんが微笑みながらすっとぼける。きっと2人が明るくなったのは彼女が2人の側に居たことも大きかったんだろうな……
「なになに~?何の話してるの~?」
ケーキを空にした優愛さんが俺たちの会話に入ってくる。
「ええ。神鳥様の中学時代を話してただけですよ」
「え~!私の黒歴史じゃん!!………ねぇ兼島さん、私たちのことをなんて呼んでる?」
優愛さんはそう問いかけて端から順番に手で示していく。
「えっと…前坂様、翔子様、雫様…」
「じゃあ私とお姉ちゃんは?」
「神鳥様と川瀬様ですね」
「慎也くんは当然として私たちだけ名字じゃんっ!!名前でよんでよ~!」
優愛さんがそう言って憤る。俺の名字呼びは当然なんだ…
「慣れ、というものでしょうか。そっちのほうがしっくりくるのでつい…」
「私なんて旧姓だしさ~。ほら、優愛って呼んで!」
「えっと……優愛、様…」
机を乗り出してくる優愛さんに押されて兼島さんが目を逸しながら下の名前で呼ぶ。それを聞いた優愛さんは満足そうだ。
「うんっ!亜子ちゃんっ!!それで、お姉ちゃんのことは~?」
「……優衣佳、様…ですね…」
「なんだか恥ずかしいわね。3年も一緒だったのに今更下の名前だなんて」
下の名前で呼ばれた優衣佳さんも一緒になって照れていた。けれど嬉しそうだ。
「それじゃあ俺も兼島さんのことを亜子さんって――――」
「「「それはダメっ!!!」」」
「えぇ………」
俺も下の名前で呼ぼうとしたら4人全員から即座に否定された。解せぬ…
「ふふっ。前坂様は随分と色好みなのですね」
「誤解だよ!?」
兼島さんがとんでも無いことを言い出したのでそれは是非とも否定させてもらう。……多分
「それじゃあ亜子さん、今日はありがとう」
「いえ、お気になさらず。もうお二人がこの学校に来られることが無いと思うと悲しいです」
だいぶ日も傾いてきた時刻、校門前で兼島さんのお見送りを受けていた。
「メッセージはできるんだし、またいつでも会えるよ」
「そうですね…またいつでもお会いできます……あら、そうでした。皆様にご提案があることをすっかり忘れていましたわ」
俺の言葉で何かを思い出したのか彼女は両手をポンッと合わせる。
「まだ先の話になるのですが夏休み、私とあの方と一緒に私の親が所有するペンションへといかがですか?」
「ペンション?」
「はい。私も行ったこと無いのですが……プライベートビーチがあるとかなんとか…」
ペンションにプライベートビーチ…スケールが違う話だ。 夏休みは…多分大丈夫だろう。
「俺はきっと行けると思う。みんなはどう?」
俺がそう問いかけると全員平気との答えだった。
「よかったですっ!詳しい話は近くなってからあの方を通じてお伝えしますね」
「うん。お願いするよ。 …それじゃあ、また」
「はいっ、今日は本当にありがとうございました。またお会いしましょう」
彼女は俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
…優衣佳さんも優愛さんも、ずっと苦労してきたんだな……そう考えていると、無意識的に2人の手を掴んでいた。
「!?」
「えっと…慎也君、いきなりどうしたの…?いえ、別にイヤってわけじゃ無いんだけど…」
「へ……!? あれ!?その、なんか、無意識っていうか、何ていうか…」
優衣佳さんの言葉で2人の手を握っていることに気づき離そうとするが今度は2人が俺の手を掴んで離そうとしない。
「ふっふ~ん!せっかく慎也くんから来てくれたんだもん!せめて駅まではこのままだよ!」
「そうね。慎也君には悪いけどこのままで行かせてもらおうかしら」
2人はそう言って俺の元へ肩を寄せてくる。すると今度は俺の服を掴んでくる翔子さんが背中をつねってきた。
「いてっ!?……翔子さん?」
「……今はいい。私も話を聞いてたから…今度は私にもやって、ね」
「そうですよ~!今度は私たちのことも忘れないでくださいね~!!」
「「ね~!」」
雫は翔子さんの手を取り、俺の数歩先を手を繋いで歩き始めた。
俺は自ら招いたこととはいえ恥ずかしい思いに駆られながら駅までの道のりを3人手をつないで歩いていくのであった。




