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051.訪問!お嬢様学校!~前編~

 テストも終わった昼下がり。俺たちは最寄り駅から数駅跨いだとある高校の前まで来ていた。


「お姉ちゃん…なんで引き受けちゃったかなぁ…」

「先生にお昼奢って貰ったんだし仕方ないでしょう……全員分よ全員分!」

「それでもさぁ~…」


 心底校門をくぐるのが嫌そうな2人とは対象的に……


「前から少し興味あった学校…楽しみ」

「そうですよ~!先輩方もせっかくの母校なんですし気軽に行きましょ、気軽に!」


 なかなか入る機会の無い学校ということでテンションの上がっている同級生と後輩が居た。


「母校で実情を知ってるからこそ入るのが億劫になってしまうのよ…ところで雫さん、なぜ貴方までここに居るのかしら?」

「それ今更聞くことです!?私だって慎さんの先生にお昼奢ってもらったんですから行くしか無いでしょう!」


 俺の右隣には後輩……雫が翔子さんにくっつきながら立っていた。

 たしか雫は配達のお礼に先生がお昼奢ってくれるという話になり、その道中でバッタリ会ったはず…あまりに自然な合流で誰も疑問に思っていなかった。


「あはは、たしかにいつの間にか一緒になってたね~。けど部活は大丈夫?」

「もちろんです!ウチはテスト最終日もお休みですから!」


 優愛さんの問に自信満々に答える雫。そういえば部活休みだったっけ……マネージャーはともかく、選手は大会のエントリーをこの時期にするから休んだ記憶が……


「優衣佳さんも、届け物ってことは受付にお願いして終わりなんじゃないかな?だから2人が心配することは無いと思うよ?」

「そ…そうよね、言われてみればそのとおりだわ。それなら人に会うこともないし…ほら優愛、行くわよ」

「えっ!?それで終わっちゃうの!? ここの食堂美味しいのに~!」


 優衣佳さんが前向きになったが優愛さんはまだ寄りたいところがあるようだ。


「優愛さん、さっきまで入りたくない筆頭じゃなかったっけ…?」

「そうだけど…ここの食堂のこと思い出したらそんなのどっか行っちゃった!」


 優愛さんのお腹の音が鳴る。それを聞いた翔子さんは天を仰ぐもすぐに優愛さんの元へ歩いていく。


「……優愛、私たちはさっき何してきた?」

「さっき?さっきは先生の行きつけの店でカレー食べてきたよ!すっごく美味しかった!!」

「優愛、大盛り頼んでた」

「うんっ!あのスパイスの香りはいいものだねっ!」

「なのに、まだ食堂へ行くの?」

「うっ……」


 翔子さんの目に圧されさすがの優愛さんもたじろいでいるようだ。


「…優衣佳、行こう」

「そうね、優愛を見てたら私の気持ちも有耶無耶になっちゃったわ…ほら、雫さんも」

「あっ、はいっ!」

「……まって!ここの食堂はデザートやコーヒーもすっごく美味しいんだよ!!」

「「「……」」」


 その言葉を受けてか3人は一斉に足を止める。


「でも優愛さん、もう昼過ぎて開いてないだろうし…そもそも部外者の俺たちが使えないんじゃない?」

「甘いよ慎也くん!食堂は放課後まで開いてるし入館証を付けてれば利用できることも確認済みだよ!!どうかな雫ちゃん、一緒に美味しいデザート食べない?」


 泣き落としだ。優愛さんはその目に涙を貯めながら雫をまっすぐに見つめる。



「……先輩がたごめんなさい!私は優愛先輩に付きます!!」


 デザートの魅力に負けたのか、はたまた優愛さんに負けたのか。顔を右往左往させながら悩み抜いた雫は優愛さんへ抱きついて鞍替えを果たすのであった。



「私のおすすめはイチゴのタルト!生地いっぱいに乗った甘~いイチゴがとっても美味しいんだ~!」

「イチゴのタルト……優衣佳、ごめん。私も」


 今度はイチゴに惹かれた翔子さんがこちらに駆け寄ってくる……残るは優衣佳さんだけとなった。



「それにさお姉ちゃん、私がコーヒー好きになったのはここでコーヒーを飲んでからなんだ。ここのも酸味が少なくってお姉ちゃん好みだと思うんだよね!だからお姉ちゃん……一緒に行かない?」


 優愛さんが優衣佳さんへ駆け寄って両手を包みながら話す。しばらく優衣佳さんは耐えていたが彼女の瞳に折れたのか、大きくため息をついた。


「…仕方ないわね、今日だけよ」

「やった!ありがとうお姉ちゃん!」


 どうやら食堂で一服することで話はついたようだ。優愛さんが飛び跳ねて喜んでいる。


「優衣佳さん、ありがとう。実は俺もさっきの話聞いて興味湧いたんだ」

「あれだけ押されたらね…それに私も3年間通ってたくせして食堂は使ったことなくて気になっていたのよ」

「そうなの?」

「ええ、場所を利用することがあってもずっとお弁当だったわ。だから、今回はいい機会なのかもしれないわね」


 そう言う彼女の目は優しげだった。






 あれから受付まで歩みを進めた俺たちは優衣佳さんに交渉を任せ、玄関で戻ってくるのを待っていた。時々通る生徒たちに見られながらも話し方などの違いから俺たちとは住む世界が違うんだと実感する。


 数分ほど経っただろうか。優衣佳さんがいくつかのネックストラップを片手に戻ってくる。


「おまたせ。なんとか人数分の入館証貰ってこれたわ」

「ありがとう、優衣佳さん」


「受付の人と顔見知りで助かったわ。本来ならマズイんですって」

「それは……苦労をかけたね」

「いいのよ。あの人も二つ返事だったし」


 そういう優衣佳さんの顔は少し眉間にシワが寄っていた。


「…何かあったの?」

「いえ何も…そうね、さっきすれ違った生徒に言われたのよ…」

「なんて?」

「女王様って……中学の頃は何も思わなかったけど今改めて聞くと恥ずかしくって」


 そういえば優衣佳さんはそう呼ばれてみんなから羨望の的だったっけ。


「優衣佳先輩が女王様、ですか?」

「あ~、そういえばお姉ちゃん、たまにそういうふうに言われてたね~」


 優愛さんが思い出すかのように返事をする。


「優愛、由来知ってる?」

「なんだったかなぁ…たしか笑わない~、とか微笑の~、とかがついてたからソレかも。私も妹になるまではずっと近寄りがたかったもん」

「そんな枕詞があったのね…私はただ必死に過ごしてただけなのに…」


 乾いた笑いがでる優衣佳さん。笑わないとか、今の優衣佳さんを見ていたら絶対に出てこない二つ名だ。

 ふと声がすると廊下の奥に視線をやると数人の女生徒が小走りでこちらへ走ってくるのが見えた。背格好的に中学生くらいだろうか。


「急がないと遅れちゃいますよ!」

「はいっ!もう少しで着きますね!」

「はぁ・・はぁ…まって、くださぁ……きゃぁ!!」


 走って俺たちを追い抜いていく女生徒達。その中の1人が俺の横を通り過ぎようとしたタイミングで足を絡ませて躓いてしまう。


「っ……!間に合えっ!!」


 俺は反射的に頭から飛び込んで少女の懐に入り込む。一か八かの賭けだったがなんとか少女の肩を掴むことができ、そのまま俺の元へと引き寄せて床との衝撃を1手に引き受けた。


「ぅ………!!」


 さすがに無理な飛び込みをしたからだろう。身体に痛みが走るが守っている手前、声に出さないことに成功する。





「へ…?え……!?」

「……よかった。なんとか間に合ったみたい」


 間一髪だった。少女は俺の胸の中に収まり最悪の事態を回避することはできた。


「ほら、立てる?」

「あっ…はい…」


 少女は混乱しているようだが素直に自分の足で立ってくれた。先導していた少女たちも戻ってきてくれる。


「大丈夫ですか!?遠野さん!!」

「はい、心配してくれてありがとうございます。私は大丈夫です。……それと…そのぅ…」


 少女は顔を真っ赤に染め俺の方を見上げてくる。背の高さ的に中1か、よくて中2くらいだろうか。


「突然抱きしめてごめんね。怪我はない?」

「はい……助かりました。なんとお礼を言ってよいのやら…・」

「気にしないで。怪我がなくて何より―――――っつ!!」


 話している最中突然ぶつけたわけでもない背中に痛みが走る。気づいていないだけで怪我をしてしまったのかと思ったがそれも違った。誰かが俺の背中をつねったようだ。

 誰がつねったのか振り向くと後ろには優衣佳さんと優愛さんが立っているが二人ともどこか別の場所を向いて俺の視線を物ともしない。


「ま~たそうやって慎也くんは女の子を落とすんだ…」

「一体何人惚れさせれば気が済むのかしらね…」


 2人が俺にしか聞こえない声で抗議してきて視線が痛い…。あの、庇っただけなんですが…


「あら?そちらにいらっしゃるのはもしかして女王様…川瀬様でいらっしゃいますか?」

「え?たしかに川瀬は私ですけれど…」


 俺たちのやり取りが目に入ったのかグループを先導していた少女が問いかけてくる。


「まぁやっぱり!覚えておいでですか!?私、貴方様に去年ご指導頂いたことがありまして!」

「え?……そ、そんなこともあったかしらね……?詳しく教えてもらえる?」

「喜んで!あれは私が入学したての頃―――――」


 少女たちは一瞬にして優衣佳さんを取り囲む。俺はようやく針のむしろから逃げられると数歩ゆっくり後ずさりをするが………


「………何をするのかな?雫さんや」

「どこに行くんですか?慎也先輩」


 それを許さなかったのは雫だった。いつの間にか俺の近くまで来て後ずさる俺の腕を掴んで引き止める。


「……やだなぁ、そこのトイレに行こうとしただけだよ」

「そこのトイレ、女子トイレしかありませんよ?」

「………くっ!」

「逃しませんよっ!   とぅ!!」

「ちょっ!? 雫!?」


「「「キャーー!!」」」


 逃げようと画策したところで雫に思い切り抱きつかれる。その際女子たちから黄色い叫び声が聞こえるがかまっていられない。


「ここで抱きつくなって!!」

「ヤです!離したら絶対逃げるじゃないですか!」

「逃げないから!」


「それにここじゃなかったらいいんですね!?それなら今から私と2人きりでそこのトイレに逃げ込みましょう!!」

「それは絶対に嫌だ!それにワザと押し付けてるでしょ!?」


 俺の背中に柔らかいものを。

「ワザとに決まってるじゃないですか!さぁ、そこのトイレに一緒に入りましょう!」

「入るものか!」

「…雫さん、その辺に。ここは人様の学校よ。離してあげてもいいんじゃないかしら?」


 俺と雫で喚いていると優衣佳さんがアシストをしてくれた。雫はその言葉を聞きハッとした様子で俺を開放する。


「ごめんなさい……ちょっとテンション上がりすぎちゃったみたいです…」

「ありがとう、優衣……女王様」

「どういたしまして慎也君。セクハラ罪で次会う時は裁判所ね、私が裁判長で弁護なしよ」

「ハートの女王様!?」


 思わぬ追撃を喰らってしまった。翔子さんなんかクスクス笑っているし。



「何を騒がしくしているのです?」


 突然、奥から凛とした声が響き、この場に緊張が走る。


「申し訳ございません!友人が躓いたところを来訪者の方々が救ってくださって!」

「まぁ、それは危ないところを…ありがとうございます、あなた方。私からもお礼の言葉を申させて……あら? またお会いしましたね。前坂様に川瀬様」

「…そうね。数週間ぶりってとこかしら」


 奥から現れたのはゴールデンウィークに俺たちを助けてくれた恩人、兼島さんだった。

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