043.お誕生日会~後編~
「あれ?モモ、どうしたの?」
俺たち5人で人生ゲームを楽しんでいると、ふと雫からそんな声が聞こえた。見ると今まで大人しく膝の上で撫でられていたモモが前足を立たせてリビングの扉を凝視している。
「あっ!・・・いっちゃったぁ」
しばらく扉を見ていたモモは突然雫から飛び降りてリビングを出ていってしまう。そんなモモを雫は名残惜しそうに見つめていた。
「またすぐに戻ってくるわよ。・・・あら?」
優衣佳さんがフォローを入れるが、モモはリビングの外で玄関の扉を凝視しているのが目に入りゲームの手を止める。
「お姉ちゃん、誰か来たのかな?知ってる?」
「いえ、そんなことは聞いてないのだけれど・・・・・」
みんながゲームを止め、玄関のほうを向いていると扉の鍵がガチャン と開く音が鳴り響く。
そして玄関の扉が開きこちらからは見えない角度で何者かがこの家に入ってきた。
「優衣佳ちゃ~ん、いる~?あら、モモ~!!今日も元気そうね~!」
慣れた様子で上がってきたのはフォーマルな格好をした妙齢の女性だった。彼女は入ってきた瞬間モモに飛びつかれかまっている。
「佳恵子さんいらっしゃい。今日はどうしたの?連絡も無かったけれど」
優衣佳さんが席を立って訪問してきた女性を迎え入れる。どうやら顔見知りのようでホッとした。
「あぁ優衣佳ちゃん!お誕生日おめでと~!ほら、今日はめでたい日でもあるし仕事で近くに寄ったから顔くらい見に来ようかなって思ったのだけれど・・・・・あら、お友達?」
「ええ。みんな学校の友達よ。みんな、この人は荒井 佳恵子さん。父の妹・・・つまり私の叔母さんにあたる人よ」
「佳恵子さんなりおばさんなり好きに呼んで頂戴な。今日は優衣佳ちゃんの為にありがとう・・・心配しないで、仕事も残ってるし顔見てすぐ帰るわ」
俺たちの存在に気づいた佳恵子さんは微笑んで挨拶をする。俺たちもそれにつられて席を立ち、それぞれ挨拶を行った。
「誕生日会をしてるのだったら私もプレゼント持ってくれば良かったわね・・・どうして私にも連絡くれなかったのよ?」
「友達がいる中呼んだら萎縮してしまうでしょう?今度遊びに行くからその時頂くわ」
「そうね。今もアウェーみたいだし仕事に戻ることにするわ。みなさんゲームしてる最中にごめんなさいね」
「そんな、アウェーだなんて」
「いいのよ、気にしないで」
雫が佳恵子さんの言葉に返事をし、優衣佳さんが一つ息を吐く。
「ホントに顔見に来ただけだったのね。何か用事でもあったんじゃないのかしら?」
「2人だけだったらお寿司でも行こうかなと思っただけよ。お友達もいるし、優愛ちゃんも元気そうだしでよかったわ」
「はい・・・ありがとうございます」
佳恵子さんに話を振られた優愛さんはいつもと違ってしおらしく挨拶をする。
「それじゃあ私は行くわ。みんな、今日はわざわざ優衣佳ちゃんの為にありがとう。優愛ちゃんも、またね」
「はい・・・・・・・今度、私も叔母さんの家にあそびに行きますね」
「・・・えぇ。待ってるわ。 それじゃあみんなはゆっくりしていってね」
そう言い残して佳恵子さんは出ていった。妙な空気が家の中に残ってしまう。
「あの人が私たちの親権を持って二人暮らしを許してくれた人。優愛はまぁ・・・いろいろあるのよ」
「えへへ・・・私が勝手に変な感情持っちゃって上手く話せないだけなんだけどね」
優衣佳さんがモモを抱えてリビングに戻ってきた後、優愛さんが苦笑いしながら説明する。
彼女も表に見せないだけでそれなりの苦労をしてきているのだろう。
「ん。優愛なら大丈夫。いつもの調子でいけば、問題ない」
「翔子ちゃん・・・ありがとぉ」
そう言って翔子さんは優愛さんを撫で始める・・・・・・が、すぐさま翔子さんを抱きしめて撫で返されてしまっていた。
「むぅ・・・・・・」
今日も優愛さんに勝てなくて不満そうだ。俺がそんな2人を見てホッコリしていると隣の雫が服を引っ張ってきた。
「慎さん。あの2人はいつもあんな感じなんですか?」
「へ?・・・優愛さんと翔子さんのこと?確かによく翔子さんは抱きしめられてるね・・・それがどうかしたの?」
「ええ、私は思ったです。抱きしめられてる元会長さんは不満顔ですがどこか気持ちよさそうじゃないですか。だから私もその体験をしてみたいと!というわけで!慎さん!どうぞ!!」
そう言って平常運転の雫は両腕を俺のほうに差し出してきた。俺がどう突っ込みを入れようか悩んでいるとふと後ろの影に気がつく。
「そうだね。雫もその体験を是非してもらわないとね」
「慎さん!それじゃあ!!」
雫の顔がパアッ!っと明るくなる。よし、乗ってきた。
「ええ。そのとおりね。任せて頂戴」
「へ・・・?きゃぁ!」
明るくなったのもつかの間。優衣佳さんが雫の後ろから抱きしめてその胸に埋もれさせる。
「もうっ!慎さんが抱きしめてくれると喜んだのにぃ!! あっ、でも優衣佳先輩も柔らかくて優しくて・・・けっこう気持ちいいです・・・ふぅ・・・」
「ふふっ、喜んでもらえてよかったわ。それにしても雫さん、やっぱりスタイル凄くいいわね・・・」
「私なんて全然ですよ~!背もちんちくりんだし・・・優衣佳先輩こそ私に比べて凄くスタイルいいじゃないですか~!」
「雫・・・それは私に対してのあてつけ・・・?」
「ヒッ!?会長さん!?」
いつの間にか優愛さんから開放された翔子さんが拘束されているのをいいことに雫の胸を鷲掴みにする。というか翔子さんへの呼び方が戻っているし・・・
その様子を凝視するわけにもいかない俺は目線を彷徨わせているとふと優愛さんと目が合い、手招きしていたのでそちらに足を運ぶ。
「優愛さん助かったよ。流石にあの場に居続けるのは辛くって」
「慎也くんは紳士だもんね~。それとも慎也くんも抱きしめられてみる?」
「馬鹿言わないよ。俺だって恥ずかしいんだから」
優愛さんから服をつままれながら提案をされるが丁重にお断りする。すると素直に引き下がった。
俺はホッとして優愛さんの隣に腰掛けて持ってきた飲み物に口をつける。
「さっきはね・・・私が叔母さんに勝手に罪悪感持ってるだけなんだ」
「罪悪感?」
普段の優愛さんからは聞き慣れない言葉に俺は聞き返す。
「うん。私、叔母さんに引き取られてから学校以外はずっと部屋に引きこもってたの・・・それでお姉ちゃんや叔母さんにすっごい迷惑かけちゃって・・・・・・」
「そうなんだ・・・それは、難しいね・・・」
今までの話を思い出すと優衣佳さんには頼れる親族がいたが優愛さんの周りではそういうことを聞かなかった。つまり優愛さんの周りには頼れない環境だったのだろう。
「叔母さんからみたら私って血の繋がりもない他人だからさ、すっごい迷惑だったと思うんだよね。それでもお姉ちゃんと同じように扱って、心配してくれてさ。それで最近ようやく立ち直ってきたんだけどその時のことを引きずっちゃって上手く話すことができないんだよね・・・あはは・・・」
「・・・それでも、佳恵子さんは優愛さんから来てくれるのを待ってるんだと思う」
さっき初めて会った人だけれど、きっとそうなのだろう。
「そう、かな?心の底では迷惑だって思ってないかな?」
「それはないよ。さっき優愛さんを見る目、すっごい優しい目だった。きっと優愛さんのことを受け入れてくれるよ」
「そっか・・・・・・なら、お姉ちゃんが叔母さんにあう日、私も頑張ろう、かな」
頑張れ。優愛さんの本来の笑顔はきっとみんなを元気にさせる明るさだから。
「・・・・・・慎也くん・・・あの日、助けてくれてありがとね」
しばらく2人とも無言でいたがそう話を切り出される。
「あの日?助けるっていえば入学前のこと?」
「うん。あの日助けてくれなかったら私、腐ってたと思うんだ。佳恵子さんにも顔向け出来なかったし学校にも行けてなかったと思う」
「俺にはそこまでした実感はないんだけどな」
「私がそう思ってるからいいの!」
「そっか・・・・・・うん。俺も優愛さんに会えて毎日楽しいよ。そういう意味では俺も優愛さんに助けられたかな?」
「そうなの?私、迷惑とか思ってない?なんの役にも立たない私よりお姉ちゃんのほうがいいとか・・・」
そう言ってくる優愛さんの表情はこちらからは確認できない。
「そんなっ!・・・そんなこと一切思ってないよ。俺は優愛さんの明るさで救われてるし、優愛さんは空気を読むのが上手くて裏で支えてくれるから、むしろ居てほしいっていつも思ってる」
「ホント?ホントに私邪魔じゃない?」
「もちろん。あと、あの日会えなかったら腐ってたって言うけれど優愛さんの言葉を借りるなら、きっと高校入った後で俺が助けに行ってたよ。同じクラスの優愛さんに気づいてね」
「そっか・・・・・・・助けに・・・・・・ありがとね。慎也くん・・・」
彼女は聞こえるかどうかの小さな声でお礼を言う。
「どういたしまして。さて、そろそろ雫を助けにいかないとね」
「うんっ!でもその前にちょっといいかな?」
「うん?どうかし――――――――」
俺が聞き返そうと彼女に顔を向けようとしたが、その時にはもう彼女の顔が目の前に迫っていて――――――
「えへへ・・・本当はココ狙ってたんだけど失敗しちゃった・・・・・・ほら、みんなのところへ行こっ!」
口元に人差し指を当て、照れ笑いをしながらみんなのところへ向かう優愛さん。俺は自分の頬に手を当て、先程までそこに触れていた柔らかい感触に気を取られていた。




