039.雫とデート~前編~
波乱万丈な林間学校から帰ってきた翌日。俺は以前4人で遊んだ日と同じ駅前である人物を待っていた。
メッセージによるとそろそろ姿が見えてもおかしくないのだが・・・・・・
「・・・さ~ん!・・・んさ~ん!」
「この声は・・・お~い!」
人混みにまぎれて何やら俺を呼ぶ声が聞こえ、俺もその方向に声を上げる。
しばらくすると人混みをかいくぐるように目当ての人物が姿を現した。
「はぁはぁ・・・慎さん!おまたせしました!!」
「おはよう、雫。相変わらず人混みの中だと見つけるのが一苦労だね」
「む~!どうせ私はチビですよ~!! わ~~!!」
俺の肩が頭頂部にあたる女の子が腕をワタワタさせて怒りを表明してくるが、俺は彼女の頭をワシャワシャすることで適当に誤魔化す。
「それにしても、昨晩っていう突然の誘いだったのにありがとね。部活とか無かった?」
「お気になさらずっ!たとえ部活があろうと私は慎さん専属のマネージャー・・・それがたとえ火の中水の中でもお供いたしますよ!!」
「もう部活は辞めた身だけどね」
「私の中では終身専属マネージャーなのですっ!ところで・・・・・・慎さん、いつもと雰囲気というか、格好が違ってません?」
雫に言われて俺は自身の姿を確認する。白シャツの上に藍色のラフゲージでできたTシャツ、下は黒のスキニーにキャンパスシューズと・・・あぁ、これは以前優衣佳さんと優愛さんに選んでもらった服装だ。
「確かにこれは買ってもらったものだけど、そんなに印象違うかな?」
「違いますよ!以前まではジャージかワイシャツしか着てなかったのに、なんだかこなれてる感というか・・・って、誰に買ってもらったんです?」
「えっと・・・前に食堂で会った優衣佳さんと優愛さんにだけど・・・」
「なるほど。あのお二方ですか・・・」
雫は一歩俺に近づいて詰め寄るも、俺の言葉を聞きもとの位置へ戻って何やら考え事をしてしまう。
彼女の格好は黒のレースブラウスにベージュの膝下まで伸びたフレアスカート、更に灰茶色のフラットヒールに黒いミニバッグを肩に掛けていて大人っぽく見せているが、もとの身長と雰囲気がアレなのでどうにも相殺されている気がしないでもない。
・・・・・・・だが、一部それとは不釣り合いなほど前に出ている部分がある上ブラウスをスカートの中に入れているため、そこが強調されて絶妙なギャップを醸し出している。
「えっと・・・雫もその格好、学校とは違う大人びた印象を与えて綺麗と可愛さが両立してるね」
「えっ!?あ、ありがとうございます・・・。でも、前までそんなこと言うキャラじゃなかったのに・・・どうしたんですか!?」
「そうだっけ・・・? あぁ、前に散々感想求められたからかも・・・それより、その、その格好だと一部が強調されてて、えっと、なんていうか・・・」
「目の毒?」
「そう!目の毒だから気をつけないといけないよ」
そう俺が注意すると雫が待ってましたと言わんばかりの勢いで俺の右腕に抱きついてくる。
「慎さん!それは独占欲ですか!?俺だけに見せればいいんだよってことですか!?」
「なにを馬鹿なことを!ただ周りの目もあるし雫自身の危険を心配して・・・」
「やだなぁ。ずっと言ってるように私の身体は慎さんの為だけにあるんですからそんな独占欲見せつけなくてもいいのに・・・でも、慎さんの所有物って感じがして私としては嬉しいんですけどねっ!」
ダメだ。聞いていない。
「あーはいはい。俺のために嬉しいよー」
「あ~!そんな棒読みでいいんですかぁ!?それだったら今日の買い物で何一つ助言しないってこともできるんですからねっ!」
「ごめんごめん。今日も雫は可愛いよ」
「えぇ!?ずっと側に居ろですって!?しょ~がないですね~。今日は1日腕に抱きついててあげますよぉ!」
「・・・・・・ほら、ずっとここに居ても仕方ないしそろそろ行こうか」
俺は話の噛み合ってないのを気にせず今日の目的の場所へ向かおうと足を向けると雫も何やら喋りながらも着いてきてくれる。
「・・・・・・ところで慎さん。買い物に付き合えってことしか聞いてないんだけど、何を買うんです?」
「あぁ、俺も昨日知ったんだけど明日優衣佳さん・・・姉妹の背が高い姉のほうね。の誕生日みたいでさ、それで集まろうって話になったんだけど誕生日プレゼントがどうしても思いつかなくって雫に助けてもらおうって思ったんだよ」
そう、昨日林間学校から帰りのバス内にて優愛さんにそのことを聞いた時は本当に驚いた。過ぎてから知らされるよりかは全然良かったのだが、プレゼントも何も考えてなかった俺としては寝耳に水である。そこでいつも買い出しなどで一緒になる上に意見を聞きやすい雫を呼ぶことにした。
「あぁそれですね~、ちょうど良かったですよ。私も会長さんに誘われてましたから、一緒に選びましょっ!」
「えっ、雫も呼ばれてたの!?ってことは俺の助言をしながら自分も考えることになるんだけどよかった?」
「もちろんですっ!二人で選ぶってことはプレゼント被りも起こり得ないってことですから!!それに・・・・・・私が慎さんのお願いを聞かないなんて、ありえません」
雫は段々と口調が柔らかくなり、俺の腕を抱く力が強くなる。俺はつい気恥ずかしくなってしまい別の話題を模索する。
「そ、そういえば俺が辞めてからの部活はどんな感じ?」
「そうですねぇ・・・あまり変わりは無いですよ。マネージャー業も高校の先輩方が主流ですし、私たちは基本暇です。なんですか?戻ってきたくなっちゃいましたか?」
「俺にはそんな時間取れないの。それで暇な雫は何してるの?」
「去年までは慎さんっていう専属がいましたからねぇ・・・今は今年入った新入生の子を見てますよ~それがもうホント良い子で・・・・・・どうです?気になっちゃいます?妬いちゃいます!?」
雫がにやけ顔でこちらに問いかけてくるものだから、つい俺は腕を振りほどいて先に歩く。
「冗談ですって~!今は新入生の女の子を見てますよ。それが頑張り屋で、応援したくなっちゃうんですよね」
「そっか。雫は高校でもマネージャーを続けるの?」
「・・・それが考えてるんですよねぇ。慎さん居ない今続けるのもなんだかなぁって感じですし、保留中ですっ!」
「・・・そっか。まだ1年あるしゆっくり考えれば・・・っと、ここだ。ここでプレゼント買おうと思うんだ」
俺はとある建物の前で立ち止まった。そこはビル一棟全て使って雑貨を販売している便利な店だ。アテなど無いがここなら何かしら良いのが見つかるだろう。
「たしかに、雑貨屋さんならハズレは少ないかも知れませんね。さっ、早く選んじゃいましょ!」
雫は入り口の案内を見ている姿に痺れを切らしたのか俺を引っ張ってズンズン入店する。
「ところで慎さん、ある程度でいいんでこういう物を買おうとか目星は付いてるんですか?」
「うん。優衣佳さんは料理をよくするから、それにまつわるものを買おうかなって考えてるよ」
俺の腕から離れた雫はエスカレーターのすぐ上の段に乗りながら話しかけてきた。
「料理、ですか・・・ちなみに優衣佳先輩の持ってる器具とかってわかるんです?」
「・・・・・・わからない。」
「ですよね。なら道具とかではなく消耗品かオシャレな物のほうがいいですよ。そっちのほうがたとえ被ってもダメージは少ないです」
「なるほど・・・でもオシャレ用品ってそれこそ好みがあるんだからハズレやすいんじゃない?」
「・・・・・・少ししか知りませんが、あの先輩が慎さんからのプレゼントを喜ばないはず無いじゃないですか」
「・・・・・・」
俺は何も返せなかった。それにしても着いてきてもらって助かった。最初は暴走してどうなるかと思ったがこうやってキチンと相談に乗ってくれるところは好ましい。
「それで慎さん。どうします?料理関係のものにしますか?」
「いや、やめておくよ。振り出しに戻ったけどもう一度考え直してみる」
「はいっ!慎さんのその諦めない姿勢、私は好きですよ」
俺は調理系のフロアから1個下に降りて辺りを見渡してみる。すると一つのPOPが目に入った。えっと、『夏が近い今だからこそ・・・』なるほど、これなんてどうだろう。
「雫。これ」
「えっとぉ・・・いいじゃないですか!それなら優衣佳先輩にも合いますし絶対喜んでくれますよ!!」
「よかった。じゃあ俺は先に会計してくるね」
雫も大賛成でよかった。それならと、俺はそれを2つ手に取り手早く会計を済ませる。
「おかえりなさい。さっき2つも持って行ってましたけど両方渡すんです?」
「いや、もう片方は雫にと思って。ほら、今日付き合ってもらった・・・相談料?というか手間賃?というか・・・」
俺は自分で言ってて恥ずかしくなりながらも片方を雫に突き出す。
「慎さん・・・・・・んもうっ!どれだけ慎さんは私をキュンキュンさせたら気が済むんですか!ありがとうございます!!」
雫は満面の笑みで受け取って俺へ抱きついてきた。正面から抱きつかれるとお腹のところに柔らかいのがあたって・・・いや、押し付けてる!?
俺はすぐさまその両肩を掴んで引き離す。
「雫、ここは店の中だから」
「じゃあ誰も居ないところなら良いんですね!慎さん、行きましょう!!」
「行かないから・・・それよりも雫の分のプレゼントも買わなきゃ」
「ぶぅ、仕方ないですねぇ。慎さん、そっちの荷物貸してください」
「え?別にいいけど・・・」
そう言って雫は俺の荷物を受け取って2つの紙袋を片手で持つ。
「会長さんから聞きました。慎さん、腕怪我しているそうですね」
「あっ・・・知ってたんだ・・・」
「だから今日は私が慎さんの左腕になります!それに右腕が空いて無いと私が抱きつけませんしっ!」
「はぁ、もう好きにして・・・」
「はい!好きにしますっ!それじゃあ私の分のプレゼントも一緒に選んでくださいね!」
雫は再度俺の腕に抱きついて店内を散策し始めるのであった。
「ふぅ~!やっぱりここのフラペチーノは最高ですね!慎さんもそう思いません!?」
「うん。この店はハズレが少ないからいいよね」
プレゼント選びの終わった俺たちは近くにあるコーヒーチェーン店にてお昼という話になり俺はホットコーヒーとサンドイッチ、雫はフラペチーノにサラダラップを選択した。
「それで、これからどうします?」
「どうするって・・・俺はプレゼントを買ってもらう為に呼んで目的は達成したけど・・・」
「言っておきますが、このまま帰るなんてのはダメですからね」
「・・・やっぱり?」
「もちろんです!卒業まで一緒に居たのにそれからというものの慎さんはずっと放置だったんですから!その穴埋めのために今日はたっくさん遊んでもらいますからね!!」
家族の引っ越しの準備につきあわされたりあの2人と出会ってからはずっと一緒に居たから仕方ない。今日のところは雫の為に1日使うことにしよう。
「それじゃあ、ありきたりだけどゲーセンとかの複合施設は?」
「それも悪くないんですが、あいにく今の私はこんな格好でして・・・あえてそれが良いっていうんでしたらお供しますけど・・・」
しまった。いつも雫は部活着とかラフな格好で着てたから失念していた。・・・ここまでおしゃれして出かけることって俺たちの間ではこれが初めてな気がする。
「ずっと部活ばかりだったから、こういう時どこ行くとかのレパートリーがないのが辛いね」
「私としては、慎さんと一緒に居られればどこでだっていいんですけど・・・」
不意にそんなことを顔を赤らめて言うものだからつられて俺も顔が熱くなるのを感じる。
「・・・それなら、一層悩んじゃうなぁ」
「それじゃあ慎さん!あそこなんてどうです!?」
そう言って彼女はコーヒー店からほど近い店を指差した。
昔先輩にプレゼントならタイツ一択と力説されました。




