029.身体測定
ショッピングモールにて三人で買い物をしてから二日・・・今日は学校で身体測定が実施される日だ。
ウチの学校の身体測定は午前授業を全部潰して行う。内容としては反復横跳びやハンドボール投げ等の体力テストと、更に身長・体重測定等を昼までに消化するプログラムだ。
天気は晴れ、この分なら外での測定も問題なくできるだろう。
俺は荷物を確認して家を出る。エレベーターを降りて自動ドアをくぐると目の前によく見知った女性が立っていた。
「おはよう、翔子さん。通学ルートでもないのにどうしたの?」
「ん。待ってた」
彼女はたしか電車通学で我が家を通るルートでは無かったはずだ。わざわざ降りる駅を変えてまでここで待つというのは何か用事があるのだろう。
「そっか・・・ちなみに俺、翔子さんに家の場所教えたっけ?」
「生徒会の時・・・隣で住所書いてた・・・」
そういえば生徒会活動の一環で住所を書いていた気がする・・・きっと隣に座っていて目に入ったのだろう。たしか翔子さんも書いていたはずだがその内容までは思い出せない。
「たしか相当前だったのによく覚えてたね・・・」
「迷惑だった?」
「そんなことないよ、びっくりしただけ。遅刻しちゃうし早いとこ学校に向かおうか」
「ん」
俺は翔子さんを連れて学校に向かう。彼女はまたショッピングモールと同じように俺の背中に張り付いて服をつまみながら歩いていく。
「あの~・・・翔子さん?」
「ん?」
「さすがに通学路で服つままれて歩くのは、ね?」
「・・・嫌?」
「嫌というか・・・その・・・えっと・・・」
恥ずかしい。ショッピングモールだとまだ知り合いに会う確率は低くなるから別に構わなかったが、通学路となるとほぼ確実に知り合いに見られるわけで、あまりよそ目を気にしない俺としても意識するものがある。
なんて言ったって今の彼女はまだ少し眠いのか目の端に少し涙を溜めている。そんな状態でうつむき加減で着いてこられた日には、痴話喧嘩で泣かされてついてくる図に見られてしまう可能性がある。
「・・・からかっただけ。ちゃんと歩く」
翔子さんはそう言ってつまんでいた指を離す。ハンカチで目元を拭ってから俺の隣に移動し、そのまま抜き去ってしまった。俺も緩めていたスピードを戻して彼女の速度に合わせる。
「それで、なんの用事?」
「? なんのこと?」
「えっ、いや、なにか話したいことでもあるから家の前で待ってたんでしょ?」
「違う・・・ただ、一緒に学校行きたかっただけ」
俺は虚をつかれた。彼女はそんなことを言う女子だっただろうか、いや、少なくとも中学からこっち、彼女は話しかけられたら返すが基本一人でいるタイプだったはずだ。なにか心境の変化でもあったのかわからないが、優衣佳さんや優愛さんの影響で社交性が少しづつついてくれたら俺も嬉しい。
彼女の成長に喜んだ俺はそのままなんてことのない世間話を切り出す。
「そっか・・・ねぇ、翔子さんは今日の身体測定自信ある?」
「・・・・・・・・・・・・まったくない。去年から成長して・・・るといいな・・・・」
そう言った彼女はこの世の終わりのような顔をして自身の胸の辺りをフニフニと両手で触れる。
「ごめんっ!そっちじゃなくって反復横跳びとか体力テストの方!」
「・・・知ってた。慎也くんは、デリカシーないこと、聞かないから」
「わかってたのなら素直に答えてくれたら良かったのに・・・」
「慎也くん・・・からかわれてるとこ・・・好きだから」
「はいはい・・・それで、そっちの自信はどうかな?」
「それもない。できる人が、羨ましい」
「多分できる人にとっては翔子さんの頭脳を羨ましがってると思うよ・・・」
俺たちは他愛も無い話をしながら学校へ向かった。
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「ほら、慎也。お前のスコアだ」
「サンキュ。智也のもはい」
時は飛んで昼前の授業時間。俺たち男子は早々に身長体重等を測り終え、体力テストを行った。悔しいことにスコアは前屈と幅跳びを除いて智也の圧勝だ。なにかチートでも使っているんじゃないだろうか。
「慎也は入学時からずっとシャトルランとボール投げはかなり弱いよな。肩と持久力付けたらどうだ?」
「それでも平均は超えてるから満足だよ。球技はどうしても好きになれないしね」
「まぁ、何でもいいけどよ・・・それより知ってるか?」
智也は俺を引っ張って周りに声が届かない位置まで移動する。
「何を?」
「一昨日川瀬姉妹をモールで見たってクラスの奴が言ってたんだが、学校では見たこと無い笑顔してて更に男がいたってよ。あの二人は美人で有名だからなぁ・・・お前、なにか聞いてるか?」
「あ~・・・・・・・・・いや、それに関しては気にしないで。ホント、大丈夫だから」
「大丈夫ってお前・・・って、あぁ・・・そういうことか。で、どうだった?」
智也はニヤニヤと笑みを浮かべてわかったように問いかける。おれは思わず顔を背けてしまう。
「どうって、何が?」
「何って三人でデートしたんだろ?楽しかったか?」
「まあ、ね・・・あと三人じゃなくて四人だった」
「四人?あと一人は?」
「・・・・・・翔子さん」
俺の返答を聞いて智也は目を丸くした。
「翔子さんって、井野さんのことか?元生徒会長の」
「そう。元生徒会長の」
「なるほどなぁ・・・井野さんも結構モテてるみたいだし、羨ましいなぁ。お前」
「そう・・・羨ましい言ってたこと今度彼女さんに伝えておくね」
例のごとく連絡先どころか顔も知らないけど
「悪かったって。でも問題なかったな・・・一応、俺のほうで噂になる前に止めるようにしておいたんだが・・・」
「いや、ありがとう。変な噂立っても二人の気分を害するだけだし助かったよ」
「・・・・・・俺が止めなくてアイツに報告いっても面倒だからな」
アイツとは彼女さんのことだろう。智也の1日1ツンデレはノルマなのか?
「噂を止めるってそんなことできるの?」
「あぁ、簡単だぞ。それよりもインパクトのある話を出せばそっちに気を取られるからな」
「・・・・・・どんな?」
「お前が、実は女子より男子のほうが気になってクラスの男全員狙ってるってな!本人も標的になったらそりゃあインパクトあるだろ!」
「智也ぁ!!」
「ははっ!冗談冗談!!」
逃げる智也を追いかけようとしたタイミング集合がかかり、先生のはからいで少し早めの昼休みになる。教室に戻ると女性陣は既に教室で談笑をしていた。俺は一昨日遊んだ三人が固まっていたので合流する。
「おかえりっ!慎也くん!結果はどうだった?」
「ただいま優愛さん。特に問題なかったよ」
俺はそう言ってスコアを彼女たちに見せる。
「あら、体力テストのスコア、凄いわね」
「いや、肩と持久力が全然だよ」
「全部平均突破してるんだから大したものだわ」
「ありがと。みんなはどうだった?体力テスト」
今度は朝のような失敗は繰り返さないよう気をつけて質問する。
「私は・・・全然」
「私もよ。なんとか平均にかかるってくらいだったわ。でも優愛のスコアが高かったわね」
「えへへ、それほどでも・・・それより見てよ!お姉ちゃんの!また大きくなってるんだよ、胸が!!」
俺は思わず固まってしまった。優愛さんは同じく固まっている優衣佳さんのスコアをひったくり俺に見せてくる。反射的にそれに目を通そうとしたところで――――――優衣佳さんが取り返した。
「・・・・・・・・見た?」
「・・・・・・・・身長だけなら」
「まぁ、それならいいわ」
本当に一瞬の出来事で身長しか見れなかった・・・・たしか166cmだ。
優衣佳さんは雑にスコアを鞄に入れ、優愛さんに詰め寄っていく。お仕置きだろうか、今回ばかりは仕方ない・・・
(優愛!あなたねぇ!)
(別にお姉ちゃんも慎也くんにならいいんじゃない?むしろ誇らしいんでしょ?)
(それは・・・その・・・)
(ならいいじゃん!実はちゃんと大事なところは付箋で隠してたんだし)
(あ!ちょっと!優愛!)
「ふぅ・・・惜しかったね~慎也くんっ!あ、ちなみに私の身長は155cmだよ」
お仕置きだったのか二人での密談が終わって優愛さんがこちらへ戻ってきた。やり遂げた顔をしている。
「私には、二人が羨ましい・・・せめて、優愛くらいの身長とスタイルが欲しい」
「翔子ちゃんの身長って?」
「・・・・・147」
「私は翔子ちゃんくらいの身長も大好きだよ~!!」
「むぅぅぅぅぅ」
優愛さんが翔子さんを抱きしめる。あぁ、翔子さんの絶望した顔が更に闇深く・・・・・・
「優愛・・・あなた・・・」
「げっ、お姉ちゃん・・・」
二人でイチャついてたところに優衣佳さんが戻っている。腕組をしていかにも怒っている様子だ。
「選ばせてあげるわ・・・今日の夕飯、ピーマンの細切れピーマン詰めか、ピーマンのみの炒めものか・・・」
「それどっちもピーマン単品じゃん!!ごめんなさい~!」
優愛さんは優衣佳さんにすり寄って許しを乞うている。翔子さんはやっと開放されたようだ。
そんなタイミングで昼休み開始のチャイムが鳴る。さて、今日のお昼でも――――――
「失礼します!!」
そういえば忘れていた、嵐というのはいつも突然おこるものだと・・・・・




