024.幕間2
今回は視点が変わります。
私は家にたどり着いてすぐ自室に入っていく。妹はお風呂に入ると言っていたから邪魔は入らないだろう。
そのまま学校指定のショルダーバッグを床に放ってから本棚に隠していた写真を取り出し、ベッドへ横になってからゆっくりと眺める。この写真を眺めることは撮った日からもはや日課だ。
私の瞳の先には笑顔で遊んでいる黒髪の少年の姿が。バレないようにこっそり撮ったとは思えない写真うつりだと、心のなかで自画自賛する。
この写真を撮ったのは小学校卒業直前だからもう3年以上も前のことになるのか。中学で撮る機会に恵まれなかったのは今でも悔しく思える。
彼には救われた。
小学生の頃私は近所の校区にある小学校に行かなかった。親の勧めで校区外の学校に受験して通っていたのだ。
しかしそれが祟ってか公園では知らない子として扱われた。当時引っ込み思案だった私は同年代の子と遊ぼうと話しかけても無視されたり居ないものとして扱われたりもした。
そんな時だ。彼が現れたのは。
彼は初めて会った私にも友好的に接してくれて一緒に遊んでくれた。おままごとという、今思えば小6の男の子にとってつまらないであろう遊びも快く付き合ってくれた。きっと一目惚れだったのだろう。私は彼とずっと一緒にいたいと小6ながら感じていた。
そんな彼は近所の中高一貫校に合格したと言っていた。私もその時には女子校に合格しており中学では一緒になることは叶わなかったが、高校では名前の知らない彼の学校に行こうと心の中で固く誓った。
それからは楽しい日々だった。中学入学までの殆どの日々を彼と二人で遊んだが、彼には友達が多く、多人数で遊んで私が入ることはできない日もあった。それでも遠くから彼の写真を撮ったりしていた。彼に気づかれるときっと恥ずかしがるからバレないようにこっそりと。中学に入ってからは公園に行っても彼の姿はなかったが、この輝かしい思い出と写真があればきっと何があっても大丈夫だろうという確信があった。
更に私はここしばらくのことを思い返す。
私の父が再婚して同級生が妹になった、ここまでは全然構わない。少しお互いぎこちないがそれは時間が解決してくれるだろう。
しかし時間は解決するどころか無情な現実を私たちに突きつけた。両親が他界してしまった。
私たちは叔母さんに引き取られる。
叔母さんたちは随分私たちによくしてくれたがそれでもショックは抜けきらない。妹なんか印象が180度変わるほどだ。私もかなりショックを受けたがあの男の子の存在、そして(隠し撮った)写真のおかげでまだ気が保てたほうだ。
その後はなんとか表面上は気丈に振る舞って叔母さんたちを説得し、私の生まれ育った家で二人暮らしすることが許される。
そこからの日々も大変なものだった。
妹は部屋に閉じこもってしまい、時間が解決してくれると思っていた仲も再婚当初よりも遠く離れてしまった。学校には行くもののそれ以外で外出はほとんどなく私ともほとんど話さなくなってしまったが、彼女の身の回りのことも全て私が母となって代わりにこなしてきた。
中学も卒業し、春休みも終わり間近というタイミングで、ついふさぎ込んでいる妹に突撃して怒鳴りつけてしまった。「いつまでもウジウジしてないで少しは割り切りなさい」と――――――
彼女ももちろん言い返そうとしていたがその時の私は相当気が立っていたのだろう。何も文句を言わせないとばかりに酷い言葉を投げかけていたと思う。それから彼女は家を飛び出した。私もただ一人の家族に心無い言葉を突きつけた後悔で泣いてしまっていた。
それでも夜は、明日はやってくる。彼女も行くところが無いので空腹には耐えられずいずれ帰って来るだろう、私はいつもの日々と同じように夕飯の買い出しに行くことにした。
家を出るところで私は気づく。モモの姿もない。リードも無くなっていることから妹が連れて行ったのだろう。
モモ――――――。私と妹の仲を少しでも深いものにするため両親が与えてくれた家族。結果的には仲良くなるどころの問題では無くなってしまったが二人が遺してくれた大切なモモ。きっとモモをきっかけに妹本来の明るさもいつか取り戻してくれるだろう。そしてあの綺麗な笑顔を私に見せてくれるだろう。
こんな生活が高校に入っても変わらず続いていくだろうと思っていたが、終わりは突然やってきた。
私が家に帰ってきたら見慣れない靴がある。それも男物の。叔父さんあたりでも来たのだろうとも思ったが叔母さんの靴が無いことも違和感がある。
警戒しながらリビングの扉を開けると妹と少年が座っていた。彼は背を向けているのが何となく同年代あたりだろうというのは予測できた。
「見慣れない靴があったけど、だれか来てるの?」
「こんにちは。お邪魔してます」
そう言って彼は身体をこちらに向ける――――――私は言葉を失った。
髪は茶髪になっているがこの雰囲気、この顔は間違いない。ずっと写真で見てきた彼だ。
私はしばらく動くことができなかった。彼は私のことを忘れてしまったか気づいてないのだろう。初対面のような様子を崩さない。
私もすぐに平静を取り繕い初対面のように振る舞う。
前坂 慎也君。それが彼の名前。いい名前だ。私が前坂優衣佳になっても違和感のない名前だ。
それから彼と夕飯を共にして彼が帰ってしまった。
私はリビングでモモを撫でながら彼との関わりを反芻する。
もう彼に会えるとは!それに下の名前で呼べた、呼んでくれた!SNSのIDも聞けた!これからも関わりを作ることができた!
もう一生分の運と幸せを使い切った気持ちだった。何度も何度も思い返し、そのたびに顔がほころぶのが自分でもわかる。
そこんな私に彼女は呼びかける。その姿には家を飛び出す前のような悲痛な雰囲気はもう無い。
「私、慎也くんに一目惚れしたよ」
―――――――やはりそうだろう。彼女からあらましを聞いて察していた。彼女も彼に助けられたから。血の繋がりが無いとはいえ姉妹だ。こんなところまで似なくてもいいのに。
それでも・・・優愛でも私の好きな人は絶対に渡さないと、固く誓うのであった。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「おねえちゃん」
「ん・・・・・・ごめんなさい。寝ちゃってたわ」
いつの間にか寝てしまっていた。時計を見ると10分ほど寝ていたようだ。お風呂上がりだろう、優愛の髪は軽く湿気っていて扉の前でこちらの様子を伺っている。
「呼びに来てくれてありがとう。これから夕飯を作るわ、ちょっと待ってて」
「ううん。それよりもおねえちゃん」
「・・・・・・どうしたの?」
夕飯の件ではなさそうだ。なんとなく不安そうな表情をしている。
「おねえちゃんも、慎也君のこと、好きなの?」
ああ―――――――そのことね。
「ええ。好きよ。ずっと前からね」
「そっか・・・ずっと前から・・・知ってたんだね?」
「ええ」
「そっか・・・・・・」
しばらく部屋が静寂に包まれる。私は優愛に譲るつもりなどまったくない。優愛は揺れているんだろうか、顔を伏せって・・・・・・
―――――――突然優愛に身体を抱きしめられる。私は思わぬ出来事に目を白黒させてしまった。
「お姉ちゃん。私も慎也くんのこと、好きだよ」
「知ってるわ」
「慎也くん、私のこと助けてくれたんだ。それに今日のカフェだって、慎也くんのおかげですっごく楽しかったんだ」
「あら、私のことだって助けてくれたのよ。私も、今日のカフェ、楽しかったわ」
「だからね・・・・・・」
「ええ」
「私、お姉ちゃんに負けるつもりないから」
「ええ。私もよ。優愛」
私も優愛のことを抱きしめ返す。
「姉妹だからってそんなところまで似なくたってね」
「血の繋がりはないけどね」
「そうだね・・・・・・お姉ちゃん。今までごめんなさい。ありがとう」
「いいのよ。辛かったものね。私も、怒鳴ってごめんなさい」
「ううん。私の為を思ってくれて、ありがとう」
優愛がその場で泣き出してしまったため、ベッドに座らせ、しばらくなだめる。
「それにしても・・・モモが私たちを繋いで、慎也君も繋いでくれるなんてね」
「うん。あの時のモモは様子が変だった・・・もしかしたら私たちのために一肌脱いでくれたのかも」
呼ばれたと思ったのか部屋の外からモモが歩いてくる。そんなモモを優愛が抱えて膝上で撫でる。
「そうだと良いわね」
「きっとそうだよ!そうじゃなかったらお母さんが見るに見かねて―――――――あれ?なにそれ?」
そう言って伸ばした優愛の手の先には一枚の写真が。そうだった。あの時写真を眺めたまま眠ってしまって・・・・・・
「なにこれ~!可愛い~!!これ慎也くんだよね!?名残があるよ~!この時は黒髪だったんだねぇ!!」
一気に優愛のテンションがフルスロットルだ。もう夜だし勘弁してもらいたい。
「優愛。もう夜なんだし声抑えなさい」
「あっ、ごめん。なんでこんな小さな頃の慎也くんの写真を?」
「あとで話すから。今は夕飯でしょう。優愛も手伝ってちょうだい」
「は~い!この写真についても教えてね!」
きっと夕食の肴は私の昔話になるだろう、話が終わらなくてげんなりすること間違いなしだ。それでも本音で語り合え、なんのつかえも無い私たち姉妹の関係はこれからなことに私の胸は踊っていた―――――――
近いうちに裏話等を活動報告にあげます。
次回投稿は1日空いて2日後です。




