023.買い物スキル
俺たちがカフェを出る頃には太陽も沈んだばかりで多少暗くなっていた。
「ん~!美味しかったぁ!また来ようね。今度はもっとボリュームあるのが食べたい!」
「はいはい。また今度ね。本当にホットサンド食べたけど、夕飯大丈夫なの?」
「私の胃袋知ってるでしょ!平気平気!」
優衣佳さんと優愛さんは次来た時のことを話している。本当にここの店は美味しかったし雰囲気もよかった。一人だとまだ少しハードル高いから今度は俺から誘ってまた来よう。
今日のところは日も落ちてきたし二人を送るために三人で帰路につく。
「優衣佳さん、今日はありがとう。俺もこの店気に入ったよ」
「それはよかったわ。明日にでも翔子さんにお礼を言わなきゃね。あぁ、お金のことなら気にしないで。もとよりそのつもりだったから」
そう。確かに行く時におごってくれるとは言ってくれたがそれでも会計の時は俺が払おうとした。しかし優愛さんが俺を押さえてその間に優衣佳さんが支払いをするというチームプレーで押し切られてしまった・・・
「それじゃあお礼に・・・・・・そうだね・・・・・・今度オススメのコーヒー豆を取り扱っている店を紹介するよ。なんだか好みが似通ってたし、きっと気に入るよ」
「あら、嬉しい。慎也君の家で飲んだコーヒーが美味しくてどこで売ってるのか気になってたのよね。是非お願いするわ」
「私もコーヒーは好きなほうだけど、二人には負けるなぁ。そこまで細かく味の違いってわかんないや」
俺の後ろで優衣佳さんと隣り合って歩いてた優愛さんが俺と並走して笑いかける。
「俺も昔は全く飲めなかったけど、何度も飲んでいれば段々とわかってくるよ」
「高校生なりたての人が言う昔ってどれくらい!?」
「中学には親が淹れてくれたのを飲んでたし・・・・・・小学生のころかなぁ」
「3年前はもう昔かぁ・・・・・・」
優愛さんは遠い目をして優衣佳さんの隣に戻っていく。
その時いつも使っているスーパーを通りかかったとこで今日買い物する予定だったのを思い出すが、二人を送っている最中であるためその思いを振り払う。
「ん・・・・・・慎也くん。なにか買い物する用事でもあった?」
優愛さんが敏感に反応した。俺がスーパーのほうを見たのは一瞬だったと思うけど・・・
「食料を買おうと思ってたけど、今は二人を送ってるしまた明日行くことにするよ」
「私たちは大丈夫だから今行きましょ。明日行くなんて効率悪いわ」
一応まだ家に食べ物は残っていたはずだし無くてもインスタントがあるからどうにかなると考えていたところに優衣佳さんから嬉しい提案が。
「・・・え、いいの?それじゃあ寄らせてもらおうかな」
「じゃあ買い物いこ~!お姉ちゃん、お菓子買っていい?」
「ダメに決まってるでしょ。帰ったら夕飯なのよ」
「え~」
俺たちはスーパーに入りカゴを手に取る。もちろん二人に買い物の予定は無いため持つカゴは一つだけだ。もしかしたら優愛さんが何か忍ばせるかもしれないから優衣佳さんはカゴを手に取らないのかもしれない。
とりあえず俺はスマホのメモ帳に入力しておいた買い物リストを見る。まず近いのは青果コーナーの人参とジャガイモだろう。適当にそれぞれ見繕いカゴに入れる。
「ちょっとまって。どっちも今入れたものよりこっちのほうが良いわ」
「え?あぁ、そうなんだね。ありがとう、そっちにするよ」
優衣佳さんに呼び止められ別の人参とジャガイモを手渡される。正直全く違いがわからない。
次は肉だ。今日の夕飯用の豚肉を買わなければ。・・・・・・これなんか赤みが強くていい肉だろう。そう思って選ぼうとした瞬間、優衣佳さんに肩を掴まれる。
「慎也君・・・たしか一人暮らし最近始めたばかりだったわよね・・・商品の選び方はわかってる?」
「いや・・・正直・・・全く」
「でしょうね・・・さっきの野菜の時もそうだったし・・・。豚肉の場合は赤色よりピンク色のほうが良いものなの。だからこっちのほうが美味しいわよ」
「なるほど。ありがとう。居てくれて助かったよ」
「ちょっとずつ学んで行きましょ。言ってくれれば次回も買い物に付き合うわよ」
「そうだね。一緒に買物するのも楽しいかも。その時はよろしくね」
「えっ・・・ええ・・・」
そう言って優衣佳さんは俺の背中回って静かについてくる。優衣佳さんの料理上手はこういう買い物から始まってるんだなぁ。
「お姉ちゃん~!これ美味しそうじゃない!?」
そう言って歩いてくる優愛さんの手には新しく発売したばかりなのか見ないパッケージのチョコレートが。優愛さんの姿が見えないなと思っていたがやはりお菓子コーナーに行っていたのか・・・
「美味しそうだけどダメ。返してきなさい」
「ええ~!私のお金で買うんだから良いでしょ~!」
「前それで買ったお菓子、全部夕飯直前に食べきったじゃない。いい加減我慢しなさい」
「お姉ちゃんにもあげるから!だからいいでしょ!ねっ!」
前科があるのか・・・優愛さんの食への忠実さは見ていて清々しい。
おれは優愛さんが持っていたお菓子を手に取りカゴに加える。
「それじゃあ俺が二人に買ってあげるよ」
「そんな、悪いわよ」
「さっきカフェでおごってもらったし買い物にも付き合ってもらってるからね。そのお礼ということで」
「そう・・・ありがと」
「慎也く~ん!ありがと~!」
二人からお礼を言われたが、優愛さんは俺の腕へ抱きついてきた。優愛さんはスタイルの良いほうなので俺の腕に柔らかいものがしっかり伝わってくる。
「ちょっ!優愛さん!?」
「ん~?」
更に頬を腕にくっつけて上目遣いでこちらを見てくる。その甘える姿が可愛くてされるがままになりそうな時・・・・・・一気に氷点下になるような視線が俺たちへと突き刺さる。
「優愛・・・・・・あなたね・・・・・・」
「あっ・・・わっ・・・!慎也くんごめんね!びっくりしちゃったよね」
「いやまぁ、俺は全然構わないんだけど・・」
俺は目線をそらして答える。優愛さんは俺を挟んで優衣佳さんから隠れるように位置取った。そのままひょっこり顔を出して優衣佳さんを見ている。
「はぁ。あまり慎也君を困らせちゃダメよ」
「はぁ~い。慎也くん、チョコレートありがとっ!」
そう言って優愛さんは優衣佳さんの隣に戻っていく。俺も買うものは全て手にとったしあとはレジに通すだけだ。
「お姉ちゃん、はい!慎也くんも、これどうぞ!」
買い物をすませスーパーから出た帰り道。ふと優愛さんから俺たちに何か手渡された。
「これは・・・・・・さっきのチョコレート?」
「うん!さっき買ってくれたやつ!お姉ちゃんが怒るから一粒だけだけど、きっと美味しいよ!」
まぁ一粒くらいなら、と優衣佳さんはチョコを口に運ぶ。俺も手に持っていたレジ袋を腕に通しチョコの包み紙を外して一口で頬張る。
口の中に入れた瞬間とろける、生チョコタイプだったのだろう。ビターな味わいでクドもくない。買い物したばかりだからかなんとなく、カレーに入れても合いそうだなというのが第一の感想だった。
「うん。美味しいね。優愛さんありがとう」
「こちらこそ買ってくれてありがとうね。これ以上は夕飯の後にお姉ちゃんと分け合います!」
「確かに美味しいわね。そのチョコ、私の鞄に入れておくわ。優愛の鞄に入れたらいつの間にか無くなってしまいそうだから」
「は~い」
優愛さんは素直に優衣佳さんに手渡す。
優衣佳さんの料理は美味しいから、お菓子で食べられなくなるのはもったいないしね。
もう日もすっかり落ちてしまったが月明かりと星々の光が三人の帰り道を明るく照らし続けていた―――――――




