022.放課後のカフェ
放課後。午後の移動教室での授業を終え、ホームルームも滞りなく終了しあとは帰るだけになったタイミングで智也がこちらに近寄ってくる。その顔は困惑しているようだった。
「おい、慎也・・・ここはあれだな。廊下でいいか?」
「いいけど、なにかあった?」
唐突に廊下へ連れ出される。どうせすぐそこだし荷物は置いていってもいいだろう。
「おい。お前あの二人・・・いや、伊野さんもか。三人と何かあったのか?」
「あの三人とは仲良くなってもらうために一緒にお昼食べたけど、どうかした?」
「わからん」
「・・・どういうこと?」
「いや、お前さ、さっきの移動教室での授業で前の方に居ただろ?俺は後ろの方に居たんだけどよ、あの三人が固まって何か話してお前の方をチラチラ見てたんだよ。何かやらかしたのかと思ってな」
「特になにかやった記憶はないけど・・・まぁ、あの三人が仲良くなったようで何よりだよ」
「楽観的だなぁ。お前・・・」
つまり智也はいつもと違う様子だったからイジメかなにかだと思ったのだろうか、心配してくれたらしい。
「井野さんとは生徒会の関係だって話したから中学時代の話でもしてたんじゃないかな?心配してくれてアリガト」
「ただ目に入ったから気まぐれで教えただけだ・・・俺は帰る」
そのまま智也は階段の方へ歩いて行った。俺もそろそろ帰ろうかな・・・
帰ろうかと思って自分の席に向かっている時に異変に気がついた。俺の席に誰かいる・・・しかも二人。優衣佳さんと優愛さんだ。しかも優愛さんは俺の椅子に腰掛けており、俺と目が合うと手を振ってきた。
「今日もお疲れさま。どうかしたの?」
「慎也くんを待ってたんだよ。昨日行けなかったから今日カフェ行かない?」
つまり放課後遊びに行こうとの提案だ。詳しく説明を求めるため隣で机に体重を軽くかけている優衣佳さんに顔を向ける。
「さっき翔子さんにオススメのカフェとかを教えて貰ったのよ。それであまり遠くないし翔子さんを引き合わせてくれた慎也君も誘おうってわけ。もちろん奢るわよ」
「奢りの件は別にいいんだけど、井野さんは?」
「彼女は習い事があるからってもう家に帰ったわ。それでどう?行く?」
特にこれから用事があったわけでもないし、さっきの授業のことを聞くのにもちょうどいい。
「わかった。俺もついてくよ」
「やった!そこは飲み物はもちろん食べ物も評判らしくってね―――――――」
「優愛、話してると日が暮れちゃうわよ。まずは占領してる椅子を開放なさい」
「あっ!ごめんね。片付けできないよね」
優衣佳さんにたしなめられて優愛さんは素直に席を立ち、俺の準備を待っているようだ。
「―――――よし。おまたせ。行こうか。どの辺り?」
優衣佳さんが教えてくれた場所は街中でも俺達の家とそんなに離れていない位置だった。バスを使えば10分程度だろう。携帯のアプリを開いて時刻表を確認する。
「バスの時刻も近いしバス使っちゃう?」
「あら、調べてくれたの?たしかに歩きだとすこしかかるしそっちで行きましょうか」
「暗くなる前にいっちゃお~!おー!」
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たどり着いた目的地は一軒家を改造したものだった。白と青を基調としたモダンな雰囲気でテラスもあるおしゃれなカフェで、外から見た感じでは今はすいてる時間なのだろう、人もまばらな様子だ。
「オシャレな店だね~」
「そうね。こういう雰囲気のカフェって初めてだわ」
「初めてって・・・優衣佳さんはあんまりカフェって来ないの?」
「そもそもあんまり外で食べることが少ないのだけれど・・・行くとしても個人でやってる店はあんまりね。ハズレの少ないチェーン店をどうしても選んでしまうわ」
たしかに個人でやってる店は入りにくい雰囲気の店も少なくないし、あまり外で食べない人にとってはハードルが高いのかもしれない。
「今回は良かったの?」
「ええ。せっかく翔子さんが教えてくれたのだしね。みんながいるなら心強いわ」
「二人とも~!早く入ろうよ~!」
優衣佳さんと二人で話していると優愛さんが扉前でこちらを呼んでいた。俺たちは急いで後を追う。
「ごめんごめん。それじゃあ入ろっか」
「翔子ちゃんによるとどれもおいしいけどホットサンドがオススメなんだって!」
「あなたならともかく、私と慎也くんはこの時間にそんな重いものは食べられないわ。慎也君、私たちはおとなしく飲み物だけにしましょう」
「そうだね。またお昼時に来てホットサンドを食べようか」
扉を開けるとそこは明るい雰囲気に包まれていた。入って突き当たりにレジがあり奥の方にはテーブルがいくつかある。そして客も店員さんも女性しかおらず、今唯一の男である俺は少し後ずさりをした。
「いらっしゃいませ!」
近くの髪の短い店員さんが明るい笑顔で挨拶をしてくる。黒いパンツに白いシャツ、その上に薄緑の脚まであるエプロンという、至ってシンプルな制服で出迎えてくれた。
「お好きなテーブルにおかけください!」
「じゃあ・・・あそこでいい?」
店員さんの説明に優愛さんが指した場所は一番奥のテーブルだった。俺たちはそのテーブルまで行って一息つく。
「見てお姉ちゃん。ホットサンドの写真美味しそうだよ」
「あらホントね。優愛、頼むつもり?」
「一つだけね。お姉ちゃんにも一口あげるよ」
俺ももう一つあったメニューに目を通す。コーヒーにジュースに・・・飲み物だけでもそこそこの種類があった。さすがにタピオカとかはなかったが。
「・・・・・・じゃあ俺は決まったけど、二人はどう?」
「私たちも決まったよ。すみません~!!」
優愛さんの呼び声に先程誘導してくれた店員さんが駆け寄ってくる。
「ご注文は何にしましょう?」
「ホットサンド一つにオレンジジュースとアイスコーヒー!あとは・・・・・・」
「アイスカフェモカをください」
店員さんは注文の復唱をしてから奥の方に向かう。その姿を見ていると向かい側に座っている二人の視線に気がついた。
「慎也君はああいう髪の短い女の子が好みなのかしら?」
「ああいうとは・・・あの制服がシンプルで良いなって思っただけだよ」
「そっかぁ・・・ねね、私にも似合うと思う?あの制服」
優愛さんがこの店の制服に身を包んだ姿を想像してみる・・・いつも明るい優愛さんならこの店のホールとして人気になること間違いなしだろう。
「うん。似合うと思うよ」
「そっかぁ・・・えへへ・・・」
優愛さんは気を良くしてまたメニューに目を向ける。
「そういえば井野さんにこの店を教えてもらったって午後の授業中のこと?」
「えっ・・・なんで知ってるのかしら」
「三人がなんだか話してるって聞いたんだ。俺の方に顔向けてたみたいだけど全然気が付かなかったよ」
俺があっけからんと答えると優衣佳さんは一つ息を吐いた。優愛さんはメニューで顔が隠れてこちらからは見えない。
「・・・・・・大外くんね。他に何か聞いてないかしら?」
「他には何も聞いてないかな。俺の中学時代のこと話してたんだと思ってたんだけど・・・ともあれ仲良くしてるようでよかったよ」
「その通りよ。翔子さんとは仲良くなれそうだから安心してちょうだい。(ほら、優愛。内容までは大丈夫よ)」
俺へ答えたあと優愛さんに向かってなにか話していた。何か積もる話でもあるのだろう。
「おまたせしました」
しばらく話していると注文の品が揃った。ホットサンドが思ったよりもボリュームありそうだから少し心配になってしまう。
「やったぁ!美味しそう~!いっただきま~す!!」
優愛さんが真っ先にホットサンドへ一口。見ているだけでおいしいんだとわかる。その後優衣佳さんも一口貰っていて顔が緩むのが見えた。俺はその姿を見ながら注文したカフェモカを飲んでいると不意に優愛さんの腕がこちらに伸びてきた。
「慎也くんも!一口どーぞ!」
えっ・・・・・・・・・・・・・・・いいの?
「慎也くん~!反応してくれないと腕疲れるんだけど~」
どうやらフリーズしていたようだ。とりあえずホットサンドを受け取り優愛さんを見るとガブッとするようなジェスチャーを見せてくる。・・・・・・思い切り口にしろというのだろう。
・・・・・・ええい!ままよ!!
ホットサンドを一口食すとたしかに美味しいと言われるのがよくわかった。中身もさることながらパン自体もとても良いものを使っているのだろう。もちもちフワフワで今まで食べてきたホットサンドとは一線を画するものだった。
「ねっ!美味しいでしょ!」
そう言って優愛さんは残ったホットサンドを受け取る。その頬は少し赤みがかっているように見える。
「・・・・・・慎也君。コーヒーも酸味が少なくて美味しいわよ。一口どうかしら?」
「えっ・・・・・・」
今度は優衣佳さんだ。こちらも頬を赤く染め、ストローの刺さったプラスチックの容器をこちらに突き出している。
「え~と・・・お言葉に甘えて・・・」
コーヒーを一口飲む。確かに良い豆を使っているのか芳醇な香りが口いっぱいに広がる。コーヒーも美味しいとかこれは良い店だ!
そう油断したのが失敗だった。優衣佳さんは一瞬のうちにカフェモカをひったくり口にする。その後顔を真っ赤にしてゆっくりとカフェモカの容器が返された。
「え~と・・・優衣佳さん?」
「ごちそうさまでした・・・カフェモカも美味しかったわ・・・」
俺達は三人とも顔を赤く染めながら食事をするのであった――――――――
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