嫉妬と嘘
大后は本心ではなかったが、セグン氏を国王に仕えさせた。どこか艶かしい彼女に国王はすぐに気にいり、狩場まで連れていった。
大后は狩場には思い入れがないため嫉妬はしなかった。というより泳がせている。
そんな中、ソンはカヒへの想いとメヒャンの愛くるしいさに板挟みになっていた。
本当は南殿の方に気を配る時である。自分の子と堂々と証明できる子だ。
しかし、メヒャンをだき抱えて向かったのはソンの寝室だった。欲情が勝った。
メヒャンの体は侍女とは思えぬきめの細い体だった。戯れを楽しむ二人の話はすぐにアヒョン公主の元に届いた。アヒョン公主は手にしていた女訓をシン夫人に投げつけて立ち上がると、直ぐにソンの寝室に押しかけた。
烏姫は意外と嫉妬深い。
「旦那様!」
「アヒョン公主……」
ソンは驚く素振りを見せなかった。ただ、驚いたのはメヒャンだ。彼女は公主の侍女だ。つまり財産の一つである。アヒョン公主からの罰は逃れられない。
「公主、メヒャンをくださいますか?」
「あげる訳には参りません!色目を使った罰をあたえます。メヒャンをこちらに」
メヒャンは長い黒髪を垂らし、寝間着姿で寝台から降りてきた。
「罰を与えるくらいなら殺してください!」
メヒャンは額を床につけて懇願する。ソンは黙って二人のやり取りを見ていた。
メヒャンはソンが助けてくれると思っている。しかし、果たして助けてくれるだろうか。
彼女の背中に汗がひとすじ流れる。
「公主は女訓をお読みですね?」
静かにソンが尋ねた。
「はい」
「なら、お分かりではございませんか?」
「何をです?」
アヒョン公主はきょとんとした顔でソンに言った。その時、彼の顔に一瞬だけ曇った。
その時だ。
「公主さま、なりませんよ!」
シン夫人がなだれ込むように現れた。気を許していない女たちが寝室にいることはソンにとって不愉快極まりないことだった。
「何がいけないの?メヒャンは私の侍女よ?好きにして構わないわ」
「それは嫉妬です。お許しください、公主さまからは私から……」
遮るようにソンが言った。
「どうも教育ができていないようですね。本を読むだけで何も知らない。シン夫人、暇を出します。公主の教育は侍女頭のヘインに任せます」
「シン夫人を追い出すというのですか!!」
アヒョン公主は人目もはばからず泣き出した。ソンはメヒャンに自分の着物を羽織らせて偏殿に籠った。
その日の夜、シン夫人はひっそりと允雲宮を後にした。アヒョン公主は揺らめく灯りを見つめる。その灯りに照らされた顔には怒りに満ちていた。
そこに医女のイソが薬を運んできた。
「子宝のお薬でございます」
アヒョン公主はやけ酒のように飲み干した。
「旦那様があの女狐に夢中なうちはこの薬はださないでちょうだい」
「すぐに飽きます。旦那様は飽き性ですから」
イソは片付けながらアヒョン公主に小さく告げた。
「あなたに何が分かるの?枕を交わしたわけでもいないのに」
「ヘイン殿から旦那様の世話を頼まれていて……」
イソは真っ赤なうそをついた。
ヘインはそんなことは言わないし、頼まない。
おまけに今日は誰とも、メヒャンともと寝る予定はないのである。
「ヘイン?なぜ?」
「きっと鍼を刺すだけです。最近、旦那様はお疲れ気味ですから」
アヒョン公主にはイソの言葉に優越感を含んでいると思った。自分には詩書がわかる。しかし、それが夫であるソンの求めるものだろうか。
なら、鍼を打てるイソはソンが求める女だ。
「イソ、私にも鍼を刺してくれる?」
イソが戸惑いを見せる。嘘がばれてしまったのではないかと内心で思ったからだ。
「私に鍼を刺したあとは安眠できる薬が欲しいわ」
アヒョン公主はイソの言葉を信じている。だから、時間稼ぎのように色々と押し付けてきた。
偏殿にはソンとメヒャンが二人きりでいた。
特に家具のない部屋である。
「メヒャン、ここの部屋をあげます。好きに使いなさい」
柔らかで優しい声がメヒャンにかけられる。それにはメヒャンもうっとりとしてしまった。
自分だけにもっとかけられたい声だと思ったからである。
そして茉莉花が匂うソンの着物を羽織っていることが何よりも嬉しい。自分だけが特別であるとすら感じた。
しかし、ソンには鏡の君、明月の君、南殿の方など側室がいる。なんなら手をつけていない巫女もいた。
そして風の噂では西院君の妹にも手を出し、また東陽院夫人とも懇ろだという。
メヒャンはアヒョン公主の容姿と嫉妬深さが原因で女たちと過ごしていないと薄々、気づいていた。
彼の瞳に自分は映っていなかった。面影を探しているようだった。
「夢みたいです」
「現実ですよ。さあ、寝室に戻りましょう」
ソンはメヒャンの手を引いた。指が絡まる。メヒャンは何も言わなかった。
「メヒャンは私に何を望んでいますか?」
「身分と寵愛です」
「素直だ」
ソンは呟いた。




