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森の中の猫のいる図書室  作者: 道上 萌叶
1章 魔力と魔術
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私を巻き込まないで 3

 貴族の結婚とは、貴族の繋がりを強め、領地の発展を助ける為のものである。

 両者の間に、愛情というものが存在していようがいまいが、政略的なものは必ず存在している。

 恋愛的感情が生じたとしても、最終的に優先されるのは政略的に価値があるかどうかである。

 そして、他国を絡めた婚姻は、両国の繋がりを強めるものである。根底に恋愛があったとして、結果的に政略結婚とした契約がとられる。

 ただ、政略的な目的がない場合、つまり、恋愛的感情における婚約を個人の間で執り行った場合、それは仮婚約と定義される。政略的な目的の下ではない為、両者、若しくはどちらか一方の気持ちに変化があればいつでも解消することができる。

 そして、仮婚約で最も重要な点は、婚約解消したとしても、両者と、両者の家に汚点がつくことはない。

 加えて、正式な婚約と違い、仮婚約は誰でも申し入れることでき、立場を考えなくても、申し入れを受けるのはもちろん断ることもできる。

 正式な婚約の場合には、国王陛下と両家の家長の許可とサインが必要になる。しかも、申し入れることができるのは、立場が上の者である。立場が下の者から上の者へは、申し入れることができない仕組みだ。

 更に、婚約を申し込まれた場合、受ける側は断ることができない。実力ではなく、階級社会である貴族のめんd‥‥‥大変なところだ。

 話を聞く限り、ティルソン様がモナさんに申し入れているのは、仮婚約だ。だからこそ、モナさんは遠回しではあるけれど、他国の、それもつい最近条約を結んだばかりである国の皇子からの申し入れを断ることができている。もしこれが正式な申し込みであれば、モナさんは不敬罪に問われていたかもしれない。

 そんなめん……大変な貴族の婚約の話に、例え仮婚約ではあっても、私を巻き込まないでと思う。思うけれど、断れる立場でもなければ、そんな雰囲気でもない。

 正直、私にはモナさんを説得できないとしか思えないけれど、やってみないことにはどうなるか分からない。


「えっと、モナさん……」


「エレナ、今夜は空いているか?」


 何の策もなく、とりあえず口を開いて出した私の声は、渋い顔をしたモナさんに遮られた。


「今夜、は、えっと、8の大鐘以降なら空いています」


 突然なんだろうと疑問が浮かんだけれど、その疑問はひとまず置いて質問に答える。

 今日は火の日、シルヴィオ様の稽古がある日だ。

 古本屋で魔術書を購入し、王立図書館で読んだことのない魔術書に目を通したけれど、結局解決策は浮かばないまま。

 前回の水の日は、シルヴィオ様に用事があったようで、稽古がなくなったから、余計にいつ終わるか分からないが、恐らく8の大鐘までには終わるだろう。

 けど、これはモナさんの納得いく答えではなかったようだ。私の返答を聞いたモナさんは、すぐにまた問いかけてくる。


「それなら明日の夜はどうだい?」


「明日、なら大丈夫です」


 明日は7の大鐘の後は帰宅することができる。予定はない。

 モナさんがどういう意図で質問をしているのか分からないけれど、正直に答える。

 だけど、モナさんの意図を読み取らなかったことはよくなかった。読み取らなかったことで、私はモナさんの次の行動を予測することが出来なかった。


「そうか。なら明日の夜話そう。ティルソン様、申し訳ありません。いつまでも仕事を離れているわけにはいきませんので、本日はこれで失礼させていただきます」


「え」


 言うが早いか、モナさんは部屋から出ていってしまった。

 どうすることもできずに、モナさんが出ていった扉を眺める私は、ようやく気付いた。モナさんに逃げられたと。


「むぅ、また逃げられましたか。残念です」


 そして、頬を膨らませるティルソン様と目が合って、その顔が有無を言わさない笑顔へと変化してから、いよいよ面倒臭いことになったと自覚した。


「では、エレナ」


「…………はい……」


 私の肩に両手を置いたティルソン様は、笑顔であるのに、私に逃げ道を作ることはなかった。


「そう言うことですので、貴女に期待していますよ。近いうちに、ラムレイ令嬢から色良い返答が来ることを待っています」


 いつの間にやら申し送りを始めたシルヴィオ様達は、ティルソン様に肩を掴まれた私を助けてくれることはない。


「……出来ることは、全てやります」


 安易に引き受けることはできないけれど、断ることもできない。

 これが私が出来る、精一杯の返答だった。

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