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18/18

Final

 私がラザニアちゃんと蟠りを解消してから月日は流れ、四年後の春の事。


 私はクミンと一緒に屋敷の自室で寛いでいた。



「クミン殿下もそろそろご懐妊の時期でしょうか?」

「ローズマリー様、お願いですから敬語はお止め下さい」

「どうしてですか? クミン様は第二王子とご結婚されて名実共に王族の仲間入りを果たしたのですから、敬語を使っても問題ございませんでしょう?」

「ああ、貴女に敬語を使われるとストレスが……」



 クミンは先日婚約者だった国の第二王子と挙式をあげた。


 晴れて王族なった彼女と私は今でも友好的な関係を継続していた。そして挙式を上げるなり妊娠が発覚したクミンは王族としての公務デビューを果たす前に安静第一を義務付けられてしまった。


 第二王子とは言えその兄であるラファエロはもうこの国にはいない。


 そうなれば何れは彼女の子供が王位を継承する日も来るだろう、誰もが辿り着ける未来予想図と言う事もあって彼女の待遇は過保護と言っても差し支えないものとなった。



 だからこそこうして彼女は寛ぎたくて私の屋敷に頻繁に足を運んでいる訳で。


 彼女からすれば過保護にされる方がストレスを感じるのだ。



 クミンはゲッソリとした様子で敬語を使う私に辟易とした様子を見せるのだ、暗にいつも通りに接して下さいと彼女の纏うオーラが私にそう語りかける。クミンは変わらないなとそう安堵して私は少しだけ砕けた口調に戻してみる。



「あのクミンが人の親だなんて時間が経つのは本当に早くて驚くばかりよ」

「ローズマリー様と違って私はずっと剣一筋でしたのでどうもこう言う事は不得手でして……、妊娠してから剣を持つ事を禁じられて手持ち無沙汰で逆に疲れます」

「もう出歩くのさえ控えた方がいい時期でしょう?」

「夫からも出かけの時に今日の外出が最後だと釘を刺されました……」



 彼女はストイックだから人一倍責任を感じているのだろう。


 自分が身籠った命がどう扱われるかも容易に想像出来るだけに、失敗は許されないと肩に力が入っているのだ。こう言うところは昔から変わらない、クミンは自分で全てを背負いたがる。



 だけど大人になれば誰だって思い知る。



 自分一人の力では如何にもならない事も当たり前の様に存在すると。彼女もそろそろそう言うものが現実だと理解した方がいい。


 私は親友としてずっと一緒に育った彼女の憂う姿に呆れを感じながらも逆に懐かしさを覚えて笑みをこぼしてしまう。クミンは私の様子に「他人事だと思ってませんか?」と愚痴をこぼす。



 昔と一切変わることの無い親友の背中を少しだけ押してあげましょう。



「王子との仲は良好なのでしょう?」

「まあ、優しくはしてくれます。ですが軟弱なのが少々気になりまして」

「貴女も自分を基準にしたらダメでしょうに、クミンはこの国で五本の指に入る猛者なのですから」

「……ローズマリー様は旦那様が最強の男だからそんな余裕でいられるのです。私の旦那様も生まれてくる子のためにももう少しだけ剣の腕を磨いて貰わないと」



 はい、そうなのです。


 実は私もパーカーと昨年パーカーと結婚を済ませました。彼の働きっぷりは父も認めるところで、剣の腕も底なしにグングンと成長していったのだ。


 私と出会った時の彼の年齢は二十二、それから十年の年月をかけてパーカーはこの国の二大巨頭を打ち破ってしまった。



 その二大巨頭とは国王陛下と私の父の二人。



 彼はラザニアちゃんと再会を果たした四年前から着実に昇進を繰り返して伯爵にまで昇り詰めた。そして剣の腕は国内最強、剣の腕が絶対的なヒエラルキーの尺度である乙女ゲームの世界でパーカーは誰もが認める存在となってくれた。


 しかもパーカーは父を打ち破った時、叩きのめした父に剣を向けながら宣言してくれたのだ。



「公爵様に勝った時のパーカー殿の口上、あれは国中の女性が痺れましたねえ……」

「本当に、昔クミンが言った通りウチの旦那様はいい拾い物だったわ」

「『最強の男になった証として最高の女を褒美に頂きたい』って素で言えます? しかもローズマリー様を最高の女に名指しする辺りが愛情を感じますよねえ」

「俺は幸せもんっすよ。こうして王子殿下をも遥かに上回る国一番の幸せ者になれたからには今後はお嬢の幸せのみに専念しますわ」



 部屋のドアが開くなり一緒に愛しい声が耳に届く。


 パーカーが部屋に入るなり十年前、出会った時と変わらぬ口調で愛情を言葉に変えて届けれくれた。何をやっても成功を収めて剣の腕も最強の私の旦那様は相変わらずの口調を貫いていた。



 と言うかそれが少しだけ可愛くもある。



 ガラの悪い口調は彼の唯一の欠点ではあるが父もそれに慣れてしまい、人柄を知ってしまえば些細な事と言って今では気にもしていない。と言うよりも父は最初から気にしていなかった。


 パーカーは部屋に入るなりメモらしくものと睨めっこして眉間に皺を寄せていた。そしてポリポリと頭を掻きながら困った様子で部屋のドアを閉めてため息を吐く。


 クミンはそんな様子のパーカーが気になって首を傾げながら話しかけた。



「パーカー殿? 一体どうされたのですか?」

「殿下に挨拶もせずにすんません、今日からお嬢がお城に泊まり込むじゃないっすか。それで持ち物をまとめてたんすけど……、コレは流石に……要らねえんじゃねえかなって思うんすよ」

「? そのメモが荷物のリストですか?」

「へえ、殿下もご覧になりやす?」



 引き攣った顔でパーカーがメモを差し出すものだからクミンもゴクリと唾を飲み込んで覚悟を決めた様な顔付きになってそれを覗き込む。


 と言うか私はそんなに変なものをチョイスしたつもりは無いのだけど。


 因みに私がお城に泊まり込む理由はクミンの旦那、つまり第二王子からの要請によるもの。王子は出産の予定日が近付いて日に日に不安を募らせるクミンを心配しているのだ。クミンの不安が少しでも払拭出来ればと彼女の親友の私にそばにいて欲しい先日直々に頭を下げに来た。


 今はこうしてクミンの方から私の屋敷に来る事が多いが、出産が近付けば先ほども言った通り彼女は安易に外出も出来なくなる。王族とは気軽に息抜きも出来ない人種なのだろう。



 だから王子は私にお城に来て欲しいのだそうだ。



 そしてそれに向けてパーカーが準備を進めてくれているのだけど、一体何だと言うのよ?



「……これは?」

「殿下もそう思うっしょ? これ要る?」

「筋トレグッズ一式に二百キロのベンチプレス三本と……ロードランナーセット……? え?」

「クミンも妊娠してから全く運動が出来てないと思ってリハビリ用に持ち込むのよ。妊娠すると脂肪が付くって言うじゃない?」

「「そんな理由で!?」」

「え? だって準備運動レベルでしょ? 二人ともどうしてそんなに驚くの?」



 二人とも、何を間抜けヅラ晒してるのかな?


 クミンだってさっき剣を握れないと愚痴をこぼしていたでしょうが。これは親友としてクミンの全てを理解した私なりの気遣いだ。


 それをウチの旦那は「これ要る?」と当の張本人に問いかけるのだ。


 私からすれば甚だ遺憾と言うものだ。



「……ローズマリー様にとってこれは準備運動なのですか?」

「クミンも今更になってそんな事を言うの? その機材を使った筋トレ三百回、それが十歳の時からの私の日課なの」

「……お嬢が朝イチで汗だくなのってコレが原因だったんすか?」

「そうよ? パーカーと熱い夜を過ごした日の翌日なんて気分がいいから倍はやらないと気が済まないのよねえ」

「……ローズマリー様が国王陛下とお父君に勝った理由が今分かりました」



 ん?


 クミンは何を愕然とした様子で肩を落としているのだろうか?


 因みに私も昨年パーカーと同じく国王陛下と父に一騎討ちの決闘で勝利しました。私とパーカーはこの国の新・二大巨頭と呼ばれて国民から尊敬の念を集めている。



 私とパーカーの出会いは突然だった。



 十歳の時、偶然通りかかった強盗事件の現場でこれまた偶然遭遇して推しキャラとの出会いに心をときめかせて話の流れで当時騎士団員だった彼をスカウトしたのが始まりだ。


 そこから彼は私の望み通り恐ろしい速度で出世を果たしてくれた。今では誰もが認める国の中枢の有力者となり、父からも是非にと言われて私を娶ってくれた。



 出会いから十年が経ち私も今では二十歳になって幸せの絶頂である。



 父からは早く孫が見たいと懇願される事もあるが、それはそれで幸せな事なのだと思う。素晴らしい旦那様に親友に囲まれて私の未来はきっとこれからも幸福で満たされているのだろうと思えて不安なんて微塵も感じなかった。



 悪役令嬢ローズマリー・オルガノンは少しばかりのアクシデントを経験しつつも、そっと目を閉じて順風満帆な未来に思いを馳せる。



 部屋の外から鳴らされる控え目なドアのノック音が心地良く耳に届く。



「お嬢様、宜しいでしょうか?」



 メイドの声がドアの外から聞こえてきた。



「どうしたっすか?」

「パーカー様もご一緒でいらっしゃったのですか? 夫婦水入らずのところ申し訳ありません、商人がお嬢様にお目通りを願っておりまして」

「商人がお嬢に?」

「はい、国外の商会で一見でもありましたのでお引き取りを願ったのですが先方がどうしても、とゴネておりまして」

「国外の商人なんてお嬢の知り合いにいましたっけ?」

「うーん、心当たりが無いわねえ。相手は何て名乗ってるのかしら」

「商人たちはプッタネスカ商会と名乗っております」



 ヒロインは四年もの年月をかけて実績を積み上げて私の前に舞い戻ってきた。悪役令嬢ローズマリー・オルガノンに転生して十年の月日が乙女ゲームの設定そのものを上回った瞬間である。



 私は前世で叶えられなかった運営へのクレームを登場人物となって果たす事が出来た。



 私はバナナの皮なんかに負ける事なくこうしてヒロインと笑い合える瞬間を勝ち得たのだから。



 ヒロインと攻略対象が国外追放されたバッドエンドで物語は幕を下ろす。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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