90.ブロックで遊ぼう
「ぼくたち、これに住むって本当なの? ねえ、お兄ちゃん」
「ああ、その通りだ。三人で住まう程度になら問題ないだろう」
螭は課題を無事に成し遂げ、立派とはとても言い難いが一戸の屋敷を建造した。
「本当に拙者らも一緒に住まなければならぬのか? これではあんまりではないか」
「おじちゃんもそう思うよね」
円四郎と爽太は納得がいかないらしいが、一緒に住んでもらうことに変更はない。
「難しいよ、親父」
「そうか? まあ、初めてにしては上出来だと思うがな」
螭の創り出した建物は、隙間風がピューピューと吹き込みそうな小屋。悪く言えば、あばら家でしかない。
しかし、問題は特に無い。この敷地は俺の管理下なので風など吹かない。うん、全く以て問題ないな。
「おじさま、いくらなんでもこれでは酷いのではありませんか?」
「これからも改良を重ねていく、何も問題は無い。それに食事の世話もしばらくは城で面倒みるつもりだしな」
行く行くは食事も自前で用意してもらうつもりでいる。ソフィーの出産に合わせる形で生活そのものを切り離してしまおうと思う。
「陽菜も研修終了だ。本日付けで元の世界に帰ってもらう」
「オレはこれからもここに住むんだ。仕事にはちゃんと行くから会えなくはないぞ」
螭は昨晩話した内容をしっかりと理解出来ている、珍しいこともあったものだ。
「えっ、もう終了なんですか?」
そもそも問題は既に片が付いているのだ、長居してもらう必要がない。それに陽菜はただの人間でしかなく、ここに居るべきでないと俺は考える。
「螭が望むなら、たまに遊びに来るくらいは構わないさ。
それでは扉を設置しよう。主に螭の通勤用で、許可のない者は出入りそのものが不可能だから覚えておくように」
「お母さまの家に繋がっているのと同じ扉なんだろ?」
「そうだ。だが、今度はあのテーマパークに繋がるからな」
寂れた事務所の扉に繋げるのだが、間違いではない。
「ほれ、完成だ。
爽太、円四郎を連れて遊びに行ってこい。お小遣いにと、ソフィーから預かっているこれを託そう。
陽菜、爽太たちの案内を頼むぞ」
ソフィーに借りた小銭を爽太に預け、陽菜にはその案内をさせることでお帰り願おう。
「親父、オレは?」
「お前はこの小屋の改修だ。爽太が納得する程度には、良くしてやろうではないか」
「さっきは褒めてくれたのに、まだやるのか。これ、かなり疲れるんだぜ」
「取っ掛かりは掴めただろう? これからみっちり鍛えてやるからな」
体に覚えさせる方が螭には合っている、多少スパルタになるが仕方ないだろう。
「うわ! 遊園地だ」
「それじゃ、行きましょう。迷子にならないように手を繋ぎましょうね」
「せ、拙者もか?」
何を恥ずかしがっているのか円四郎は真っ赤だった。いい歳した爺の癖して何やってんだか。
爽太が子供らしくはしゃぐ姿に、思わず目を細めてしまう。
「あら、もう出発してしまわれたのですか?」
「どうしたソフィー」
「私もご一緒しようかと思ったのですが……」
「オレが案内してやるぜ、お母さま」
さて、こいつはさぼる気満々のようだがどうしてやろう?
「螭、旦那様が怒ってらっしゃるようですが?」
「いや、えと、あの、がんばります」
「お忙しそうですので、私はアンソニーと畑の世話でもして過ごしましょう」
何を植えたのか知らないが芽吹いてはいる畑。順調に育つのかは謎でしかない。
ウサオのおやつでも作っているのだろうか?
「ほら、少ししか離れていない畑でソフィーも観ている。やるしかないぞ?」
「ずるいぜ、親父。お母さまを引っ張り出してくるなんて」
別に俺が連れてきた訳じゃない。ソフィー自身はテーマパークに興味があったみたいだしね。
「やり方を少し変えるか。まずは部材を創り出し、それを組み立てる、と。
プラモデルみたいで分かり易いだろう?」
「ぷらもでるってなんだ?」
「それは今度教えてやる、とりあえず例を見せよう」
そうだった、こいつは古い神でしかないから人間に於ける物事を知らないのだった。仕方が無いので例題として、#の形をしたブロックを創り出す。子供時によく遊んだやつだ。
幾つか適当に組み立ててみせる。それをまた合わせて一回り大きなものにする。そしてまたそれを繰り返す。
「おお、すげー面白いぜ!」
「これをあれに応用するんだが、わかるか?」
「ちょっと遊んで、じゃなかった触らせてくれよ」
ブロック遊びに夢中になりつつある、螭。あくまで例題でしかないのだが、まあいい。今日はこれで遊ばせることで、学ばせるとするか。
ブロックに夢中な螭を放り出し、畑の様子を伺いに行く。
新芽なのか雑草なのか、いまいち判断に困る畑の様相。雑草自体は持ち込んだつもりなど無いのだが、樹木に付いて来たのか林には適度に生えているそれ。
「一体何を植えたんだ?」
「お野菜ですよ、野菜は大切だと旦那様がよく仰るじゃないですか?」
俺が言っているのは食べる時の話であって、自分で栽培するなんて話は一回もしたことはない。
「植えたのは大根と人参、レタスとキャベツです」
俺は農家ではないので作物に関する知識はない。だが、致命的なのは直感で理解できる。
俺は最初日照を問題視したが、それだけに留まらず気温もまた一定で殆ど変化がない。季節というものを存在させておらず、常春な俺の世界。
野菜は寒暖の差が激しいほど、美味しく育つとかどこかで聞いた覚えがあるけどどうだったろう? よく分からないので、伝えるべきかどうか難しい。
「アンソニーは農作業に従事したことはあるのか?」
「いえ、僕は軍人でしたので」
「私は祖母に教わりましたよ?」
「なら質問だ。日照は何とかなりつつあるかもしれんが、気温の変化も必要ではないのか?」
「はっ! それは考えが至りませんでした。ここだけ寒暖差を与えることは出来ませんか?」
出来なくはないが、面倒くさいのでやりたくない。電気や水道のように、外注できるならそれに越したことは無いのだ。
「温室にすることで何とか出来ないものか? 世界の管理をあまり複雑にはしたくないんだ」
それとなく、面倒くさいことを匂わせてみる。
「温室! 創っていただけるのですか?」
「それはまあ、創るけど」
物質なら創った後放置するだけで面倒ではない。管理はアンソニーに丸投げで良いし。
結局、面倒事を自分から買って出たようなもんだ。畑など放っておけば良かったんだ。
「おい、螭。俺が今から温室創るから観てろ」
「なんだよ、親父。今忙しいんだ」
ブロック遊びが忙しいだけじゃねえか? さっとブロックを消してやった。
「なにすんだよ! 折角格好良いのが出来てたのに」
「後でまた出してやるから、とりあえず観とけ」
「ちっ、しょうがねえな」
いちいち腹の立つ奴だな、こいつは!
「まずは柱だ、四方に立てるぞ」
俺は鉄骨を扱うのが得意な建築家だった。それ故、今回は軽量鉄骨でいく。
「地震があるわけじゃないが、足元はしっかりと固定する」
L字アンカーごと埋め込む。かなり強引だが、そこはもう神パワーだ。
「柱が立ったら梁を繋いで、柱同士をXに引っ張る。これは潰れないための工夫だ。
同じように、柱の先端も水平に引っ張る。歪みが出ないようにな」
垂直と水平にブレースを入れた。これだけでもう構造は問題ない。
「これで一度、近寄って見てみろ」
柱に近付き、下から上まで眺めている螭。
「真っ直ぐだぜ」
「その為に引っ張ったんだ。じゃあ、壁貼るぞ」
壁といってもガラスなのだが、柱に適度な間隔で胴縁を這わせ、ガラスを貼っていく。本来であれば枠があるのだろうけど、省略した。
「親父、入れねえぜ?」
全ての壁がガラスで埋められ、出入り口すらない。今から開けるのだ。
「本当は入り口用に枠を作るんだが、壊れてもどうせ俺が直すんだ」
イメージが投影されただけのガラスを再びイメージで型抜きした。扉の形で再形成されたガラス。あとは固定化して出来上がりだ。
「こんな感じだな。お前が創る時に気を付けるのは、物質を真っ直ぐに創ることくらいだ。あんな隙間だらけでは見っとも無いからな」
あんなとは、あばら家を差した言葉だ。
「うん」
「このブロックだって、その一辺は真っ直ぐだろ?」
先程消したブロックを再び出し遊ばせてやる。ブロックを組み立てることを建物に応用できるくらいの器用さはあると信じている。
「もう出来たのですか、早いですね」
「ん、ああ」
「親父は創るの早いもんな、オレも負けてられねえぜ」
「換気窓で温度を調整するようになるだろうな。細かいことは任せるぞ」
「はい、作付けも再度見直しましょう」
「水の管理も大変そうですが、いろいろと試してみましょうか」
ソフィーとアンソニーは楽しそうだ。螭も少しはやる気を出したみたいで安心した。
読んでくれて、ありがとうございます。




