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あの人に死を  作者: 月見うどん
第3章 おっさん覚醒する
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89.神殺しについて

 この時間に起きているのは俺と円四郎、そして螭くらいなものだろうか。他の者は皆、眠りへと落ちているはずだ。

 ソフィーの寝顔を見つめつつも気配を探ると、円四郎はエントランスの脇に腰掛け酒を嗜んでいた。こいつ、どこからカップ酒なんて調達してきたのだろう? うちには一升瓶か、大きなパック酒しか置いていないはずなのだが……。

 螭は何をしているのかと思えば、独りプールで遊んでいるようだ。螭の思考には理解が及ばない部分が多々あるので、放置しておくのが一番だろう。面倒事に首を突っ込むべきではない。


 さて、『神殺し』について考えてみるとしよう。

 なんともまた背徳的な響きのある言葉。

 今までで一例しかないという話で詳細が不明な以上、考えようとしても何も浮かんではこない。

 わかっているのは、サティがおかしくなった原因がそれだということのみ。

 ここからは、まあ想像だ。王が神を殺せるのであれば、王は王を殺せるのではないだろうか? 若しくは、俺が俺自身を殺すことが可能なのではないだろうか?

 ソフィーの件が片付くまで俺は死ねない、消えることも出来ない。そんな我儘は通らない。俺が死を求めるのは過ちだと思っておくべきだろう。もしそれを求めるのならば、先にソフィーをまともに死ねる状態へと戻してからだ。

 俺はもう死を求めないと決めたのだから、こういった考え方は良くない。前途多難なソフィーの呪い解除、これまで調べてはいるが全く進展していない。叡智の王、おっさんに協力を仰いではいるが向こうも進んではいまい。何より、魔術というものに精通していない俺には謎が多すぎる。


 道を逸れてしまった。考えるべきは『神殺し』だったはず。

 どこかに馬鹿な神でも居れば試せるのだが、そんなものはおいそれと存在してはくれない。それに実際、試していいものかどうかも悩みどころだ。否、悩む以前の問題のような気もする。

 恐らくは毎度の如くイメージで殺すのだろう。それは、どこまで殺すことが可能なのか? 記憶も何もかも全て殺し尽くすことは可能なのだろうか?

 俺は人間だった頃の知己に於ける記憶がごっそりとさっぱり消されている。唯一、覚えていてくれたのはソフィーだけだった。まあ、ソフィーの場合は可逆的な気もするが……。

 もし神が神であったことと、それに伴う全ての記憶を抹消することが可能ならば、アーリマンが記憶していることは腑に落ちない。

 サティが意図して殺したわけでは無さそうな原因か? もし意図して殺すのであれば、完全犯罪として隠蔽するはずなのだ。あのおっぱいもそこまで馬鹿ではないと思いたい。

 この先あるかどうか疑わしいのだが、俺がやるなら完全に隠蔽するわな。可能なはずなのだ、人間の俺がそうであったように記憶も思念も残滓も何もかも消し去ることが。

 おっといけない、物騒な考えになってしまった。今後、このことは俺の胸の内に秘めておくとしよう。


 

「円四郎、それどこから持って来た?」

「総菜を買ったついでにな」

「ソフィーの金、だからな」

「うむ、わかっておる。感謝して嗜んでおるよ」

「俺も大きな声で言える義理ではないからな」

「紐だな」

 ……くっ。

「あんただって同じだろ? 居候なんだから」

「否定はせぬよ」

 こいつとも少し話すとするかね。

「これからもここに住むか?」

「爽太のことを考えてくれておるのだろう?」

「それだけでもないけどな」

 螭の教育を押し付けるのに絶好の相手だからね。

 螭はポテンシャルの半端ない太古の神らしい。剣術でも仕込んでもらえれば、案外ものになるかもしれん。

 元々なのかは分からないが、螭は頭より体を動かす方が向いていると考えられる。

「居ても良いというのであれば、居候を続けさせてもらおう」

「でも、仕事はしてもらう。とりあえずは、螭をお前に弟子入りさせる。爽太やアンソニーより素質は上だろうからな、上手く育てばあんたも嬉しいだろ?」

 適当に誤魔化しつつ押し付ける。

「しかし、螭殿は拙者とは比較できぬ程の神なのだろう?」

「問題ない。何かあっても俺が制御できる」

 ゴネても強引に押し付けるぞ。

「協力が得られるのであれば、拙者としても吝かではない」

「ありがたい。早速だが、明日から頼むな」

 手を振り円四郎の元から去り、プールへと移動した。


「おい、何やってんだ?」

「お、お、お、親父?」

「まあ何でもいいや。お前、明日から円四郎の弟子な」

「は?」

「研修期間は終わりだ。お前はここに住むのを許すが、陽菜には帰ってもらう。

 お前の教育は継続して、教師役を円四郎が引き継ぐという手筈だ」

「陽菜、帰っちゃうのか?」

「あそこと繋がる新しい扉を設けるから、それを気に病む必要は無い。いつでも通えるようになる」

 研修の終わりは結構前から考えていたもの。どうせなら卒業試験みたいなものを用意したい。


「研修終了に際して、ひとつだけ課題がある。

 円四郎と爽太、そしてお前が新たに住む家を、出来れば屋敷と呼べるくらいの大きさの物を創ってもらう。以後はそこに住まうのだから適当では済まされないぞ」

 螭は義理の娘となってはいるが、実質居候なので構わないだろう。

「オレ、家なんて創れねえぜ?」

「何言ってやがる、お前なら出来るはずなんだ。見ろ、この城だって俺が一人で創ったんだぞ」

 無理難題を押し付ける、俺。出来なくないはずなのだ、以前の螭であればだが。

「親父には出来るかもしれないけど、オレには無理だって」

「別に城を創れと言っている訳じゃない。三人で暮らすのに不自由のない程度の大きさで構わない、徐々に大きくしていけば良いんだからな。

 物質の投影と固定化は教えただろう? 要は応用でしかない」

 頭の回転があまり良くない螭だが、物覚えは抜群なのだ。元々出来るのだから、思い出しているに過ぎないのだろうけど。

「どこに?」

「お前、プール好きだろ? だからこの周辺の土地をやる。余り広げるとソフィーの畑に掛かるから、そこは気を付けろよ。怒られても助けてやれないぞ」

「お母さまを怒らせるのは拙い。凄く怖い」

 ソフィーは怒らせると本当に怖いんだ。

「形にさえなれば、少しくらいなら手伝ってやるからな。やるだけやってみろ」

「わかった。おっさんと爽太に色々聞いてからやるよ」

 可愛いものだ。螭の頭を撫でるような仕草をして、転移でこの場を去る。触れられないから意味はないのだけど。


 再び、寝室へと戻ってきた。

 ソフィーは静かに寝息を立てている。俺の半身も何事もなかったかのように眠り続けている。

 明日は螭の世界へと続く扉を仮設置して、ヒナを送り返そう。その後は螭ハウスの創造、粗方出来たら扉を本設置して出来上がりだな。何事もなく出来れば良いのだけど、そう上手く事が運ぶとも思えない。さあて、どうなることやら?

読んでくれて、ありがとうございます。

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