63.来客?
「あんた何しに来たの? それと人の家の中、勝手にウロウロしないでくれるかい」
他人の家の冷蔵庫の中を勝手に覗くとか、やめて!
「遊びに来たのじゃ、儂に構ってくれる奴はお主くらいじゃからの」
何か妙な気配がすると思ったら、アーリマンが城の中を徘徊していたのだ。
俺の認識の中で許可を与えた者には、大門前か、エントランス前に侵入する許可を与えたのだけども。
まさか、勝手に入って来てウロついてるなど考えもしなかった。
「今日はゲラルドだっけか、従者は連れていないのか?」
「そうじゃの、儂だけじゃ」
常識のある従者を連れていないのが主な原因か、やはり神だけではこんなものか。
「それにしても凄いのう、電気が通っているではないか? どうやっておるのじゃ」
「普通に地球から引っ張ているだけだ」
ソフィーが躍起になって新築した家が完成したので、俺が自前で配線・配管工事をしただけだ。
「それが不思議なのじゃよ、やはり王は桁違いなのかの」
電気・上下水道を引っ張った恩恵としては、今まで簡易的に実現してきた手間が全て省けた。常時転移システムを構築したにも拘らず、消耗は以前よりも減っている。
幾ら神の力とやらで、何もかもなかったことに出来るとはいえ、自分でやらないに越したことは無い。
「その転移扉を使ったことはあるだろ? それの応用だ」
「もしや、転移を維持しておるのか?」
「そうだけど」
「無茶苦茶じゃのう、儂には無理じゃな」
「そんなことはないだろう? 消耗などほぼ皆無だぞ」
途方もない大穴を維持しようとすれば、俺も厳しいだろうが開いているのは三十センチ角程度だ、やり方の問題だろう。
「そこ、上だ。あの程度維持するなら、あんたでも出来るだろう?」
電気だけなら本当に小さい穴があれば問題ない。うちの場合は下水管があるので少し余裕があるだけだ。下水管は電気とは別系統で地下に伸ばしてある。
「なる程の、それなら儂でも可能だのう。我が家にも冷蔵庫を置けるのじゃな?」
「ああ、キンキンに冷えたビールが飲めるぞ」
「しかし人間と云うものは、発想が豊かじゃの。永いこと存在して居るが考えつかなかったわ」
「俺以外に人間からなった神って居るのか?」
「生きた人間がそのまま神となったのはお主だけじゃが、死して祀り上げられ神となった者は多数居るよ」
神社に祀られているような神様は、本当に神様として存在しているだろう。そう考えると、結構な数だよな。
「ただいま帰りました」
「ただいま、旦那」
ソフィーとお豊が買い物から帰って来た。
「久しぶりじゃの、魔女っ娘と従者二号」
「…今日は何の用なの?」
「そう警戒するでない、ただ遊びに参っただけじゃ」
「気が付いたら城の中をウロついててな、捕獲したんだ」
「お茶でも淹れるよ、こんな所じゃなくて移動しな」
お豊は特に気にした様子はなく、お茶を準備しだした。
「食堂で良いだろう」
「仕方ありませんね、買って来たお菓子を出します」
「色々すまんの」
俺たちは揃って食堂へと移動する、すぐ隣なので気にする必要もないけど。
「それで先程の話だが、神ってのは結構な数が存在するのか?」
「世界中に居るでな、実数は掴めんがかなり居るじゃろうて」
「その中でこっちで暮らしているのは、どの程度いる?」
こっちとは宇宙という意味だ。仮初の世界を創っている酔狂な連中はどれくらいなのだろうか?
「どうじゃろうか、半数も居らんのではないかの。そもそも力の弱い神は転移も出来んからの」
「転移が出来ないんじゃ、長距離移動は大変だな。交通機関でも利用するのか?」
過去に飛んだ俺のように、長距離をフヨフヨ移動するのは厳しいだろう。
「ふっ、笑わせてくれるわい。弱い神はゴーストのようのものじゃ、信仰のある土地を離れられん」
なんだそれ、地縛霊じゃないか。
「そんなもんなのか、わかった。ありがとう」
「そういえば、その扉の先の近隣にも一体居ったはずじゃぞ。中々面白い男じゃぞ、アレは」
俺が人間として暮らしていた地域に、神が居たとは驚きだ。
「興味が湧いたな」
「会えるかは分からんが、探しに行ってみるかえ?」
「特にやることもないし、行ってみるかな」
「旦那様、お出掛けなさせるのですか?」
「分体を送るだけだ、俺はここにいるよ」
「儂も分体を送り出すだけじゃ、食事と酒を愉しませてもらうのじゃ」
「それは妙な感じですね」
しょうがないだろう、俺達は降りられないのだから。
俺は今日もまた肉体に収まったままだ、右腕だけを分離し自立型の分体を創り出す。自立型なら勝手に判断して動くので、便利なのだ。
「あ! そうだ、前回と出口が違うからな」
「多少問題はあるまいよ」
ソフィーが建てた家は、俺の実家の目と鼻の先に建っている。ちょうど広々とした空き地になってはいたが、気を使ってくれたのだろう。
ソフィーが建てた家はというと、民家と云えば民家だが三階建ての鉄筋コンクリート造りだった。もっとこじんまりとした物を建てるのかと思っていたので、かなり驚いたのを覚えている。
家が建ってから、近所の挨拶にと俺の実家、父親に挨拶にも行ったという話だ。気を使ったのか、それとも単に挨拶をしたかったのか、両方なのかもしれない。人間を強制的に辞めてから、こんな良い嫁を貰えるとは何たる皮肉か。
「何をしておる? 分体はもうとっくに出掛けたぞ」
「ちょっと色々思い出して、泣きそうになってた」
純粋な人間だった頃に結婚したかったものだ、一度失敗しているから今があるのかもしれないけどな。
「アーリマンこれですよ、私のお勧めは」
「なんじゃこれは?」
「旦那様もお勧めの豆大福です、今日も朝一で並んで買ってきたのですよ」
あれから毎日、豆大福をお求めて早起きをしているソフィー。よく飽きないものだと感心してしまう、俺は毎日肉体に入ってないから平気だけどね。
「確かにオススメではあるけど、たま~に食べるから美味しいんだよ」
「そんなことありませんよ、毎日食べても美味しいです!」
ソフィーには現状を維持しようという謎の力が働いているからなのか、全く太らないのが不思議でならない。
この豆大福、二個も食ったら飯を一食抜いても十分なカロリーを摂取できるはずなのに。
「おおお、これはまた甘いのう。お茶のお替りを頼むのじゃ」
ペロリと一個平らげたアーリマン。神に食の好き嫌いはないのか?
「これもさっぱりして美味しいんですよ」
豆大福の次に苺大福を勧める神経を疑いたくなる。
「これはまた後味がさっぱりとして良いものじゃの。ゲラルドを呼ぶが良いか?」
「別に構わないが、買いに行かせる気か?」
許可を出すと瞬く間に、ゲラルドがアーリマンの傍に現れた。
「突然お呼びになるとは何事ですか? っと、突然でずがお邪魔いたします」
従者には常識が備わっているのに、この主人ときたら。
「気にしなくていい、今、茶の用意をさせる」
「すまんの、ゲラルド。旨いものを紹介してもらったでな、後で買い物に出てくれるかの?」
「またですか…」
気苦労が絶えないのだろうか、ゲラルドの表情は引き攣っている。
お豊がお茶を淹れ、ソフィーがゲラルドの前に大福を並べる。俺もう大福は見たくないな。
「どうぞ、お召し上がりください」
ソフィーの台詞だった。
「日本の菓子、食すのは初めてです。……これはまた、主人が気に入るのも理解できますね」
「そうじゃ、この豆の付いたやつが欲しいのじゃ、買うてくるのじゃ」
「無理よアーリマン。さっきも言ったけど、それは朝早く店に並ばないと売り切れてしまうわ。それに苺大福もそれが今日のの最後の品よ」」
「な、んじゃと…。お主、先日は甘味など用意していなかったではないか!」
何故か俺に八つ当たりしてくる、アーリマン。
「まさか甘いものも好物だとはな」
「それにこの茶も安物ではなかろう?」
「人間の頃、普通に飲んでた茶なんだけど」
今でも半分は一応人間だよ? 神か奇特な人間にしか認識されないけど、普通ではないだけさ。
「私はお茶屋さんの場所は知りませんから、旦那様に伺ってください」
最初に纏め買いして以来、行ってないからな。
「わかった、今日は泊っていけ。部屋はあるからな」
部屋は腐る程あるが、家具も何もない殺風景な部屋を急ぎ改装しなくては。
部屋のデザインも俺がやろう、ソフィーのデザインは斬新すぎるので危険すぎるからね。。
「言質は取ったからの、今日は帰らんのじゃ」
「お手数をお掛けして、申し訳ございません」
「じゃあ、夕食は多めに作るさ」
お豊の腕の見せ所といった具合だろう。
「では、適当に歓談でもしていてくれ。俺は部屋を用意する、客室は二階にしようか」
二階のエレベーターホールから遠い部屋にしよう、俺達夫婦の部屋の斜め下に当たる部屋だ。音は遮断しているが、真下だと色々と、ね。
人間状態で転移が出来ないので、歩いて二階へと向かい部屋の改装に取り掛かった。
読んでくれて、ありがとうございます。




