53.招待客
「転移扉のテストに総菜でも買ってきてくれ、今日いきなり作るのは無理だろう?」
「豊を連れて行けばいいのですか?」
「買い物も仕方や通貨を教えないと駄目だろうからな、今日は連れて行くだけでいいさ」
「そういえば、そうですね」
空間の景色を元に戻し、お豊を連れパントリーまで移動した。
「この扉だ、何の変哲もない扉だが開けると、あら不思議」
扉の先にはスーパーの陳列棚や客に店員まで見受けられる。
「もし違う所に飛ばされたら、ちゃんと迎えに来てくださいね」
「他の神の世界に飛ばされない限りは知覚できるはずだ。もし地球上のどこか違う場所に出るようなら迎えに行くよ」
「それは他の神の世界だと迎えに来れないと仰っているのでは?」
「原則的に他の神の世界には入れないことになってるからな、気にせず行ってこい」
間違って入ってしまった場合は、俺には認識できないのだ。故に、迎えにいく処の話ではない。
その場合は残滓を搔き集めて探すか、叡智のおっさんにでも訊くしかない。
「豊、買い物に出掛けますよ。付いていらっしゃい」
「はい、奥様」
お豊のソフィーに対する呼び方は『奥様』で固定なんだな? なんか妙な感じだ。
「そこのスーパーはアジフライが旨いぞ」
元肉屋なのだが何故かアジフライが絶品なのだ。
ソフィーたちが出掛けたのを見届け、俺は大門の外へと移動する。
『アーリマン、叡智の王、聞こえるか?』
『私は忙しいのだが?』
『引越しをしてな、場所を教えておこうかと思ってな』
『そうか、位置は把握した。ではな』
さっぱりしてんな、あのおっさん。アーリマンに至っては最初の呼びかけで横に現れている。
「あんたは身軽なんだな」
「暇じゃからの」
「我が家へ招待するよ、暇なんだろ?」
「良いのか? 儂なんぞ入れてしもうて」
「俺はお前らとは一線を引いているつもりだから平気さ」
「言いよるわ」
「んじゃ行くか」
門を開き招き入れる。
「馬鹿げたものを創ったの、世界にはせんのか?」
「あぁ、いずれ壊すくらいなら必要ない」
「まだ引き摺っておるのか?」
「しょうがないだろ、俺は人間の感性を持っているんだよ」
「辛くなるだけじゃろうに」
前庭を城へと向けて進んでいく。
「して、ここにはどの位の数で住むつもりじゃ?」
「俺と従者が二人、それに相棒だな。人間が二人、化物が二体、兎が一匹だ」
詳細は、ソフィーと俺の肉体、俺とお豊、ウサオだ。
「それにしては大きすぎるじゃろ? 馬鹿なのか」
「ああ、馬鹿なんだよ」
さっきもこんな会話したばかりだぞ。
「ちょいと待っておくれ、従者を呼んでもええじゃろうか?」
「一人くらいならな」
もう現れたよ、力の扱いが上手いな歴史を感じるわ。
「お初にお目に掛かります、王。私はこちらの主の従者を務めているゲラルドと申します」
「よろしく頼むよ、うちは俺も従者も新米だからお手柔らかにね」
顔が爺さんなんだけどキビキビと動く、お豊の男バージョンといったところだ。
「立派なお城ですな、素晴らしい造形でございますな」
「初めて褒められたな」
例え社交辞令だろうと、初めて褒められたのは嬉しい。
前庭を抜けやっと城のエントランスに辿り着いた、ソフィーたちはまだ暫くは帰らないだろう。
「ほぅ内部の造形まで手が込んでおるな、それにしても従者が居らんようじゃがどうしたのじゃ?」
「買い物に行かせている、時期に戻るだろう」
「お主が送っていったのか?」
「いや、俺は行かない方がいいと聞いたからな。専用の転移装置を用意した」
「そうか、半端な説明になってしもうたからの。お主、分体は創れるかの? 分体であれば影響は出ぬぞ、残滓は本体に集まるでな」
「そういう裏技があるのか、良いことを聞いたな」
分体は指輪くらいしか創ってないから判らなかったよ。
「大事な儂らの王じゃからの、レクチャーしてやるわい」
そんな話をしているとソフィーたちの気配が城の中に発生した、帰ってきたのだろう。
「どうやら戻って来たようじゃの」
「そうだな、迎えに行ってくる。そこらに掛けておいてくれ」
エントランスから少し進んだところにラウンジを設けてあるので、休んでいてもらおう。
その間に俺はパントリーへと二人を迎えに行く。
「おかえり、二人とも。テストは成功だな」
「ただいま帰りました」 「ただいまだよ、旦那」
「旦那様なんですかあのお店は! もっと早く紹介して頂けたら良かったのに」
「待て待て、俺が招待した客がいる。悪いがお豊は急ぎで茶の準備を頼む、二名分だ」
「どなたを招待なさったのですか?」
「アーリマンだ、今はラウンジで待たせている。それにしても結構買い込んだのだな?」
「アーリマン…聞き覚えがあるような気がしますが…。そうです、何ですかあのお惣菜の質は!」
藪を突いてしまった。
「とりあえず、客を持て成そうか。食堂もあるのだが、ラウンジで良いか」
「初めて見えられたお客様ですし、ラウンジで会話を愉しむのも良いと思いますよ」
「お豊、ラウンジわかるか? 入り口の辺りだぞー。行こうか、ソフィー」
パントリーに居るお豊に場所を教えてから、ラウンジへと急いだ。
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