9今こそが知識を生かす時?
今、領主様の領内視察につきあうことになった。
なぜ?
事の始まりは、昨夕、仕事が終わったら声をかけられた。
「明日、領内の視察に向かう。そなたも一緒に行けるか?」
「えっと、それは、構いませんが、なぜわたくしを?」
「とりあえず、一緒に見てもらえればいい。」
計画は、領地の北の端の海辺まで向かい、漁師の生活を見学し、そしたら、農地を見ながら城下町の商工ギルドを見るスケジュールらしい。
それは、いいのだけど、私は、今、領主と一緒に、馬に騎乗している。どうやら、馬に乗れない私のためらしいのだが、、、、。ちょっと気恥ずかしい。私の背中を守る形で後ろに領主様が馬にまたがっておいでなのだ。
本当いうと、レティシアでは乗ったことがないのだけど、真理より前に、乗っていたことがある。女騎士だったからだ。
昔取ったきねづかで、体は?覚えているかもしれない。
でも敏い領主様なので、不審なことは、言わない方がいいと思って、黙って従っている。
「あの漁業ギルドにも顔を出すのでしょうか?」
「ああ。王都には、海がなかったので、十分に時間を取りたい。」
「今回の視察の目的は、何でございましょう?」
「ここは、貧しい領地だと聞いている。冬も長く、作物も十分にとれない。気候は、どうにでもできないとしても、少しは民の生活が楽になるように考えたいと思っている。」
そのお言葉を聞いて、感謝の気持ちで震えた。前領主様も悪い人ではなかったが、貧しくても仕方がないといった諦めがあったように思う。こんな素晴らしい領主様が来て来れば、この領地は、いくらか豊かになるだろう。と思っていると、爆弾が落ちた。
「そこで、君の出番だ。この領地で売れるものを一緒に探し出してほしい。」
「えっ」
「この間のお茶のようにな。お茶は、すでに手を回して、計画中だ。しかし、あれは、すぐに真似されておしまいになるだろう。」
「あれは、たまたまなのです。そんな、私なんかがお役に立つかどうか。」
「ふっ。まあ領民としても目線で考えてくれれば、それでかまわない。」
私は、背を領主様に預けるといった、世の女性が興奮のあまりに気絶してしまいそうな状況のことは、すっかり忘れ、考えに没頭した。
これから行くのは、海。魚。ここでは、魚は、安い。鳥や牛、豚は、エサがいるけど、魚はいらないからだ。魚は、鮮度維持が難しいため、この領内でほとんど消費される。お貴族様向けには、魔術道具で時を止めて、出荷しているが、ごくわずかだ。魔術道具が高いため、内陸の平民は魚を食べたこともない人が多いという。そして、冬前には、魚をひものにして、保存をきかし、冬を迎えるのだ。
漁業ギルドについた。応接室に通され、私は、提案をしてみた。
「冬の前に、漁師さんたちが浜辺で干物を作っていますよね?あれは、売り物として出荷されていますか?」
「干物?あんなもの冬の保存食で、売るような価値はない。」
「上手に作れば、貴族様向けに出荷できると思うのですが、、、。」
「だが、あれは、保存用に作られていて、塩っ辛すぎる。好き好んで食べるやつは、いまい。」
「減塩でかつ、おいしく作るのです。」
「しかし、減塩すると輸送に向いていないぞ。」
「そうですね。でも、貴族様向けに出荷するので、保存が難しいときは、魔術具で輸送します。価格は、普通の魚より高くなりますが、おいしいものを作れば、大丈夫だと思います。それに、ちょっと辛めに作って、遠くの平民向けにも売れるかもしれません。生の鮮魚よりは、魔術具なしでも遠くに運べますし、今まで魚を食べたことのない、内地の民に魚を食す機会を与えましょう。」
レティシアの思い付きは、成功だった。もともと貴族は新しいものに目がない。今まで干物といえば、辺境の平民の食べ物だった。それが貴族用に新しく開発したとなれば、裕福な貴族はそろって、時流に乗ろうと高値で取引を希望した。平民にも多少広がったようだ。まず、領主は、平民向けの塩辛い点に目を付け、大衆酒場に取引を持ち掛けた。そうすると、このアテは喉が渇く、ビールがよく売れるということで、酒場でも人気となった。平民も酒でくだをまきながら、出稼ぎの平民は、故郷の味だとか、内陸育ちの平民は、今まで食べたことがない味だと大盛り上がり。冬の貧しい食材の幅が広がったようで、これからの冬の楽しみとなるだろう。