第2部第25話 不意打ち
反乱軍は壊滅する。
オルテガが率いていた80名ほどを加えるとこちらは総勢200弱になった。
あちらさんは手負いも含めてもほぼ同数であり、腹も減っているし敗色濃厚で士気も低い。
古い砦の壁を頼りにしていたが、城門がジーナの魔法で粉々になると、あとは精鋭同士の勝負になる。
反乱軍にも数人手練れがいたが、こちらも腕が立つのが増えていた。
オルテガは王都の往来で殺気だけで数人の動きを止めたこともあったが、そういう芸当ができるだけの剣の腕をしている。
もう少し仕える主を考えた方がいいんじゃないかという感想を抱くほどの剣の冴えだった。
そして、拳闘士のデュラス。
ギルドマスターとしてはどうかと思わなくないが戦士としてはまだまだ現役の腕前を維持している。
あぶれ者相手とはいえ斬りかかってきた剣を拳で殴って折るとか敵が気の毒になるほど強かった。
それにティアナの料理のためにいつも以上に張り切っているキャリーも絶好調である。
魔力を付与して白く光る剣で恐らく正規の騎士と思われる相手をすんなり倒していた。
コンバも誰かさんの視線に後押しをされるようにして攻守に活躍する。
この4人の前に長く立っていられる者はほとんどおらず、反乱軍はすぐに恐慌状態になった。
チーチも手下を左右に控えさせて俺の目の届く範囲で戦って活躍をアピールをしている。
他のギルドメンバーも無理をせずに堅実に敵を減らしていた。
ということでほぼ一方的に反乱軍を鎮圧している。
戦死者を出さずにすんでほっとしていた俺を悩ませることになったのは、ほぼ戦闘が終息した後にオルテガがささやいた言葉だった。
反乱軍の指揮者らしい人物の1人に見覚えがあるという。
「間違いなくスミノフ公爵のところの騎士です」
おっと。
俺を目の敵にしている大貴族様の名前がここで出てくるとはね。
どうもスミノフが裏で糸を引いているという話は聞いていたので驚かなかったが、その名をオルテガが出したことは驚きだった。
さすがに王室への反乱に関与しているという発言を口にするというのはなかなかに大胆な行為である。
「見間違えということはないですか? 相手が相手だけに耳に入ったら大変なことになるかもしれませんよ」
「ギルド長が漏らさなければ伝わることもないはずです。それに私は人の顔を覚えるのが得意でしてね。まず間違えませんよ。ハリス殿」
最後は一段と声を落とした。
それでもその口にした音は聞き間違えではなさそうである。
オルテガが俺の正体を見破ったことの衝撃を隠そうと必死に表情を保とうとした。
「随分と人相風体が変わられましたな」
他の人々から少し離れたところで話をしているので聞こえていないはずだが冷や冷やとする。
「ということで、ギルド長の境遇はいささか存じ上げているつもりです。私の先ほどの発言はギルド長の秘密を私の胸のうちに収めておく証とでも思ってください」
「他人の空似というやつでは? あの騎士が誰に仕えているかの推論に話を戻しますが、一介のギルド長の発言なんぞ大貴族様が耳を傾けることはないでしょう」
「そうでしょうか。いずれにせよ死んでしまったのは残念ですな」
「生け捕りにするのはちょっと難しかった。そこはやむを得ないでしょう」
「さて、我々は引き上げますが、反乱軍の鎮圧に一臂を添えたことは姫殿下によろしくお伝えください」
「どの姫殿下です? いや、どなたにしても俺が話をできる相手じゃない」
オルテガは薄く笑うと一礼をして自分の部下を呼び集め始めた。
「総員集まれ! 各班長は点呼をして報告!」
歩み去る背中を見つめる。
まったく。
言うだけ言って去っていくとは肝が冷えちまったじゃねえか。
まあ、俺の変装は思ったほどは効き目がないということを知れたのは良かったのかもしれない。
それこそスミノフの配下に同じぐらい慧眼な者がいたら今頃はきっと面倒なことになっていただろう。
そして、純粋に反乱軍鎮圧という点でもあの人数が加わっているかいないかでは大違いだった。
「オルテガ殿。ご助力感謝する! 主殿にもよろしくお伝えください」
俺が叫ぶと腕利きの男は左手を上げて応える。
その間にも冒険者たちによって投降した反乱軍の拘束が続いていた。
どうせ極刑しかないのだからわざわざ連行する手間をかける必要はない気がする。
とはいえ、俺が私刑を執行するわけにもいかなかった。
村を滅茶苦茶にされ、家族を殺された者たちからすれば恨み骨髄だろうが、その点を斟酌して裁きを下すのは別の人間の仕事である。
とりあえず俺はレッケンバッハ伯爵からの依頼をこなした。
しかも味方に死者を出していない。
これ以上、冒険者たちに何かひと働きをしようという活力は残っていなかったので、今夜はこの砦で1晩過ごすことにする。
特にリコやカイルのような新人たちは疲労が激しかった。
そして、神官たちも治療で忙しい。
ただまあ、この俺は指揮を執るだけで自分で剣を振るうことはなかったのでまだ余裕がある。
引き連れてきた冒険者たちを慰労して回った。
そんな俺を暇そうだと思ったのかデュラスがダンジョン探索に誘ってくる。
「ここは1つギルド長同士で親睦を深めようじゃないか。ワシらは冒険者だからそれにはダンジョンが最適の場所だろう。ということで、すぐ近くにあるダンジョンを軽く一巡りせんか」
言っていることが意味不明であった。
そりゃまあ、ダンジョンは生活の糧を得るための大事な場所であるのは間違いない。
しかし、親睦を深めるのにダンジョン巡りをしようというのは……。
俺と内密の話をしたいということなのだろうな。
「軽くですよ。回復役なしでペアで潜るなんてリスクが大きすぎます」
「なに、ワシ1人でも第3層は余裕だ。貴殿もそれぐらいはできるだろ?」
「俺は後衛なのでさすがにそれは厳しいですよ」
「また謙遜しおって」
拉致されるようにしてダンジョンに連れていかれそうになった。
ジーナやコンバ、キャリーがついてこようとするのを止める。
デュラスはそれでいいというように頷くとご機嫌で歩き出した。
俺は皆にゆっくり休むようにと指示をして後を追いかける。
ダンジョンに入るとかなり強めの風が吹いていた。
びゅーびゅーと風鳴りの音がする。
勝手知ったるとばかりにスタスタと歩くデュラスは頃合いはよしというように俺に向き直った。
「で、お前さん。ナルサスの意志を継ぐのか?」
その名を聞いて俺は思わず右手の手袋の下に嵌めている指輪に意識を向ける。
指輪を俺に遺したジジイの名を聞くのは久しぶりだった。
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