第2部第23話 道半ば
カイルとリコを連れて各方面を見て回ったが、どこでもほぼ一方的な戦いになったようだ。
ただ、この場所では我々が優勢だが、砦に残っているだろう人数を含めると全体としてみればこちらの方がまだ少数である。
深入りを避けて集結するようカイルとリコに角笛を吹かせた。
僕たちも戦えますという2人をなだめるために進退の合図を出す役割を与えてある。
未熟者を死なせないようにするのは大変だった。
ジーナとコンバのところに戻ると今日の最大の功績者は落ち着きを取り戻している。
「おい。ここに小麦粉がついているぜ」
俺の唇の脇に指を当ててコンバに声をかけると慌てて手で口元をこすっていた。
星明かりの下でも頬を赤くしたのが見てとれる。
一方のジーナはすまし顔だった。
戦いのどさくさに紛れて恋愛における重要なステップを済ませるとは結構なことである。
図らずも相談されていたことの1つは解決できたようでなによりだった。
戻ってきた冒険者たちの点呼をする。
さすがに味方に全く損害が出ていないということはなかった。
魔法士のサムスンは逃走中の敵と不意に遭遇して骨が見えるほどの傷を負っている。
神官に傷は塞いでもらったが蒼白な顔をしていた。
負傷が多かったのはチーチの2人の従者である。
大小いくつもの傷をつけていたが、主人であるチーチも手に小さな怪我をしていた。
他の冒険者の証言によるとかなり強引に斬り込んでいたらしい。
チーチに傷がついてしまったことを従者たちは詫びている様子だったが、当人は鷹揚に構えていた。
俺の方をチラチラっと見る。
「奮戦した証ですもの。これは名誉の負傷ってやつよね」
マーキト族の言葉ではなくわざわざ王国語を使っている辺りで意図は明白だった。
他にも怪我人がいるが4人の神官が魔力切れを起こすほど懸命に治癒魔法を唱えたので幸いにして死者は出ていない。
対する敵側の損害はざっと2百強というところ。
その半数以上が胸から上が綺麗に無くなって死んでいる。
ジーナが水平方向に広く円を描いて魔法を発動した結果だった。
凄惨極まりない光景は冒険者でなければ吐いたことだろう。
刀剣で倒された者を含めたこれらの遺体は埋葬してやるのが礼儀であった。
しかし、俺は放置を選択する。
砦に籠もっている反乱軍の連中がそういう礼儀をわきまえているならそれでもいい。
しかし、実際には俺たちが骨を折って埋葬している最中に再度襲撃してくるだろうことは確実だった。
俺は税である小麦粉の輸送を継続するように指示を出す。
ジーナが潜んでいた荷馬車が1番損傷が激しく放置せざるを得ない。
しかし、残りの荷馬車は使用に耐えうる状態だった。
1度は驚いて逃げ出した馬が三々五々と戻ってくる。
褒美ににんじんをやってから、馬をつなぎ直して領都へと向かった。
追撃を警戒していたが夜が明けても後ろから迫ってくることはなく先に進むことができる。
ジーナを始めとした魔法士や神官の魔力が枯渇しており、もし襲われたら50人程度を相手にするのでも苦戦したはずだ。
主街道に合流し、再び暗くなるぎりぎりまで進んだところで野営をする。
途中通り過ぎた村は半ば焼け落ちて無人だった。
建物が残っていればそこで休んでも良かったのだが、この状態では野宿と変わらないので距離を稼ぐことを優先している。
交替で見張りを立てつつ1晩休んだことでようやく安心できた。
熟睡できたわけではないので完全回復とはいかなかったがそれでも多少は魔力が回復している。
特にジーナはいつもよりも調子が良さそうだった。
人前でイチャイチャすることはないが、ふとした弾みにコンバと視線が交錯すると自然と表情が柔らかくなる。
小休止のときにキャリーがそばにきて声を潜めた。
「どういうこと? 私が真剣に戦っていた間に何をしていたわけ?」
「そう言うなよ。箱の中に閉じ込められて運ばれていくってのはぞっとしないぜ。ぶちまけられた小麦粉に死ぬほど咽せていたしな」
「まあいいわ。とりあえず私は奥様特製ディナーの席は確実ってことでいいわよね」
「まだ半分残っているのでなんとも言えないなあ」
「そう。まあ、後半戦で私のキルスコア超えるのは大変だと思うけど油断はしないようにするわ」
道を急いだ俺たちは2日後に領都に到着する。
役所に小麦粉を運び入れると、量が少ないと文句を言われた。
「これでは足りません。不足分をどうするつもりですか?」
「まあ、そうかもな。だが、俺は別に徴税請負人というわけじゃない。この輸送に小銅貨1枚たりとも受け取ってないんだ。それに悪いのは反乱軍だぜ。足りない分を払えと言いに行くなら俺たちと一緒に行くか?」
「え?」
役人は驚いた顔になる。
「税が足りないからきちんと取り立てなきゃいけないと職務熱心なのは結構なことだ。俺たちはこれから取ってかえして反乱軍と戦う。あんたも同行して減った分の小麦を回収しようというならレッケンバーグのギルド長として歓迎するぜ」
いかにも度量の広いギルドマスターが善意を示しているというような口調を出した。
「あ。いえ、その」
役人は狼狽する。
まあ、足りなくなった小麦粉はジーナが吹き飛ばしているし、それを命じた俺に責任がないかというと議論の余地はあった。
ただ、それを正直に言うつもりはないし、反乱軍が襲ってこなかったら発生しなかった損失である。
因果関係から帰責割合を計算したらどうなるか、ジジイならたちどころに弾き出してみせるだろうが、俺には正確なところは不明だった。
まあ、100パーセント俺が悪いということはないだろう。
そして、理非は別にして俺はギルドマスターである。
それなりに偉いし、少なくとも目の前の役人は俺を糾弾するには力不足だった。
まあ、ノルンのギルドマスターのサマードほどの威厳がなく胡散臭い俺の立場を見誤ったんだろうな。
「明日には出発する。いつでも待ってるぜ」
最後に役人に笑顔を見せると10人ほどの冒険者を引き連れて、領都の冒険者ギルドに向かった。
先にキャリー、ジーナ、コンバなどの手練れを向かわせており、残りは宿の確保をさせている。
ギルドに先行した面子を腕利き揃いにしたのは追加の参加者を募る都合からだった。
バラスマッシャーと組めるとなれば参加を希望する者は増えるはずである。
石造りの由緒ありげな建物に到着した。
ギルドとしての歴史も長くできたばかりの我がギルドとは格が違う。
建物に入ると受付でギルドマスターへの面会を求めた。
白髯の威厳ある初老の男性のいる部屋にすぐに案内される。
俺はここのギルドで冒険者を募る件について了解を求める説明を始めた。
別の場所のギルド長が乗り込んできて冒険者を募集するのである。
感情的にはあまり面白くない行動であり、つれない対応をされる可能性も高かった。
強者感あふれる男は顎髭をしごく。
「貴公がここの冒険者を募って指揮を執るというのか? それはちと飲めぬな」
重々しく宣言をした。




