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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 最終章 ラム・アファース
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122 壊れてる者、壊された者

 風を巻き起こし空へ。この街のすべてを見下ろせるその頂上まで。


 テレレンたちの乗った盾のボードが急加速して、あっという間に見上げていた場所までたどり着く。


「――くわっ!?」


 待ち構えていた魔法使いさんに目が飛び出すほど驚かれる。それでも、その人の行動は素早く、すぐにその手に炎が握られこっちに向けて放ってきた。


 危ない! と感じると同時にロディ君の手が伸びる。気体の火炎放射を念力で自分のものにすると、一度テレレンたちを避けるように軌道を変えて、背中を一周させてからそのままお返しする。その反撃にリメインのその人は同じ魔法をぶつけて対処し、炎が消失した。


「うがっ――!?」頭を抑えだしたリメインの魔法使い。魔法の副反応に苦しそうなのに、命知らずなのか真上に炎を球になるように集め出した。両手から溢れる熱が火球を大きくしていって、それはとうとう太陽のようにまで膨れ上がっていった。


「マズいよロディ君!?」


 テレレンが言わずもがな、ロディ君は既に手を伸ばしていた。両手をグッと、特大の火の玉を投げ返す気でいる。さっきと同じサイネスの魔法でお返し出来るかも。でも、とっさに映ったロディ君の表情が思ったのと違うものになる。


「反応、しない?」


「え!?」


 火の玉に念力の感じがしない。そのまま魔法使いが不敵に叫ぶ。


「いぃえっはー!」


 投げられた火の玉。星が降ってくるかのような光景に、テレレンはもうダメかもと身を縮めた。けど、瞼の奥の光が消えると、体には何も感じられなかった。おかしいと思ってすぐに目を開けると、どこも燃えていなかったロディ君がこう言った。


「幻の魔法、なんだ」


「え!? ってロディ君! 足場が!」


 盾にかけていたサイネスの効果が切れていた。ガタガタと音を立ててボードが崩れていって、テレレンたちも真下の床に向かって落ちていってしまう。


「キャーーー!!」


 落ちてる! 落ちちゃってる! 頂上に手を伸ばすけど離れていくばかり。落下先ではダグレルさんが忙しそうでこっちに気づいてない。どれだけ願っても頂上には届かないし、背中から死の気配が近づいてくる。


「伸ばして!」


 迫真な声。見ると横からロディ君が必死にテレレンに手を伸ばしていた。すぐに頂上に向けていた手をロディ君に伸ばす。指先が触れ合いそうで届かず、掴もうとしたけど掴み損ねてしまう。


 それでも、ロディ君は体を寄せてもっと伸ばしてきた。テレレンも同じように肩から届かせるように傾けてみせる。なんとしてでもその手を掴もうとする。


 そして、ようやく。パシッと。


「掴めた!」


 一緒に落ちていた盾の一枚が念力の魔法にかけられる。即席の足場となってロディ君がそこに乗って、テレレンは腕が千切れそうなくらい上に引っ張られた。体にかかった重力はとても重たかったはず。でも、ロディ君はその手を離さないでくれた。


 床まであと少しというところでなんとかなった! ロディ君がテレレンを引き上げてくれる。一枚だけの盾じゃとても狭くて、ほとんど抱き合うような態勢になる。


「行けるよね、ロディ君」


 無言のまま頷いてくれる。それを見て、また風を起こそうと集中した。


「よし! もう一回! 行くよ!」


 落ちかけたってまた昇ってやる。死なない限り足掻いてみせる。


 負けない限り、何度だって!


「ぐえっ!? また!?」


 さっきと同じく素早い反応で魔法を浮かべる魔法使い。今回に限ってはロディ君も準備をしていた。テレレンたちの背後に浮かび上がったのは、複数の盾が寄せ集められた大きな塊。


「サイネスブレイク!」「ぷあーっ!」


 火炎放射も放たれ、二つの衝撃が真ん中でぶつかり合う。盾は十何枚も束になっているというのに、炎はテレレンたちの肌を燃やしそうなくらい勢いが激しくて押し込めきれない。


 このまま押し合いが続いたらロディ君の負担が! またボードが落ちちゃうかも! だったら、今決めないと!


 広げた両手を天高く上げ、癒しの風を一か所に集めていく。そして、頭がはち切れそうなのを乗り越えてそれを一気に解放! ロディ君の作った巨岩に後押しを!


「ロマンストルネード!!」


 風を台風のように渦を巻かせ、念力に更なる勢いを加える。一人で押しきれないものを、二人の全力で押し切ろうと。


「いっけー!」


「くっ! ……――ぬあっ!?」


 押し込めた! ロディ君の腕が伸びきって、リメインの人の体が倒れ、その上に次々と盾がのしかかっていって、それ以上の動きを封じることに成功した。


「やった! やっと止められた!」



 * * *



「……まさか」


 ボソッと呟いたイブレイド。彼の視線が城の一番高いところへ移る。つられるようにボクらもそこを見てみたけど、遠く暗いそこで何があるのかは誰にも見えなかった。だが、ボクなら何があったか分かる。微かに聞こえた鉄を叩くような音で、やっと到達してくれたんだ。このタイミングになって、初めてラケーレとイブレイドの間にボクは歩いて入っていく。


「セルスヴァルアの王子。お前の目論見もここまでだ」


 気づかれるや否やギッときつく睨まれる。


「魔王の娘……。お前の仕業か」


「幻影の魔法を使うヤツはボクの仲間が止めてくれた。もうお前がお父さんの姿になりすますことは出来ない。これ以上、混乱を招くような小細工はもうさせない」


「別に。彼は既に十分な役割を果たしてくれた。たとえ僕がここで倒れ、君たちが生き残ろうとしても、一国の王子の死がその後の波及を呼ばないわけがない。父上をはじめ、あらゆる公爵貴族たちが魔物きみたちを滅ぼしに向かうだろう。そうさ。既に終焉へのプロローグは完了しているんだ」


 最後の言葉はもはや割り切ったかのような言い草だった。七魔人とボクらに囲まれているというのに関わらず、勝ちを確信しているかのようで鼻につく。


「ボクたちは終わらないし、お前が望むような結末にだってならない。このボクが生きてる限り、絶対にありえない」


「いいや。君たちは終わるんだ。なんならここで終わらせてやる!」


 ネロスの前兆を感じ、すぐさまフレインで壁を作るように発火させた。ボクの目には一瞬で位置が変わったイブレイドが映る。攻め損ねた彼に七魔人が割り込んでくる。


「んなまどろっこしいのはいいって。生きるか死ぬか。殺すか殺されるかでいいじゃねえか」


 ジャブを放つ程度の突撃がかわされ、反撃のネロスを両腕で首元を守るように覆って防ぐ。何事もないのに血が噴きだしたかと思うと、すぐにその傷が完治する。


 不毛だ。不毛な戦いが続いていくだけ。


 これ以上ボクらが戦っても、そこには死体が残るだけだ。


 再び火花を散らし合うそいつらを見て、ボクの憤りは頂点を越えそうになる。

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