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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 最終章 ラム・アファース
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119 臆病者の反撃

「ジャイロボルト!」


 放たれた電気玉を見て、真っ先に前へ出ていくラーフ殿。「展開!」と一声上げれば、構えた盾からまるで二匹の蛇が渦巻くかのように鉄が伸びていって、ずっしり構えたラーフ殿が力強く受け止め、腕を振り切ってそれをはじく。その裏から、間髪入れずにアリーナ姉妹が飛び出し、一本の槌を二人で握って敵に向かっていく。


「「ダブルスインパクト!」」


 空へ高々と抱え上げてから、頭上に向けて一気に振り下ろされる。ガスンッと鉄板を殴ったような音が鳴る。それでも、ドットマーリーは両腕を覆うようにして防いでいて、逆に攻め入ろうと腕にバチバチ雷が走り始める。


「させない!」


 ラーフ殿の盾を横向きにして伸ばす。それまで隙間のない頑丈な壁を作るようだった螺旋が、ひとりでに伸びていって一本がオラオラゴーレムのどてっぱらに一発かました。


「ぐぅ!?」うめき声を発し吹き飛んでいくゴーレム。螺旋が元に戻っていく。


「武器がなくとも攻撃が出来ないわけじゃない。さっきも言った通りこいつは俺の相棒。どんな場面にだってこいつは応えてくれるのさ」


 一度押し込んだ流れに、アリーナ姉妹が乗っかろうと走り出す。


「もういっちょ!」「いっちゃおう!」


「「ダブルスインパクト!」」


 黒い拳が硬く握られ、黄緑に映る稲妻がビシビシ宿っていく。


「オラを舐めるなダド。ボルトパンチッ!」


 振り下ろされた槌と、頭上向けて伸びたパンチがぶつかり合う。その巨体にたがわない百キロを超えてそうな拳と、磁力を反発するようにして槌ごと吹き飛ばそうとする双子。激しく火花を散らす剣のつばぜり合いのように、青い光が周囲に溢れていくのが押し合いの熾烈さを物語る。


「「負けるもんかー!!」」


「吹き飛べ! ダッドォ!!」


 迫真の一声で押し切ったのはドットマーリーだった。


「うわっ――!?」「きゃっ! ――イリーナ!」


 姉さんは槌を持ったまま地面に転がされ、妹さんがオデたちの方向に大きく吹き飛んできた。それを予見していたかのように、ラーフ殿がすかさずオデの前を通り過ぎていく。


「――っと!」


 お姫様抱っこの構えでイリーナ殿を受け止めて、同時に襲ってきた吹き飛びの威力を両足を引きずりながら殺していく。草原の草が禿げていって、そこに馬車が頻繁に通っていたかのようなへこみが出来上がっていく。


「無事か?」


「うん。直接殴られてはないから。お姉ちゃんは? ――あ! 危ない!」


 小さな口から出てきた大声にとっさに首が動いて、アリーナ殿に向かって電流を流そうとしているドットマーリーに気づく。


「まずはお前から死ねダド!」


 ――死ぬ!


 それだけはダメダヨ! 誰も死なせるわけにはいかないダヨ!


「フロストウォール!」


 地面の土を払い飛ばすかのような手の動きで、二人の間まで氷の壁を築き上げていく。その壁が、丁度「ボルトラッシュ!」と叫び出てきた電流の群れに間に合った。


「ああん? またお前ダドか!」


 ゴリラのような迫力を持った顔を向けられる。その圧力はオデを完全に委縮させてきて、思わず足が動かなくなってしまった。


 敵が近づいてくる。あの時以上の、オデを一人にさせた時よりも強い殺意を持って近づいてくる。もうオデの怒りはさっきの気絶で消え失せてしまっている。


 逃げないと。逃げないと――。


 本能がそう告げてきて、頭の中がその言葉だけで埋まっていく。でも足が動かない。体が身動きできない。何かしないと、と思う度、手も足も出なかった瞬間が。みんなが蹂躙された記憶が蘇って焦りを募らせてくる。今のオデは完全に、蛇に睨まれたウサギのように言うことをきかなかった。


「お前ダド。お前のせいで、オラは最高に苛立ってるダド。だから、お前を潰してやるダド!」


 圧倒的重圧感の歩き。それを一瞬止めてくれたのは、背後から弱い勢いで飛んできた槌だった。


「ンダ。またこれダドか!」


 コツンと頭に当たったそれを、小石を拾い投げるかのようにオデに投擲してきた。岩を砕くための武器が目の前まで迫ってきて、反射的に目を瞑ったその瞬間に、ラーフ殿の背中が一瞬見えた。


「っ――! はあっ!」


 前を見ると広げられた盾が。飛んできた槌は横にそれていった。ラーフ殿が盾をおさめる。またヤツと目が合う。


「ちょこざいなヤツらダド。群れないと生きていけないお前らなんて、弱者そのものダド」


「俺たちは弱いから手を取り合っているんじゃない。誰も死なせないために、仲間と一緒に生きるんだ」


「そんなの、自分だけ強くなれば意味なくなるダド。お前たち人間は甘えてるだけダド」


「強いだけじゃ人間は生きていけない。魔物である君に理解できるか分からないが、俺たちの持つ力は君みたいな横暴な者のためにある。強き者が好き勝手するような世界は、破滅をもたらすだけなんだ」


 ゴツンッと両の拳が苛立ちを響かせる。


「横暴なのはどっちダド! お前たちがオラを襲ってきたダドから、オラもやり返してるだけダド!」


「ならばなぜ彼を襲った?」


 ラーフ殿がオデに向かって腕を伸ばした。


「同じ魔物同士だというのに、なぜだ? 襲う理由などなかったはずだ」


「フン。お前には関係ないダド」


「そうか。君の信念が理解出来た。目に見えるものより見えないものこそが真実なのだろう。ダヨ君がそれを教えてくれた。君が好きで人間を襲っているというのなら、俺も己の正義を持って君を鎮めよう」


 横から戻ってきたアリーア殿。双子が揃って手を伸ばし、磁力を使って落ちた槌を引き寄せ掴むと、ラーフ殿と二人は一瞥してうなずき合い、再び強大な敵へ立ち向かっていった。


 何度攻撃をはじかれようとも。何度強烈な技を放たれようとも。何度雄たけびを上げ、それを跳ね返されようとも。


 何度も。何度も何度も何度も。


 彼らは、それ以上の勇気で挑んでいく。


 ……ずっと疑問に思っていたことがあるダヨ。どうしてクイーン様やこの人間たちは、オデよりも小さいのに強そうな敵に立ち向かっていけるのか。


 やっぱり、持ってるものが違うから。オデよりもみんな強い力を持っているからだろうって、いつしかそう思い込んでいたダヨけど、それは違うって気づいたダヨ。


 彼らはみんな、思いを持っているダヨ。誰にも譲れないような目標とも言える。それがゆるぎない信念を心の中に生み出して、それに後押しされるようにして、大きな存在にも立ち向かっていく。


 オデにはそんなものはなかった。ただ死ぬのが怖くて、一人でいるのが不安でたまらない。いつまたおっかない誰かに襲われるか分からないから、ひたすらデカいこの身を隠して生きてきた。


「まどろっこしい! この技で終わりダド!」


 両腕を広げ、電流をバチバチと走らせるドットマーリー。この構えは人工災害の予兆。そいつの最大の技の構え。


 ……オデにも、思いはあるダヨか? クイーン様やこの人たちみたいな思い――。


「ラーフ殿!」


「なんだいダヨ君!」


 あるダヨ。何事にも変えられない、叶えてほしい未来がある。


「オデの全力! ここで解き放つダヨ!」


 クイーン様のためなら。必死でこの争いを止めようとして、共生の世を現実的にしていけるあの方なら。


 オデは、どんな恐怖にだって立ち向かいたい!


「君の全力か! 分かった! アリーナ、今すぐ俺の後ろに!」


 溢れんばかりの魔力をこの手に。己も凍りそうな冷気を両腕にたっぷりと。


 ――人間から見たら、ドリンは上級の魔物かもしれないけど、ボクからしたらそれよりもっと強い存在なんだ。


 オデには、クイーン様の信頼がある。詰めていくダヨ、この腕に。恐怖を裏返した憤怒を、最も解放出来るこの腕にたくさん!


「今更何をしたって、お前たちはこの竜巻で全員千切れ飛ぶダド!」


 回転が始まり、ビシビシと雷の気配が岩肌に伝わってくる。圧倒的な威圧と共に、電圧が恐怖心を煽ってくる。オデの体の中から力を奪い去ろうとしてくる。


 ――今は、ダメダヨ! 怖気づいたらダメダヨ。どんな恐怖も、乗り越えなくちゃいけない!


「ボルトタイフーン――!」


 怒りのたがを外せ。今こそ、勇気を奮い立たせる時!


「ダイヤモンドバースト!!」


 真っ白のクリスタルのようになった両腕を、頭上から地面をもろとも砕かん勢いで振り下ろした。瞬間、ドーム状に絶対零度の衝撃波が飛び散った。


 辺りは一瞬で銀色の世界になり、固まった草原の上に雪風が飛雪ひせつ。極寒の空気がオデの体に浮き出た霜に触れていき、本物の氷河期が訪れたかのような沈黙がしばらく続いた。


「……お、まえ」


 そいつの声がして、むくっと顔を上げた。ドットマーリーの体は氷像と化し、口と目だけが動いている。


「お前は、何者、ダド?」


 唖然とした表情を、オデは初めて見た。息を絶え絶えにして、オデはこう喋る。


「オデは、お前を倒す、ゴーレムダヨ」


「オラが、倒される……お前みたいな、ヤツに……ッギ!」


 思いっきし歯ぎしりしたかと思うと、彼の全身に雷が巡っていった。目に映る電流は段々と数を増していって、とうとうバリンと全身の体を砕き割った。


 まだ、こいつは戦えるダヨか。


「まだダド! オラは、まだ……」


 黒い巨体が一瞬ふらついた。


「オラは、まだ……戦え――」


 とうとう前のめりに傾いていって、そして、バタンと地面に倒れた。殺意のこもっていた目つきが、気絶し白目をむいている。


「……終わった、ダヨか?」


「スッゴーイ!」「お手柄だよ!」


 後ろから双子がピョンピョン跳ねてくる。盾をしまおうとしていたラーフ殿も、真っ白に染まったそれに氷が引っ掛かってしまっていて戻せずにる。


「氷が引っ掛かってしまったか。とてつもない威力だったからな」


「ご、ごめんなさいダヨ」


「なに、謝ることじゃないとも。こんなの陽に当てとけば溶けてなくなる。それよりもダヨ君」


 改めて本名に触れてない名前を呼ばれると、親指を上げて、サムズアップしてくれると一言だけ。


「君は最高だ」


 ……オデ、やったダヨ。なんとか、目の前の障害をどけてみせたダヨ、クイーン様――。


「そうダヨ。クイーン様、今何やってるダヨ?」


「へ?」「クイーン様?」


 空はもう夕日になりかけている。メレメレ殿と話してくるって言って別れたまんまだったダヨけど、こんなに長引くわけがないダヨ。


「オデ、ちょっと街に行ってくるダヨ!」


「ダヨ君? そんな体じゃ持たないぞ!」


 後ろで呼び止められるのを聞かずに、オデは急いで街に駆け込んでいった。

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