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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 最終章 ラム・アファース
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118 正義と勇気の守護神

 ガツッと反発するように盾がはじかれて、その裏にいた黒いゴーレムがよろめく姿を見せた。ラーフと名乗った男の持ってる盾は、他では見たことないような雰囲気を醸し出していて、実際、円形だった形がスルスルと渦を巻くように回りだすと、まるで二匹の蛇が中央の巣に入り込んでいくかのように大きさが縮まった。鉄の塊である盾が自律的に動いていたのだ。


「グウ……。なんダドお前? 妙な盾を使いやがって」


「ギルド所属の冒険者。お前のような魔物から人々を守るのが俺の使命。そして、これはそのための俺の相棒、アーティファクトの『スパイラルシールド』」


「アーティファクトダド? チッ! 生意気なもの持つんじゃないダド!」


 両拳りょうこぶしをこすり合わせてから、そいつが地面に電気を走らせるボルトラッシュを発動してきた。それに対して、ラーフ殿はスパイラルシールドを「横展開!」と叫んで、今度は横長の渦を広げていく。その盾の拡大縮小は自由自在のようで、広がった大きさはオデの肩幅の十倍くらいにまで伸びていき、ラーフ殿が膝をついて構えると地面に流れた電流のすべて盾で遮られた。


「この盾に電気は通らない。もちろん、炎や氷もこれの前では無意味。そして俺は、どんな衝撃だって耐えられる。つまり、俺の後ろにいる者は、何があろうとすべて守られるわけだ」


 スパイラルシールドが腕に吸い込まれるかのように縮小していく。攻撃が一切通らないことに、オラオラゴーレムも悔しそうに歯ぎしりしている。


 オデが作った氷の壁よりも、ラーフ殿の持つ盾の方がよっぽど頑丈、かつ展開も安定しているダヨ。これが、王国最強ギルドの、その盾役ダヨか。


 でも、ラーフ殿には肝心なものが備わっていないダヨ。冒険者なら誰もが持っている大事なものが。


「大きくなったり小さくなったり、厄介なものダド。でもお前、きっとオラより馬鹿ダド。なんで武器を持っていないダド? それでオラに勝てるつもりダドか?」


 黒のゴーレムが言った通り、ラーフ殿はスパイラルシールドしか装備していないダヨ。まさか、武器を忘れてしまったダヨか?


「俺に武器は要らないと、リーダーが言ってくれた。俺の役目はあくまで守ること。お前の注意を引くことだ」


「オラの注意を?」


 ラーフ殿がにやけ顔を浮かべていたダヨけど、その理由はすぐに分かった。ドットマーリーの後ろから、柄から先まで全身銀で出来た槌がクルクル縦回転で飛んできていた。


「――ッダ!?」


 後頭部に直撃。槌はラーフ殿を通りすぎ、そのままこっちにも向かってくる。……向かってくる!?


「ンダー!?」


 急いで頭を下げようと思ったダヨけど、ふとその頭に誰かの足が当たったかと思うと、オデの前にこれまた見覚えのある女の子が現れた。


「不意打ちせいこう!」


 森の葉のような髪色をした少女。その子が着地ざまに槌に手を伸ばしていると、彼女の手と繋がるように電流が流れているように見えて、気がつくとその子は華奢な腕でブンブン音を立てていた槌をパシッと掴み取っていた。


「このままいっちゃうよーイリーナ!」


 取っただけでも凄いのに、今度は大きく腕を伸ばす構えを取ると、それを敵に向かって放り投げてみせた。頭を抑えていたドットマーリーが顔を上げた途端、片腕にぶつかってまた通り越していくと、その先でさっきの子とうり二つのもう一人、若葉の髪の子が陽気に飛び出してきた。


「やっちゃうよーアリーア! 二人の必殺!」


 その子も槌をぶん回すように投げつけて、再びヒットさせつつ相方まで届く。キャッチした勢いを両足でしっかり殺しきって、そうして大声で投げ返す。


「ぼこすかー!」


「スローブレイク!」


 姉妹の攻撃は目玉が飛び出そうなほど大胆で、それでいて無茶を通り越してしまっているこの光景に尚更驚いてしまう。オデに魔法もパワーも打ち勝っていたあいつが、今は赤子のように弄ばれてしまっているみたいダヨ。


「無事かい? フロストゴーレム君」


 いつの間に近くにラーフ殿がいた。あまり親しみがない存在に相変わらずビクッとしてしまう。


「オ、オデはまあ……助けてくれてありがとうダヨ」


「お礼を言うならこっちだ」


「どうしてダヨ?」


「後ろを見てみてくれ」


 言われた通りに、一方的な光景から背後に振り返ってみた。すると、そこにいたはずの兵士たちがみんな遠くの街まで撤退していた。草原の上に倒れている人は一人もいない。


「いつの間に!?」


「君が氷の壁を作って耐えてくれたからだ」


 氷の壁……。あ、そうダヨ。気絶する前、仲間と離別した瞬間がよぎって、勝手にそうしてたダヨ。


「実は君が戦ってる時、俺たちは後ろで見ていたんだ。傷ついた兵士を助けたくて出方をうかがっていたが、君がそのきっかけを作ってくれて、ここまでスムーズに誘導出来た」


「オデがきっかけを」


「俺は君に謝罪をしないといけないらしい」


「しゃざい、ダヨ?」


「君がギルドの者だって知った時、所詮は魔物だろうと思っていた。けれど、苦戦の情報と緊急命令でここに来た時、君が身を挺してあの魔物と戦っていたんだ。俺は君の冒険者としての志を疑ってしまったんだ。本当にすまなかった」


 深く頭を下げて謝られた。


「い、いやいやそんな。冒険者の志なんて大層なものじゃないダヨ。オデは別に、そうしないと残ってる人とかが悲しむかもって思っただけダヨから」


 何気なくそう言ったつもりダヨけど、ラーフ殿はそれが意外だったのか、すっと頭を上げてオデのことを驚くように凝視してきた。何かマズいことを言ったかと思って若干身を引いてしまったダヨけど、ラーフ殿は口角の上がった笑みを浮かべてきた。


「悲しみを知っているなんて。君の心の根は、人間と同じものようだ。うむ。感心した」


 感心したって。これ、褒められてるダヨ?


「君にはまだ協力してほしい。今はアリーナ姉妹が抑えられているけど、あの魔物は気配からして只者じゃない」


「あの二人。体が小さいのにどうして同じくらい大きな武器が使えるダヨ?」


 さっきから「それそれ!」と楽し気に掛け声をしあっている双子の姉妹。テレレン殿と変わらないくらいの彼女たちのその腕力が不思議でならない。


「あの二人は魔法を常に発動している。魔法名は『ネグマ』。磁石に似た効果で、互いに磁力を調整して武器を引きつけ合っているんだ」


 そう言えば、オデの後ろから飛び出てきた時、槌を取る時に手から電流が流れてたダヨ。あれが磁石の魔法で、そのおかげで危ない投げ方でもすっぽり手にはまってくれて、それでキャッチできるダヨか。


天馬行空てんばこうくうの斧投げ姉妹。あの双子につけられた二つ名は冒険者だけでなく、街の人々にも知れ渡っている。今は相手がゴーレムだから槌を持ってるが、あの槌の勢いが止まることは、魔物が百体群れていたって不可能だった。あの魔物も、このまま倒れてくれれば楽なんだが……」


 双子の強さが語られた時、やられっぱなしだったドットマーリーが大きく苛立ちを声に出した。雄たけびを上げながら、飛んできた槌を自分が掴み取って自分の意地を見せつける。


「小癪なヤツらダド。舐めるなダド!」


 槌を両手で握り、ギシギシと音を立てていって最後に銀の柄がへし折れた。


「ああ! 武器が折られたー!」


「大丈夫! もう一本、ちゃんと持ってきてるから!」


 妹さんが姉の方まで駆けこんできて、背中に背負っていた同じ槌を手に取った。ドットマーリーとオデたち四人が、ここでまた真っ向から対面する形になる。


「君、名前は?」とラーフ殿。


「グウェンドリンダヨ」


「グウェンドリンダヨ君か」


「あっと……最後のダヨは――」


「時間がない。いくぞダヨ君!」


「ああちょっと!」


 弁解の余地もなく、お三方は果敢に走り出していった。オデも置いてかれないようにと後を追っていく。意図せずして、オデは他の冒険者と、しかも王子様率いる彼らとの共闘に挑んでいく。

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