8 ロン エンド
「ファナスタ、迎えに来たよ。もう君を離したく無い。辛い思いをさせてごめん。もう何も考え無くていい。僕の手を取って欲しい。」
何故ロン様がここに・・・?
ロン様は聖女様が好きなのではなかったの?
「ロン、様?」
「ようやく、ファナの父上からもポールからも君を迎えに行く許可が降りたんだ。」
どういう事なのかよく分からないわ。
「不思議そうな顔をしている。少し話をしても良いだろうか。」
「ええ。そうね。話して貰えると助かるわ。」
私は神父様に話をして応接室へ彼を通す。ロン様は少し見ない間にやつれたような感じがする。
あれから一体何があったというの。
ロン様にお茶を入れて私も向かいのソファに座る。
「ロン様、お話しいただけますか。」
「ああ。俺は初めの間は聖女の魅了に操られていたんだ。ファナの邸に行った時にポールに魅了をかなり弱めて貰った。聖女の魔力は強くて解除は出来なかったんだ。けれど、魅了が薄まって俺は正気を取り戻した。
ファナに謝りたくてすぐにファナの部屋に行こうとしたけれど、ファナのお父さんとポールに止められたんだ。まだ魅了の事を公に出来ないと。
婚約破棄を保留とする代わりに聖女を止めるための準備があるから少し待って欲しいと言われてね、何故か俺はそのまま王宮へ向かう事になったんだ。
謁見室はとても豪華な部屋だったよ。初めて入った。謁見室には陛下と宰相、ファナのお父さんと俺の親父がいて聖女について話をしていたんだ。
その中で説明されたんだけど、2代前の聖女様の話があった。当時も貴族中巻き込まれて大変だったそうだ。けれど、2代前の聖女様は自身の魅了に気づいて魔道具を作らせた。今の聖女様が着けているやつだね。
あの魔道具を着ける前に学院の状況や魅了の状態など、調べる必要があって聖女に気に入られた俺にそのまま調査するように頼まれたんだ。
俺は魅了無効の装具を貸し出され、卒業パーティーまで聖女の監視役でいなくてはいけなくて、ファナ、君に触れる事が出来ず辛かった。
王命でなければ直ぐにでも結婚したかった。
父達は知っていたけれど、ポールにも知らせてはいけなかったから卒業パーティーの時、ポールに言われた事を弁明出来ずにファナにまた嫌な思いをさせてしまった。
本当にごめん。ファナが教会へ入ってしまった事。本当に後悔しかなかった。ファナが教会に入っている間にポールはファナに新しい婚約者を、と君のお父さんに言っていたみたいだけれど、陛下との約束で僕はまだファナの婚約者なんだ。
ほらっ、陛下にも一筆書いて貰ったんだ。慰謝料と一緒にね。」
そう言ってロン様は王家の印が押されてある文章を見せてくれた。
「ファナ、俺はファナが大好きで、大好きで、仕方がない。君のお父さんは傷ついているファナが俺との将来を望まないなら婚約破棄と言われてしまった。どうか俺の手を取って欲しい。」
私、私は・・・。
涙が一筋の線を描く。
「私は辛かった。苦しかったの。
大好きな私のロン様が聖女様の取り巻きになって、私から離れて行って、雑草だって言われて。
それでもロン様が好きで仕方ないのです。でも、聖女様と微笑みあう姿が忘れられず、自分が嫌になって・・・。」
ロン様が私をギュッと抱きしめる。
「ごめん。ファナ。ごめん。辛い思いをさせてごめん。すぐに婚姻で無くてもいい。もう一度、チャンスが欲しい。俺の恋人になって欲しい。」
ロン様は抱きしめていた身体を離し、私の涙を拭いてくれる。
「ロン様、私は歩みが遅く、嫉妬深くて、我儘です。それでも良いですか?」
「もちろんだ。一生、ファナスタだけの俺でいる。」
私はロン様に手を繋がれたまま、実家に戻った。ポールは複雑な顔をしていたけれど、ファナがいいなら、と何も言わなかった。
私達は婚約期間を伸ばし、2人の時間をゆっくり持つ事になった。
舞踏会にロンと出かけた時は、ロンが聖女のせいで私と婚約破棄となったと勘違いした令嬢達が押し寄せてきたけれど、私を抱き寄せて宣言したわ。
恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまったけれど、嬉しかった。
街に出かけた時は私に似合うアクセサリーを真剣に選んで店主に微笑まれた。
私が病気で寝込んだ時はポールに反対されながらも側に居てくれた。
いつも、いつも私の側に居てくれる。
「ロン様、私と結婚していただけませんか?」
「喜んで。もう、離さない。俺の、俺だけのファナスタ。」
【ロン エンド 完】
短い話でしたが、お読み頂き有難う御座いました!