44.思い出
今回、時間と視点が数回変わります。
ご注意ください。
———海水浴、数日前———
「う~み!う~み!」
「水着っ!水着っ!」
楽し気に弾む声と共にヘレンとフレンダがウキウキとした様子で水着ショップの店内に突撃していく。
店内にはずらりと多種多様な水着、そこでまるで子供の様にはしゃぐ二人は、ハンガーラックに掛けられた数々の水着に目を輝かせながら一つ一つ手に取っては時々自分に宛がって水着を選び始める。
突然エカチェリーナから海水浴に誘われた時は皆揃って色々と警戒していたが、いざ行くと決まった途端に二人はあの様子だ。エカチェリーナの思惑は成功したと言っても過言ではないだろうか。
——とはいえ、どれだけ海が好きなんだか・・・
「楽しそうだね、二人とも。」
半ば引きつった声で私がそう言うとフレンダがかなり興奮した様子した様子で私の言葉に反応する。
「当たり前でしょ!だって海だよ?あの海だよ⁈エカチェリーナがいるのはちょっと複雑だけど、海なんて一生に一度拝めるかどうかじゃない!」
「そんな大袈裟な——」
「ぜんぜん大袈裟じゃない。」
フレンダの勢いに全くついていけていない私を差し置いて珍しく興奮しているヘレンもフレンダの言葉に強く同意した。
その二人の反応に更に私が小首を傾げると呆れた表情のフレンダは更に激しく話を続ける。
「海から近いとこに住んでたあかりとは違うの!私達が海に行くって、ほんっっっとに大移動なんだから!飛行機とか電車とかに乗って何時間・何十時間の世界だから!テレビの中の世界なんだから‼」
「ああ、そうなんだ・・・」
白熱するフレンダの言葉を聞いてようやく私は少し納得する。
そうか、二人の故郷は確かカナダのオタワとアメリカのセントルイス、だったか。どちらもかなり内陸にある地域、それだけ遠ければこんな興奮を抱くのも無理もないかもしれない。
それに引き替え私なんて、海なんか電車に乗ってほんの数十分の世界だったな・・・
「ねえ!こんな水着どう?」
「よき。」
パステルカラーの可愛らしい水着を手にして二人は幸せそうにそんな会話を交わしている。そんな幸福の真っただ中にいる二人の陰で、一人、浮かない表情を浮かべる少女が虚ろに店内を見つめる。
「エレナ。そんな顔してないで水着見たら?」
私がその少女に声を掛けると彼女は不満げな声で私に尋ねた。
「あかりはさ、気にしてないの?エカチェリーナの事・・・」
どうやらエレナは未だに招かれた海水浴の事を憂いているらしい。というのも彼女は、エカチェリーナに誘われた時からこの招待にかなり慎重になっていた。何か裏があるのではないか、と・・・
「気にするも彼女も言ってたでしょう?謝礼だって。それ以上の理由なんか無いわよ、諦めて受け入れなさい。」
私がそう言うとエレナは曇った表情のまま自分の腕を掴んで不服そうに返す。
「だけど——あんなのって、なんか・・・金で解決じゃないけど、そんな感じがする。」
「考え過ぎよ。エカチェリーナはそんな事しない——というかできないから。」
「・・・その根拠は?」
「んー、感。」
「あてにならない・・・」
私の言葉に更に不服そうにエレナがそう言う。その反応に私は苦笑いしながら納得しない彼女の為にもっと根拠になる話をする。
「少なくとも彼女は、間違える事はあっても道理に外れた事はしないわよ。元より、そういう事をする質じゃない。今までだってそうだったでしょう?」
これまでの彼女の態度には嫌味ったらしいところがあったのは否定できない。だが、彼女がこれまでしてきた事は至極真っ当な事で、彼女のなりの道理を通してきた事だったと私は思う。
だからこそ、今回彼女が素直に謝罪してきた事に対して、私はその誠意を無下にする事はできない。
それは、彼女に対する侮辱だと思うから。
だが、エレナはまだ気がかりがあるのかまだ表情がすっきりとしない。そんな彼女に肩を落とした私はフレンダの言葉を借りて言う。
「ほら、『海なんか一生に一度拝めるかどうか』、なんでしょう?」
すると、思い悩む彼女を笑う様に私の背後からフレンダの楽しげな声が聞こえてくる。その気の抜ける様な幸せそうな声にエレナは色々と諦めた様に肩を落として言葉を零した。
「そうね。せっかく行くんだもんね。気に食わないけど楽しめるものは楽しまないとね。」
「そうそう。」
ようやくいつものエレナの明るい表情が戻ってきて私も少し安心する。せっかく海水浴に行くのだから、暗い気持ちのままでいてはあんまりだ。
「——と・こ・ろ・で~・・・もぉ~ちろん、あかりも水着きるんだよね?」
なんて思っているとエレナが急にそんな事を言い出す。完全に油断していた。曲がりなりにもこれは衣服のショッピング。という事はこの間と同じ事が————
「え?・・・いやー、私はいいかな・・・」
大量に冷や汗を流しながら私が恐る恐るそう言うと目を輝かせたエレナが私の手を掴む。
「何言ってるの、ほら行くよ~!」
「えええ———!許してぇぇぇ——・・・‼」
興奮したエレナの力は想像以上に強く、とても抗えるものではなかった。私は、彼女の赴くままに蹂躙される以外なかった・・・・
———海水浴、交流中———
「いい加減、種明かししたらどうですの?」
一向に語ろうとしないあかりに対して私が痺れを切らしてそう尋ねると、水着を着た彼女は何も分かっていないといった表情をして「え?何を?」と言葉を漏らした。その反応に私は肩を落としてため息を吐く。
変わらずじりじりと照り付ける太陽、焼けそうな熱を持つ砂浜、和気藹々とした人々の声。それらに包まれて砂浜に立つ私達は今、ビーチバレーをしている。
組み分けは私とあかり、フレンダとエレナとなっており、残りの二人は審判兼観客としてネット傍のパラソルの陰に座っている。
「新人大会で見せたあの驚異的な防御魔法。そのっ、種明かしですわ。」
あかりから渡されたボールを相手コートへ叩き込みながら私が先ほどの質問を明確に伝えると、彼女は困った様に視線を逸らして言葉を選び始める。
「あー、あれね。」
「何かしらの種があったのでしょう?実際どうやっていたんですの?」
私がそう尋ねると彼女は口元に手を当て難しい表情をして思い悩む。あちこちに目を泳がせたり首を傾げたりと、必死に言葉を探している。
そのわざとらしい反応に私がもどかしさを感じつつ彼女の言葉を待っていると、相手チームから返ってきたボールを目にして彼女は何か思いついた様に答える。
「口で説明するより見てもらった方が早いかな。」
そう口にしたあかりが落ちてきたボールを拾うと、何故かボールが変な軌道を描いて私の元へ飛んでくる。
「は?ちょっ!」
余りの気持ち悪い軌道に私は反応できず打ち上げたボールが明後日の方向へ飛んでいく。当然、そんな奇妙なボールはあかりも拾える訳はなく——というか拾う気すらなくコート外に落ちて私達の失点となった。
「こらっ、あかり!魔法禁止って言ったでしょ!」
「ごめ~ん!」
ボールを拾いに向かう私の背後でフレンダの注意の声とそれに謝罪するあかりの声が聞こえる。
というのも、全員が魔女である都合上、競技をするにあたって競技性を著しく損なわない様に、予め魔法及び魔術の使用を禁止していたのだ。
ですのに、それを破ったのですからフレンダが怒るのも当然でしょう。——まあ、それ以前にあかりは変わらず肉体強化を使っているから今更ですけれど・・・・
そんな些末な事を考えながら私は返せなかったボールを拾い上げて表面に付いた砂を払い落とす。そして、幾分か綺麗になったそれを抱えて再びコートに戻ると一度強くあかりを睨んでから相手へボールを渡した。
「あかり、今のって・・・」
「言ってしまえばベクトル操作ね。物質に働く力の矢印を魔術で強制的に捻じ曲げるの。これで私は攻撃のエネルギーを受け流してるから、ある程度攻撃のダメージを軽減できるの、よっ。」
尋ねた私の言葉にあかりはさも当然の様に簡単にそう話してしまう。私は彼女から渡されたボールを無言でつないで小さく息を吐いた。
またあなたは、そうやって何食わぬ顔でとんでもない事を口にするんですわ・・・
「まあ、これも万能って訳ではないけ、ど——・・・どうしたの?」
健気にボールを送ってようやく私の顔が引きつっている事に気付いたのか、あかりは怪訝な表情でそう尋ねてくる。
その無神経な反応に次第に説明し難い憤りを抱き始める私はため息交じりにあかりに尋ね返した。
「・・・・アナタ、簡単な魔術しか使えないって言いませんでした?」
「言った覚えはないわよ?高度な魔術は使えないとは言ったけど。」
「ベクトル操作は高度な干渉魔術の一つではありませんの!アナタ、また私に嘘を言いましたわね‼」
「そんな事言ったら同調魔術だって干渉魔術の一つじゃないの。高度な分類に入ってるっていうだけで、魔術自体はそんなに難しくないわよ。あっ・・・」
あかりが打ち込んだボールがエレナにブロックされ私達のコートに返された。
「——っ!」
私は急ぎそのボールを拾い強引にあかりにつなげると、流石のあかりも真面目に拾い上げる。
「・・・まあ、魔術行使に必要な計算式は面倒くさいけど・・・」
でも、変わらずお気楽なあかりに私は憤慨した声で言葉を返す。
「普通はそれを難しいと言うんですっわ‼」
打ち下ろしたボールはコート枠ギリギリを叩き、私は先ほどの失点を取り返した。砂の上を寂しく転がるボール。それを無関心に眺めるエレナは、フレンダがボールを私達に渡すとこちらに振り返り不機嫌な表情で私を睨んだ。
その嫌な視線が気になりつつも、構わず私はフレンダから受け取ったボールを抱いてコートの端に向かう。
「ですが、それではあの魔力量の攻撃を防ぐのは無理でしょう。三層中二層の防壁を貫通したんですのよ。」
私のサーブからゲームは再び始まりフレンダ達が懸命にボールを拾う。その最中、あかりが急に私の言葉を訂正した。
「因果が逆よ、エカチェリーナ。」
「はい?」
「私が『防いだ』から防壁に穴が開いたのよ。」
また意味の分からない事を言い出すあかりに私は首を傾げながらボールを上げると、彼女は真剣な表情でその意味を詳しく話す。
「ベクトルを捻じ曲げられるって言っても攻撃の反射まではできないわよ。ベクトル干渉魔術は捻じ曲げる力の方向・力の量に比例して消費する魔力量が変化するから。私ができるのはせいぜい力を受け流す事くらい。」
「それはつまり、あなたが力を受け流したが為に、力が一点に集中して防壁に穴が開いた。と?」
「ええ、多分。そうでなきゃ、かの修道院の防壁がたった一人のシスターの、暴走紛いの魔力に破壊される訳ないもの。スタジアムの物は安全の為の物だけど、元は保護生活圏の防衛の要なんだから。」
私達がそう話す合間に相手のフレンダがミスをして私達の加点となった。
自分の失敗に落ち込むフレンダ。すると、傍らでエレナが肩を叩いて彼女に励ましの言葉を掛ける。
一方で、再びサーブ権が渡された私はエレナに何故かまた鋭い視線を向けられ、今度は彼女からボールを受け取る。それも、異常に強い力で・・・・・
明らかに不機嫌なエレナの態度ですが、私は気にしないふりをしてゲームを再開するとあかりに別の話題を尋ねる。
「では、あれはどう説明するんですの?」
「あれって?」
「あなたが編み出した『戦闘術式』とかいう魔術の事ですわ。あれだけの多数の魔術をあなたはどうやって制御しているんですの?」
「どう・・・って言われても・・・」
率直に尋ねた私の言葉にあかりは唐突に言い淀む。その反応に私は今更になってデリケートな事を訊いている事に気付いた。
「ごめんなさい。自ら編み出した魔術の事を条件も無しに訊くのはご法度でしたわね。ですけど、どうか概要だけでも聞かせていただけるかしら?」
「いや、別に教えても良いんだけど・・・」
いとも簡単に私の気遣いを無下にする無神経な彼女を私は睨む。すると、あかりは苦笑を浮かべながらすぐに弁明を述べた。
「いや、感覚でやってるから説明って言ってもできないのよ・・・」
そういえば、彼女は魔力を感じ取れないのでしたわね。であれば、簡単に説明といっても困難・・・ですわね。
それでもあかりはプレイを続けながら私の要望に応えてどうにかそれを言語化させる。
「なんて言うのかな、魔術の展開だけ自分でやって後の継続処理は情報処理魔術に丸投げしてるの。だから、私が実際に操っているのは肉体強化魔術と演算魔術くらいかな。」
自ら訊いておきながら彼女から出てきた言葉に思わず私は硬直してしまう。その所為で打ち上がったボールが、何の妨げもなく静かに砂浜に着地した。
「・・・何ですの?それ。そんな馬鹿げた事ができるんですの?」
「失礼ね、できるから成立してるのよ。まあそれも、結構無理を通してるところはあるけど。」
変わらず硬直する私を横目にあかりはそう答えて転がるボールを拾いフレンダに投げ渡す。ボールが緩やかな弧を描いてネットを越える。
——本当に今日は、俄かには信じがたい事実の数々にこれでもかと翻弄される日ですわね。
そんな驚愕と呆然とが入り乱れる私の心情とは対照的に、無事にボールを受け取ったフレンダはエレナから優しくサーブを譲られて嬉しそうにコートの端へ向かう。
「はぁ・・・本当に、あなたってデタラメですわね。その馬鹿げた魔術を処理しながらっ、戦闘をするのでしょう?馬鹿なんじゃないんですの?」
「酷い言い様ね。」
「それだけ空想的な事をっ、してるんですの。例えそんな突飛な発想を思いついても、実行する阿呆はいないと断言できますわ。」
「本当に酷い言い様・・・」
心の底から出ていそうなあかりの落ち込んだ声に私が可笑しさを感じていると強烈な殺気と共に私達の間を巧みにボールが通過する。
「——っしゃあ‼」
そう声を上げてエレナがガッツポーズをする。その様子を見てあかりは乾いた笑いを漏らして呆れた様に言う。
「気合入ってるなぁ・・・エレナ。」
「先ほどから私を必要に狙ってきていますけどね・・・どうして彼女はあんなに私を毛嫌いするんですの?」
「前世で悪い事でもしたんじゃない?」
「冗談をおっしゃらないで。もしそうなら、これ以上の交友改善が期待できなくなりますわ。」
「いっその事、ジャパニーズ・ハラキリでもしたら許してくれるかもよ?」
「何ですの?それ・・・」
あかりが口にした変な言葉に顔を引きつらせて私がそう尋ねると彼女は平然な顔をして説明する。
「土下座に並ぶ日本古来の謝罪方法よ。謝罪の念を込めてお腹を切るの。」
「それをやれと?・・・本気で言ってます?」
「まさか。」
そんな話を呑気にしていると高く飛び上がったエレナが力強く腕を振りぬく。
「どぅりやっ‼」
その途端、ボールが凄まじい速度で私の頬を掠めていき、おおよそバレーボールとは思えない音と共に背後に巨大なクレーターを作って高く高く跳ね上がった。
「チッ・・・ゴメ~ン、エカチェリーナ~!」
「やっぱり、ハラキリした方がよろしいかしら・・・」
「やめた方がいいんじゃない?パニックになるわよ。」
———海水浴、夕暮れ———
真っ赤に染まった空と太陽に照らされて私達はガタゴトと特有の音を立てる電車に揺られている。もうとっくに海なんて見えなくなって、今は何もない綺麗な草原の中を電車は突き抜ける。
遠くにはイギリスの高い山々、夕日で輝く広い野原。ここが保護生活圏の外じゃなかったら、きっと素敵な所だったでしょうに・・・
なんて、そんなありもしない現実を考えながら私は視点を車内へ戻すと電車の椅子に並んで座るみんなの姿を見る。でも——
「みんな寝ちゃったね。」
私がそう何気なく言うと隣に座って本を読むあかりが「そうね。」と穏やかに相槌を打ってくれる。みんな海で散々遊んだから疲れたみたい。あのエカチェリーナもキアラの肩にもたれ掛かって目を瞑っている。
「エカチェリーナが、あんな事言い出した時はどうなるかと思ったけど・・・結構楽しかったね。」
「そうね。あんなに不服そうだったエレナも楽しんでたし、ヘレンは・・・はしゃぎ過ぎてたくらいだけど。何であれエカチェリーナの作戦は無事成功したのかな。」
そっか、元々は仲直り会だったね・・・そんな事、すっかり忘れてた。
「うん、そうだね。」
「・・・・・」
「ねえ、あかり。」
「ん?」
「また、来ようね。海・・・」
「ふふっ、そうね。」
私の約束にあかりは静かにそう答えた。
・・・・電車内が、再び静寂に包まれる。
エカチェリーナの計らいで乗せてもらったこの一等車両、客室がいくつかの完全な個室になってるから私達が話さないと凄く静かになる。
こんな静かな電車は生れてはじめて。
でも、行きでも思った事だけど、いくらお詫びだからとはいってもこんなの贅沢過ぎて少し委縮してしまう。エカチェリーナは楽にしていいって言ってたけど、身の丈に合わない場所にいるようで心が落ち着かない・・・
・・・とはいえ、今日の海水浴で沢山分かった事ある——
「あかりの言った通りだったね。」
「ん?何が?」
急に口にした私の言葉をあかりが尋ね返す。そのキョトンとしたかわいい表情を見つめながら私はゆっくりと意味を話した。
「エカチェリーナ。ちゃんと話してみたら、そんなに怖い人じゃないかも。今日一日よくしてくれたし、ちゃんと面と向かって私に謝りにきてくれた。あの目つきは・・・まだちょっと怖いけど、でも、悪い人じゃなさそう。」
「でしょう?彼女はただ言葉足らず——と言うか、あの不愛想な態度で誤解されやすいだけで、そんな悪い人じゃないのよ。」
「そうだよね。責任感強い人だなってなんとなく伝わってきたよ。」
「そうね。私も今日、改めて思ったわ。彼女って——」
「「仏頂面。」」
「誰が仏頂面ですって?」
私達が声を合わせて出た言葉に突然寝ていたエカチェリーナが反応する。二人とも寝てるものとばかり思ってたからお互いにびっくりして身体が飛び上がった。
「起きてたんだ。」
目を点にしたあかりがそう尋ねるとエカチェリーナは手の甲で目を擦りながら姿勢を治す。
「ええ、少し前から。それよりも、私が不愛想に見えるのはアナタ達と違って私は淫らに笑顔を見せないだけですわ。」
「淫らってそんないやらしい事みたいに・・・でも、どうして?」
エカチェリーナの気になる発言に私がムッとした表情でそう言葉を返すと、彼女は徐に車窓の景色を見つめて真剣に答える。
「そもそも笑顔というのは特別なものなんですわ。本当に大切に思っている人に笑顔というものは見せるべきものですの。そう、教えられてきました。・・・別に、そういう価値観を押し付ける訳ではありませんけれど、私にとって笑顔とはそれだけ価値のあるものなんですの。」
「そうなんだ。」
「なんか、素敵だね。」
あかりが相槌を打つ横で話に感動した私がそんな事を言うと当のエカチェリーナは不思議そうな顔を浮かべる。
「だって、大切な人にしか見せないんでしょう?それってなんか、ロマンチックじゃない?」
「そうかしら。」
「そうだよ。私だってそんな風に大切な人に——」
「フレンダには無理だと思うわよ。」
しんみりとした私の言葉をあかりが急に冷たく否定した。その辛辣な反応に私は思わず声を上げる。
「なんでそんな事言うの⁉」
「フレンダはすぐ表情に出るから。」
「むう・・・」
「ほら。」
そう言ってあかりは変わらず私に辛辣な反応を返した。そのあんまりな反応に私は頬を膨らませる。
私だって、ポーカーフェイスの一つや二つできるのに。・・・あかりのばか・・・
「ふふっ。」
なんて、そんな私達の馬鹿なやり取りを眺めていたエカチェリーナが、不意にクスリと笑う。その反応に顔を見合わせた私達は笑った事を彼女に伝えると、彼女はいつもの仏頂面でそれを否定した。
私は、初めてエカチェリーナが可愛いと思った。




