879話 縁起が悪い。
「申し訳ありません。
マーシャ様。
………………宿まで紹介して頂けるなんて……
重ね重ねご迷惑をお掛けします」
月夜はペコリと頭を下げる
それに合わせて月夜に担がれたベロベロに潰れた岩尾はうめき声をあげた。
「良いのよぉん。
岩尾ちゃんったら飲みすぎよねぇ
…………楽しい時間だったわぁん。
……………………それじゃあね
また何処かで会えたら嬉しいわぁ
………おやすみなさい」
シャーマはクスクス笑う
それから投げキッスをして
その場を去って行く。
月夜はそれを見送り
ずり落ちてきた岩尾を担ぎ直して
宿の中へと入って行く。
空は明るくなり始めていた。
(………………朝
…………すぐに行くと言うわけにも参りませんね。
……………ですがやはりこれで良かったのかもしれません。
…………下調べはしっかりとしておかないと
…………マーシャ様
とても良い方でした)
ふうと息を吐いて
月夜はそう思う。
何だかんだと月夜も楽しかった。
たまにはこんな夜も悪くは無い。
〜〜〜〜
「ほんっとうにすまん!!!!
……………酒を飲んだら
色々と溜まってた物が溢れ出した
………………醜態を晒したな」
しゅんと岩尾の犬耳は垂れている
デカイ図体なのに何時もより小さく見えて月夜はクスリと笑う
「いえ、…………私は焦っていたようです。
昨夜はあれで良かったと思います。
冷静になれましたから………」
そう言う月夜の言葉に岩尾は
ホッと息を吐いている。
「うー
しかし二日酔いで……頭がガンガンする」
岩尾は辛そうだ。
「…………………薬を買ってきます。
岩尾様はもう少しお休みください」
またクスリと笑い
月夜は薬局へと向かうべく
一人宿を出る
少し歩いたところで
プチッと言う音と足元に違和感
靴の紐が切れていた。
「…………………おや?
………まだ比較的新しい物なのですが……
…………………………」
見ると不自然に千切れたように見える
だがとりあえず歩くのに支障はなく
後で紐を替えようと
また歩き出す。
薬も買えて
宿へと向かう道すがら
黒い猫が前を横切った。
(……………………。
黒猫に靴紐が切れる……か)
月夜はほんの少しだけ眉を寄せる
(………縁起が悪いですね
…………………………やはり
きちんと下調べをして
それから事にあたった方が良さそうだ)
マスターからも忠告を受けている。
今回はかなり危険で
本気で死ぬかも知れない。
それに岩尾を巻き込んでしまっている訳だから
下手な事は出来ない。
(……………………なんて
………少し私も弱気になっているのでしょうか………
嗚呼
ミライ様に………会いたい)
何故だが嫌な予感がする
考え過ぎだとわかっているのに
理由のよく分からないモヤモヤした物が胸の中から消えてはくれなかった。
〜〜〜〜
「…………カタラ
……………誓約はこれで成った。
…………………………ふふ」
優佳里は嬉しそうに笑う
対してカタラは項垂れている
手足は生え揃い
服も着替えた。
そして椅子に座らされて居る
「…………………。」
カタラの目からは光が消え失せている
本当の無表情だ。
「どうされるおつもりですか?」
青児が尋ねると優佳里は笑う
「………………マロン・ルージュ
その件は少し猶予をやる
その前に、カタラにはもう少し奴らと信頼関係を築いて貰わないとね
………あの偽者とも親しくなってもらおうかな。
折角クラスメイトなんだし」
優佳里はそう言って
カタラの対面に座って足を組む。
「……………ふふ
……仲間だと思った相手から裏切られたら………
一体どんな顔をするかなぁ
あの偽者。
………………………ふふふ」
想像だけで気分が良くなったのか
優佳里はクスクス本当に…楽しそうだ。
青児もカタラも静かだ
ただ優佳里の笑い声だけが聞こえる
「ふう。
さてと………でもまずはその前に…
カタラ。
お仕事だよ
…………………君
人殺しを避けてたよね?
…………………そう言う甘ちゃんな所は僕嫌いなんだ」
優佳里はそう言う
カタラはビクリと体を揺らした
「ふふふ
青い顔だなぁ……
そんなに嫌なのかな?
……………別に人を殺したからって
どうって事は無いけどね
ねえ青児?」
優佳里から話を振られても
青児は不愉快そうに眉を顰めるだけだ。
返事が無い事を特に気にした風もなく
優佳里は続ける
「……………青児を探ってる奴らが居るんだ
……………そいつらを殺せ
それで、僕は本当に君を信用出来るよ
カタラ
………………………………一人だけ良い子ちゃんぶるなよ?
……………君もこっち側なんだから
……やり直したい?
そんな甘い事を考えられなくしてあげる。
………………………ああ
その顔本当に…良いね」
そう告げる優佳里を
カタラは真っ青な顔で見つめていた
(………………俺は
俺は………………それでも
………………忘れたくないんだ
ごめん
ミライ……………)




