そいつの提案
20メートル四方くらいの広い部屋。その真ん中に静かに球が浮いている。
動きは無いし目があるわけでもない。でもこっちの様子をうかがっているような雰囲気は感じた。
そして球の周りには床に置かれたキューブに座ったまま動かない人がいる。
今までにない状況だ……どうするべきか。
「どうする?」
「何言ってんの、ダンジョンマスターなんだからどうせ倒すんだから問答無用、先手必勝でしょ。ブラックローズ!」
止めるより早く漆師葉さんの足元の影が四方八方に伸びた。
影が球を取り囲むように床を這ってそこから影の刃が飛び出す。影の刃の切っ先が球を切り裂いた。
「おら!これでも食らえ!」
それを追うように国分さんが駆けだす。大きく振りかぶったハンマーを球に叩きつけた。
球が押されるように後退する。轟音が響いて部屋の壁を震わせた。思わず耳を覆う。
そして、それこそ上の階層まで届きそうなくらいの轟音が間近でしたにもかかわらず、周りの人は全く無反応だった。
こっちはまだ耳の奥で音が響いているってのに。
催眠とかそんなので眠っているんだろうか。
とはいえ、今のところ動く気配がないのはありがたい。
球の方に視線を戻すと、殴られた部分がベッコリとへこんでいた。
さすがにダメージがあったか、と思ったけど……絡み合ったワイヤーが蠢いた。風船が内側から膨らむようにへこんだ部分が元に戻る。
「クソかてぇ奴だな」
「ダメージ、無さそうね」
国分さんが手を軽く振りながら言う。
新宿系はやっぱり強い。国分さんのハンマーはかなりの威力がありそうだったし漆師葉さんの影の斬撃を受けているけど、それでもまったく無傷か。
しかし、まさかいきなり先制攻撃を仕掛けるとは……
「魔獣と話し合いなんてしても仕方ねぇだろ。壊すだけだ」
僕の言いたいことを察したかのように国分さんが言った。
「……まあ確かに」
「動かないでいてくれるなら好都合だ。とりあえず俺がもう一発ぶん殴るから、お前らは援護を……」
国分さんが言ったところで球の表面のワイヤーが動いた。
◆
黒いワイヤーが音もなく動いた。
なんか絡み合ったヘビとかが動いているみたいで気味が悪い。
音がないのが逆に不気味だ。なんかできの悪いCG映像を見ている気分になる。
しばらくしてワイヤーが動きを止めた。
『君たちのような人を待っていました。強力な魔素活用能力を持つもの』
不意にそいつが声を発した。口もないのに電話の音声案内のような金属的で抑揚のない声が狭い部屋に響く。
何とも耳障りだな。
「……しゃべった?」
「何?こいつもあのへんな植物みたいに意思があるわけ?」
国分さんと漆師葉さんが顔を見合わせる。
そういえば僕は新宿系と何度か戦ったから知っているけど、こいつらに意思いういか知性があるのをみんなが知ってるわけじゃないか。
『想定より218%敵対的な反応でしたが、想定内です。当方の提案を聞くように求めます。聞かない場合は周辺の有機体の生命活動を一つづつ停止させます』
「何言ってんの?」
漆師葉さんが首をかしげたところで、横に座っていた女の子が一人立ち上がった。
小学生か、中学生か……ちょっとふっくらした感じのジャージ姿の女の子だ。紺のジャージの胸には校章らしき刺繍が入っている。
その首に球から伸びたワイヤーが巻きつく。
後ろで檜村さんが息をのむのが聞こえた。
「やめろ……」
「ちょっと!あんた何する気よ」
『繰り返します。当方の提案を聞かない場合、この者の生命活動を停止させます』
そいつが同じことをもう一度言った。
わかりにくい言い回しだけど……やっていることを見れば何をするつもりなのか一目瞭然だ。
女の子の方は幸せな夢を見ているような、軽い笑みを浮かべたまま立っている。
首に絡みついたワイヤーのことも気にしていないようだ。
新宿系の強さは知っている。
細いワイヤーだけど……無意識で、しかも魔素である程度身体能力が強化される魔討士とは違う普通の人の首を落とすことくらい、おそらく簡単にできるだろう。
「要するに……周りの人を殺されたくなければ言うことを聞けってことか?」
「卑怯者!恥ずかしくないの!」
国分さんが言って漆師葉さんが怒りの声をあげる。
でも、今までの感じだと多分こいつらにそういう概念自体が無い。
効率的ならそうするってだけなんだろう。機械のような相手だ。
風を使ってワイヤーを切れないかと思ったけど……風を飛ばすには一呼吸分くらいの間が必要だ。
それに万が一切れなければ、おそらくこいつは躊躇なくこの女の子の首を落とすだろう。
そして、次の誰かを人質にとる。
漆師葉さんがサーベルの柄を強く握って、舌打ちした。
多分僕と同じことを考えたんだろう。
『合理的な判断です』
「恥知らずの卑怯者ね」
漆師葉さんが吐き捨てるように言うけど。
『卑怯ではありません。当方は彼らに選択肢を提示した。そして彼らはそれを受諾した』
球から機械音声のような抑揚のない声が響いた。
なんか無機質なしゃべり方が今は癇に障る。
彼らは受諾した、というのが気になる。ただ、カタリーナたちが言うには、こいつらは人間を勧誘して自分の手足のように使っていたりするらしい。
そういうことなんだろうか。
「で、どうしろって?」
『こちらの提案を聞くことを要求します。我々の望みは交戦ではない』
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