第19話 ~ダンジョン攻略・Part2 母性本能と異世界の遺産~
今回、凄い長いデス。最初からシリアスっぽい話から始まります。
そして今回(?)から残虐的な表現が入ります。
「イング。私はずっと……ずっと貴方に謝りたかった…………ごめんなさい!」
「え、あ……うん………」
佐夜が少し離れた所で、いよ決したエミリアが過去の事でイングに謝っていた。が、何故かイングの反応が薄い。
「あ……やっぱりイングは私を許してくれはしないのですね。ええ、分かってま……分かってましたわ………(うるうる)」
「ええ!? ああ、いや違うぞ? うん。謝ってくれた事は素直にありがとう。なんだが、俺はもうその事についてお前を恨んではいないぞ?」
「ふぇ?」
「え?」
泣き出しそうになったエミリアに慌てて誤解を解くイング。てっきり恨んでいたとばかり思っていたエミリア本人と佐夜は変な声を上げる。
「あの時(森で遭難&怪物との遭遇)の結果、結局俺はお前を助ける事が出来なかったんだ。どっちかというと俺の方がお前に恨まれていたと思ってた」
その後偶然エミリアは発見されて助かったけど、あのままイングが目を覚ますまで放置されていたらどうなっていたか分からない。
どうしてプレゼントの素材を探しに行きたいと言ったエミリアを止める事が出来なかったのか?
頼って来るエミリアに応える為?
何があっても何とかなると自惚れたから?
多少親に怒られても良いと思ってたから?
原因は色々とあるが森に行く気満々だったエミリアを止めれなかったイングにも責任はあったのだ。ゆえにその事でイングはずっとエミリアに負い目を感じていた。
「親父と、そして王様にも酷くしばかれた俺はその時に決意したんだ」
「「決意?」」
イングの言葉に佐夜とエミリアの言葉が被る。というかいつの間にか佐夜が近くに来てるし。離れて見守るんじゃないのかよ?
「たとえ何があっても、自分の大事な人を……人達を護れる大人になるって」
「「イング………」」
イングのその真剣な表情にエミリアはおろか、何故か佐夜までドキッとした。何で?
そしてイングは初等部を不登校、そして卒業して中等部から自分の親が務めるセルニア学園の分校『アルケシス』に通う事になり、毎日毎日ひたすら鍛錬する日々が続いた。
だが残念な事にイングは生まれつき魔力量(値)が非常に少なく、身体を鍛えてもイングは『エルフ』なので人族より筋肉が付きにくい。ゆえにイングは校内ランキングでもずっと下位だったのだ。
しかしそこに佐夜が現れて、イングに転機が訪れる。護りたい者が増えたのだ。勿論中等部から勉学や鍛錬を共にしているタック、マナ、ニケ、ノンとロロも大切な仲間なのだ。
でも佐夜の場合、発見した時大怪我をしていた為、遭遇した状況がイングの幼い頃を連想させた。助けないと死んでしまうという状況に。幼い時はエミリアを助ける事が出来なかったが今は助けられるほどの力がある。
佐夜を助けた後も、イングは佐夜の何か良く分からない庇護欲にかられたが、それはどう見ても女の子に対する接し方で佐夜は『男』だ。そしてその佐夜との接し方でのジレンマに悩んでる最中に佐夜に問い詰められて、イングはまた逃げ出した。
その逃げるイングを追いかける佐夜だったが、イングを見失った上、性質の悪い盗賊の酔っ払いに絡まれ、身の危機(性的)に陥った。
そして同じく佐夜を見失ったイングがその場面を見た時、襲われている佐夜が一瞬過去のエミリアと被り、イングは大いに焦った。
幼い頃の時ならともかく今ならまだ何とかなると思い、少ない魔力を身体能力向上に回し、酔っ払いの盗賊に奇襲を掛け佐夜を助けたかったが相手が意外に強く、剣を持ってきてないとはいえ、魔力を身体能力に回して向上させているのに相手の酔っ払の盗賊に全く敵わなかった。もし誰かの通報で騎士団達が来なかったら2人ともやられていただろう。
結局佐夜を自分の手で助けることが出来なかった事で、イングは更に鍛錬のメニューを増やし、ついには風系最上位魔法【カゼノコロモ】を習得した。
そしてイングは模擬戦・選抜戦で大切な人を護れるだけの力を示そうとした。
大事な幼馴染にして校内ランキング1位のエミリアに勝つ事で、
(エミリアを、佐夜を、そして皆を護れる男になるんだ!)
っといきこんだイングだったが、切り札とも言うべき【カゼノコロモ】を決勝戦で使わざるを得なくなりその結果、決勝に注ぎ込む筈だった魔力が枯渇した。
それでもイングは一途の望みを賭けてほんの少しか回復してない魔力で無理矢理【カゼノコロモ】を使用した結果、案の定すぐに枯渇した。その後、魔力枯渇により意識が朦朧したイングを仲間が助け、その後に起きたアクシデント(痴態)によって決勝自体が有耶無耶になってしまった。
結局の所、みんなを護る為に行った行動は、逆にみんなの迷惑なってしまったとイングは自分を責めた。
「みんなを護れるくらい強い男になりたかったんだ。もう二度と大事な人達を傷付けない様に。……でも俺は、これ以上強くなれないっ……!」
エルフであるがゆえに筋肉が付きにくく、魔力量も一般人よりも少ないイングが誰かを護るだなんて無茶にも程があったのだ。選抜戦後、【カゼノコロモ】に頼らず、筋肉は付かずとも体力を伸ばし技も強化したが、一向に成果が上がらなく、イングは己の成長の限界が来ている事に気付いてしまった。自分はこれ以上鍛えても強くなれないと。
「俺はもうこれ以上強くなれないし、皆を護る資格すらないっ……!」
「イング………」
他の6人と違って成長の限界があるイングはまさに『役立たず』に相応しい奴なのだろう。自分を蔑むイングに掛ける言葉が無いエミリア。
「~~~~っ、えいっ!」
「あたっ!?」
今までエミリアと一緒に黙って聞いていた佐夜がもう我慢できないとばかりにイングの脇腹を抓った。それも結構強めに。
「いたたた。何するんだ佐ふぁっ!?」
「む~~~~~!」
イングの脇腹を抓っていた手を放した佐夜は今度はイングの頬を抓った。勿論これも強めだ。
「『強くなれないから護る資格が無い』? バカな事を言わないでイング!!!」
「「っ!?」」
寝ているみんなが起きる程大声で怒った佐夜にイングは勿論、その矛先じゃないエミリアまでもがビクッてした。
「ねえイング。僕が王都で暴漢に襲われた後のこと覚えてる?」
抓る手の力を少し緩める佐夜がイングと視線を合わせて言う。
「あ、ああ。確か俺が騎士の兵舎で怪我の手当てをサヤにしてもらった時……だろ?」
「うん。それでその時、僕がイングに言った事も覚えてる?」
「え? えっと………?」
「む? イング、やっぱり覚えてない!」
「い、いふぁい、いふぁい!」
再びイングの頬をぎゅ~っと抓る佐夜。
「あ、あの~、サヤさん?」
「あ、ごめんごめん。イングがバカな事を言うものだからつい」
突然ラブがコメってる空間に突入した事で少々困惑するエミリア。
「バカとは何だ! 俺は真剣に悩んふぇっ! いふぁいっふぇふぁふぁ(痛いってサヤ)!」
「バカだよ。バカ真面目過ぎるんだよイング。前々から思ってたけど!」
「た、確かに……」
佐夜のバカ発言に思い出したかの様に同意するエミリア。
「僕、言ったよね?『理由も無いのにイングに避けられ続けるのが嫌だった事』」
「あ、ああ。言ってた。俺もサヤとの接し方で悩んでた時の事だろ?」
「そうだよ。そしてそこで色々ため込んでた事を吐き出した後にようやく僕はイングと友達になったよね」
「ああ、俺は俺らしくサヤに接する事にしたな。女の子扱いするたびに色々とツッコまれたけどな」
「うん。まあ、そこはちょっとこっち置いといて」
佐夜は見えない箱を横に置く仕草をして続きを言う。
「僕はね。嬉しかったんだよ。自分を助けてくれたイングと仲良くなって、皆と一緒にバカ騒ぎしたりしてリンドさん達に怒られたり、試験の時のピンチにはさりげなく助けてくれたり、雷雨が怖い僕の為に一緒の布団で寝てくれた事」
「い、一緒の布団で…寝た!?」
一部佐夜の発した言葉の中に、何か聞きづてならない事を聞いたエミリアが口を開けてフリーズ。そんなエミリアはとりあえずまた横に置いといて、
「まだまだ感謝したい事色々と言いたいけど、つまり僕が言いたいのはねイング。」
頬を抓ってた手を放し、イングの両手を取って言う。
「『強くなってみんなを護る』って事はさ、『みんなの身体だけ』護ればいいの?」
「あ………」
「うん。違うよね?」
ただ身辺護衛するだけなら冒険者やら腕の立つ者に依頼すればいい。
「この世界に落ちてきて、色々助けてくれるアルケシスのみんなが僕の心の支えだったんだよ。身体だけじゃなくて心も、ね。勿論そこにはイングも入ってるし、エミリアも入ってるよ?」
「サヤ………」
「サヤさん………」
フリーズから戻って来たエミリアが呟く。一瞬エミリアと目が合ってから再び視線をイングに戻す。
「確かにこれ以上イングは肉体的にも魔力的にも強くなれないかもしれない。でもね、みんなの心を支える(護る)事は出来るよね。少なくとも僕の心は他の人じゃ護れないからイング達に頼るしかないんだよ」
「……でもそれなら俺じゃなくても他の5人がいるじゃないか?」
「ううん。僕はイング達みんなに支えられてるって意味で言ったの。僕の仲間は誰一人役立たずなんかじゃない。イングは、役立たずなんかじゃ、ない。僕の大切な仲間で、一番大切な友達だよ」
「さ…サヤ………! ……う……くっ!」
「うん。大丈夫、もう色々と心配しなくてもいいんだよ。イングはイングにしか出来ない事をやればいいんだよ。無理は駄目」
佐夜の言葉で遂に今まで我慢していたイングの心が決壊し、膝から落ちた状態で佐夜の腰辺りに抱き着き、声を殺して静かに泣いた。佐夜は「大丈夫、イングは強い子、出来る子」と言いながらイングの頭を撫でる。
じぃぃぃ───────────(×100)
「うっ………!」
気付けば先ほど佐夜の大声で起きたB班の殆どの人が佐夜とイングを凝視していた。実は最初の時点(前話)で何人かはこちらの話をテント内で聞いてた人達も多く、佐夜がイングを諭す頃には半数以上の人達が黙って聞いていたのだ。んで、イングが佐夜に抱き着いた時、「おおう!」っと言わんばかりの衝撃が走ったらしく、みんなで覗き見しているのだ。勿論その中にはアルケシスのみんな(タック以外)も一緒に見ていた。
そしてイングが抱き着いてる佐夜を見てみんなは、佐夜に聞こえない程度の小さな声でこう言った。
「お母さん?」「お母さんだ……」「おかん」「どう見ても母親」「見た? さっきのあの慈愛に満ちた表情」「この間はカップルに見えてたけど今は何故か親子に見えるぜ」「何だろう、この温かい気持ちは……」「今ならどんな悪人にも優しく出来そう」「いつもなら『リア充死ね!』って言いたいけど、言えねぇ」「私お母さんいないから、あれいいなぁ……」「俺の母さんより優しい……」「自分もナデナデされたい……」「あの子に抱き着きた『キッ!』ごめんなさい………」
「僕、男なんだけどなぁ………」
一人一人が小さい声で話しても、みんなで言えばそりゃ本人に聞こえるって。
「………もうどうでもいいのですが、私、空気になっていません……?」
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「まったくもうサヤさんったら! 私とイングの仲を取り持ってくれると思ってたらちゃっかり自分達の世界に入ってしまうなんて!」
「あ、あはは。ごめんごめん。イングがバカな事を言い出すもんだからつい…」
あの後、何とか覗き見していたB班の人達をみんな解散させ、佐夜とエミリア、そして目が冴えたからと言って一緒に見張りを申し出たマナが同じ場所で見張りの続きをする。ちなみにイングは泣き疲れて佐夜達の目の前で横になって寝ている。その寝姿は実に子供っぽく微笑ましい。涎まで垂らすくらい熟睡している。
「……はぁ。本当に貴方達は仲が良いですわねー」
「そう…だね。悪くは無いんだけど、こっちの方から絡んで行かないとイングってば鍛錬(筋トレ)の方に行っちゃうんだもん。だからどちらかというと他のみんなとの付き合いが長いね」
「サヤはどちらかというと私やニケ、あと双子にじゃれ付かれる時間の方が多い……」
「本当に毎日鍛錬ばかりやってますのねイングは……」
苦笑して言う3人。傍から見たら、どう見てもガールズトークだ。
「それでねエミリア。さっきも言ったけどイングはバカな程真面目さんだから、自分から積極的に接しないとまた変に拗れてしまうと思うんだ。」
「積極的に……ですか?」
「そうね……。イングも姫も真面目で奥手っぽいから、2人とも放置したら会話すらしなさそう………」
「だよね」
「そ、そんなことは………」
「あるよね。だってそもそもイングかエミリアのどちらかが積極的に対話していたら、こんな過去の話なんてとっくに解決してるでしょ?」
「全面的に同意」
幼い頃、イングに罵声を浴びせてしまった負い目で、イングに一人で積極的に話しかける勇気が無いエミリア。(変に声を掛けて完全に拒絶されたくない為)
同じく幼い頃、結果的にエミリアを助け(を求め)る事が出来ず、危険な状態に陥らせてしまった負い目と、その後のエミリアからの罵声(誤解)によって同世代の他人との交流に消極的になってしまった(アルケシスのみんなは別)イング。
要するに、もっと早くエミリアがイングに積極的に話しかけ(謝って)、『イングが自分を恨んでいるじゃないか?』という誤解を解けば、イングが己自分を責め続けて無理な鍛錬をする事も無くなり、二人は仲直り出来たんじゃないかと思ったのだ。まあ、単純にイングがヘタレなだけでもあるのだが、過去の出来事を考えると強く言えない。
「わ、分かりましたわ! 私、積極的……積極的にイングに迫ってみますわ!(ふんすっ!)」
「い、いきなりぐいぐい迫っても、イング困惑するだけじゃないかな……?」
「極端すぎて逆に引くと思う……」
「あう……。じゃあ一体どうすればいいんですの!?」
相変わらずの残念な王女様である。
「少しずつ、少しずつ近付けば良いと思うよ。イングだっていきなり迫られれば引くと思うけど、普通に話しかければ会話くらいしてくれると思うし」
「そう。イングは超が付くほどのヘタレだけど、礼儀知らずな人じゃない………」
「何か、凄く酷い言われ様ですわねイング」
「「だってイングだし」」
バカが付く位真面目でヘタレだけど、どこか放って置けない奴。それがイングだ。
「ぐっ………!」
「おい、大丈夫か? しっかりしろ! 何があった!?」
「はぁ、はぁ………奴が、奴らが、いっぱい………ぅ……」
「!? ひ、『ヒール』!」
「ん?」
「サヤ、どうしたの……?」
「何かあちらの方が騒がしいですわね?」
「今、『ヒール』って聞こえたけど何かあったのかな?」
「気になるなら行ってみる?」
「「そうだね(ですわね)」」
寝ているイングをテントに運び、3人は声のする右の通路の方に向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「貴方達。一体何事ですの?」
3人が声のする方に来るとそこには見張りの兵隊(セウレン兵)2人と血を流して倒れている冒険者がいた。しかもその冒険者の右腕が無くなっており、特に全身の至る所からの出血が激しい。
「あ、姫様。自分達はここで見張りしてたのですが、あそこの曲がり角からこの男が足を引きずりながらここに来たんです」
「それで話を聞こうとしたのですが危険な状態だったので、すぐに『ヒール』を掛けました」
「それは当然の事………」
「でもこの人気絶しちゃってるし、話聞けないねこれじゃ」
「ですわね。ん? この者、私達の班に居ましたかしら?」
「いや、違うと思われます。ほら、この左腕に付けている腕章。『赤色』なのでおそらくA班の者かと」
「? 何でそのA班の人がこんな所に? しかもこんな瀕死の状態で?」
「だからそれを知ろうにも、本人は気絶してる────」
GYAAAOOOOO!!(×複数)
「「「「「っ!!?」」」」」
大怪我で気絶している者の話を聞こうにも意識が無い為聞けず、どうしようかと相談しようとした時、奥の方から何やら獣の咆哮(叫び声)が聞こえたしかも複数いるようで、近付いてくる。
「何かしら……。なんとなく嫌な予感がしますわ」
「うん……。マナ、『エクスプロージョン』の準備をお願い」
「分かったわ………」
「貴方達はこの負傷者を連れて下がってなさい」
「「はっ、はい!」」
エミリアの指示で負傷者を担いで下がるセウレン兵。
「何となくなんだけど。僕、この声聞いた事あるような………」
「「そうな(んです)の………?」」
「うん……でも直接じゃなくて『映画』とか『DVD』で聞いたような………」
「えい…が?」
「でーぶいでーってなんですの?」
「あ、うん。僕が元いた世界で見てた娯楽物でね───」
ドシッドシッドシッドシッ(×複数)
「「「「GYAAAAAA!!」」」」
「そうそう。ああいう大きなトカゲが人々を食らい尽くす物語があってね───ってええ!? 『恐竜』!!? 何でこの世界に!?」
「キョウリュウ?」
「……どうやら報告にあった見慣れぬドラゴンとはあれの事ですわね。キョウリュウと言う事はやはりドラゴンの一種なのでしょうか?」
「───って呑気に話してる場合じゃない! 早く撤退しないと!」
そうこう言っている内に例の『恐竜』はどんどん声を荒げながら走って来る。
「ふんっ! こんな小物、何てことありませんわ!」
と言って剣を抜きこちらから攻めようとするエミリア。しかし、
「エミリア、近付いたらダメ! マナ、エクスプロージョンを放って!!」
「う、うん! 『エクスプロージョン』!!」
珍しく焦る佐夜の指示に従うマナ。
チュド───────ン!!
「「「「GYAAAAAOOOOONNNNN!!?」」」」
「更に……えい!」
マナのエクスロージョンが炸裂した直後、その結果を見るまでも無く佐夜は地面に手を付いて錬成術を発動し厚めの壁を作った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ、はぁ、はぁ………」
厚めの壁を作った佐夜は少し下がって腰が抜けた。
「サヤさん? 何故あんな小さなドラゴンごときでそんなに焦っているんですの?」
「そうそう。私の火炎魔法で一発KOしたし」
敵─『恐竜』の事をよく知らない2人が呑気な事を言う。すると、
ドン、ドン、ドン、ドン───────
「「っ!?」」
佐夜が作った壁の向こうで、マナのエクスプロージョンをまともに受けた筈の恐竜達が壁に頭突きを入れパラパラと破片が落ちて来る。その敵の耐久さにようやく事の重大さが伝わったエミリアとマナに緊張が走る。
「これで分かったと思うけど、あの恐竜達に油断は禁物だよ。今の魔法でもあまり効いてなさそうだし。かといって接近戦は絶対NG」
「そうなんですの?」
「そうなんですよー。っと、ここにずっといてもしょうがないよ。続きはみんなの所で話すね。……ついでに念のため、もう少し壁を厚くしておくね」
恐竜の怖さを(映画で)知っている佐夜は自分の持つ錬成術で壁を厚くし、敵の侵入を防いだ。
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一方、少し前。ここはとある物質界のとある軍事基地。
「大佐、失礼します! 例の地下遺跡に大量の『クローン』の転送完了しました」
「そうか。なら我々も次元転移にて出陣する。准将側の班にも伝達を忘れるな!」
「「「ハッ!」」」
大佐の指示で部下達が慌ただしく出陣の伝達をしにその場を後にした。
「フフフ……。軍事実験に失敗したのはコスト的にかなりの痛手だったが、まさかその衝撃波の影響で異世界への扉が出現するとはな。実に僥倖」
思わず高笑いしたい気持ちを抑え、これから行う異世界への侵略に胸が高鳴る大佐。
自分達の世界における資源の枯渇に対処するため軍事実験を行っていた『ゼリア軍』。しかし、その成果はなかなか上がらず、遂にはそのために費やした予算が全て潰えてしまい。頭を抱えた上層部だったが、最後の最後に奇跡が起きた。何と失敗したと思われる場所で次元の歪みが発生したのだ。
これにより状況は一転。すぐさまこの現象を調査し、その先に異世界があると確信したゼリア軍は更に現地へ調査隊という名の兵を送り、豊富な資源や異世界特有の『魔法』という技術を発見し、すぐさま軍事侵略を企てた。
しかしすぐさま問題に行き詰まる。その問題が『魔法』の存在だ。その力は未知数ゆえ下手してすぐに攻めた場合、侵略どころか全滅する恐れが発生する。その上この異世界には大きな都市が2か所存在し、西の『セウレン帝国』と東の『セルニア王国』の都市の人口がそれぞれ2~30万人を超える。もしこの世界の住人全員が魔法使いだった場合、確実に我が軍は負ける。
なので我々は更に潜入調査をし、セウレン王国の南にある手付かずだった、とある地下遺跡に目を付けた。そこの最下層の奥に転送装置がある事が分かり、それで閃いた大佐はある計画を企てる。その地下遺跡の転送装置に定期的に『恐竜のクローン』を送り込む事だ。それと同時にセウレン、セルニアの両国にダンジョンの調査を匿名で依頼し、両国の兵や戦える者がどれだけいるのかを確かめるのと同時に、地下に調査をしに来た者達を殺して数を減らす作戦に踏み切った。
その結果は半分成功し半分は微妙な感じになった。
確かに何度か両国内の兵隊の数の調査や地下遺跡に入っていく者達を数えた結果、そんなに戦える者達は多くない(両国合わせて1万前後)と判明し、地下遺跡や地上での現地人の盗賊を装った奇襲にて約2~3千くらい葬った。本当はもうちょっと数を減らす予定だったが、この世界には勿論『回復魔法』たるものもあり、殺すかある程度ダメージを与えていないと、回復魔法により復活してしまう為、最初の予定より数は減っていない。
そんな時に朗報が入った。何と両国の今度の調査隊には兵や冒険者という者の中でも精鋭、つまり特に強い者達もダンジョン攻略に参加する事が分かった。そしてその間に手薄になった両国に攻め入れば簡単に制圧出来るだろうと踏んだのだ。
勿論、懸念材料もあるが、これはこれでチャンスだ。もし今回も数が減るのを待っていたら下手すると、攻略不可能ダンジョンとして封鎖されてしまう恐れがある。その上両国の精鋭達が戻って来てしまうと侵略は更に困難になるに違いない。
となれば、もう後は勢いで制圧してしまえばいい。失敗を恐れて怖気付けば成功はしない。
そうわけで今回が最後となるべく、地下遺跡の最下層に大量の恐竜のクローンを送った。勿論肉食で凶暴な奴をだ。全滅してくれればこちらとしてもありがたいし、生き残った奴がいてもその頃には制圧が完了している頃なので、転送後は放って置けばいい。
「さあ、明るい未来を掴みに行こうか!」
特注した自慢の軍帽を被り、大佐は異世界へと旅立つ。
その野望の結果がヴァン達によって砕かれるのはもうちょっと後。
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あとがき地獄↓
リオ「ねえ、サヤヤ。ゼリア軍の大佐の話っているかな?」
佐夜「う~ん。いるから載ってるんじゃないのかな?」
ヴァン「……それよりもお前等。出会う前から慣れ合ってどうするんだ……」
リオ「え~、別にいいじゃん隊長。多少話が前後して矛盾を生むなんて物語として当たり前の常識だよ?」
ヴァン「いや一体どこの常識だよ……」
R「はっはっは。あまり気にするなって事だヴァンよ!」
透「そうですね。我々の組織自体矛盾だらけですからね」
義信「今更今更(笑)」
佐夜「矛盾だらけって、一体どういう組織なんだよ………」
な、長かった……。次回から怒涛の残虐劇(そこまで酷くは無い)が始まります。ご注意を!




