第15話 ~佐夜の変心~
ドンドンブレて行く佐夜のキャラが完全に変わります。
「う~。う~~。う~~~~~~~!!!」
佐夜が枕に顔を埋めて唸っていた。
理由は勿論、選抜戦決勝でイングにしたあの出来事だ。
決勝戦直後にイングの魔力が枯渇し、風系補助(付加)魔法【カゼノコロモ】が発動できなくなった事で、佐夜は錬成術でイングに魔力供給を短時間で行う為にキスをした。その際、防御壁か何かで皆に見られない様にする事を頭に入れておらず、闘技場内の全員にキスシーンをバッチリ見られてしまい、羞恥プレイを晒してしまったのだ。
その結果、闘技場内は色目き合う始末になり、最早試合をする状況では無くなって、没収(無効)試合になった。その際、王様が何故かそのキスシーンが戦争などの争い事云々言い出して、優勝したのが佐夜とイングという訳の分からない結末になった。
「何で隠すのを忘れるんだ俺は──────!!」
枕に顔を埋めたままジタバタしだす。多分佐夜の顔は真っ赤に違いない(笑)。
訳の分からない結末になった事で、エミリア王女が不機嫌になって退場し、仲間達からはジト目で見られ、イングの両親と王都の住人からは生暖かい目で見られる次第。居たたまれなくなった佐夜は、羞恥心からか部屋に閉じこもってしまい、キスシーンを思いだしてはジタバタする事を繰り返していた。
「うがぁ────────────!!」
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「佐夜の奴、またやってんのか………」
「まぁ……みんなの前であんな事をしちゃったら流石に………」
「あはは。アタシでもあんな事したら恥ずかしすぎて表出られないよ(笑)」
イングの家の一階リビングにて、呆れた声で言う3人(タック、マナ、ニケ)。
佐夜が部屋に閉じこもって2日経ち、休日にアルケシスのみんなが集まるが、佐夜は部屋に閉じこもり、イングは相変わらず日課の鍛錬にて今は外出中。
「「う~~。佐夜のごはん食べたいよ~~~!!」」
ニケほどではないが結構食べる方の双子がテーブルに屈する。
「これはしょうがないね。サヤがあんなんじゃお昼は期待できないからどこかに食べに行くかい?」
「「行く!」」
「私も行くわ」
「んじゃ俺は帰るわ」
ニケとマナとノンとロロが食べに行くと言い、タックが帰ると言い、一緒に玄関へ向かうと二階から佐夜が下りて来た。
「あれ、みんな来てたんだ?」
「「あ、サヤ!」」
「大丈夫………?」
「マナ。主語が抜けてる抜けてる」
「もう起きて来ても大丈夫なのかいサヤ?」
「いっぺんに来るなって、いっぺんに………」
選抜戦以来に会う仲間の皆(イング以外)が佐夜の周りを囲い、ちょっと困った表情で言う。まだ本調子ではなさそうだ。
佐夜がまだ本調子では無い為、タック以外の4人は佐夜と一緒に王都へ向かった。勿論佐夜の気分転換の為にだ。
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王都の商店街に入り、佐夜を連れた5人は色んな物を物色していた。食べ物屋は勿論、服屋や雑貨店でワイワイ言う姿はどう見ても女の子達の遊びにしか見えなかった(偶然通りかかった知人A)。
実際は1男4女のハーレム的デートなのだが、落ち込んでいた佐夜のテンションも回復し、マナと双子と一緒にはしゃいでいる姿は百歩引いて見ても女の子同士の買い物にしか見えなかった(雑貨店店主)。
ニケがそろそろお腹が空いたというので喫茶店に入り、それぞれ食べたい物を注文するが、ニケのチャレンジメニュー『特大ハンバーグ2キロ』を見るだけでお腹いっぱいになり、マナと佐夜は軽めのサンドウィッチを2~3つだけ食べた。双子はいつものグリルプレート(肉系)を注文し、満足しながら食べていた。亜人の3人が食欲旺盛な為、唯一の男である筈の佐夜が(少ししか食べて無い為)全く男には見えなかった(喫茶店客Bと店員C)。
チリンチリン──────────────────
「ごめんくださいまし」
ニケがチャレンジメニュー挑戦中、店内に入って来たのはなんとエミリア王女
だった。佐夜が「うわっ、マズ!」っとテーブルの下に隠れるが、意外に目敏い王女は「むっ!そこに居るのはサヤさん!?」と、テーブルの下に隠れる佐夜を発見した。
「隠れても無駄ですわよ! 選抜戦での茶番劇。あの疎外感での屈辱を今ここで晴らさせてもらいますわ!」
「いや、今ここでって言われても………」
人差し指を指しながら迫ってくるエミリア王女に佐夜は困惑する。まさか喫茶店でドンパチやらかすつもりなのだろうか?
「別に戦う訳ではありませんわ。店主、いつものチャレンジメニューを二人前用意してくださいまし!」
「は、はぁ……かしこまりました」
突然呼ばれた店主が少し困った様子で了解した。
「二人前ってもしかして姫、佐夜と食対決するの………?」
「っ!?」
チャレンジメニュー&フードファイトという単語に、何故かニケ(特大ハンバーグに挑戦中)が目をキランっと反応しこっちを見た(特に意味は無い)。
「ええ。この間の敗戦(巨大パフェ)と選抜戦での屈辱も含めてサヤさんに参戦を申し込みますわ!いいですわね?」
「いや、出来れば断りたいんだけど………」
「ダメです。強制参加ですわ!」
「えぇ!?」
暴君たる王女様によって佐夜は強制参加させられる事になった。
ドンッ!
「おおう……高いなぁ~」
「乗せすぎ………」
佐夜とエミリア王女の前に置かれたのは大皿に重ねられた20枚のパンケーキ『タワーケーキ』だ。その脇には味付けとして蜂蜜・キャラメル・イチゴ・チョコがチューブで置かれてて、別更にはバニラアイスが鎮座している。
制限時間は30分以内に20枚のパンケーキを食べきる事(アイスは残しても可)。
「ふふん。サヤさん、怖気付いたのかしら?」
まだ食べてもいないのに何故かドヤ顔している王女。
「怖気付くっつか、やりたくないんだけど………」
「サヤ。ファイト………!」
話の聞かない王女に、マナのやる気のない応援にてテンションが下がる佐夜。
「では、用意……ドン!」
「逝きますわよ!」←誤字
「え? は、始めるの早!?」
そうこうしている内に始まってしまい、王女が序盤からガツガツいっている。とても王様や家臣の人達には見せられない姿だ。
元々勝負する気の無い佐夜は、とりあえず食べずに残すのはもったいないので店員にコーヒー(無糖)を頼み、パンケーキを一枚一枚違う味付けで食していった。
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20分後────────
「ごふっ!?」
先に勢いよくがっついていたエミリア王女がフォークを握りしめたままテーブルに屈した。しかも大皿にはまだ5枚も残っている。
「ふぅ~。ごちそうさま」
「っ!?」
一方、マイペースで食べていた佐夜の方は余裕で完食した。佐夜が完食した事でテーブルに屈していた王女が信じられないものを見るかのように衝撃を受けていた。
「サヤの勝ちー」
「「いえーい!」」
マナと双子がハイタッチし、佐夜の勝利を喜んでいた。
「うう………何故ですの?もう、入りませんわ………」
まだ時間は残っているが、もうお腹いっぱいになっている王女は泣きそうになりながらパンケーキに手を伸ばす。しかし、
「エミリアちょっと落ち着け」
「だね。無理は禁物」
王女の左右から佐夜とニケが手で制する。
「何故……私の邪魔をするんですの?」
虚ろな表情をしている王女は最早威厳など感じない。
「邪魔っていうかさ。エミリア一滴も飲み物飲んでないじゃないか。それじゃ食べきるのは無理だって」
「え……でも水分を取ったらその分入らなくなるんじゃ?」
「いやいや、飲まないと口の中がパサパサになって中に入っていかないだろ。それに飲み物の中には胃の消化を助ける物もあるんだよ」
「な……なんですって!!?」
エミリア王女に更なる衝撃が走る。思わず劇画状態になる。
と、いう訳で王女にもフルーツジュースを飲ませながら食べるのを再開させるとあっさりエミリア王女もクリア(完食)した。フルーツジュースを少しづつ飲む事で食べやすくなった事はエミリア王女にとってエポックメイキングだったのだろう。いまだに完食したのが信じられないのか食べなくてもいいアイスにまで手を伸ばしている。
美少女3人(見た目)がチャレンジメニューを成功した事で、佐夜達は他の客達から喝采を受けながら揉みくちゃにされた為、佐夜達は店長から賞金5000Л《エル》(5000円)を受け取り、さっさと店を後にした。勿論エミリア王女も一緒にだ。
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「ふぅ。ただ飯は最高だねぇ~~」
猫亜人ニケが伸びをしながら言う。まあ、肉食のニケからしたら2キロのハンバーグなんて超余裕だろう。なんせ佐夜が手を付けなかったアイスを勝手に食べていたくらいだからだ(何回もお代わりしていた)。
「こっちは見てるだけでお腹いっぱいよ………」
この中で一番小食のマナが胸やけを起こしそうになっている。
「あら。でもマナさんはもう少し食べたほうがいいのでは?」
「………何で胸を見て言う?」
成り行きで一緒に着いてきたエミリア王じょ……エミリアがマナの薄い胸を見て言い、マナの額に青筋(怒りマーク)が入る。
「お腹いっぱーい!」「もう食べられない!」
ニケほどではないが、がっつり系の食事をしていた双子も満足気にニケの両手にぶら下がっている。ニケも別に嫌がる気配も無く二人の好きにさせている。
「それでみんな、この後どうする?」
この中で唯一の男(?)である佐夜が少し歩いた所で皆に聞く。
「私は薬屋に用事がある………」「アタシは新しい籠手を頼んでるから鍛冶屋だね」
「「ノン(ロロ)達は特に用事は無いよ!」」「私は適当に街を見回ってから城に帰りますわ」
「いやいやお前ら、一度に言うなって………」
というわけで、まずはみんなで丁度近くに来ていた鍛冶屋に寄ってニケの籠手を受け取り、次に薬屋に行く為に通る大広場で行っていた大道芸の催しを見物し、薬屋によって魔術用&回復系のアイテムを購入して、そのまま食材の買い物に行く為に王城をショートカットで通ろうとした時、佐夜の目にある物が映った。
「え? この樹って確か…………」
「ええ、この樹はサヤさんが模擬戦で錬成した『桃色の樹』ですわ」
「でもその樹が何でこんな所にあるの……?」
佐夜とマナは何で模擬戦の時の樹がこんな所に移されているのかが分からない。でもその理由は知れば簡単な話。
「そんなの簡単な話ですわ。この樹を見たお父様が気に入ってしまってサヤさんが検定を受けたその後すぐに王都内の庭師達を総動員し、ここに移し替えたのですわ」
「はぁ……行動力凄いな王様」
「「……権力万歳?」」
「……まぁ、私的に権力を行使したのは確かの様ですけど……」
「でもあのまま処分されるよりはマシだと思う。だってこんなに綺麗な樹を処分するなんて勿体ない」
「ですわよね!」
笑みを浮かべるマナにエミリアがドヤ顔で同意。お前の手柄じゃないだろう。
「まあ、俺が検定の為に錬成して発現させた物とはいえ、そのまま『桜の樹』を放置してしまった俺もその事をすっかり忘れてたよ」
佐夜の検定直後に起きたあの出来事の後、倒れた生徒達を医務室へ運ぶのに苦労した為、発現させた桜の樹の事を忘れていた佐夜がとやかく言える立場ではない。
「え? この樹、『サクラ』って言うんですの?」
「ん? あ、そうか。この世界にはこの樹自体が無かったんだっけ? じゃあ今まで桜の樹を何て呼んでたんだ?」
「……普通に『桃色の樹』って呼んでたね?」
「ええ。正式な名前はまだ決まっていませんでしたけど………」
「だったら丁度名前、『サクラ』でいいんじゃない………?」
「そう…ですわね。だったら帰ったら早速お父様に提言しますわね。………っとその前に、サヤさん」
「何?」
大広場の中央にある桜の樹から曲がれば王城なのでエミリアとはここで別れる。がその前にエミリアは佐夜を呼ぶ。
「貴女が一体何に悩んでいるのか大体何となく検討がつきますけど、そんなに気に病む必要は無いと思いますわ」
「んー、頭では解ってるんだけどこう……羞恥心とか、世間からの誤解とか色々あって、頭と心がごちゃごちゃになって訳わかんなくなってさ。」
「それでサヤ、ここ2日間ずっと部屋に引きこもってた………」
「それと時々、奇声も上げてたしねえ」
「うわっ聞かれてた!?」
「「そりゃ聞こえるよ~」」
「~~~~~~~!」
恥ずかしさで真っ赤になった顔を手で隠して思わずしゃがんでしまう佐夜。その仕草も実に女の子っぽい。
「う~~。俺男なのに何で、何であんな事を~~~!(赤面)」
そして今更ながら、またあの事を後悔しだした。
「それですわ!!!」
「ふぇ?」「「「「っ!?」」」」
突然エミリアがジ○ジョ立ちで佐夜を指差す。突然叫ばれたので変な声を上げる5人。
「びっくりした……一体どうしたんだい姫?」
「多分それですわよ! サヤさんが自分の事を『俺』と言ったり、それと変な男意識。それがサヤさんを苦しめている原因じゃありませんこと!?」
「「「? ??」」」「姫、どういうこと………?」
普段から佐夜と一緒にいる4人はエミリアが何を言っているのか分からない。
「普段の貴方達がどういう学院生活をしているのかは知りませんが、今日一日サヤさんを見て気付きましたの。言ってる事と行っている事の矛盾に」
「「むじゅん?」」
「ええ。サヤさんは普段からご自分の事を『俺』と言い、一見男らしく行動している様にも見えるのですが、蚊帳の外からよく観察して見てますとこう何といいますか……無理をなさってる様に見えるんですの」
「お、俺が無理をしているだって? はは、そんな馬鹿な………」
エミリアの指摘に思わずどもる佐夜。心なしか、いや、心当たりがあるのかその額には冷汗をかいている。
「あ~~確かに最近サヤの行動はチグハグだねぇ」
「この世界に来た頃に比べたら随分丸っこくなったというか………」
「女の子が無理して男の振りをしている様な?」
「むしろニケ姉の方が男らしいよ!」
「う、嘘だろ………」
仲間からの告発に佐夜は項垂れてorz…………
「だからサヤさん。この機会にご自分の事を見直してはいかがです?」
「自分を……見直す?」
エミリアの提言に佐夜は涙目で復唱する。
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「ふぅ……。今日の鍛錬終了~~」
お昼前からいつもよりハードな鍛錬を行ったイングがヘロヘロになりながら家に入る。
いつもよりハードな鍛錬をしていた理由は選抜戦での魔力不足。肉体的鍛錬(筋トレ)でイングの少ない魔力値が上がるとはおもはないが、体力の増加と技が強化出来れば魔力を温存できる、つまりあまり魔力を消費せずに済むからだ。
もう終わってしまった事だが、もしイングが準決勝で『カゼノコロモ』を使わずにマーロを倒す事が出来ていたなら、佐夜にあんな事(キスによる魔力供給)をさせずに済んだのだ。
そしてその場面を闘技場内全ての人に見られてしまった所為で、佐夜はここ2日間部屋に引きこもってしまった。時々奇声を上げる程だ。よっぽどのトラウマになったに違いない。
つまりイングは己の鍛錬不足で佐夜を傷つけてしまったと思っていたのだ。ゆえにその翌日からいつもの約2倍の鍛錬を行っている。
しかし鍛錬もいつもの2倍なら疲れも2倍……いやそれ以上に疲れているだろう。
だから今、目の前に立っている奴も、極度の疲れからくる目の錯覚に違いない。
「あ、おかえりイング」
目の前には何故かフリル付きのエプロンを着けた佐夜がニコニコ顔で夕飯の支度をしていた。
(………何故フリル? どこから持ってきたんだそれ? いやいや、それより佐夜のこの変貌っぷりは何だ? 朝まで奇声を上げながら落ち込んでいたじゃないか! しかも鼻歌を歌いながら料理してやがるし! 一体何がどうなって────────)
「イング?」
「ふぁ!?」
混乱したイングを下から覗き込むように言う佐夜にビックリするイング。
「どうしたんだイング? そんなに驚かないでよ」
「いやいやいや、朝まで凹んでた奴が急にニコニコしていたら誰だって驚くわ!それにそのエプロンは何だ? わざわざ買ってきたのか?」
「ま、捲し立てるねイング……。えっと、前に使ってたエプロンはさっき汚しちゃってさ、それを聞いたアイナさんが新婚の頃に使おうとして結局使わなかった物をタンスから引っ張り出してきたんだよ。今はこれしかないって言われてね」
少し困った顔で言う佐夜。その表情からもイングは佐夜に少し違和感を覚える。
「まあ、それは分かった。……で、お前に一体何があったんだ? 昨日までとは態度……と言うか雰囲気がなんか違うぞ?」
「ああ……やっぱり分かっちゃう?」
「あー、まぁーそりゃあな」
なんせイングは佐夜に対して好意を持っているからな。2か月も接してれば相手の違和感なんてすぐに気付く。………け、決して疚しい感情じゃないぞ!
「んで? やっぱり何かあったのか?」
佐夜から受け取った温タオルで顔を拭くイング。
「えっと、ニケが今日みんな(タック以外)で外出しようって言いだして、入った喫茶店でエミリアに会ったんだ」
「喫茶店でエミリアに会ったって事は……またチャレンジメニューか?」
「当たり。」
佐夜はイングに今日あった事を話した。
ニケがチャレンジメニューに挑戦中、エミリアが来店していきなり佐夜に勝負を挑まれた事、王城前の大広場での桜の樹の事、そしてエミリアが感じた佐夜の変化や矛盾による違和感などを。
そして別れ際に言われた『自分を見直してはいかが?』というセリフに、佐夜は皆にどうしたらいいかと相談した結果、
「とりあえず手始めに、『僕』の態度と言葉使いと一人称を変えてみようって事になったんだ」
「ぼ……ボク!?」
佐夜の一人称が突然変わった事にイングに衝撃が走る。思わず石化した。
「い、イング? ねぇ、僕そんなに変なのかな?」
「かはぁっ!?」
「うわぁイング!!?」
更に佐夜の変化した柔らかい物腰と言葉使いに堪らず吐血したイング。
「あ~びっくりしたー………」
椅子に座ってぐったりするイング。どうやら精神的にダメージを負った様だ。
「むぅ……酷いなイング。これでも僕だって結構恥ずかしいんだよ?」
「……そうか? あまりにも自然だったからそう見えなかったぞ」
「う……イングにもそう見える? 実はみんなに指摘された後、こういう風に変えたらなんかこう……しっくりしてね。皆にもそうした方が良いよって言われたんだよ」
「あー確かに。今のサヤが前みたいな態度や一人称をしたらみんな変に思うだろうよ」
「変って酷いよイング!」
「あはは、すまんすまん。でも良かったよ元気になって」
「うん………何か悩んでたのか馬鹿らしくなって。心配かけてごめんイング」
「いや、本来なら俺がフォローしなきゃいけなかったんだ。俺の方こそ放ったらかしてホントすまん」
「ううん、僕こそ────────────」
「いやいや、俺こそ────────────」
何故か二人して互いにペコペコ謝っていた。その互いに謝る光景はまるで、
「あらあら二人とも、まるで初めて喧嘩して仲直りした新婚夫婦みたいね~」
「ああ、何だか俺達の若い頃を見ている様だな!」
いつの間にかリビングに来ていたイングの両親が微笑ましい二人を見て、生温かい目を送っていた。
「「あ、あわわわわわわ…………!!」」
案の定顔が真っ赤になった二人はそのままフリーズ。今更ながら実に初々しい。
後日、佐夜のキャラが変わった事を知らなかったタックが佐夜を見て、
「………誰?」
と言っていた。
『俺』から『僕』に一人称が変わった佐夜。次回からは時期が飛びます。