第13話 ~選抜戦・Part3~
準決勝第一試合。長いデス………
選抜戦一日目が終わり、佐夜達は再び分校【アルケシス】に泊まりで集まって、準決勝の相手について相談していた。
そもそも選抜戦は一日で終わるのが定例だったのだが、今年は自分達の戦いも含め、残りの3戦の全てで大乱闘してたらしく、一戦終わる毎にグラウンドを整地してた為時間が無く、準決勝以降まで行けなかったのだ。なので残りは明日に持ち越しで行われる事になった。
ちなみに準決勝の相手は【ナターレ】。模擬戦の初戦で戦った上位ランクのチームだ。このチームもシード組を破って準決勝にコマを進めたらしい。
さすがにこの選抜戦では模擬戦の様な奇襲策は通じないと思ってもいいし、更にこちらのチームは準々決勝の際、ニケが大怪我で参加出来なくなってしまった為、苦戦どころか敗北必死状態だ。
「出てけ───────────────!!」
「うがっふ!?」
風呂場から佐夜の罵声が飛び、イングが吹っ飛んで来た。
「まーたやってんのかよあいつら………」
「最早定番になりつつあるわね………」
「「二人とも相変わらずだね~」」
リビングにて明日の試合について策を練っていたタック、マナ、ノンとロロが吹っ飛んで来たイングを見て溜息を漏らす。
イングと佐夜が仲直り(?)して以降、大体週2ペースで佐夜が風呂に入ってる時に限り、イングが佐夜が入ってるのに気付かずに風呂に突入⇒佐夜が悲鳴を上げる(?)⇒イングが吹っ飛ばされる。
普段イングに男扱いしろと言う佐夜だが、このような状況で何故か女の子みたいな行動を取る佐夜に「こいつホントに男か?」と周りの人達は言う。
閑話休題────────────
「で、何でイングはこんなボコボコになってるんだい?また佐夜の風呂を覗いた系?」
「「当たり」」
明日の試合に出れないが、同じアルケシスの仲間なので作戦会議に来たニケが顔と頭に傷を負っているイングを見て何が起きたのかを察し、双子が苦笑して答える。
「全くイングは何で毎回毎回俺が入ってる時に限っt…………(ぶつぶつ)」
当の被害者(?)本人は体育座りで何やらぶつくさ言っていて、闇落ちしそうな雰囲気をマナが佐夜の肩を擦って宥めている。
「お前も全然懲りないのな……」
「いや、俺も毎日気を付けているつもりなんだけど、鍛錬後はどうしても気が緩んでしまって………気が付いたら毎回こうなってる」
たん瘤ができてる自分の頭を指してイングが言う。
「まあ、それが故意なのか無意識なのかは知らないけどさ、どの道イングが悪いって事なのだろう?」
「「「「うん」」」」
「……………」
ニケの発言にイングと佐夜を除く4人が頷き、イングは否定できないとばかりに沈黙する。
再び閑話休題(笑)──────────────────
「で、どうするよ明日の試合?」
「正直、勝算が無さすぎる…………」
「一度戦った相手だし、手の内は読まれるだろうしねぇー」
「「ニケ姉も出れないし………」」
佐夜を除く5人には明日の試合の相手である【ナターレ】に対し、何の策も打てないと軽く諦めかけていた。(腕の骨を折る)怪我を負ってまでチームに貢献したニケでさえ一度戦ったチームが次の相手だと分かった時点で既に諦めている。
「大丈夫だ。俺の切り札を使う」
「「「「「切り札?」」」」」
イングの発言に5人は首を傾げた。
「? ??」
リビングに沈黙が下りた直後に正気に戻った佐夜が黙る皆を見て頭に?マークを浮かべた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「では準決勝。チーム【アルケシス】VSチーム【ナターレ】。試合─────開始!!」
翌日の猫の時(朝九時)審判の合図で試合が始まった。
流石に一度奇襲を食らった相手であってナターレの人達はバラバラで動く。また一ヵ所に集まって一網打尽にされるのを避ける為だ。
対するアルケシスの布陣は何故か一番前にマナ。その後ろに残りの5人が固まっている。模擬戦の時とは逆のパターンだ。
「動きの鈍い魔法使い(マナ)を一番前にもってきた意味は分からないが、何かする前に倒させてもらう!」
ナターレの中で上位ランカーである【マーロ】が最速でマナに迫る。
が、ストック魔法を習得して既に詠唱を終えているマナには関係ない。
「遅動魔法解除『ハリケーンストライク』!!!」
風系上位魔法を放ったマナを中心に巨大な竜巻が発生。一ヵ所に集まってた佐夜達は佐夜の錬成術でガードしている為何の問題も無い。しかし、バラバラで動いていたナターレ達はシールドが使える【レーシア】と【カーイ】以外、皆上空に飛ばされるのを必死に堪えていた。
実はマナが一番前、つまり闘技場の中心に居たのはこのハリケーンストライクを放つためだ。そうする事で闘技場内のほぼ全てをこれで巻き込むことが出来るからだ。もしいつもみたいに奥に居てこの魔法を発動しても半分くらいしか意味を為さないからだ。
「う、うぐぐぐぐ…………これさえ耐えきれば何とか……」
竜巻の中心近くまで接近していたマーロが剣を地面に刺して飛ばされるのを耐えていた。
しかし、マナの魔法はこれだけにあらず。
「サヤ直伝。ストック玉にて発動『エクスプロージョン』!!」
竜巻の中心から放たれる火炎上位魔法『エクスプロージョン』は風系魔法のハリケーンストライクに混じり、一つの魔法になった。
「合成魔法『火炎暴風』!!」
マナの掛け声によって一つの魔法になった強烈な魔法は、容赦なく敵味方を熱波で襲う。
「「「があああああ!!?」」」
「か、髪が燃えるぅ!?」
「ミミ、モモ、トト!嫌ぁ!みんな燃えちゃう!!」
大剣士の二人ザード、ヴィレンが必死に堪え、弓使いのアリーナが自慢の髪が燃える事を懸念し、人形師のファナのお友達の人形は既に何体か燃えている。
「あちゃあちゃあちゃ!!」
「………何でサヤは平気なんだよ?(汗だく)」
「………錬成術の応用?」
皆が熱さに耐える中、一人だけ涼しい顔で防御壁を維持する佐夜だけは自身の服に内蔵(改造した)空気巡回装置によってあまり熱さを感じないでいた。ある意味卑怯。
「くそっ!またあいつら卑怯な手を!」
「しかし、これでは奴等だって攻めて来れない筈だ。この火炎暴風を耐えきれば……」
マーロと同じように大剣を地面に刺して耐えているザードとヴィレンのジュエルの色は黄色。火炎と暴風による瓦礫などがぶつかって多少のダメージこそあるが、この魔法が解けるまで耐えられればこちらの物。相手は格下、速攻で片が付くだろう。
そう思っていた。しかし────────────
「「やああああ!!」」
キキイイィィィィン────────────!!
「ぐあああああ!?」
パリン!
「え?何だ、おいザード!何があっt「「やああああ!!」」ぎゃあああっ!?」
キキキンッ! パリン!
火炎暴風の中で耐えていた二人を、いつもの衣装とは違い重装備を着こんだ双子が不意打ちで倒す事に成功。
二人とも軽量系なので、普段の戦闘衣装だとこの暴風では簡単に飛んで行ってしまう為、佐夜が防御壁で敵から身を隠している間に、ノンとロロの二人は重りや身体全体を防具で覆い隠し、更に耐性魔法【フレアレジスト】を使用し、火炎&暴風の中を突っ切ってザードとヴィレンを倒す事が出来た。環境がいつもとは違うがこれはこれで大金星と言える。
「きゃああああ!!」
そして二人はそのまま、人形が燃えてあたふたしているフィナに突貫し倒した。倒れた本人はともかく、燃えてしまった人形の事で倒すのに少し抵抗があったのは言うまでもない。
しかし、ここでノンとロロのジュエルが割れる。そりゃそうだ。いくら重装備&耐性魔法を使おうが、暴風で飛んで来る瓦礫にぶつかったり、耐性魔法より威力の強い火炎魔法にて徐々にジュエルにダメージが入っていったからだ。つまり二人は最初からリタイア覚悟でこの火炎暴風の中を突っ切ったのだ。
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「っくそ、やられた!」
火炎暴風魔法が収まり、周りを見渡したマーロが舌打ちする。自分が暴風に耐えている間に3人もやられてしまったからだ。相手も3人がリタイアしているが正直、こちらの方が被害が大きい。
ちなみにマナは火炎暴風魔法を発動した直後に自分の魔法でジュエルが割れてしまい、早々にリタイアしてしまっていた。原因は魔法を前方ではなく自分を中心に発動した事と、後単純にこの魔法の練習不足だ。この魔法は昨夜、佐夜と相談した際に考えたオリジナル魔法で、実際に使ったのが今回が初めてなのだ。
「よくもまたやってくれたな。もう手加減はしねえ。全力で、速攻で片付けてやる。付加魔法【天来】!!」
マーロが発動した魔法は付加魔法【天来】。剣が光り、ダメージ効果が倍増し、身体能力や魔法攻撃力もアップする上位魔法の一種で、約10分は持続できる付加魔法。
通常戦闘ならともかく模擬戦、選抜戦でのジュエル方式ならこの魔法がかなり有効な手段だ。なにせガードしたり、掠っただけでジュエルダメージが起き、簡単に倒す事が出来るからだ。
これを発動したマーロはまず、防御壁からあまりの熱さでヘロヘロになって出て来たタックに目を付け一瞬で間を詰めた。
「え? ちょっ、まっ!? うわらば!」
謎のセリフと共に一閃されたタックが一瞬で戦闘不能になった。
「くっ……早い。こいつこんなに強かったのか………!」
吹っ飛ばされるタックを見て佐夜が苦悶の表情を浮かべる。
「次は貴様だ!」
「ちっ! そう簡単にやられるか!」
次に目を付けられた佐夜が地面に手を付き、自分を丸ごと土で丸めた。これは準々決勝で戦ったサラから得たヒントで、簡単に言えば付け焼刃な防衛手段だ。なんせ丸めたこれは鉄ではなく土だからだ。なので、
「ふんっ!」
マーロが剣を横に一閃すれば簡単に真っ二つ。これで佐夜も戦闘不能だと思われた。
しかし、よく見ればその半分に切れた土の塊の後ろで佐夜は屈んでマーロの攻撃を躱していた。つまり佐夜は身体を土で覆った振りして、土の球体を囮に攻撃を躱したのだ。
更に佐夜は次々と土の球体………というよりは歪な塊を大量に作り、マーロからの攻撃をギリギリである程度躱していった。
だがそれも長く続かず、1~2分くらいで捕捉されて撃破される。
「さて、最後はイングだけだが……あいつ一体どこに行った?」
チョロチョロとすばしっこい佐夜を撃破したマーロが、佐夜とタックが居た防護壁に目をやりいない事を確認し、周りを見るが近くにはいない………。
一体イングはどこに行ったのかと思考した直後、
「アリーナ、レーシア、カーイ。戦闘不能!」
「は? …………はあぁぁ!?」
審判の判定に?マークを浮かべたマーロは自分の倒れている3人を見て驚愕する。恐らく3人を倒したのはイングなのだろうけど、いくら火炎暴風でジュエルにダメージを食らった後とはいえ、3対1でおまけに少なくとも3人はイングよりランクが上だ。普通に考えたら絶対に負ける要素は無いだろう。前回の不意打ちをの除いて………。
と、後考えられる可能性としては…………
「ふぅ………」
マーロが周りを見渡すと何もない所からイングが出て来た。いや、よく見るとイングの身体中に風が渦巻いている。これってまさか…………
「んな!? か、風系最上位魔法【カゼノコロモ】……だと?」
ありえない……とマーロは思う。何故ランクが超格下のイングが最上位の魔法が使えるのだろうと。この魔法が使えるのは教頭くらいだと思っていた(一度手合わせした経験あり)。
「ぶ、ブースト全開!!」
相手がもし本当に最上位の魔法を使って来ているのなら全力でやらないと負けると確信したマーロは残りの魔力を全て身体能力上昇&補助魔法に回し、イングへと特攻した。先手を打たれた上に先にこちらに来られて後手に回ると不利になると思ったからだ。
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───────────ッドン!!
「うぐぐぐぐぐ………!」
「はあああああ!!」
カゼノコロモを纏ったイングと全魔力開放したマーロが激突し、凄まじい音と共に衝撃波が闘技場全体を襲う。
「「「うわあああ!?」」」
「「きゃああああ!?」」
先ほど戦闘不能になって退場しようとしていた佐夜、タック、アリーナ、カーイ、レーシアが衝撃波によって一気に場外へ吹き飛ばされる。
キンッ!キキンッ!ガ、ガガ……ドーン!
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ふうううう………」
まるでアクション映画のような攻防を繰り出す二人に、観客達は大いに沸いているが戦っている本人達は真剣そのもの。一瞬でも気を抜けばやられるからだ。
「はぁ、はぁ………いい加減、倒れやがれ!」
「そっち、こそ!」
鍔競り合いで睨み合いながら叫ぶ二人。どうやら二人ともそろそろ限界が近い様だ。
「っ!?」
先に限界が来たのはイングの方。元々魔力量が人より低くおまけに最上位の魔法を使用した為消費が激しく、3分も持たなかった。
「っ! もらったぁ!」
そしてそれを見逃すマーロではない。
すかさずイングの懐へ踏み込んで一閃───────────
スカッ!
「へ………? っ!後ろ!?」
────────した筈なのだが、そこには既にイングの姿は無く、気付いたらマーロの後ろで剣を鞘に納めていた。何故イングが剣を鞘に納めたのかは知らないが、マーロは振り返ってイングに迫ろうとした。その直後、
「う、ぐあああああ!!?」
ズババババババッ!!
突然身体をくの字に曲げたかと思うと、身体に剣筋が入り、激痛と共に呻き声を上げ、ゆっくり倒れたマーロ。勿論これでジュエルが割れ、勝敗が付いた。
「マーロ戦闘不能! 勝者チーム【アルケシス】!」
わあああああああ!!
「ふぅー。危なかったねぇ。肝が冷や冷やしたよ」
会場内に歓声が沸き、観客席で怪我で棄権し見守っていたニケが安堵する。
「はぁ、はぁ…………あ、あっぶねぇ。後5秒遅かったらこっちが負けてたー!」
片膝を着いて呼吸を整えるイング。どうやらギリギリの戦いだったらしく、イングがマーロに勝てたのはまさに運と言えるだろう。魔力が尽きかけて『カゼノコロモ』の効果が一瞬消えかかり、マーロがそこを攻めようと隙を見せなかったら確実にイングが先に力尽き、負けていた。
「イング。大丈夫?立てるか?」
「って、おいおい。イングお前、魔力が枯渇してるじゃないか!」
「医務室行き………!」
「「担架、担架」」
試合が終わり、佐夜達がイングに掛けよって手当てをするべく医務室へ連れて行く。
その後、闘技場のグラウンドの整地を終え、準決勝の第二試合【エミリア(1人)】VS【ヨクレット(3人)】の試合が行われたのだが、その試合は僅か5分足らずで決着し、エミリア王女が決勝に進んだ事は、医務室で手当てをしていたイング達はこの時、まだ知らなかった。
次がようやく決勝。エミリア王女VSアルケシス。