第10話 ~選抜戦前夜~
タイトル通り、選抜戦の前夜です。佐夜が趣味である歌を披露します。文字では伝わり難いですが。
佐夜が幻想界【レニアナ】に落ちて約二ヵ月が経った。
模擬戦後のエミリア王女との遭遇より二週間が過ぎ、明日はいよいよ選抜戦。
この二週間の間、勿論イング達【アルケシス】組も選抜に向けて特訓していた。
イングは『超筋トレ』。朝から木刀素振り一万回、腹筋・背筋・腕立て伏せ一万回、昼食後仮眠を取ってストレッチ、そしてリンド・ニケ・佐夜・双子との魔法を使った組手を約2~3時間行い、ダウンをして終了。
マナは午前中は軽く筋トレ(体力が無い為)し、午後は魔導士アイナとの魔法の鍛錬。その後、佐夜とのストック魔法の生成の練習(ストック出来る数を増やす魔法)。
ニケは午前中ずっと寝ている。午後になって昼食を取り、ようやく身体を動かす(イング達との組手)。
双子のノンとロロはマナと一緒に筋トレをしたり、アイナと魔法の鍛錬を行った後、イング達と組手を行う。
タックは何故か鎮守の森に入り一人で修業をしているらしい。理由を聞くと、どうやら森の方が的が多い為、小魔法連発の修業が捗るとかなんとか。
佐夜は午前中はひたすら錬成術の鍛錬。たまに本校からエロ講師のアルガドが来るが、何かを教わる事なくひたすらセクハラを受ける佐夜(どこを触られたかは言えない)。毎回ぶっとばしてはいるものの、いくらぶっ飛ばしてもセクハラを止めないアルガドに、遂に心が折れて泣き始めたら流石に焦るアルガドに、どこからともなくアイナがやって来て、焦ったアルガドを引き摺って行った。
そして午後になる前に、みんなから(リンド、アイナも含む)食べたい物を聞いて昼食を作る。作る時ちゃんとエプロンを着けてから調理する姿はすっかり主婦だ。
午後になり、軽くストレッチをしてイングが仮眠から起きて来た後、組手をし、その後マナのストック魔法の生成の練習を手伝った。
そんなこんなの二週間。なかなか充実した二週間だったと言えなくはないが、ここは一応学校で「勉強はどうした?」というツッコミは当然あると思うが、そこは選抜選手の特権らしく、選抜戦が始まる二週間の間は授業を免除されるらしい。当然本校通いの他の選抜選手も授業を受けずに選抜に向けて特訓しているらしい(エミリア談)。
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──キミとボクのココロの距離は、月と太陽の様に近くて遠い。
──一生懸命頑張るキミの、支えになれたのなら────
──楽しい時も辛い時も、キミと一緒なら乗り越えられる~。
「──────出会えたキセキに幸せを───って、うわぁ!?」
「「あ、バレた」」
イングの家の屋上で毎日の日課である発声練習後、歌を歌っていたらいつの間にか物陰に潜んでいたみんなが佐夜の歌を聞いていた。
「あ、あわわ、あわわわわわwww………」
いつもなら歌ってる所まではイングにも聞かれた事は無いはずだけど、今日はほぼ最後までみんながいる事に気付かずに歌ってた佐夜。羞恥で顔が真っ赤になる。
「「サヤ!歌上手い!綺麗!」」
「へえ~。初めてサヤの歌聞いたけど綺麗な歌だね」
「ある意味国宝級………」
「やっっべぇ!感動し過ぎて何か俺、涙出て来た……」
今日は選抜戦前日なのでみんなイングの家にお泊りだ。なのでみんながいるのにも関わらず歌った佐夜が悪い。あわあわして混乱してる佐夜を知る目にみんなが佐夜を褒めまくる。タックなんか本気で泣いてるし。
「それでサヤ。『今日は』一体どんな歌だったんだ?」
「『今日は』!?イング今、『今日は』って言った!?」
「え?ああ、言ったけど?」
「それってつまりお前は俺の歌、聞いた事あるって事!?」
「まあ、ほぼ毎日?」
「ま、毎日…………はぅ……」
ほぼ毎日歌を聞かれていた事実に赤面通り越して全身真っ白になる佐夜。
「あらあら。サヤさんが真っ白になってしまって」
「まさに青春、実に素晴らしいじゃないか!」
みんなの後ろから出て来たイングの両親リンドとアイナも屋上へ。どうやらみんなと一緒に佐夜の歌を聞いていた様だ。
「それにしても、サヤがこんなに歌が上手だったとはね」
「これなら今年の歌姫はサヤに決まりね………」
「ただでさえ有名に成りつつあるのに、歌姫になったら大変な事になるぞ」
「え? ちょっと待てタック。サヤって巷で有名になってるのか?」
ニケ、マナ、タックが勝手な事を言う中、初めて知った事実にイングが反応した。
「サヤっていうかお前とセットで街中で噂されてるぞ? 美少女とエルフ(イング)の初々しいカップルがいるって」
「大体イング、買い物に行く時いつもサヤと一緒だったじゃん!」
「毎回買い物中、美人のサヤと一緒に街中に居たらどう見ても注目されちゃうって!」
「そ…う………だった…か?」
タックと双子の更なる指摘に、更に今知ったかの様に首を捻るイング。どうやら今までの買い物行動は二人とも無自覚で、天然でデート的な事をやっていた様だ。
「はいはいみんな。もう夜も遅いから早く寝なさいね~」
「そうだぞ。明日は選抜戦だからな。俺達も応援に行くからな」
そう言ってイングの両親は肩を寄り添いながら去って行った。相変わらずの仲良し夫婦だ。
「じゃあアタシらもそろそろ寝るか~」
ニケが伸びして目を擦る仕草をする。かなり猫っぽい。
「そ、そうだな。明日は早いし、な!」
いつの間にか復活していた佐夜も釣られて伸びする。
「あれ?サヤ、その腕に着いてる物って何?」
「アクセサリー? にしてはちょっとおっきいよね?」
すると目ざとい双子に佐夜の右手首に着いてる物を発見された。
「サヤ。それってお前がこの世界に落ちて来た時に持ってたやつじゃないか?」
「うん。俺が元いた世界で持っていた唯一の持ち物だよ。といってもこれ、元々落ちてた物を拾った訳で、一体何なのかは分かんないけど」
佐夜自身も良く分かってない顔で腕を振る。ちなみに来ていた男子制服は模擬戦への衣装の素材となった為、既に元の面影はない。
「ちょっと外してもらっていい……?」
「ああ……それなんだけど。外れないんだ」
「「「「「「ええ~~~!?」」」」」」
困った顔で言う佐夜に他の6人が仰天する。
「え、ちょっと大丈夫なのかい!?」
「「ヤバイよヤバイよ!」」
「呪い系………?」
「サヤ、大丈夫なのか?」
眠気が覚めたニケと双子が騒ぐ中、タックとすぐに無表情に戻ったマナが冷静に腕時計(?)を見る。
「まあ今の所、特に異常は無いけど多分大丈夫だろ」
「達観してるけど本当に大丈夫なのかサヤ?」
「ってゐ!」「った!?」
達観する佐夜にイングが佐夜の右腕を掴んで心配する。その心配する感じが何か恋人を心配する様な感じがした佐夜がイングにチョップをかます。
「本当にお前ってやつは……」
「今のは何の問題も無かっただろ!?何でチョップ?」
「雰囲気で、だ」
「雰囲気でって……そんな感じ出てたか?」
「なんとなくそう感じからだ」
「おいおい、人が心配してんのに何イチャイチャしてんのお前等……」
「男同士なのに、不潔………」
「「むぅ~~~~!」」
「あ~甘い甘い」
こちらも相変わらずイチャイチャしだす二人に、他の5人がジト目で見る。
「「イチャイチャなんかしてない!」」
「いいや!さっきも言ったが王都の街中でも噂される程のイチャイチャ具合だ!」
「そうね。噂のイチャイチャっぷりね……」
「「イチャイチャだよ~~~!」」
「甘い、いや、甘々だねぇ~~」
「「だ・か・ら~~~!!」」
といった感じで、仲良し7人組の選抜戦前夜が過ぎて行った。
次回、選抜戦の前半です。