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「だから、俺じゃあ無理なんだって。
いくら君が好みのタイプだからって……へっ?」
場面が切り替わったかのように、クロースは現れ、俺に尋ねてくる。
「僕がここに居たら、まずいのかい?」
吃った声で、俺は答える。
「いや、そういうことはないですけど……」
ーーなんで、この世界で普通に動けているんだ……。
疑問が怖れとなり、俺は後退りする。
「遥さん、そいつから離れて下さい!!」
だが、遥さんも止まっていて、返事がない。
止まっている今なら、遥さんに……。
卑しい考えを見透かされたのかーーまたも、クロースは尋ねてくる。
記憶を無くした頃の俺のように。
「君は疑問に思っていないのかい?
異能力者が同胞を狩るーーこのシステムを」
「おいおい、BKPは異能力者から異能を取り除く組織だろ?」
アリスから聞いた。BKPは異能が存在しないという概念を死守するための組織なんだと。
人を操れる能力者が他人で犯罪を行った際に、操られた人が現行法では罪に問われてしまう。
だから俺は、あの圧制者と共にーーーー。
「本当は異能を解析して、新しい技術や新薬の開発をしているとしたら。
はたまたーー精神を支配したり、記憶を改変されたりしたら、君はどう思う?」
「おい……。今、なんて言ったんだよ?!
記憶が改変されるって、それじゃあ俺は……」
ーーBKPによって記憶喪失になっていたのか?
手足がわなわなと震え、自身が信じていたものが足元から崩れ落ちる音が響いていく。
「まぁ落ちつきなよ。僕はこの世界でいう作者みたいな存在なだけなんだから。
世界を構築し、概念を形成し、創造を具現化する。
いやーー僕の願いは叶えられないんだった。
あくまでキャラクターの意思を尊重して、僕はこの世界にアクセントをって……いくら言った所でーーーー。
君達は感想や評価もくれないのを忘れていたよ」
「そんなことはどうでもいいからさ。
なぁ、頼むから元に戻してくれ……。
自分が何者かも分からなくて、こっちは気が狂いそうなんだよ」
途端、クロースの姿は消えていた。
「ははっ、俺の頭はもう狂ってんのかよ」
恐怖を誤魔化し続けて生きてきたが、とうとう幻覚まで見るようになってしまった自身を嘲笑う。
だが、後ろからーーーー。
「口で説明するより、君には体で思い出してもらった方が良さそうだね」
クロースは俺の頭を両手で押さえて、囁きかける。
「■■■□■■■■□□■□■」
一人だけの世界で、男は叫ぶ。
自身が彩る物語のメインディシュを堪能するかのように。
To be continued……
一期完結です。
二期に続きます。




