第四章(4)
パメラの寝顔を見ながら、ジィーフェは何をするでもなくただ座っていた。
いつもなら、顔色がいいとか、その日あったことを勝手に話したりもする。だが、今日はそんな気分にもなれなかった。
何も考えることが浮かばず、ただ、じっと時間が過ぎていくのを待つだけだ。
「痛っ」
少し動いた拍子に、胸の傷が痛む。深くはないが、次の仕事の日までに完治は無理だ。多少戦い方を変えなければならないだろう。
「リフェ……」
己の胸の痛みに、自分が呪いをかけた青年と、胸を貫いた少年の顔が浮かぶ。
生きていると思わなかった。あの嵐の日に、確実に殺したと思っていた。もう手にかけることなど、二度とないと思っていたのに。
イーストの軍人に、同姓同名の人間がいることは知っていた。有名になり、写真を見て似ているとも思っていた。でも、その時の自分はもうこの仕事をしていて、会いにいけるような状態ではなかった。
家族のこともあり、会ってどうするのか、という思いもあった。
だから、あの嵐の夜。リフェ・テンデルという軍人が指揮する艦隊の海域を志願した。会う口実も、殺す口実も『仕事』として片づけられた。
会って、顔を見て、幼馴染みのリフェだと分かっても、まだ思い出に囚われていないあの状況なら殺せると思った。事実、殺す勢いで攻撃していた。
「いや……違う、か」
本気で殺そうと思っていたなら、自分が死の呪いを失敗するはずがない。
どこかで迷いがあったのだ。その迷いが、魔法のコントロールを歪ませた。
「頼む……来ないでくれっ」
三日後、再びラキアスを襲う。どうかそこには来ないでくれ、と心から思う。
「……に、ちゃ……」
「パメラ!?」
「お……に、……ぃ、ちゃ」
パメラは、夢を見ているのかもしれない。眠ったまま少し微笑んで、父や母、自分のことを呼んでいる。
頬をそっとなでて、手を握りながらジィーフェは泣きそうになった。
どうしてこんなことになったのか。どうしてこんな風にしかなれないのか分からない。けれど、守りたいものは苦しいほどに分かる。決めている。
「リフェ、俺はパメラを守りたいんだ……」
だから、来ないで欲しい。自分の前に、立ちはだからないで欲しい。
パメラと同じ、兄弟になろうと、家族になろうとまで思った人。それでも、自分にとっての『たった一つ』はもう決まっているから。
「俺に、お前を殺させないでくれっ」
二度と会えなくても、笑い合えなくても、生きていてくれればそれでいい。
ピッピッ、と機械音がする。
それ以外の音がない世界で、ジィーフェはひたすら何かに祈り続けていた。




